第46話_世界
私達には訓練が終わってからもやることがいっぱい
である
宿屋の修理にルナの勉強、無くなったマナの補給
ただ実技の訓練が森により近い場所になったので
そこにいるだけで少しは多く補給できるように
なったからありがたかった
そして私には他にもかなり気になるところがある
それは目の前で一生懸命勉強しているルナのことだ
今日一日ルナを遠巻きに見ていたが、私以外には
余りにも態度が悪い
いや、いつも通り何だろうけど
他の訓練生もルナには余り近づこうとはしないし、
最後の方にはクラウスさえも少し距離を置いている
ように見えた
「ルナさー」
「なんですか、主様
勉強ならちゃんとしてますよ」
「いや、それは偉いから続けてね
そうじゃなくて、今日一日見てたんだけどね」
「ルナのことをですか?」
なんかちょっと嬉しそうだな
いちいちしおらしくならなくていいんだけど
「そうなんだけど
もうちょっと周りに気を使った方が良いと思うん
だけど、無理?」
ピシッ!
「・・・どうしてですか?
あんな訓練ではルナに覚えることは何もないですよ
そもそも主様が違う方に行くのが悪いんじゃない
ですか」
一瞬にして不機嫌になった・・・
なんとなく理由はわかっていたけど、
やっぱり私のせいか
「それは私がいたら何も変わらないからだよ
ルナはさ、人間が嫌い?」
「???
そんなことはないですけど?」
「私はね、ルナに皆と仲良くなって欲しい
嫌われて欲しくないのね」
「ルナは主様さえいればそれで良いです」
でも私がいなくなったら?
ハデスの時みたいになって次に死んじゃったら?
ルナは一人ぼっちになってしまう
「じゃあ、私がルナのこと嫌いって言ったら?」
ズガーンッ!
その言葉を聞いた瞬間ルナの体に衝撃が走った
全ての動きが止まり、目が虚ろになり始めぶつぶつ
呟き始める
「嫌い、ははは、主様が私のこと・・・嫌い?
無理無理無理無理無理無理」
いや、怖いよ
「嫌、でしょ?
私がルナを好きなように、ルナが私を好きなように
他の人も好きになってみて」
ルナの隣に座って頭を撫でる
「・・・頑張ってみます」
「うん、えらいえらい」
あまりにもショックだったのか、それからは口数が
かなり減ってしまったが、何か考えているようには
見えた
きっと明日からは大丈夫だろう、たぶん
それはそれとして、字・・汚いな・・・
ハンターとは魔物を狩る集団であり、各町にはギルド
という取りまとめるための施設がある
魔物から取れる素材を売ったり、魔石を売ったりする
ことでお金を集め生活をするのが基本だ
そんなハンターにもランク付けがされており、
☆の個数で評価されている
現状一番多い☆の数で7個とされており、世界でも
100人いるかいないかだそうだ
☆の数が減れば減るほど、人数は増えていくが弱くも
なっていく
そしてどんな者でもライセンスは一つ星から始まり、
魔物の討伐数や依頼をこなした量によってランクが
上がっていくようだ
バジル―ルの講義はハンターのランクがどういった
内容なのかについてだった
「良いかお前たち、この世界には絶対に手を出しちゃ
いけないやつってのが存在する」
私の隣ではうんうんとエリスが頷いている
他の訓練生達も皆がわかっている様子で、わかって
いないのは私とルナだけのようだった
「ん?そこの二人はわかっていないのか
エリス、説明をしてやってくれ」
「え?私?
いいですけど」
エリスは席から立ち上がって、私たちの方を向いた
「さっきランクの話はあったと思うけど、あれは
あくまでハンターだけの話なんだよ
実際の強さだけでいったら最大の七つ星を超える
人たちが世界にはいるんだ
そしてそういう人たちは大抵『王』という名が
与えられてる
だから王って名前の付いた人には絶対に手を出し
ちゃいけないんだ」
エリスはいつになく真剣な表情だ
それほど誰もが知っていることで注意すべきこと
なのだろう
「そうだ、あとエリスの補足にはなるが、その王の
中でも飛びぬけた7人の王、セブンクラウンズって
のが存在する
精霊王、竜王、魔王、海王、獣王、人王、夜王
呼びあげた方から第1位~第7位だ
そしてこれらは各種族の王でもある
いいか、ハンターを長く続けていくなら、絶対に
手を出すんじゃないぞ
特にそこの二人!」
なぜか、私達を指さして注意してくる
いくら何でも酷くはないだろうか
そもそも王ぐらい知ってるよ!
本とかでしか知らないけど
「あまり一般的なことは知らないようだからな
今のうちに注意しといてやる」
あれ、でも待てよ
ハデスって最初なんて言ってたっけ?
なんかそれに近しいことを言っていたような気が・・・
私は森の中での戦闘を思い出す
確かあの時
森の中に散乱する調理器具、そこに佇みモノクルを
光らせるおじさん
「それでは改めまして自己紹介を
私は元魔王直属護衛軍第7位『冥王-ハデス』と
申します
以後お見知りおきを」
あああああああああああああああああ!!
ハデスって、ハデスって!
冥王・・・王じゃん!
流石に時すでに手を出した後ですなんて言えないし、
墓場まで持っていくしかない
顔を引きつらせながらそう思うのであった
「ところで、その王と名の付いた人を倒した場合は
どうなるんですか?」
やってしまっている手前ここは聞いておかなければ
ならない
もしかして見つかったりしたら、捕まって牢屋に入れ
られるかもしれない
「ははは、そうだな、普通は捕まるだろうな
だいたいそういう人って貴族とか身分が高い地位の
人が多いからね
あと、王がいなくなったことを精霊王だけは知る
ことができるみたいだよ、詳しくはわからないけど」
つまりやった人まではわからないから、やったのが
バレていなければ大丈夫っぽい?
一先ずは安心しといていいのかなー?
「そもそも、そんな簡単に会えるような人達でも
ないからね、ただ気を付けてはおくんだ」
よしっ、これからは関わらないようにしよう!
それからは王に関わる話、そこに付随して世界情勢
の話が簡単にだが説明された
知らないのは私たち二人だけだったが・・・
前魔王軍と他の種族とが戦争をした結果、この世界は
一度滅びかけたらしい
大地は荒れ、森は無くなり、おそらく世界樹であろう
マナの木も何本か折られたのだろう
ただ、なんで魔王がそんなことをしたのかは誰も
知らないようだった
元々魔王は戦争をするような人物では無かったらしい
が、ある時を堺におかしくなったのだとか
それまでは種族間での領土を巡る小さな戦いはあり
はしたが、大規模なものは数千年の歴史の中では
初めてのことだったようだ
一説によると精霊王の隠し事が魔王にバレたから
という説が浮上したららしいが、真相は闇の中である
しかしそんな戦争も各種族から一番強いだろう戦士達
が集まり前魔王を打ち取ったことで、終結した
それをきっかけに元々バラバラだった種族をまとめ
上げ、当時一番強かった精霊王がセブンクラウンズを
発足させた
それももう数百年も前の話になるらしいが、
それからは各種族によって均衡が保たれるようになり、
現在の平和が形成されているようだ
「じゃあ、今日はここまでー
午後は外だからな、時間までに集まってるように」
そう言い残しバジル―ルは部屋から出ていった
長々と講義を聞くのは私でもちょっと辛いものがある
部屋の中で聞いていた大部分の訓練生がぐったり
とした様子で机に突っ伏しており、ルナにとっても
それは例外ではない
訓練生の中には過去に何回かライセンスの試験を
受けて落ちた者もいるため、同じ話を聞いている者
もいるだろう
「ああーー、終わったー」
エリスもくたくたのようだ
「ステラちゃんはタフだねー
こんなの毎日やってたら死んじゃうよー」
「そんなことないですよ
正直辛いです、眠いし」
っていうか、子供が聞くような話でもないんだよね
本当は・・・皆慣れちゃったんだろうけど
そんなことを思っていると
ガタッと隣で突っ伏していたルナが立ち上がって、
クラウスが座る机の前まで行き、そこで立ち止まった
「あの、クラウスさん
今日の午後もまたよろしくお願いします」
ルナの目はクラウスの目をしっかりと捕まえて
逃がさない
クラウスもエリスも私でさえも目を丸くしてきょとん
としてしまう
そして何とか言葉を発することができたクラウスだが
「お、おう、任せとけ」
とまたぶっきらぼうな返事になってしまっていた
しかし、ルナがこんなに早く行動に移してくるとは
正直思っても見なかった
ただそんな二人のやり取りを見ていると
どうしてこうなったかのいきさつを知っている私は
徐々に笑いが堪えきれずに漏れ出してしまう
「クッ、ククッ、クククッ」
クラウスは次第に顔が赤くなり思考が完全に停止して、
目が宙を彷徨い始めた
エリスはルナと私の顔を交互に見つつ、何かあったな
と不信な顔つきをしている
私は未だに笑いが止まらず、押し殺すのが精一杯
だが、ルナはそんな私を許しはしなかった
今度は私の目の前まで立ち止まり、冷たい目線を
向けたと思ったら
ドゴンッ!
と頭にチョップを食らわせて来たのだった