41.百々目鬼の■■
綾香、百々目鬼化……
(春銭太夫討伐直後、五知院 綾香視点)
ーゴトッ……
ウチが春銭太夫の首を一薙ぎした直後、黒焦げになっとった春銭太夫の頭が地面に落ちた。
「……これやと、まるで介錯やないか……」
まるで、ウチが春銭太夫に情けかけたみたいで嫌な感じやわ~。
……っと、それどころやあらへんな。
そろそろか?
『許さん許さん許さん許さん許さん……』
『お前も同じ痛みを知れ……』
『殺した者が呪いを受け継ぐのよ……』
無数に聞こえる怨嗟の声……
始まったみたいやな。
ーズキン!
「……か、体に痛みが走り出したわ……」
全身に走る強烈な痛み……
それと同時に、何か幻覚も見えて来始めて……
『……あんた達、あちきに恥をかかせるつもりかしら?』
『春銭殿、その様な事は……』
ーパチン!
『本当に煩い子達ね!』
これは……春銭太夫が禿を虐めとる様子やな……
見た感じ、明らかに落ち度のない禿をビンタしとる様にしか見えへんわ……
……と、ここで景色は変わって……
『た、頼みます!……これ以上搾り取られたら……』
『駄目だねぇ~。……私が金を貸す時の約束を忘れたとは言わせないよ~?』
ん?
今度は誰の記憶や?
『ですが、流石に10日で1割の高利だなんて聞いてません!』
『ちゃんと証文に書いてた筈なんだがねぇ~』
『明らかに墨の色が違うじゃないですか!……それ、後から書き足したんじゃ……』
『煩いねぇ!……さっさと家財一式に加えて妻と娘を質に入れて貰おうか?』
『そ、そんな……』
これは……"質屋のお萩"の記憶かいな……
こんな事しとったんか……
と、ここで更に光景は変わり……
『ふん、ここは確か貧民にも恵みを与えてる善良な商人の家だったわね。……ま、そんなの私にゃ関係ないけどね』
ーガサゴソガサゴソ……
『それにしても、運がなかったわ。……金目の物目当てに殺した相手が無一文だっただけじゃなくて、変な呪いまで持ってたなんて……』
今度は"雌鼠の鈴"の記憶かいな……
……っちゅうか、どいつもこいつも屑ばっかやな……
そうしてウチは、何人分になるか分からへん記憶を見せられ続けた。
1度通り過ぎた人物も、改めて別の記憶を見せられる事があったわ。
そんなこんなで、ウチは百人以上の記憶を全部見せられた。
そうしてそれが終わった頃、ウチの体は……
ーギョロギョロギョロ……
……全身に目玉が張り付いた、百々目鬼の体になっとったんやった……
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(春銭太夫討伐から数十秒後、一条院 宗雪視点)
「ほらほら、急ぐでヤンスよ~。……ま、もう間に合わないかもしれないでヤンスが……」
「死ねやこらぁぁぁぁぁ!」
綾香!
何で春銭太夫を倒しちまったんだ!
"解呪の雫"がねぇ事に気付かなかったのか!?
それとも、気付いた上で倒したのか!?
……もう、30秒は過ぎちまった。
でも、さっきの大技で倒したとは限らねぇ。
だからまだ、可能性は……
「おっと~。……いい加減に諦めたらどうでヤンスか?……ほい【逆転】でヤンス」
ーギュイン!
「あぁぁぁぁもう死ねよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ああ、不思議だな……
前世でこのゲームをしてた時は、秋楽なんて大してムカつきもしなかった敵なのに……
今や、死んでも許さねぇレベルで俺様のヘイトを稼いでやがる……
……だが、俺様に秋楽は殺せねぇ。
明らかに相性が悪過ぎる。
「ま、そろそろ頃合いでヤンスかね~。……ほら、返すでヤンスよ」
ーポイッ……
「なっ……」
秋楽が小瓶を投げやがった。
俺様は慌ててそれを掴む。
……ちゃんと、中身は無事だった。
つまり、それが意味する事は……
「生憎、それはもう不要になった物でヤンスから返してあげるでヤンスよ」
「待て……不要って……どういう……」
「それは自分で確かめると良いでヤンス。……じゃ、帰りの【逆転】でヤンス」
ーギュイン!
「っ!?……小瓶も俺様も無事……本当に【逆転】で帰っただけか……」
取り敢えず、何も盗られてねぇみてぇだな……
……って、それどころじゃねぇ!
綾香、今向かうからな!
そして数分後……
俺様は全速力で走り、春銭太夫の本拠地だった高級風俗店に向かうと……
「おい、俺達は今まで何を……」
「えっと、確か……」
「おい君、そこで何を……」
見たところ、春銭太夫の催眠から解放されたって感じか……
……やっぱり、春銭太夫を倒しちまったのか……
「綾香……どうか……」
俺様は一縷の望みを抱きつつ、店の屋上へと駆け上がった。
そして、そこで俺様が見たのは……
「ははは……ウチ、人間やなくなってもうたわ……」
ーギョロギョロギョロ……
百々目鬼と化し、乾いた笑みを浮かべている綾香の姿だった……
「あ、ああ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
間に合わなかった……
俺様の判断ミスで……綾香は百々目鬼に……
糞がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「お~い、宗雪は~ん」
「すまねぇ……すまねぇ……すまねぇ……すまねぇ……」
「あかん……人の話聞ける状態とちゃう……」
綾香が何か言ってるが……今の俺様は何も聞けねぇ。
俺様がもっと厳重に監視してりゃ……いや、そもそも秋楽に目を付けられた時点で終わってたのか……
まさか、秋楽が居るとか思わねぇよ……
「俺様のせいで……俺様のせいでこんな事に……」
「いや、別に宗雪はんのせいとちゃうし……ウチは別に気にしとらんで?」
「でも……綾香が……百々目鬼に……」
「これも案外ええもんやよ。……確かに気持ち悪い見た目しとるけど……これも役に立ちそうやし」
ハァ?
綾香は何を言ってるんだ?
百々目鬼になったってのに、何でそんな平気な感じで居られるんだよ……
「……平気……なのか?」
「平気……ではないよ。……せやけど、ウジウジしとってもあかんやろ?……それに、百々目鬼になったお陰で有力な情報も手に入ったし」
「ん?……どういう事だ?」
「あ、実はな?」
そうして俺様は綾香から、"銭目の呪い"の保持者は過去の呪いの保持者の記憶も見れる事を聞いた。
「……それで、何を見たんだ?」
「ん?……そこはまあ追々情報共有して行くつもりなんやけど、1つ言えるんは……春銭太夫は八妖将や四鬼の本拠地を知らへん」
「え?」
「まあ、こうして"銭目の呪い"が移った後の事を考えた保険なんやろな。……現に、ウチが記憶を覗き見しとるし」
なるほど。
春銭太夫が殺されたら、その記憶は殺した人間に引き継がれる……
当然のリスクヘッジだな。
「……なら、やっぱり機密情報は無かった感じか?」
「いや、1つだけ。……春銭太夫の前の呪い保持者を春銭太夫に殺させたんは、秋楽やったわ」
「っ!?」
「まあ、当然の如く理由は明かして貰えへんかったみたいやけどな?……それと、前の呪い保持者の記憶見ても突然拐われとるし、徹底しとるわ」
秋楽は何を思って春銭太夫を百々目鬼にしたのか……
多分、いくら考えても答えは出ねぇんだろうな。
「……ん?……今、拐われたって言ったか?」
「あ、別にその呪い保持者に同情する必要はあらへんで?……その人も屑やったから……」
「そ、そうか……」
……あ~……うん。
綾香はいつも通りって感じだな……
もっとショックを受けてるかと思ったんだが……
「ま、こんな感じでウチは平気やけど……もし、それでも宗雪はんが責任を感じとるんやったら……ウチの事を娶ってくれるだけでええからな?」
「……え?」
「あ、答えは別に今やのうてええから……取り敢えず考えといてな?」
「あ、ああ……分かった」
何だかんだで平気そうな綾香を見る。
……考えておいて、か……
いや、違うな。
ーガシッ!
「え、宗雪はん!?」
俺様は綾香の肩を掴んだ。
そして……
「婚約、俺様としても願ったり叶ったりだ!」
「へ?……ま、マジで言うとる?」
「ああ、マジだ!」
「く、くぅぅぅぅぅ!……刺激強いわ~♥️!」
俺様は綾香の頼みを承諾し、婚約を結ぶ事にしたのだった……
ご読了ありがとうございます。
綾香も完全に気にしていない訳ではありませんが、メリットを考えて納得してる形です。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




