27.河濫沱との大勝負
河濫沱戦、開幕です。
(二剛院 夏芽視点)
「これが今回付けて貰う"まわし"だっピ」
「ありがとうっす!」
「手間をかけさせるでござんすな」
アタイは天五獣君の"鵺"さんから"まわし"を受け取ると、スカートの上から着けたっす。
……それはそうと、河濫沱と出会ってから1ヶ月も経ってないんすよね……
そう考えると、河濫沱との因縁も割と浅い気が……
……って、そんな事は考えちゃ駄目っす!
「……"まわし"、付けたっすよ?」
「なら、始めるでござんすか……ふん!」
ーざば~ん!
「っ!?……ど、土俵が現れたっすか!?」
突然周囲から水が湧いたかと思った瞬間、そこに土俵が出来てたっす。
ほんと、何でもありっすね……
「これで完璧……いや、まだ姿を変えてなかったでござんすな……取り敢えず、口上は割愛して……」
ーぴちゃぴちゃ……ざぶざぶ……ドバァァァァァァ!
「っ!……やっぱり、怖いっすね……」
河濫沱はあの河童と熊を掛け合わせた様な姿になり、アタイの前に立ちはだかったっす。
と、ここで河濫沱は口を開き……
「ふぅ……夏芽のお姉さん、少々ご提案があるんでござんすが……」
「何っすか?」
「いや、いきなり勝負を決めるのも勿体ないでござんすから、しばらく妖力無しで打ち合うのはどうでござんすか?」
「ふむ……良いっすよ」
多分、これは相手を下に見てるとかじゃないっす。
だって、どちらが勝つにしても一撃で決まっちゃうのは決定事項っすから、その前に打ち合って楽しむのは何も間違ってないっす。
「……では、両者見合うっピ!……ひが~し~……」
「あ、そういうの要らないでござんす」
「えっ……河濫沱、相撲が好きなんだっピよな?」
「オイラが好きなのは相撲の勝負であって、そんな形式的なものはどうでも良いんでござんす」
「……それ、好きって言えるっピか?」
「あ、アタイも同感っす……」
行司役の"鵺"さんが両者の名前を言おうとしたのを飛ばした辺り、河濫沱が興味あるのは相撲のぶつかり合いそのものであって、その他の形式的なものは無視するタイプっぽいっすね……
「ただまあ、四股は踏ませて貰うでござんす」
「あ、アタイも……」
「では、始めるでござんす……ふん!」
ードシィィィィィン!
「っ!?」
「もう1回でござんす!」
ードシィィィィィン!
「……し、四股でこんだけ揺れるんすか……」
河濫沱の四股は、まるで地震みたいだったっす……
……って、こんなんで気圧されてちゃ駄目っす!
「おやおや、良いお顔になったでござんすね」
「この程度では気圧されないっす!」
やっぱり、アタイはこいつの事を"敵"としては見れないっす。
かと言って、"好敵手"と言うには実力差があり過ぎるっす……
と、ここで"鵺"さんがいつの間にか持っていた軍配を掲げて……
「……では、見合って見合って……はっけよ~い……のこったっピ!」
ーダッ!
突然始まった相撲の勝負。
でも、アタイも河濫沱も遅れる事なく反応したっす。
「「ふん!」」
ードカドカドカドカ……
お互いの張り手が、それぞれの肉体に打ち込まれたっす。
でも、アタイも河濫沱も全く退かなかったっす。
「お姉さん、だいぶ腕を上げたでござんすか?」
ードカドカドカドカ……
「まさか……これは前から出来たっす!」
ードカドカドカドカ……
「ほう……だとしたら、前回のオイラは惜しい事をしたでござんすな~」
ードカドカドカドカ……
「本当っすよ」
ードカドカドカドカ……
「のこったのこったっピ!」
ううむ、やっぱりこれ遊ばれてるっすよね……
でも、河濫沱から悪意は感じないっす。
寧ろ、この時間を長く楽しみたいという気持ちすら感じるっす。
「さあ、お互いの本気を出し合うでござんす!」
ードカドカドカドカ……
「……しょうがないっすね!」
ードカドカドカドカ……
ハァ……こいつ、本当に只々勝負を楽しんでるだけなんすね……
なら、アタイももうしばらく遊びに付き合ってあげるっすよ!
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(河濫沱視点)
ードカドカドカドカ……
……ああ、楽しいでござんす……
正に"力"と"力"のぶつかり合い……これぞ相撲でござんすな……
まあ、こんな感想は確実に相撲が本業の方々に怒られそうでござんすが……どうせこの場に相撲関係者は居ないでござんすから別に良いでござんすよね?
それにしても夏芽のお姉さん、やっぱり前より打ち込みが強くなってる気がするでござんすな……
「ふんふんふんふんふん!……どうっすか!」
ードカドカドカドカ……
「ぶわっはっはぁぁぁぁぁぁ!……良いでござんすよ~!」
ードカドカドカドカ……
これこれ、これでござんす!
本当に夏芽のお姉さんは何処までもオイラの力にしがみ付いて来るでござんすな~。
これは最早、オイラと夏芽のお姉さんによって繰り広げられる"魂"と"魂"のぶつかり合いでござんす!
「な、何で急に高笑いしてるんすか!?」
ードカドカドカドカ……
「勿論、楽しくなったからでござんすが?」
ードカドカドカドカ……
「だからって……まあ、アタイも楽しいっすけど……」
ードカドカドカドカ……
「そうでござんすか!……となると、本当に終えるのが名残惜しくなって来るでござんすな~」
ードカドカドカドカ……
「……アタイも同感っすけど、それでも急な高笑いは止めて欲しかったっす!」
ードカドカドカドカ……
永遠にこの時間が続いて欲しいでござんすが……現実はそうも行かないでござんす。
「おっと……少し遊び過ぎたでござんすか……」
ードカドカドカドカ……
「……とか言って、本当は全然余裕っすよね?」
ードカドカドカドカ……
夏芽のお姉さん、どんどんオイラの動きに慣れて来ているでござんす……
ううむ……これは手を抜けないでござんすね~。
そろそろ決めた方が良さそうでござんす。
「ふぅ……夏芽のお姉さん、そろそろオイラとしては本気を出したいんでござんすが……」
「……分かったっす。……さあ、来るなら来いっす!」
オイラ、こんなに楽しいと思えた相手は初めてでござんした。
それこそ、武射麿呂に調伏されるまで楽しんでいた時の相撲よりも血湧き肉踊る勝負だったでござんす。
でも、それももう終わり……後は、夏芽のお姉さんが何処まで耐えるかでござんすな……
「では遠慮なく……【激流張手】でござんす!」
ーブンッ!……ドバァァァァァァ!
オイラの放った【激流張手】は、夏芽のお姉さんを真っ向から捉えて……
「技が大振りなんすよ!」
ースカッ……
夏芽のお姉さんは、オイラの放った【激流張手】を紙一重で回避したでござんす。
……ふむ、いかに夏芽のお姉さんといえど2度も同じ手は食らわないでござんすか……
「なら、2発目を当てるだけでござ……」
ただ、ここでオイラは失念していたでござんす。
……この技を出した後は、隙を晒してしまう事を……
「隙ありっす!」
ーぶわっ!
「っ!?」
い、いきなり夏芽のお姉さんの妖力が上がって……
って、マズいでござんす!
「ふぅ……【高圧激流張手】っす!」
ーブンッ!
「あ、これは無理でござん……」
ードゴォォォォォォォォォォォン!
直後、夏芽のお姉さんから放たれた技が躊躇なくオイラに当たり、オイラは土俵の外まで吹き飛ばされたのでござんした……
ご読了ありがとうございます。
河濫沱は牛鬼に大穴を空ける攻撃でも死なないので、相撲のルールに縛り付ける以外に勝ち目はありません。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




