第45話_詠唱魔法
午後からは郊外での実技訓練だ
ギルドの訓練場は修理するのにまだまだ掛かるらしく
私のこともあってか、広い安全地帯で行われることに
なった
ただ郊外なので時折魔物が襲ってくることもあるそう
だが、それも訓練の一環となるだろうとのことだった
「クラウスさん、またルナのことお願いしますね」
私がそういうとクラウスはどぎまぎしたような
態度で
「お、おう」
と顔を赤らめてルナを連れて行った
「あにき、大丈夫かな」
「私的には凄く面白いから見ていたいけど」
「ステラちゃんは鬼なのかな・・・」
エリス的には知り合いの女の子を好きになって
しまったというのがなんとも気まずい
「私たちもいきましょ」
各教官ともこの間の続きをするらしく、一人一人の
実力確認を行っていく
『我が杖よ、我が命じる理を導きここに誘え
内に秘めたるマナを糧とし火球を顕現せよ
ファイアーボール!」
エリスの魔力が杖の魔石へと収束していき、先端から
一つの火の球が水の壁へと衝突する
そんな訓練生の魔法を遠巻きから眺めていた
各々同じ詠唱、同じ魔法だが大小様々で威力も
それぞれ違う
魔力の流れを観察していると、持っている魔力の量、
魔石に込められる魔力の量に応じて変わってくる
みたいだ
魔力をいっぱい持っていたとしても魔石が小さければ
威力は弱いし、魔石が大きくても魔力が少なければ
威力が弱くなる
逆もまたしかりなんだろうけど
「どういう仕組み何だろう」
単純に疑問だった
言葉を発するだけで魔法が現れる
常々マギを操作しながら創造して魔法を放つ私には
理解不能だった
「はーい、それじゃー一旦休憩にしますねー」
いつの間にか考えている間に全訓練生の確認が
終わったみたいだ
「ごめんねー、ステラちゃんには退屈だったかな?」
よほどつまらなそうに見えたのか、セレーネが
私に声を掛けてくれた
「いえ、そんなことはないです
ただ、皆が放つ魔法を見てて考え事をしてしまって
その杖ってどうなってるんですか?」
「そういえば、ステラちゃんは杖を持って
いなかったんでしたねぇ
触ってみますかー?」
「いいんですか?」
「構いませんよー
なんなら詠唱して貰ってもいいですよー」
もしかしたら自分で使って見たら何かわかるかも
しれないし、試してみようかな
杖を握ってマギを流し込む
すると私のマギは魔石へと向かっていき、魔石が
少しづつ光だした
ただ、どれだけ送り込もうとしても一定までいくと
それ以上送り込めなくなる
それはルナやルージュにやっていた時に感じた
お腹いっぱいの時の状態と同じみたいだ
「わぁー、すごいですね
何も唱えなくても魔石が光るなんて」
ぴかぴか光る杖を見ながらセレーネは驚嘆していた
マギの供給を一旦やめ、今度は詠唱を試してみる
訓練生の詠唱を散々聞いていたせいか、詠唱の言葉は
いつの間にか頭に入っていた
『我が杖よ、我が命じる理を導きここに誘え』
唱え始めると勝手に魔石の中に自分のマギが
取り込まれていき不思議な感覚が押し寄せる
『内に秘めたるマナを糧とし火球を顕現せよ』
2説目を唱えると今度は魔石の内部で魔力が変化して
杖の前には2m程の大きな火球が形成され始め、
形成が終わるとそれ以上マギが取り込まれなくなった
どうやらここまでが魔法を放つための準備のようだ
準備が終わった魔法は杖の前でぐるぐると凄まじい
熱量を放ちながら停滞している
「ステラちゃん!空ね、空に向けて打ってね!」
隣で慌てながらセレーネが叫ぶ
きっとセレーネの頭の中では前回の爆発が
よぎっていることだろう
だがしかし、私もそこまで馬鹿ではない
2回も同じことはしないのだ
「ファイアーボール!」
その言葉が引き金となり、炎の球はゴウッ!という
音を立てて空の彼方へと飛んで行った
それを見ていた他の訓練生は
「やべぇな」
「ただのファイアーボールであれかよ」
だのなんだのかんだの
ただ一度、青炎球を見ている彼らにとってはさほどの
ように感じているようだ
「はぁー、ホントにドキドキするなぁー」
セレーネは溜息を付きながら胸を撫でおろす
私はというとさっそく杖の確認をしていた
杖の持つ部分や魔石の中身を確認するといくつもの
文字が掘られ連なっている
そして、それは最近見たものと良く似ていた
そう、魔法陣だ
ハデスが作りだした極大の魔法陣
あれとよく似た形が魔石の中や、杖に刻み込まれ
ている
魔法陣のレベルとしては圧倒的にハデスの方が上に
感じ取れるが、この杖に書かれているものも中々の
ように思う
おそらくこれによって自動的に制御されているの
だろう
確かにこれだと誰でも使うことができるという
利点があり凄いことだと思うが、応用が何一つ
ないという点と決まった魔法しか使えないという
欠点とかいろいろありそうだ
「ありがとうございます、なんとなくわかりました
杖、お返ししますね」
「え、も、もう?」
「はい、だいたいは
ところで何種類くらいの魔法が使えるんですか?」
その質問の意図をセレーネは感じ取ったのか、
苦笑いを浮かべている
「本当に理解しちゃったの?、すごいなぁー
今だとそうねー、50種類くらいだったと思うわぁー」
「以外と多いんですね」
「そうねー、でも魔法にも初級、中級、上級と区分け
があって、それによって詠唱の説が増えていくの
だから、覚えるのは以外と大変よー」
「なるほど、唱える説で魔力をどんどん変化させて
いくような感じですか?」
「・・・そこまでわかっちゃうんだ」
セレーネは一瞬でそこまで読み取ったステラに
冷や汗を浮かべていた
「なんとなくはですけどね」
「そう・・・
それじゃー、そろそろ休憩も終わりにして訓練に
戻りましょうかー
次は少し講義も混じるので退屈かもしれませんが」
「そんなことないですよ
自分の知らないことを学ぶことが退屈なわけ
ないじゃないですか」
そうほほ笑みながら返すとセレーネも嬉しそうに
笑いかけてくれるのであった
~ルナside~
クラウスに連れられて気力型の訓練生側に混じる
私には不満しかなかった
どうして主様と一緒じゃないのか
しかもこれが後1ヶ月間ずっと続くのだ
私にとって主様から離れる時間がこんなにも長いのは
初めての出来事だった
「はぁ~」
だからだろうか
いつの間にか大きな溜息が出てしまう
それに不満はそれだけではない
バジル―ルもこの間の続きを他の訓練生にも行い実力
を確認していっているわけだが、私にとっては皆の
動きがスローモーションで物凄く遅く見えてしまい、
イライラしかしてこなかった
それは今まさに訓練に入った赤毛の青年、クラウスも
例外ではない
踏み込みがあまい
気力が上手く使えていない
体の重心移動が悪い
他の訓練生も同様だが、悪いところしか見当たらない
そもそも訓練生側は戦闘で使うような実物の剣や槍を
使っているのに対し、バジル―ルは木剣だ
それを見ているとバジル―ルは木剣に上手く気力を
通すことができているし、立ち回りもそれなりなため
凄くまともに見えてしまう
(どうせやるなら主様とやりたい)
そう思いながらチラッと魔力型の方を見ると
主様が巨大な炎の球を空に目掛けてぶっ放している
ところだった
「はぁー、ルナに合わせられるのは主様ぐらいなのに」
その光景を見ながら、心底そう思った
「る、ルナ!どうだった俺の動きは?」
訓練を終えたクラウスがこちらに戻ってきたようだ
今日この青年は朝から何かがおかしい
この間初めて会った時はもっとぶっきらぼうな態度を
取っていたような気がするけど、いつの間にか下から
来るようになっている
「どう・・・と言われましても」
そんな彼の態度に朝から少し困惑していた
「この間ルナの動きを見てもっと頑張らないと
って思ったんだ
俺もルナのように強くなりたい、だから悪いところ
があったら言って欲しいし、教えて欲しい」
いや、そもそもダメなところしかないんですが
それにぐいぐい詰め寄ってこられて少し気持ち悪い
そんなところに意図的ではないが助け船を出したの
はバジル―ルだった
「おーい、ルナちゃーん
次は君の番だよー」
この間実力は示したはずだけど・・・
まぁ、ここにいるよりはマシですね
クラウスのことは無視してバジル―ルの呼びかけに
のっかることにした
「この間は油断してたけど、今日はそうは行かないよ」
今回は全力で来るつもりなのだろう、前回とは違い
纏う気力の量がだいぶ違うし、真剣な表情だ
「そうですか、それじゃ遠慮なく」
私は前回同様に地面を踏み込み、木剣を折りに掛かる
また前と同じパターンだ
そしてそのまま拳を木剣の腹目掛けて突き出した
だが、今回は木剣を折ることはできず弾くだけに
なってしまう
そのことに目を見開き、少し思考が停止してしまった
バジル―ルは余りにも速いルナに対して、最初から
力を抜くことで木剣に伝わる力を殺したのだ
その変わり木剣は飛んで行ってしまったが
しかし、一瞬でも隙が作れれば良い
攻撃手段は何も剣だけではない
手に伝わる衝撃を確認してから、足を使って攻撃を
繰り出す
そこまでやってバジル―ルの攻撃はようやくルナに
届き、それは全身を気力で最大限まで強化した彼なり
の最高の一撃だった
ダンッ!
という衝撃とともにルナの胴体に直撃する
だが、ルナはびくともしなかった
「嘘、だろ・・・」
蹴った姿勢の状態で静止させられ、唖然とする
「今のは少し良かったですね
でも威力がなさすぎます」
私は率直な感想だけを述べて、その場を後にした
それからも気力の使い方や戦い方の訓練が続いたが、
教官であるバジル―ルはちらちらと私の方を見たり、
周りの訓練生もレベルの差がありすぎるせいか、
萎縮してしまっているようだ
最初は話しかけてきたクラウスでさえも、圧倒的な
差を見せつけられたせいか声を掛けることも
できなくなっていた
そうしたとても気まずい1日目の訓練はようやく
終わりを迎えたのだった
~バジル―ルside~
「俺、あの子に教えること何も無くね・・・」
俺は訓練後セレーネと一緒に第一回目訓練の
お疲れ様会を行きつけの酒場で開催していた
「安心して―、私もだからー」
そういうと二人とも酒を一気に飲み、盛大に
はぁ~っと溜息をつく
「そもそも杖も無しに魔法を使える方がおかしい
のよねー
使ったら使ったで一発で成功させちゃうし・・・」
「まだステラちゃんはいいだろ
楽しそうに訓練受けてくれてるんだから
ルナちゃんなんて何か知らんがピリピリしてるから
怖いんだぞ・・・
あんな幼い子に恐怖したことなんてないよ」
「そうねー
でもなんなのかしらね、あの二人
明らかに普通の子供じゃないわー
魔力も全然感じないくせに魔法の威力だけは
ありえないくらい凄いし」
「そうなんだよな
ルナちゃんも全く同じなんだ
なのに本気で蹴ってもびくともしなかった」
「あなたえげつないわねー
いくら何でもまだまだ子供なのに」
「いや・・・ついな」
「おう、二人ともどうしたそんな辛気臭い顔をして
何かあったか?」
そんな二人の会話にリゲルが入ってきた
ギルドの仕事も終わりに飲みに来たのだろう
「あ、ギルマス、お疲れ様ですー」
「おう、それで今日の訓練はどうだった?」
そんなギルマスの言葉にかくかくしかじかあった
ことを話した
「そんなにすげぇのか」
無言で頷く二人
「そうか、今度俺も行ってみることにしよう」