第8話_衣装作成
マクスウェルの家は王都や小さな町、村から大きく
外れて遥か東の彼方、山をいくつか超えた先の深い
森の中にある
誰にも邪魔されず、どれだけ大きな魔法を放っても
問題がない場所を選んだ際の結果だ
人は誰も近寄らず、森の中や辺りの山には強力な
魔物ばかりが住みついている
そのため人々からは死の山とか死の森とか言われて
いるのだ
そんな森の中にマクスウェルは大きな結界を張った
決して魔物が侵入できないように直径数キロはある
だろう結界を3枚張っている
1枚目は近づけさせないための進行方向を迷わせる
結界
2枚目が触るだけで様々な状態異常を引き起こす結界
3枚目は近づいたはいいが、振れた瞬間に違う場所に
転移される結界
これらを魔力結晶を複数個所に設置することで実現
した
だからこそ家の周りに魔物は現れることはないし、
ステラもここまで
危険に晒されることなく生活をすることができたのだ
結界を突破するのはなかなか用意ではない
突破するには、設置した魔力結晶をみつけて一つ
ずつ壊すしかないだろう
本人にもそれ以外は思い浮かばない
ステラをを安全に育てるためのマクスウェルなりの
措置だった
しかし、成長を重ねるステラには次のステップとして
実戦経験が必要であろうと考えた
その実践というのが魔物との戦闘である
マクスウェルは悩んだ
魔物の種類も全て把握しているわけではないため
どういう攻撃を仕掛けてくるかもわからない
なにより、ステラはまだまだ子供だ
好奇心に狩られてこちらも何をしでかすかわからない
(せめてもう少し安心材料があればのう)
いい考えが思いつかず結局、1ヶ月の間悩んで
しまった
そしてようやく思いついたのが、ステラの防御面を
上げることだった
ステラは魔気力を常に纏っているためほとんどの
攻撃は無効化できるだろう
しかし、特殊な攻撃、例えば匂いとか、視覚とかを
つかれるとあまり意味をなさない
そこで考えたのが状態異常からも守れるような服の
開発だ
これさえあれば、安心材料も増えるというもの
善は急げと言わんばかりにステラに合う衣装開発を
行い始める
実はステラに来てほしい服はすでに決まっていた
この森に来る途中に合った町でたまたま見かけた衣装
絶対にこれは似合う!と思っていた衣装があった
それは『着物』であった
上品且つ可愛いし、綺麗な衣装である
材料と道具は一通り揃えてあった
(ほとんど自分で作ったものだが)
いよいよマクスウェルの念願を叶える時がきたので
あった
こうして彼最大の戦いである着物作りが始まったの
である
今回主に本体の布として使用していくのはステラの
髪の毛である
非常に滑らかで、さらさらとやわらかく、しかし
切ることが用意でない点からこれを使うことを
考えていた
また、基が自分の部位であったものなら魔気力を
通しやすいであろうとも考えた
まずはこれで布を作ることができるのかに挑戦しな
ければならない
これまでに回収したステラの髪の毛は大量にある
何回か失敗しても問題はないだろう
そんな布にする研究は難航した
まず、普通に編んだのでは髪の毛が毛羽立ってしまい、
ちくちくして肌が痛い
じゃあ、毛を溶かしてみてはどうかと考えやってみた
が、ドロドロに溶けてしまい
もとの滑らかさやしなやかさは失われしまう
いろいろ実験してたどり着いたのが、髪の毛同士を
魔法で一体化させくっつける方法だった
これだと基の材料にそこまで影響を与えることなく
一つの物体にすることができる
そして全ての髪の毛がひとまとまりの白い毛玉へと
姿を変えた
丸く一つにまとまった髪の毛を今度は圧力をかける
ことで平に引き延ばしていく
ステラの髪の毛はもともと強靭であったため、伸ばす
のに何日も掛かってしまった
しかし、ようやく白い毛玉から一枚の布が完成した
長かった、ここまで作るのにおおよそ1ヶ月
次は状態異常を受けても問題ないような細工を
しなければならないが、もともとそういった知識は
持っていたため、そこまで苦労はしなかった
一枚の布を3等分してそのうちの一つに、状態異常
に掛からないための材料を投入していく
これも一体化させる手法で、布にどんどん織り交ぜ
ていく
全てを織り交ぜ終わったときには布の色は黒色に
変色していた
いろいろな色をもった材料を混ぜ合わせたからで
あろう
真っ白だった布は着色されて最終的には黒になった
もともと本人がまぶしいくらいに白色なので、側に
纏うものは黒でも相性は悪くないと思っていた
本体の材料はこれで完成である
後は黒だけだと味気がないので
赤や、白、ある程度使いそうな色になるように材料を
投入し、何色かの布を作成した
布が作り終わりここからが本番の形にしていく作業
になる
糸にはこちらも着色したステラの髪の毛を使用する
デザインとしては、襟元は広めに、袖は広め、丈の
長さは膝より少し短めで作っていく
丈が短いのは、動く時に邪魔になってしまうからだ
けっして男を誘惑するような感じで作るわけではない
装飾としては赤を多めに使い、帯は一人で結ぶのが
大変であろうから、結び目を横に持ってきても違和感
がないように結んだ後の色を赤色にした
そうして決まったデザインをもとに縫っては広げ確認
し、縫っては広げて確認しを繰り返した
彼は決して器用な方ではないが、娘のためならと思い
一生懸命頑張った
そんな努力も報われ、さらに1ヶ月の時をへて、
ステラ専用の着物は完成したのである
他にも膝上まであるソックス型の足袋や動いても問題
が無いようににブーツを用意した
(もともとは実戦を積ませるための服だったのだが
思わず自分の趣味と合わせて熱を入れ込みすぎて
しまったわい)
作り始めてから2ヶ月程度、そろそろステラの7歳の
誕生日ということもあり誕生日プレゼントとして
渡すことにした
完成した服を見ながら、我ながら良いできじゃと
独り言をいいつつ渡すのを楽しみにする老人なの
であった
それからしばらくして、ステラの誕生日がやってきた
老人は一人わくわくしている
夜になってご馳走を食べ終えた後
「ステラよ、実はささやかではあるがプレゼントが
あるのじゃ」
「ぷれぜんと?」
そしてマクスウェルは着物一式を取り出す
「これじゃ!」
ばーんっと着物を見せるとステラは
「わぁー、すごくきれい!これくれるの?!」
「そうじゃ、ステラもそろそろ立派な女の子じゃ
それにちゃんとした戦闘衣装も必要じゃと思ってな
着てくれるか?」
「着る!着るー!、ありがとう、おししょうさま」
そういって飛びついてきた
それからステラに着物を着付けてやる
一人でも着れるような作りにしてあるが、最初は自分
で着させてやりたかった
そして着付けが終わるとそこには可憐な美少女が一人
立っている
黒を基調として、赤色の装飾が生える
着ている本人の肌や髪の毛は白いため、それがより
一層際立たせているようだ
「わぁ、すごくかわいい!」
くるくるとステラは腕を広げて回転する
ひらひらと踊るように着物が舞、まるで妖精のようで
あった
老人はその姿をみて一人感極まった
ここまで生きてきて良かった!と
「ねぇねぇ!おししょうさま、このふくのなまえは
なんていうの?」
「名前かぁ、名前は決めてなかったのぉ
そうじゃな、付けるなら
『常闇のユリ』
なんてどうじゃ、黒と赤、永遠に続く闇のように
黒く、その闇に咲く花はユリの花のように赤い
という意味合いじゃ」
「とこやみのゆり?ゆり、じゃあゆりちゃんだね」
そういうと、ステラはその着物にユリと名前を付ける
のだった
その着物をすごく気に入ったのかしばらくくるくる回
っては眺め、回っては眺めを繰り返していた
(可愛い、可愛すぎる!わしはきっとこの瞬間のため
に生まれてきたのじゃ!)
老人はもともとの目的を全て忘れて、ステラに夢中に
なっていた