22.美乱御前の選択
牛鬼討伐完了、その次は……
(一条院 宗雪視点)
「……ま、マジかよ……」
俺様は今、信じられねぇものを見た。
というのも、夏芽がえげつない威力の攻撃を放って、牛鬼に大穴を空けて倒したのだ……
「焚き付けておいて何でありんすが、どうなっているんでありんすか?」
「お、俺様は何も知らねぇぞ……」
原作ゲームにおいて牛鬼との戦いはもっと先だったし、限界突破に必要なイベントも別だった。
……原作ゲームでは不意をついた俺様と桜によってズタボロにされた空助を見て、"友人"を傷付けられた怒りから限界突破していたが……
まさか、美乱御前相手に劣勢な俺様を見て限界突破するとか……
と、その時……
ードサッ……
「ん?……何か倒れたでありんすよ?」
「「っ!?」」
突然、夏芽がその場に倒れた。
「……妖力……出し過ぎたっす……アタイは……もう限界っす……」
「……やっぱりか……」
あんな大技を放ったんだから、当然夏芽の妖力は限界を迎えていた。
……今すぐにでも行きてぇが、美乱御前も無視出来ねぇし、どうするべきか……
そう、思っていると……
ーパチパチパチ……
「いやはや、自分の出せる全てを出し切って牛鬼を倒したでありんすか~。……わっちから見ても称賛に値するでありんすよ」
「……追撃、しねぇのか?」
「別にわっちの目的はお前達の殲滅じゃないでありんすからね。……ま、お前達がわっちと戦うって言うなら殺るでありんすけど……」
「……遠慮する……」
美乱御前、態度こそ柔らかいが本性は残虐で非道な妖だからな……
ぶっちゃけ、優しいのは娘の如く溺愛してる三官女に対してだけだし……
「じゃ、そろそろ帰るでありんすか……」
ーパン!パン!……ブワンッ!
「「「っ!?」」」
「なっ!?……三官女を……召喚した!?」
美乱御前が2回手を叩いた瞬間、何処からか三官女が転送されて来やがった。
しかし……
「あらまぁ……ボロボロでありんすね……」
……当の三官女は、かなりボロボロになっていた。
「すまねぇケラ、美乱御前様……あの野郎、透明化抜きにしてもかなり強かったケラ……」
「申し訳ございませんツラ、美乱御前様……敵の女性に、私のつららを片っ端から横殴りの拳で砕かれてしまったツラ……」
「ごめんなさいフラ、美乱御前様……骨を纏う女に、私の呪い文が通用しなかったフラ……」
どうも、三官女は桜達にやられたらしい。
まあ、原作ゲームからして三官女の強みは高度な連携にあり、逆に単体での強さはそこまで高くはなかったが……
いくら俺様が鍛えたとはいえ、マジで三官女相手に勝っちまったか……
「……本当に、この娘等を殺さずに済ませてくれたんでありんすね……」
「ああ。……少なくとも、怒り心頭のお前を相手したくはねぇんでな」
「慎重でありんすね~。……貸し1にしてやるでありんす」
貸し1……
まさか、美乱御前からそんな言葉が聞けるとはな……
「……じゃあ、その貸しはいつか有効活用させて貰うぜ?」
「好きにすると良いでありんす。……それじゃあ、わっちは帰るでありんす」
ーブワンッ!
帰ると宣言した次の瞬間、既に美乱御前と三官女は消えていた。
「……結局、俺様達の成果は牛鬼1体……しかも見るからに無知性の名無し個体か……」
一般の牛鬼相手にここまで夏芽が追い詰められちまっ
たのか、単純に美乱御前達の乱入で長引いただけだったのか……
多分、後者だろうな……
「お~い、宗雪~!……って大丈夫なのだ!?」
「萌音か……何とかな……」
「でも、かなりキツそうなのだ!」
「そりゃ、妖力をかなり使っちまったからな……」
「つまり、妖力切れギリギリって事なのだ……」
多分、夏芽があそこで決めてくれなきゃ死んでいただろう。
それ程までに、遊び半分ですら美乱御前は強かった。
「って、それより夏芽だ夏芽!……早く手当てしねぇと……」
「あ、アタイは何とか大丈夫っす……ただ、ちょっと右腕の筋肉痛が酷いっすね……」
「右腕って……技を放った腕じゃねぇか!……それ絶対にただの筋肉痛じゃねぇぞ!」
「ははは……大袈裟っすね……」
……流石にあんな大技、使ったら肉体への反動がでか過ぎるよな……
少なくとも、今の夏芽は右腕の痛みと妖力切れの症状が出てるし、さっさと病院に運び込まねぇと……
と、そこへ……
「おい相棒、何か三官女が突然消えちまったんだが……」
「不思議な事に、一瞬で消えてしまわれました……」
「ここに来てませんか?」
三官女捜索に行っていた桜達が戻って来た。
「ああ、ここに来た美乱御前に回収されてそのまま帰って行ったな……」
「……美乱御前だァ!?」
「……美乱御前でございますか!?」
「……美乱御前ですか!?」
まあ、そりゃ驚くよな……
「俺様ですら、遊び半分の美乱御前に圧倒されちまった……流石は八妖将最強の実力者だな……」
「ま、マジかァ……」
「お兄様が圧倒された……」
「とてもじゃないですが、信じられませんよ……」
……この反応をされるレベルで、俺様の強さは信用されてたんだろうな……
何か、申し訳ねぇな……
「……とはいえ、その話は後回しだ!……俺様は夏芽を病院に運び込むから、桜達は後の事を頼んだ!」
「お、おう……任せとけ!」
「じゃあな!」
そうして俺様は夏芽を背負い、すぐさま病院へと急ぐのであった……
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(俯瞰視点)
とある竹林、その奥にて……
「……美乱御前様、私達への罰があるならハッキリと言ってくれケラ……」
「そうですツラ!……こんな失態、他の八妖将の皆様からしたら笑い者ですツラ……」
「せめて、私達の事はここで綺麗さっぱり切り捨てて欲しいフラ……」
美乱御前の後ろを歩く三官女は、自分達が美乱御前の足を引っ張ると考えて重い処罰を申し出ていた。
しかし……
「3人とも、すぐに荷物を纏めるでありんす」
「追放ケラか?」
「甘いですツラ……」
「それだと、他の八妖将の皆様から何を言われるか分からないフラ……」
美乱御前の荷物を纏めろ発言を、追放だと受け取り、そんな軽い処分では駄目だと反論する三官女。
だが、美乱御前は再度口を開き……
「違うでありんすよ!……わっちを含め、八妖将から離反するんでありんす!」
「「「……ハァ!?」」」
三官女の考えとは反対に美乱御前は、八妖将との決別の道を選ぼうとしていた。
「ど、どうしてだケラ!?」
「蛸鯰は、お前達を捨て駒にしようとしたでありんすよ?……そんな奴等と今後も手を組める程、わっちの心は広くないでありんす!」
美乱御前は激怒していた。
確かに三官女が死ななかった以上、蛸鯰を殺しはしない。
ただ、今後も手を組むかどうかは別問題だった。
「……美乱御前様、それで良いんですツラか?」
「良いでありんす!……絶対、蛸鯰の事は許さないでありんすからね!」
そう話しながら、美乱御前と三官女は竹林の奥へと姿を消した。
結局、蛸鯰の行動は離反者を増やすだけになってしまったのだが、彼はまだこの事実を知らない……
ご読了ありがとうございます。
蛸鯰が夏芽の始末を三官女に指示した理由は、その内語ります。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




