40.春銭太夫の最期
今話、春銭太夫vs五知院 綾香……決着です!
(俯瞰視点)
宗雪と秋楽の戦闘現場から少し離れた地点にて……
「【隠密】です」
ーザシュ!ザシュ!
「腹……減った……」
ードサッ……
「【瞬発乱拳】でございます」
ーバシバシバシバシバシバシバシバシ!
「やま……い……」
ードサッ……
空助と沙耶花は、淡々と餓鬼や瘟鬼を討伐していた。
また、少し離れた地点では……
「【激流張手】っす!」
ーブンッ!……ドバァァァァァァ!
「ンモォッ……」
ードサッ……
「【激流張手】でござんす!」
ーブンッ!……ドバァァァァァァ!
「ンモォッ……」
ードサッ……
夏芽と彼女によって召喚された河濫沱が、牛鬼の大群を片付けていた。
更に離れた地点では……
「ガァァァァァァ!」
「デカいだけの木偶の坊がァ……オレの【骨薙刀】の錆になりやがれ!」
ースパッ!
「ウガァ……」
ードシィィィィィン!
完全武装した状態の桜が、大量の鬼一口を木偶の坊と称しながらその弱点を斬り伏せていた。
……各々、その裏で進んでいる秋楽の企みに気付かぬまま……
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(五知院 綾香視点)
「【式神召喚】……出番やで、天道はん!」
ーピカ~ン!
「………………」
「……ちょいと乗るで!」
ースタッ!
ウチは天道はんを召喚すると、その上に乗り込んでビルの屋上から距離をとった。
「ふふふ……あちきの姿に怖じ気づいたのかしら?」
「……せやよ」
「ふん、そんな状態であちきを倒そうとは……片腹痛いねぇ~」
「……何か口調が安定してへんな……」
春銭太夫はんの口調が安定しとらん。
……まさかとは思うけど……
「おい、さっきから黙り込んでどうしたんだい?」
「……春銭太夫、1つ聞かせて貰おか?」
「何だい?」
「……あんたは誰や?」
ウチは、春銭太夫の核心を突く一言を放った。
すると……
「何を今更……あちきは春銭太夫……江戸は吉原で太夫にまで上り詰めるも、美しさで他の遊女に負けて花魁とは呼ばれなかった敗北者さ……」
これは分かり切っとった答えや。
問題は次や。
「その前は?」
「質屋のお萩……江戸の町で質屋を開いていた者の娘で、悪どい事も散々やって……最期は秋楽の手引きであちきに殺された小悪党さ……」
「更にその前は?」
「雌鼠の鈴……江戸の町で散々盗みを働いていた女泥棒で、色んな家に忍び込んで……最期は質屋に忍び込んだ所をお萩に殺されたコソ泥さ」
……やっぱりや。
春銭太夫は、自分以前の"銭目の呪い"保持者の記憶も持っとる。
つまり、春銭太夫の中には何人……いや、下手したら何十、何百もの人間の記憶が混濁しとるっちゅう事かいな……
「……ほな、あんたはほんまに春銭太夫なんか?」
「ふふふ、どうだろうねぇ~。……でも、そんなのは関係ないよ。……さて、あんたへの冥土の土産もここまでにして、さっさと殺してしまおうかしら」
新たに明らかになった驚愕の事実は置いといて、こっちも応戦せんとな……
「……来るなら来よし」
「じゃあ遠慮なく。……【光線眼】!」
ービュン!
「天道はん!」
ーバチバチ……バチン!
春銭太夫が【光線眼】から光線を放って来よったから、ウチも天道はんの雷で応戦した。
そしたら……
「だったら集中攻撃だよ!」
ービュンビュンビュンビュンビュンビュン!
「やったらこっちもや!」
ーバチバチバチ……ドンガラガッシャァァァ~ン!
春銭太夫が大量の【光線眼】から光線を放って来たさかい、こっちも応戦して大量の雷を当てたった。
「ふふふ、よくやるねぇ~」
「当たり前やろ。……春銭太夫を倒すんが、ウチ等五知院家の悲願なんやからな!」
寧ろ、思ったより簡単で拍子抜けしとる位やよ。
「なら、あちきを殺すのかい?……百々目鬼になっちまうってのに?」
「いや、ウチはちゃんと対策を……」
「だったら、その対策とやらは今も有るのかい?」
「へ?……あれ?……何でや……」
……ポケットに入れとった筈の"解呪の雫"があらへん。
ま、まさか……
「ふふふ……秋楽に頼んで盗っといて貰ったのさ。……あちきを殺そうとしてる位だから、その手の代物を用意してると踏んでね」
「な、何やて……」
「さあ、これであんたに残された道は3つ。……あちきに殺されるか、この場から逃げるか、あちきを殺して百々目鬼になるか……選ぶと良い!」
「あ、あああ……」
……あかん……
殺されるんは論外……
逃げるんも一族の悲願を考えたらあかん……
せやけど、ウチが百々目鬼になるとか……
「……ま、あちきは殺すだけだがね!」
ービュン!
「っ!?……応戦や!」
ーバチバチ……バチン!
あかん、気が逸れとる……
でも、どないしたら……
……いや、ウチは何を迷っとるんや……
百々目鬼になるんが何や……
春銭太夫を見る限り、記憶は混濁しても自我まで持ってかれる訳とちゃう……
「あらあら、どうするつもりだい?」
それで、この危険な妖を討ち取れるんやったら……
「……ウチは、百々目鬼にでもなったるわ!」
「っ!?……な、何を言って……」
春銭太夫に時間は与えん。
短期決戦、さっさと仕留めたる!
「天道はん、決めるで!」
「……………」
ーブォォォォォ!
天道はんの前に、小さな暴風が発生した。
ーザザザザザ……
ーバチバチバチ……
そしてその中では、大量の水と雷が渦巻いとる。
「これは小さな嵐や。……それを思いっきし、春銭太夫にぶつけたる」
「なっ……そっちがその気ならあちきだって……」
ーギョロギョロギョロ……ギョロ!
「へぇ、【光線眼】を1ヶ所に集めはった……」
春銭太夫は全身にバラけさせとった【光線目】を1ヶ所に集めて、エネルギーを集中させ始めた。
「さあ、これであんたも終わりさ!……もう油断はしない!……慢心もしない!……ここであんたを消さないとあちきが殺されるってはっきり分かったからね!」
「……自分が殺される思たら小悪党っぽく……いや、お萩っちゅう奴の性質を考えたら正常な反応やな」
完全に記憶が影響しとる……
まあ、もしもの時は自害するだけや。
「煩い煩いうるさぁぁぁぁぁぁい!……あんたはここで殺してやる!……【一点集中・死ノ春】!」
ービュン!
「ほなウチも……【小嵐】!」
ーブォォォォォ!
ードゴォォォォォン!
そうして春銭太夫が【光線眼】を1ヶ所に集中させて放った極太光線こと【一点集中・死ノ春】と、ウチの小規模嵐こと【小嵐】がぶつかりはった。
そして、しばらく拮抗した後……
ーゴゴゴ……ゴゴゴ……ブォォォォォ!
……勝ったんは、ウチの【小嵐】やった。
「なっ……」
ーブォォォォォ!……ドンガラガッシャァァァ~ン!
結果、春銭太夫は【小嵐】に呑み込まれて、暴風と豪雨と雷に襲われた。
そして……
「……トドメはウチが刺すわ……」
天道はんに屋上付近まで移動して貰って、ウチは屋上へと降り立った。
そこに居ったんは……
「ハァ……ハァ……あんた……ゴホッ!……ころ……して……や……る……」
全身黒焦げになった春銭太夫やった。
「……今、楽にするわ……」
ウチは隠し持っとった小太刀を抜くと、そのまま春銭太夫に近付いて……
ーザシュ!
その首を横に一薙ぎしたんやった……
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(数分後、俯瞰視点)
「ハァ……ハァ……おい綾香、大丈……ぶ……か……」
そこに駆け付けた宗雪は、必死の形相をしていた。
まるで、死に物狂いで走って来たかの様に……
そして、宗雪と向かい合って立っていたのは……
「ははは……ウチ、人間やなくなってもうたわ……」
ーギョロギョロギョロ……
乾いた笑みを浮かべ、全身に大量の目玉を張り付けている……五知院 綾香その人だった……
ご読了ありがとうございます。
綾香、百々目鬼化……続きは次回……
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




