第9話_実践
翌日になって、プレゼントした着物についての説明
をした
「その着物、ユリはな、お主の髪の毛から作られて
いるのじゃ
だからちょっとやそっとでは傷はつかないし、汚れ
もしないし、魔気力も本人の一部だったものだから
きっと通しやすいはずじゃ
あとはほとんどの状態異常を防いでいくれるのじゃ
例えば毒や、麻痺じゃな
デザインはわしの趣味じゃ!」
「ほんとだ、すぐにちからがとおる!
すごいすごい!」
ステラは早速、魔気力を遠し服の具合を確かめた
すんなり通っていくその力はより一層強くなっている
ように見える
本人の力を倍増しているようだった
服の効果によってさらに2倍の強さを手に入れて
しまったらしい
そんな機能付けたっけかの?
「木刀は背中側の帯に差し込めるようになっている
のじゃ
差してみるとよいぞ」
手に持っていた木刀を帯へと差し込む
その姿は実に凛々しくかっこよく見えた
(よし、想定以上の格好良さじゃ!)
ぐっっと老人はガッツポーズした
「それじゃ今日は出かけるとしようかの」
「じゃあ、すてらはいつもどおりしゅぎょうしてる
のです」
「いや、今日は二人でお出かけじゃ」
そういうと、ステラは目を見開いた
「ふたりで、おでかけ、おでかけ、やったー!」
今までは二人で出かけることはなかった
マクスウェルが出かける時は結界の外にでて食料を
確保する時で魔物と戦う時だけだからである
ステラと一緒だとリスクが高いと思っていたため
いつもは一人で出かけていた
しかし今回は実戦をするために二人で結界を出ること
となる
「それではいくかの」
家をでてまずは結界を発生させている結晶へと
向かった
ステラはいつも以上に嬉しそうである
それもそのはず、魔法の練習で遠出するとき以外は
一度も家の周りから出たことがないのだ
始めての冒険に彼女はわくわくしていた
道中マクスウェルはこれから何をするかをざっくり
とステラに教え込んだ
何回も言い聞かせたのは魔物の脅威についてである
自分の手に負えない場合は必ず逃げることを教え
込んだ
ただ、嬉しさのあまり本人の頭には届いているか
わからないが
そうこうしているうちに森にたどり着き、二人は
一個目の魔力結晶まで到着した
「これが魔力結晶じゃ、これを取り除くと結界が
消えるようになっておる
結界の外に出たら元に戻すと結界が復活する
仕組みじゃ」
そう説明を加えつつ、最後の結晶までたどり着き、
いよいよ全ての結界から出ることができた
「ここからはいつ魔物が襲ってきてもおかしくはない
気を引き締めていくのじゃぞ」
それからしばらく二人は森の中を歩いた
1キロ程度歩った頃だろうか、一匹の狼を発見した
「あれはデスウォルフじゃな」
息を潜めながらマクスウェルが敵の詳細について説明
をする
「やつの牙にかまれると相手を一撃で殺す能力がある
噛みつかれなければどうということはないが、
なかなか速い魔物じゃ」
「たたかっていいの?」
「そうじゃな、そこまで力はないから噛みつかれても
牙が届くことはないじゃろう
最初にはちょうど良い相手かもしれん」
そういうと、ステラは息を潜めつつ魔気力でバレない
ように自分の周りの空間を操作しつつデスウォルフへ
と向かう
そうすることで自分から出ている力をだいたいは消す
ことが可能だ
しかし、相手は野生の獣
近づく時の葉の音や、足音でこちらを感知してきた
敵がこちらを向いている
そして
ウォオオオオオオン!!
と遠吠えを放った
「おそらく、仲間を呼んだのぉ
多対1、どう防ぐか」
後方から老人は魔力を高め、いつでもステラの助太刀
をできるように構えている
ステラは遠吠えと同時に、手に火炎球を作り始める
色は赤から青へと変わり、炎の温度がどんどん上昇
していくのがわかる
その状態のまま、少し待つ
すると辺りからは違うデスウォルフが4匹現れた
「ぜんぶで5ひき」
グルル、グルルと敵はうなりながら距離を詰めてくる
ステラが一歩前に踏み込んだ瞬間、デスウォルフは
一斉に飛びかかってきた
この森ではそれなりのスピードを持つデスウォルフ
だが
ステラにとっては止まって見えていた
それもそのはず、そもそも彼女自身がそれよりも
遥かに速いスピードで動けるのだ
彼女は作りだした炎を頭上へと掲げる
それを一気に圧縮してつぶし、炎を分散させた
ちょうど5等分に分散して飛び散った炎はそれぞれの
デスウォルフへと向かっていく
そして同時に
ドオオオオオン!
と爆発した
直撃である
ドサッ、ドサッとデスウォルフは地面へと叩き落と
され黒こげになっている
確実に直撃したのを確認してはいたが、彼女は気を
緩めない
これもマクスウェルの教えの賜物である
それから木刀を抜き、勢い良く地面を踏み込んで
倒れた犬に接近する
そして、躊躇なく首を切断し、胴体と頭を分離させた
「つぎ!つぎ!つぎ!」
と一匹ずつ確実に仕留めていく
これもマクスウェルの教えである
魔法で相手が仕留められているかわからない時は
確実に相手が絶命する方法で仕留めること
修行中に何度も言われたことだった
5匹とも首を跳ね飛ばし、確実に仕留めたのを確認
したステラは師匠のところへと戻る
「どうでしたか?」
「完璧じゃ!、見事じゃった、始めての実戦としては
申し分ないのぉ」
そういいながら頭をぐしゃぐしゃと撫でる
「よかったぁー」
ステラは安堵の溜息をついた
マクスウェルは魔物の死体へ向かうと
小刀で腹を捌いて心臓を取り出した
そしてそれを斬り裂くと、小さい宝石を取り出す
その取り出した宝石をステラへ見せた
「この宝石が魔力を貯めている魔石じゃ
この石はどんな生物も持っておる、わしでもお主
でもの
そしてこれが割りと良い値段になるのじゃ」
ステラは魔石を見るのは始めてだった
「わぁ、きれい」
「魔物を倒したらこれを回収しておくと良いぞ
お金になるからの」
「お金?」
「ここでの暮らしでは必要にはならぬが
他の町や村に行った時にはお金が必要になるのじゃ」
そうなんだ、とステラは良くわかってなさそうだった
余った魔物をを横目に
「こいつらは食べても上手くはないからのー、
もうちょっと食べれそうなやつを探すかの」
そういって、また二人は歩き出す
それからしばらく歩いたが森は静かなものだった
中々魔物が現れず、二人は森が開けた川までたどり
着いた
「この森も相当広いからの
魔物と出くわすのも一苦労じゃわ」
二人は腰をおろし、河原で少し休憩をとった
「ところでどうじゃ、その服は動くのに問題は
ないかの?」
着物を作っていて一番の気がかりだったのだが、
動きにくいかの問題だった
「すごくうごきやすいよ!うごくときにね、かってに
ふくがよけてくれるの」
うちの子がまた何言っているのか分からなかった
おそらく、魔気力を通して、自分の一部分になってい
るからさほど邪魔にはならないということであろうか
「そうかなら良かった
作った甲斐があったというものじゃ」
雑談をしているしとばらくして一匹の魔物が現れた
ズシンッ!
と重い足音を立てる
それは5m程にもなるであろうか、一匹の熊だった
毛は白金色に輝き、美しさを感じさせる
「あれは・・・カムイじゃ!」
カムイはこちらを見るが、河へと向かい水を飲み
始める
「おししょうさま、あれもやるのですか?」
「あれは、わしの手にはおえん
生半可な魔法じゃ通用しないのじゃ
やるには、それなりの魔力を使わなければならんし
勝てるかもわからん」
そんなことを言うマクスウェルに
「ちょっとやってみてもいい?」
とステラは戦う姿勢だった
ステラは立ち上がり、熊へと体面して木刀を構え、
魔気力を通し始める
それに気づいたのか、カムイもこちらを向き、姿勢
を変え牙と爪をむき出しにし、四つん這いとなって
臨戦体制をとっているようだ
先に動いたのはステラだった
ステラの体はフッと消え、熊の足元まで一気に距離
を詰める
その動きを熊も捉えていた
恐ろしい程のスピード、普通では見えないであろう
スピードにカムイは余裕でついてきた
ステラは気にせず木刀を一閃する
それと同時に、熊は左腕を出し防御の構えだ
バシィィンッ!
木刀と左腕がぶつかり激しい音を立てる
だが、熊はびくともしない
熊は防御すると今度は右腕を振り下してきた
右手からは鋭い爪が出ており、当たったらステラと
言えどダメージを負うかもしれない
しかし、熊の攻撃はステラにかすりもしなかった
彼女はぴょんぴょんとバックステップしてこちらに
戻ってきた
「すごい、すごい!あのくますごいよ
おししょうさま」
攻撃を止められて逆に喜んでいる
(全く、こやつは・・・はぁ)
心の中で溜息をついた
こっちは冷や冷やさせられているというのに
「つぎは、これでいってみよう」
ステラは右手を前に翳し、火球を作り上げる
火球は周りから空気を吸い込み赤から青へと徐々に
色が変わっていく
しかし、まだ止めない
さらにさらに、空気を取り込み熱量をも圧縮していく
徐々に火球は白へと色を変えた
そして
「いっくよー!」
ボウッっと火球は手から飛び出し、まっすぐ熊へと
向かっていく
熊は腕を持ち上げクロスさせるよな形で防御体制を
とった
ドォオオオオオンッ!!
すさまじい爆風がこちらまで飛んでくる
爆風の熱がマクスウェルの髪の毛をチリチリと
焦がした
熊はというと
煙の中から腕をクロスさせた状態で佇んていた
しかし、防御していた腕の毛は無くなっていた
「あれほどの魔法を食らっても毛しか無くならない
とはのぉ」
マクスウェルは驚嘆している
「これでもだめかぁ、すごいなぁ」
これなら通用するという自信がステラにはあったの
だろう
しかし、熊は健在だった
「ふぅ、もうちょっと、つよくいくよー!」
ステラはさらに魔気力を高めていく
マクスウェルの2倍は魔力を使っているだろうか
そして2度目の突進をした
スピードは先ほどと変わらず、一瞬で熊との距離を
詰める
そして、同様に木刀を一閃する
熊も腕でガードする
しかし、先ほどと同様には行かなかった
ドゴンッ!
鈍い音が熊へと伝わり、先ほどはびくともしなかった
腕を今度は思いっきり吹き飛ばす
吹き飛ばすと同時に加速が載っている体を空中で
一回転させて左足で熊の左胴体に回し蹴りを放つ
ドンッ!
と思いっきり蹴られた熊は5mもあるだろう巨体が宙を
浮き河の中へと吹き飛ばされてしまった
熊は左腕が折れてしまったのであろう
だらんと垂らしながらステラを見つめると
翻して河の向こう側へと逃げていった
「あー、にげたー!!」
プクゥーっと顔を膨らませて、これからだったのに!
と残念そうにしていた
(あのカムイと渡り合って、余裕とはのぉ、どこまで
強くなるのか)
こうしてステラとカムイの一戦はカムイの逃走という
形で終わってしまった
始めての実戦でカムイと出くわせたことは以外と幸運
だったであろう
あの熊を圧倒できるのであれば、この森でステラが
苦戦する敵はいないのではないだろうか
底は見れないもののステラの実力が通用するかどうか
十分に得られた日となったのだった