第5話_魔力と気力
マクスウェルは1週間程して目を覚ました
部屋を出てリビングへと行く途中、汚れていた床は
ぴかぴかの床へと変貌を遂げていた
「???」
リビングにつくとそこも今まで以上にぴかぴかに
なっている
血で汚れていたソファも汚れがしっかりと無く
なっていた
「これは・・・・」
久々に起きた頭のせいか思考が全く追いつかない
そこでぼぉーっと辺りを見回していると
「おししょうさま!!!」
とステラが勢い良く走ってきて飛びついてきた
頭を胴体にぐりぐりと押し付けながら
「おししょうさま!おししょうさまぁああ!!」
うわぁああん、とステラは声を出して泣きだした
「おおお、お、おう、ステラ」
少したじろいでしまったが、そんな姿を見て
マクスウェルも頭を撫でてやる
「悪かったのぉ、寂しかったのぉ」
と
ステラもしばらくして、頭をぐりぐりするのを
止めてくれた
「これは、ステラがやってくれたのかの?」
マクスウェルは先ほどからの疑問をステラへと
問いかける
すると
「がんばりました!!」
ステラはグッと手を握り締めポーズを取った
マクスウェルはそんな少女を見て
(まだ、3歳?じゃよな・・・・)
と唖然とした
しかも、テーブルにはうまくできたとは言えないが
ステラが作ったのであろう目玉焼きが置かれていた
しかも二つ分
きっと彼がいつでも起きてきてもいいように作って
くれていたのであろう
しかし、そんな娘の所業をみて思わず涙が溢れてきて
しまう
「ありがとうのう、ありがとう」
感情の方が上回り、考えていたことが吹き飛んで
しまった
年よりとは涙腺がもろいものなのだ
それから作ってくれた朝食を食べ、ソファで共にお茶
を飲んでいる時に気が付いた
ステラが前よりも二回り近く大きくなっていることに、
実際にはそう見えるだけかも?
「ステラ、ちょっとよいかの?」
ぽんぽんと自分の膝を叩き、こっちに来るように促す
ステラはお茶をテーブルにおき、ぴょんと膝の上に
載ってきた
「なんでしょう、おししょうさま」
にこにこと笑顔で見上げてくる
(あ~まるで天使じゃ)
ぶんぶんと頭を振り
「少し確かめたいことがあるのじゃ」
といいつつ、手をステラのお腹に当てる
そして自分の魔力を注ぎこみ、体中を巡らせていく
(むむむ)
そこでやはりというべきか、まさかというべきか
流し込んでいく魔力をいつもなら簡単に同調できる
ようになっていたのが今では中々に難しい
別の波長をもった何かに追い出されそうになっている
「ステラよ、わしが眠っている間になにかおかしな
変化はあったかの?」
ステラは首を傾げながら???を浮かべている
そして
「からだがよわかったので、つよくしてみようと、
がんばりました!」
グッと手を握る
(体を強くしようとした?ということはやはりこれは
魔力ではないのぉ)
単に魔力の問題なのであればマクスウェルにできない
ことはない
しかし、ステラがいうには体を強くしようと自分で
頑張って見たということなのだろう
魔力じゃないとするのであれば、『気力』のほうで
ある可能性が高いとマクスウェルは考えた
気力とは地方で呼び方は異なるがオーラだったり闘気
だったり、チャクラだったりの総称のことである
魔力も気力も世の中で生きているものであれば全ての
ものが扱うことが可能だ
魔物でも動物でも人でも誰でも
しかし、向き不向きがあるため大抵は自分の得意そう
な方を伸ばすのである
マクスウェルも使うことは可能だが魔法の方が得意で
あるため
気力についてはそこまで必要でもないし、極めよう
とも思っていなかった分野だ
また、気力の方が強い場合、魔力の流れを阻害して
しまうというデメリットもある
今まさに魔力同調を行った際に魔力が押し戻されたの
がいい例であろう
その押し戻しが体の内部で発生してしまい外部に
うまいこと放出できなくなってしまうのである
しかし、ステラにとっては命の問題に関わってくる
莫大な魔力を手に入れてしまったがために、外側の器
の方が壊れ掛かっているからだ
(本能で感じとったのかの、確かに今のまま気力を
増加させて行けば、大量の魔力を保有していも
そう簡単に体が根を上げることはあるまい)
気力が強ければ強い程、体が活性化していきどんどん
頑丈になっていく
魔力はいろいろと変化させて応用が効くが、気力は
単純に上げれば上げる程強くなるのだ
魔法でも身体の強化は可能だが、それとは比較に
ならない程の強化をすることができる
達人ともなれば、己の体だけでなく物体さえも強化
することが可能になるほどだ
「魔力の方は問題なく使えそうかの?」
デメリットのことも含めてマクスウェルはステラに
質問した
「まりょくとなにかちがうの?」
マクスウェルは話が難しいだろうからと説明すること
を省いたが、簡単な言い回しにした後にステラに
話した
しかし、ステラは少し困ったような顔で言う
「どっちもまざってるからおなじだよ?」
それを聞いてマクスウェルも頭に??しか浮かばない
どういうことなのだろうか
そう考えているとステラはお茶の入ったコップを手に
取った
そしてそこに手を翳し、魔法で水を作り注ぎ込む
マクスウェルは魔力の流れを注視した
すると魔力だけではない、気力だけでもない、二つが
重なりあって混ざって一つの力になっている
「うそっ、じゃろ」
そもそも相容れない二つの要素
絶対に混ざり合うことがないと言われてきた二つの
力である
しかし、目の前にはそんな二つが奇跡的に折り重なり、
一つの力として還元されているのが見えてしまった
しかも唐突にステラは魔法から水を作って見せた
まだ教えてすらもいないはずなのに
何が起こっているのか情報量が多くマクスウェルは
気が動転してしまう
「えへへ、おししょうさまのまねー」
(そうか、子供だからわしのすることなすことを全て
見て、覚えておるのだな
ひな鳥は母鳥の空を飛ぶ姿をみて覚えるように)
「しかし、どうやって体を強くしたのじゃ?」
素朴な疑問だった
そんな簡単に体を強くするような方法はなかったと
思う
いかに大賢者であるマクスウェルでも知らなかった
「うーんとね、うちがわをこわしてもとにもどすの!」
うちの子が何を言ってるのかがわからない
そしてとんでもないことを言っているような気もする
「それは痛くはないのかの?」
「そんなにいたくないよ?」
痛いことには痛いらしい
しかし以前のように血だらけになっている分けでも
なさそうなため
それ以上追及することは止めるのだった
おそらくだが、血だらけになった後の回復で体が強化
されたことからきっかけを得たのだろう
「そうか、ならいいのじゃが」
えへへーとステラは満面の笑顔でマクスウェルを見上
げている
見上げてくる笑顔がまぶしすぎる
頭をぐりぐりと押し付けてくるもんだから、精一杯
なでなでをしてあげた
(これだけ元気であれば問題はない・・・か
しかし、この力は解析していかねばならんな)
マクスウェルはそんな力に魔気力と名付けてみた
そして、そんな新たな研究対象に情熱を燃やし始めた
のであった
それから二人とも体を療養しながらしばらくの間を
過ごし、クスウェルは67歳、ステラは4歳になろう
としていた
ステラは毎日元気に過ごしていた
元気すぎて、年老いたマクスウェルでは相手をするの
が大変になってきた
あれからステラはマクスウェルに迷惑を掛けたことを
気に病んでいるのか
毎日体を強くするために、壊しては治しを繰り返して
いるらしい
最近では魔力が溜まっても気力が外側をカバーしてい
るためだろうか体が光らなくなっていた
彼には無茶をしないように常に見守ることしかでき
なかった
しかし、泣きわめくだの、血が出るだのとかは得に
なかったため問題はないようだ
最近では庭を走り回っている姿が見受けられる
先日驚いたのは走り回っているステラが転んだ時の
ことだ
泣くかなぁーと眺めていたマクスウェルは、起き
上がったステラを見て驚いた
体に傷が一つもついていないのである
服は汚れはしているものの、転んですりむきそうな
膝や腕には一切の傷がない
毎日魔力増加や、気力増加をやっているために、
それしきのことは傷つくことがない体へと作り変え
られているようだ
「いやいや、ありえんじゃろ・・・」
だが、今までのことを振り返るとその程度のことなら
起きても不思議ではないか
と彼の認識も次第にずれ始めてきていた
(あの子は将来どういう子に育つのだろうなぁ
おしとやかに育って欲しいなぁ)
そんなステラを見つつ、こうなって欲しいなぁとか、
ああなって欲しいなぁとか
いろいろと感慨にふけるようになってきた老人なので
あった