2.記憶整理と邂逅
何かもう、全然良いストーリーが思い付きません。
(一条院 宗雪視点)
俺様が前世の記憶を思い出してから、およそ数時間が経過した。
その間に、俺は思考を整理して今後に活かせそうな記憶を幾つか思い出した。
「まず、八妖将は可能な限りどうにかしねぇとな……」
八妖将とは、例の8体居るボス妖の事だ。
確かゲーム内の設定だと、ラスボスである零魔院 武射磨呂が従えていた8体の式神……って扱いだっけか。
ただ、その零魔院 武射磨呂は千年前に1度討ち倒されており、配下の式神こと八妖将も封印されていた。
だが、100年程前に突如として封印が解けてしまい、結果として退魔師と妖の争いがヒートアップする事になったとか何とか……
そんな設定だった気がする。
「で、八妖将の内訳は……」
・狂骨 血染桜
・水虎 河濫沱
・鵺 天五獣君
・土蜘蛛 大豪林主
・天狗 空旋坊
・鬼 死獄童子
・ぬらりひょん 蛸鯰老師
・白面金毛九尾の狐 美乱御前
「……改めて見ても、千年前には伝承すらなかったのが紛れてるが……まあ、インディーズゲームの設定にとやかく言うのは止めとくか……」
とはいえ、これを全て俺様が倒す必要はねぇ。
ただし、その内の1体……原作ゲームの俺様が取引した相手だけは倒しておかねぇと、いつ破滅の原因になるか分かったもんじゃねぇ……
「原作ゲームの俺様が取引した相手は……狂骨 血染桜だったよな……原作ゲームの俺様は、よくもまあそんな面倒な相手と取引をしたもんだ……」
狂骨 血染桜は、八妖将の中では弱ぇ方だ。
だからか、そいつは強い者の肉体を乗っ取れるという固有能力があり、原作ゲームでは俺様の肉体を乗っ取って強くなってやがった。
思い出せる記憶にて、第一形態として妖に成り果てた原作ゲームの俺様を苦労して倒したと思ったら、血染桜がその体を乗っ取って第二形態に移行した時の絶望感はえげなかったっけ……
「……というかこのゲーム、インディーズゲームの割にボスが強過ぎなんだよな……」
どのボスも、結構強かった。
あんな奴等全員と戦うのはごめん被る。
「……そうなると、まずは血染桜相手に戦えるレベルにはなりてぇが……八妖将攻略と並行して、ヒロイン対策もしとかねぇとな……」
そう。
このゲームといえば、8人のヒロインも無視出来ねぇのがまたキツい。
取り敢えず、現時点で接触してるのは妹の一条院 沙耶花だけだが……まあ、下手に接触しねぇ方が良さそうではある。
あるのだが……
「多分、嫌が応でも会う事になるよな……」
俺様が知ってる限り、全てのヒロインとは高校で出会う事になる。
「俺様や沙耶花、主人公の野郎が高校に入学した時点での、沙耶花を除く7人のそれぞれの立ち位置と名前は確か……」
・1年生 二剛院 夏芽
・1年生 三愛院 萌音
・2年生 五知院 綾香
・2年生 八笑院 麻里
・3年生 四美院 蘭子
・3年生 七賢院 玖尼
・教師 六刃院 杏美
……となっていた筈だ。
『いや、明らかに教師がヒロインになってんのおかしいだろ!』……というツッコミをした覚えがある。
しかもこの世界、一定の実力があれば教師とだって付き合えて、ハーレムだって作れちまう程には完全な実力主義となっているので問題ねぇのがな……
何かもう、開発者共の必死さが感じ取れる。
「……ま、会っても居ねぇヒロインの事は後回しでも良いだろ。……1番の問題は、俺様自身の強さだ」
原作ゲームの俺様が転落していった背景には、才能に胡座をかいて努力しなかったというものがある。
元々、俺様の生まれた一条院家は退魔師の名家だ。
その中でも将来有望と言われた原作ゲームの俺様は、努力を怠って無様な敗北を晒した訳だ。
「まあ、数院九家の頂点とも言える一条院家で将来有望なんて言われたら、舞い上がっちまう気持ちも分からんでもないが……」
あ、そういえば数院九家についても整理しておくか。
数院九家……一条院家、二剛院家、三愛院家、四美院家、五知院家、六刃院家、七賢院家、八笑院家、そしてヒロインには居ねぇが九相院家という家を合わせた九つの名家の総称だった筈だ。
「……本家や分家を問わないとはいえ、数院九家の殆んどが攻略対象とか……絶対に関わっちまうよな……」
あ~もう、これ以上の記憶整理は止めるべきだな。
取り敢えず、沙耶花の様子でも……
「あ、お兄様……」
「……いつから俺様の話を聞いてた?」
「いえ、今来たばかりでございますが……」
「そ、そうか……」
沙耶花から、嘘をついている人間特有の癖は見当たらなかった。
本当に、今来たばかりなんだろう。
「お兄様、例の少年をお呼びいたしましたが……」
「え、もうか?」
「はい。……偶然にも、近くに居りました故」
……そういえば、主人公は10歳の時に沙耶花と出会ってから何度も会おうとしたとか設定にあったな……
「なら、今すぐ連れて来い」
「えっ?」
「俺様が直々に鍛え上げてやる」
「……承知しました……」
沙耶花は弱々しく、俺様の言葉に同意した。
あれか?
俺様が主人公をいたぶるとでも思ってんのか?
「……ただまあ、記憶を取り戻す前の俺様なら間違いなくやってただろうな……ったく、本当に救えねぇ奴だったんだな……」
原作ゲームの俺様は、能力こそ本物だったがプライドが高過ぎた。
主人公の能力が本物だと知った段階で、いくらでも手段はあったろうに……愚かにも敵対を続けやがった。
と、その時……
「お兄様、お通しいたしました……」
「ああ、今行く」
「……どうか、酷い事はなさらないでくださ……」
「言われなくてもしねぇよ……そもそも、俺様が未来の義弟に嫌われる様な事をする理由も……」
「ぎ、義弟でございますか!?」
「だから分かりやすいんだよ!」
もう、さっさと2人をくっ付けるか……
そうして俺様は、主人公を待機させているという部屋に向かった。
なお、ずっと主人公と言っているのは原作ゲームの主人公が名前を自由に決められるタイプであったため、確固たる名前が無いからだ。
「いったい、何て名前なんだか……」
ース~ッ……
「お待たせいたしました……」
沙耶花が襖を開け、俺様は主人公と顔を合わせる。
ちなみに、主人公の見た目は何というか……何処にでも居るモブといった感じの黒髪の少年だった。
ついでに言うと、俺様は髪こそ黒髪だが紫色のメッシュが入っていて、沙耶花は黒の長髪が綺麗な大和撫子といった感じだ。
……それに比べて、本当に主人公は没個性的だな……
「……お前、名は何だ?」
気を取り直し、俺様は主人公に名を問う。
「ぼ、僕の名前ですか?……九十九 空助ですが……」
「九十九 空助か……よし、稽古をつけてやろう!」
「えぇ!?」
原作ゲームの展開を知っているから言えるが、空助を引き入れないのは完全な悪手だ。
そう考えた俺様は、空助に稽古をつける事にした。
……ついでに、妹に相応しい男かどうか見定めてやろうとも思いつつ……
ご読了ありがとうございます。
次回、主人公vs原作ゲーム主人公!
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