5.一方的な休戦協定
タイトルの通りです!
(九相院 桜視点)
「……ハァ?」
何でバレた?
いや、それ以前に……何でオレを知っている?
オレは、千年前もこの100年間も、特に何もしてねぇ筈だ。
退魔師共ですら、八妖将の中に名前はあるが詳細不明の相手と認識してるというのに……
「不思議そうだな。……まあ、俺様がお前の正体に気付いたのはお告げみてぇなもんだから、理屈では説明出来ねぇんだが……」
「……それでも、お前はオレが狂骨の血染桜だって確信してんだろ?……なら、言い訳なんてしねぇよ」
どうせ……こいつに正体がバレた時点で、オレの計画は頓挫したも同然だァ。
いくら馬鹿でも、八妖将と組むリスクがデカい事ぐれぇ分かる筈だしなァ。
となれば……殺し合いしかねぇよなァ……
「……おい待て、何か勘違いしてねぇか?」
「何だァ?……ここまでして命乞いかァ?」
「違ぇよ。……確かに俺様も最初は倒すつもりだったが……案外、俺様達って上手くやれそうな気がすんだよ」
「……ハァ?」
オレは、何回"ハァ?"と言えば良いんだ?
「一言で言えば、"休戦協定"を結ばねぇかって事なんだが……」
こいつ、正気かよ……
「何をほざくかと思えば……このオレがお前に負けるとでも?」
「ああ、俺様が勝つ。……少なくとも、今の体は強ぇ器じゃねぇんだろ?」
「……おいおい、どうしてそう思った?」
悔しいがビンゴだ。
今使ってる体は、所詮流産した赤子を蘇生した物に過ぎねぇ……
とてもじゃねぇが、こいつには勝てねぇ……
「虚勢を張るのはもう良い。……俺様は、お前の力を感じ取れる。……その上で言わせて貰うと、弱過ぎるとしか言えねぇな」
「……そうかよ……」
「例えば……こんなのはどうだ?」
ーブワン……ブワン……ブワン……
「……こんな大量の妖力弾を、一瞬で生成させるとかマジかよ……」
こいつ、オレの周囲に妖力弾を大量に生成して、動きを封じやがった。
やっぱ、才能ってえげつねぇなァ……
「そこまで言うか?」
「少なくとも、オレが知る限り10歳でこんな芸当が出来る奴なんて初めてだぜ。……それで、オレと交渉でもするつもりかァ?」
「交渉?……違うな、これは命令だ」
「ぎゃはははは!……だと思ったぜ……」
宗雪の野郎は、その気になればオレをいつだって殺せる筈だ。
何せ、オレは暗躍は得意でも正面勝負はいまいち強くねぇ。
それこそ、正面からの勝負は器次第ってレベルで肉体の強さに左右されるが……今の体じゃ、万に1つもこいつに勝つなんて無理な話だなァ……
「今から協定の内容を言ってやる。……とはいっても、俺様含め退魔師側と敵対する行動を1年間とらねぇって事だけだがな」
「ぎゃはは……無茶言ってくれるじゃねぇかァ……」
それはつまり、1年間行動を封じられるのと同じじゃねぇかァ……
……だが、死を先延ばしにするには充分だ。
「……で、俺様の条件は呑むか?」
「いや、選択肢はほぼ1択だろ……ま、オレとしても死を先延ばしに出来るんなら悪くねぇ取引だ」
「……交渉成立、だな。……俺様としても満足の行く結果になった」
「よく言うぜ。……命令だって言ったのはお前だろ?」
「だが、命令を呑んだのはそっちだ」
「そうだがよォ……」
宗雪が何を考えてんのかは分からねぇ。
だが……生き残るためにも、宗雪からの提案は呑んでおくか……
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(一条院 宗雪視点)
「じゃ、俺様は一旦席を外すが……くれぐれも、何かしでかすんじゃねぇぞ?」
「分かってらァ……オレだって、流石に死にたかねぇからなァ……」
俺様の目の前に座る、紫髪を三つ編みワンテールにしている女性……九相院 桜こと狂骨 血染桜は、俺様からの忠告にそう返答した。
……俺様としては、最初こそ血染桜を倒す気満々だったのだが……利用価値があると踏んで生かす事にしたのだ。
ース~ッ……
「じゃあ、少ししたら戻る」
「あァ、大人しく待ってるよ」
そうして、部屋の外に出た俺様は……
「ふぅ~……上手く行って助かっ……」
「お兄様、中で何をお話しに……」
「宗雪様、何だかお顔が優れないようで……」
「いや、大丈夫だ」
いくら今は弱いとはいえ、あいつはかつて原作ゲームで俺様の前世を苦しめたクソボスだ。
当然、警戒するに決まってるだろ。
……まあ、原作ゲームの俺様が受けたアレコレについては自業自得なんで気にしてねぇが。
「九相院 桜様……私は仲良く出来るでしょうか……」
「まあ、俺様からのキツく言っておく」
「そ、宗雪様が沙耶花様を気遣われると?」
「まあ、これまでからしたらおかしいだろうが……原石は正しい方法で磨かねぇとな……」
ぶっちゃけ、この後も困難は山積みだ。
直近で1年後に、土蜘蛛の大豪林主がヒロインの1人である三愛院 萌音の生家である三愛院家の分家を襲う予定になっている。
本家レベルの精鋭なんか居なかった三愛院家の分家は、為す術無く蹂躙される。
結局、その場で生還するのはヒロインの1人、三愛院 萌音だけという筋書きだ。
「……お兄様、どうかされましたでしょうか?」
「う~ん……この1年間で、どうにかあいつには完全な味方になって貰わねぇとな……」
当然、大豪林主もまたクソボスだ。
人型の第一形態と蜘蛛型の第二形態があるのだが、どちらも行動を阻害する糸を出して来る。
その上で高い防御力と当たり判定が大きく強力な攻撃を繰り出して来るので、ユーザーからのあだ名は"クソ蜘蛛"だった。
「宗雪様?」
「……というか、八妖将は半数が防御力と攻撃力がシンプルに高いのは何だ……」
それに加え、血染桜なら"がしゃどくろ"、大豪林主なら"行動を阻害する糸"というクソギミックまであるとか嫌になるわ!
もうどいつもこいつも、嫌な思い出がフラッシュバックして来るの何の……
「お兄様!」
「宗雪様!」
「はっ!……俺様はまた深く考え込んでたのか……」
もう、深く考えるのは1度中断して……
「お兄様?」
「ああ、桜を待たせてるし、俺様はもう戻る……」
「お、お兄様がお名前をお覚えに!?」
「そ、そんなに珍しいんですか?」
「ええ!……これはもう、この度の縁談は婚約で間違いなしでございます!」
まあ、そうなるだろう。
利用価値があるし、婚約も通すつもりだ。
だが……
「……どうやって歩み合うかが問題だな……」
俺様は、あいつの過去を知っている。
だからこそ……この1年間でやる事は決まった。
それはそうと、この1年間で信頼も勝ち取らねぇといけねぇのはキツいな……
「おい、沙耶花!」
「は、はい!」
「親父……当主様に、九相院 桜との婚約を受け入れると伝えてくれ」
「ですが、私如きが当主様と話すなど……」
「俺様からの使者って事にしろ。……そうすりゃ、無下には出来ねぇ筈だ」
「しょ、承知いたしました!」
流石に俺様からの使者としてなら無下にはしまい。
それは、俺様の顔に泥を塗る事になる。
流石に当主やそのお付きがそんな事をするとは思わねぇので……大丈夫な筈だが……
「おい空助!」
「は、はい!」
「お前も気配を消して同行しろ。……多分、お前程の実力に俺様が手を加えれば気付かれねぇ筈だ」
「えぇ!?」
その後、すぐに空助の【隠密】に細工した俺様は、沙耶花に同行させた。
「これで後は……桜か……」
この後、俺様は沙耶花を虐めない等の細かい条件を提示しつつ、桜との婚約を成立させた。
ここから1年間で、どうにか絆を育まねぇとな……
そう思いながら、俺様は今後の対策を練るのだった……
ご読了ありがとうございます。
そういう訳で、血染桜は味方にする方向で話を進めます。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。