19.デートと急襲
新しい敵が出て来ます。
(一条院 宗雪視点)
夏芽からデートに誘われた直後……
「……それで夏芽、デートって何するつもりだ?」
「え、アタイは知らないっすけど?」
「……俺様も知らねぇよ……」
俺様も夏芽もデートに関する予備知識が皆無だったため、デートが始まる前に壁にぶち当たっちまった。
いや、マジでどうすれば……
「い、いやここは……オレが言うのも変だが、夏芽は行きてぇ場所とかねぇのかァ?」
「ないっすね!……強いて言えば、特訓に最適そうな岩山とか激流とかなら行きたいっすけど……」
「それはデートじゃねぇんだよォ!……本当に、夏芽はストイック通り越して特訓馬鹿だなァ……」
桜が言った"特訓馬鹿"という夏芽に対する評価は、案外その通りに聞こえた。
まあ、それはそれとして可愛いんだが……
「……というか、桜は良いのか?……俺様が夏芽と付き合うって事は、桜にとっちゃ……」
「オレが正妻なら、何も文句は言わねぇ。……夏芽も別に正妻じゃなくても良いよなァ?」
「勿論っす!……寧ろ、正妻の桜は今後桜先輩と呼ばせて貰うっす!」
「……何か複雑な気分だなァ……後、紛らわしいから先輩は止めてくれ……」
夏芽はモロに体育会系なテンションで桜を敬い始めたが、当の桜は少し引いていた。
「それで、デートはどうするのが正解っすか?」
「う~ん……カラオケとかショッピングとかが定番なんだが……オレが思うに夏芽はそんなん楽しむタイプじゃないよなァ……」
「そうっすね……あ、ショッピングに関しては新しい筋トレ器具やプロテインを買うためによく行ってるっすけど……」
「どこの世界にデートで筋トレ器具やプロテイン買う馬鹿が居るんだよォ!」
……駄目だ。
夏芽の女子力は壊滅的な上に、本人の性格は脳筋と来やがった……
こんなんで、デートなんて出来やしねぇよ……
「まさか、デートがこんなに大変だとは……俺様、完全に舐めてたぜ……」
「いやいや相棒、今回は夏芽の性格がアレだっただけの話だ。……というか、普通の女子ならデートプランでここまで何の案も出ねぇ事はねぇからなァ?」
「私としても桜お義姉様の言う通りだと考えてございます。……そもそも、夏芽様の思考パターンを女性と同じだとお考えにならない方が宜しいかと……」
「僕としても2人と同じ考えです。……そもそも、二剛院家が脳筋集団だというのは一般家系の人間にすら浸透していますし……」
「もし萌音がデートするなら、もっとマトモな場所でデートをするのだ!……それこそ、さっき言ってたカラオケとかショッピングとか……」
「……ちょっと、流石に酷くないっすか?」
一応、夏芽は呆れた様な表情で返したが、きっと内心ではとんでもなく悩みまくってるんだろうな……
それがまた、俺様の庇護欲を掻き立てた。
……いやまあ、俺様が庇護される側になる可能性も否定はし切れんが……遠距離からなら俺様の方が強いのはまだ覆されてねぇからな。
「さて、それじゃあそろそろデートに向かうか……」
「え、結局どこに行くんすか?」
「そりゃ、夏芽の言った筋トレ器具やプロテインを買いにだが……」
「……相棒、正気かァ!?」
そこまで驚くか?
何か、桜だけじゃなくて横の3人も揃って絶句してやがるが……
「桜も、デートの行き先は好きに言えよ?」
「お、おう……」
「じゃ、行くか」
「行くっす~!」
こうして、俺様と夏芽はショッピングデートに向かった。
もっとも、後ろから桜達4人が尾行して来ていたが、俺様達は気付いていないテイで進んでいったのだった。
そして、十数分後……
「あ、この筋トレ器具新発売っす!」
「お、そうだな」
「こっちの筋トレ器具は割引になってるっす!……これは今が買い時っすかね?」
「いや、割引になってるって事は、何か訳ありの可能性もある。……ここは慎重に、割引になっている理由を調べるべきだ」
「なるほどっす……後、あっちのプロテインは色々と種類があるんすけど、この際1つどうっすか?」
「……いや、それは遠慮させてくれ……」
始まる前はどうなる事かと思っていた夏芽とのデートも、案外何とかなっていた。
勿論、俺様は筋トレ器具やプロテインなんかへの興味は微塵もない。
しかし、それ等を見て楽しんでいる夏芽はとてつもなも可愛くて、やはり未実装とはいえヒロインなのだと実感させられた。
と、このタイミングで夏芽は口を開き……
「宗雪、本当に楽しめてるっすか?」
「ああ、楽しいぞ」
「それは……本当に良かったっす!」
「そうだな」
夏芽は可愛い。
勿論、桜だって好きではあるが、桜の場合は腐れ縁の親友みてぇな距離感なんだよな……
それに対して、夏芽はマジで誰にでも優しく接する陽キャみてぇで……
……本当に、好きになっちまいそうだった。
「ん?……どうしたんすか?」
「いや……夏芽は本当に俺様で良いのか?」
「良いんすよ!……二剛院家は腐っても名家っすし、その上でアタイは当主を継げない女性っすから、ほぼ間違いなく政略結婚の駒にされるっす……」
「夏芽……」
原作ゲームでもそうだったが、基本的に数院九家の当主を継げるのは男性のみで、女性は家同士の繋がりを強めるための政略結婚の駒にされがちだ。
だから、夏芽もいずれはそうなる予定だったんだろうが……
「昔、二剛院家の一部勢力がアタイを宗雪の婚約者にしようとした事があったっすよね?」
「あれ、一部勢力の仕業だったのか……」
「まあ、最終的に宗雪の噂から繋がりを作るのは悪手だと判断して手を引いたっすけど……今思えば、あの時に強引にでも婚約を進めてれば……」
「マジで止めとけ。……あの時の俺様は、本当に噂通りの人間だった。……あの時点で婚約しても、余計に不幸な人生が待ってただけだ」
「そうっすか……」
夏芽の言いたい事も分かるし、俺様としても満更じゃねぇのは確かだ。
でも、どうしても桜に続いて夏芽の人生まで責任を持つ事になるってのは覚悟が要るんだよな……
「じゃあ、気になったの買うっすから、少し待ってて欲しいっす!」
「……分かった」
その後、夏芽は気になった商品を二剛院家の潤沢な財産を使って購入し、二剛院家まで運送する様に手配していたのだった。
そして、一通りデートを終えて店外に出ると……
「……相棒、色々言ってた割には楽しんでやがったなァ~?」
「べ、別に良いだろ!」
案の定待ち受けていた桜にデートを楽しんでいた事を弄られた。
ちなみに、沙耶花、空助、萌音は温かい視線で俺様達を見ていた。
本当に、こいつ等は……
……とまあ、ここまでなら平和な日常だった。
ここまでなら。
「え~、テステステ~ス!」
「ん?」
「ここに、二剛院 夏芽という女子高生は居るケラか~?……居るなら……死んで欲しいケラ」
ーヒュン!ヒュン!ヒュン!
謎の放送が鳴り響き、空から"何か"が飛来した。
「チッ!……【防御結界】、広域展開!」
ーパリパリパリ~ン!
念のため言っておくが、これは俺様の結界が砕けた音じゃねぇ。
寧ろ逆。
空から飛来した"何か"が砕けた音だ。
「ケラ!?……津螺、何をしてるケラ!」
「暑い……辛い……えぇ?……私の攻撃は何者かに防がれましたツラ……辛いですツラ~」
「怪良、今は津螺を責めてる場合じゃないフラ!……次の攻撃の準備を……」
「だったら訃羅がどうにかするケラ!」
その場に響く謎の放送。
だが、聞こえて来る声の語尾は原作ゲームで見覚えがあった。
「まさか、ここで三官女が来るとはな……」
三官女……それは原作ゲームに登場した中ボス3人組で、立ち位置としては八妖将の一角、白面金毛九尾の狐である美乱御前に仕える世話係みてぇな奴等だ。
ちなみにメンバーは、
・しょうけら 怪良
・つらら女 津螺
・文車妖妃 訃羅
という3体で、全員女性という特徴がある。
「それなら……死獄童子様に貸していただいたコイツを使うフラ!」
ードゴォォォォォォン!
「ンモォォォォォ!」
「あれは……牛鬼!?」
突然現れた三官女と牛鬼……
俺様達の楽しいデートは、一瞬で妖退治へと変わってしまったのだった……
ご読了ありがとうございます。
河濫沱の前に、ちょっとした試練を追加します。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




