3.原作主人公との稽古試合
稽古試合って書いてますけど、言う程稽古してません。
(一条院 宗雪視点)
空助に稽古をつけると決めた俺様は、一条院家の中庭にある模擬戦用のスペースにやって来た。
「さあ、空助……今回の稽古次第では、俺様直属の配下にしてやっても良いぞ?」
「そんなの、僕に何のメリットが……」
まあ、そりゃ不服だろう。
ここらで噂されている俺様の性格は傲慢不遜で選民思想の塊らしいし、少なくとも前世を思い出す前までの俺様であれば殆んど真実な内容だ。
そんな奴の下に、誰が就きたいだろうか……
「まあ、嫌だろうな。……だが、そこで結果を残し続けさえすれば、沙耶花との結婚だって夢では……」
「ほ、本当ですか!?」
「うおっ!?……急に食い付いたな……」
まだ10歳だというのに……やはり、主人公こと空助は沙耶花が好きなのだろう。
「く、空助さん……どうか、ご無事で……」
沙耶花も空助を心配しているし、やはりこの2人はさっさとくっ付けてしまうに限るな。
「とにかく……まずは俺様と戦い、俺様に実力を示してみろ!」
「み、認めさせる、ですか?」
「そうだ。……俺様が自身の配下かつ沙耶花の婿に相応しいと思える強さを見せろと言っているんだ」
言っちゃあアレだが、俺様はこいつの戦い方を知り尽くしている。
負ける訳がないのだ。
「……勝ち負けの条件は?」
「そうだな……どちらかが降参するまで、武器は刃を潰したナイフでどうだ?」
「え?」
「ああ、安心しろ。……少なくとも、俺様は空助を傷つけねぇから」
一応の念押しをした後、空助には稽古用の刃を潰したナイフを支給した。
これなら、どうとでもなるだろ。
「では……行きます!」
「ふむ……」
こうして、俺様と空助による勝負形式の稽古が始まった。
「……妖術、【隠密】!」
ーフッ……
「く、空助さんの姿が……」
【隠密】という妖術を唱えた瞬間、空助の姿が見えなくなった。
「ほう……透明化、或いは擬態か?」
「………」
「まあ、普通は話さねぇよな……」
姿を消し、相手の弱点を突く……
これが、空助のバトルスタイルだ。
……主人公なのに主人公らしくねぇ戦い方だな……
「……隙ありです!」
ーブンッ!
「やっぱりか……」
空助は俺様の背後から現れ、刃が潰れているナイフを下から突き上げて来た。
もっとも……
ーガキン!
「なっ……」
「くっくっく……俺様に負けを認めさせたかったら、もっと力を上げるこった」
空助の攻撃は、俺様が張った【防御結界】……要はバリアによって弾かれた。
「まさか、今のを止めるとは……」
「生憎、その程度の攻撃なら想定内だ。……とはいえ、まだまだ引き出しはあるんだろ?」
「分かりましたよ……後悔、しないでくださいね?」
ーフッ……
「……ここから本気か……」
実を言うと、原作ゲームにおける主人公こと空助は滅茶苦茶強かった。
【隠密】を使えば敵に気付かれなくなるので、味方キャラが敵からヘイトを買った際に攻撃してヘイトを移し、そのまま【隠密】で姿を消して混乱させるなんて戦法をよくしたもんだ。
まあ、要は空助のバトルスタイルは暗殺者タイプって事だ。
「ふん!」
ーブンッ!
「おっと」
ーガキン!
ふぅ……って、やべぇ。
考え事に夢中になるあまり、防御が遅れかけた。
「今度こそ!」
ーブンッ!
「ほれ」
ーガキン!
ただ、やはりまだ未熟だ。
「ハァ……ハァ……どうして……僕の攻撃が……当たらないんですか……」
「そんなのは簡単な話だ。……空助、お前は攻撃の瞬間に姿を現してしまっている。……そんなの、防いでくださいと言っているようなものだぞ?」
「くっ……」
空助は原作ゲームにおいても、攻撃の度に姿を現していた。
これは作中でも明確に弱点として描かれており、ゲームシステムの問題とかではない。
「どういう能力かは知らねぇが、空助はもっと速さを極めろ。……俺様の【防御結界】が間に合わねぇ程に早くな」
「や、やってみせます!」
ま、原作ゲームの俺様はそんな攻撃の瞬間に姿を現す相手にボロ負けしたんだが。
ほんと、才能に胡座をかいて努力しないのは駄目だな。
ーヒュン!
「やっ!」
ーブンッ!
「遅い!」
ーガキン!
「まだまだ!」
ーブンッ!
「攻撃が止まって見えるぞ」
ーガキン!
原作ゲームでボスキャラの器に選ばれるだけあって、俺様の戦闘能力はすこぶる高ぇ。
もっとも、原作ゲームの俺様はオツムが残念だったみてぇだが……少なくとも、今の俺様なら対処可能だ。
「ハァ……ハァ……」
「ふむ……人には得手不得手があり、使える妖術にも自然と偏りが出るとはいうが……ここまで近接戦闘ばかりするのであれば、体力はもっと付けるべきだな」
「ははは……こんな状態でもそんな余裕があるとは……降参です」
「ん?もうか?」
「流石にもう無理ですよ……僕、別に特別な家の生まれでも何でもない一般人ですからね?」
そう。
空助はあくまでも一般人の10歳児だ。
早々に体力が無くなってもおかしくねぇ。
「ま、なかなか良かったぞ?」
「ですが……これでは不合格ですよね……」
「いや、普通に合格だぞ?」
「えっ?……僕、負けましたよ?」
「別に俺様、勝ち負けを基準にすると言った覚えはねぇぞ?」
「……何ですか、それ……」
確かに未熟な部分は多いが、そういう世界とはいえ一般人の10歳児がここまで戦える時点で充分だ。
それに、将来もっと強くなるのは知ってるしな。
「だがまあ、寧ろ厳しいのはここからだからな?」
「わ、分かってますよ……」
「空助さん!……大丈夫でございますか!?」
「え、あっ……はい……」
一目散に空助に走り寄る沙耶花。
うんうん、それで良いぞ!
「……お兄様、何のおつもりですか?」
「ん?」
「……普段のお兄様なら、もっと痛め付けていた筈ではありませんか?」
「あのなぁ……将来の部下になるかもしれねぇ奴を、そこまで痛め付ける意味もねぇだろ……」
いやまあ、そんな無意味な事をしかねないのがかつての俺様なんだが……
……こうして見ると原作ゲームの俺様、マジで破滅するべくして破滅したんだな……
「ようやく、お兄様にも考える頭がお付きになられたのですね」
「俺様が言うのも何だが、もっと良い言い方はなかったのか?」
「噂とはかなり違うと思っていましたが……寧ろ、今日の方が異常なんですね……」
「わ、悪かったな!」
何かもう、この2人に関する破滅フラグは残ってねぇと思いてぇが……
ま、気長にやってくか……
……そう俺様が思った時だった。
「あっ!」
「……沙耶花、いきなりどうした?」
「お兄様、お忘れでございますか!?……後10分で婚約者候補の方がいらっしゃるご予定で……」
「……え、そんな大事な予定があるのに僕と稽古したんですか!?」
婚約者候補?
……ああ、そういやあったな……
「別に気にしなくても良いだろ。……どうせ一条院家より家格の低い家が、何とか娘を嫁がせて甘い汁を啜ろうとしてやがるだけだし……」
「そ、それはそうでございますが……」
これまでも何度かあったし、大半が後の原作ゲームヒロインばかりだった。
もっとも、原作ゲームヒロインは噂が事実だと知った瞬間に俺様との見合いを拒否したので、俺様はどのヒロインとも1度も会ってねぇんだが……
「……で、今日は誰だ?」
「本気でお忘れになられたのですね……九相院 桜様ですよ」
「ブフッ!」
え、今何って言った?
九相院 桜だって?
「お兄様、どうして突然吹き出されたのでございますか?」
「宗雪様、いきなりどうしました?」
やべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇ!
九相院 桜は、原作ゲームにおける俺様の婚約者兼腰巾着だった女だ。
性格はお世辞にも良いとは言えず、原作ゲームの俺様と共に沙耶花を虐げ、暴力もよく振るっていた。
だが、最期は妖化した原作ゲームの俺様によって殺され、妖力を吸い尽くされるという末路を辿った……かに見えた。
だが、その全ては奴のブラフだった。
「九相院 桜……いきなりボスはねぇだろ……」
原作ゲームにおいて九相院 桜の正体については、妖化した原作ゲームの俺様が主人公陣営に負けた瞬間に明かされた。
……八妖将の一角、狂骨 血染桜という正体が……
ご読了ありがとうございます。
早くも八妖将の一角とご対面です!
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