第44話_訓練スタート
「そうかい、良かったじゃないか
また、明日から頑張りな」
宿に帰ってマーサさんに報告すると、あたかも
こうなることがわかっていたかのような口ぶり
だった
「マーサさんもありがとう」
「良いんだよ
ところでなんだけど、部屋の修理ってのは
どれくらいで終わるんだい?」
「うーん、そうですね
一部屋だいたい2日程度って言ったところですかね」
まだ自分の部屋の修理もやって無いので、正直どの
程度の時間で終わるかがわからないが
「そうかい、全部で10部屋だから20日ぐらいか」
「どうかしたんですか?」
「いやね、せっかくお風呂まで作って貰ったんだ
ここいらの宿屋じゃまずないからね
それを売りに出して客を集めようかと
思っているんだけど・・・
あんたらは良かったかい?」
なるほど、確かに目玉になるものがあるのだから
使わない手はないな
「特段構いませんよ、使ってくれたら嬉しいです
だとするとー・・・
まずは下の階だけ治してしまって、5部屋分だけ
解放するようにした方が良いかもしれないですね」
全部やってから解放となれば、ほぼ一月営業しない
ことになってしまう
「本当かい?悪いんだけどそうして貰えると助かるよ
まぁ、あたしが言うのも何だけどここ最近じゃ
客もめっきり減って一月客が来ないなんてざら
だから余り急がなくても大丈夫だけど」
私たちがきてから一週間以上立つが、確かに他の客
は宿に泊っている気配はない
でも宿屋を立ちなおらせるには絶好の機会だとも思う
私がやるから基本タダだし
「それと、流石にただでやってもらうのは悪いから
ご飯は全部あたしのおごりにさせて貰うよ!」
そんな心を見透かしているのだろうか
「そ、そこまで、言ってくれるなら・・・」
私は詰め寄るマーサさんに気圧されてしまった
「じゃあ、今日からさっそく始めちゃいますね」
「悪いね、頼むよ」
一旦宿屋全体を確認する
5部屋分とは言ったものの、部屋だけじゃなくて
カウンターや食堂、入口や建物の見た目も改修
しなくては、お客さんはよっては来ないだろう
「やることいっぱいだなー」
でもやっぱり楽しいっていうのが上回るし、
今まで誰からも頼られるということが無かった
せいか、少し嬉しかった
「主様、ルナ良いこと思いつきました」
「ん?なに?}
「ルナが主様にマギを補給すれば、修理も早くなると
思います」
私は目を大きく見開く
「なるほど・・・確かにそれなら
でもルナはそれでいいの?」
「構いませんよ?ルナだって何か役に立ちたいです」
「ありがとう、ルナ!
いいこーいいこ~」
思わず抱きついてしまった
でも、なんだかんだ最初からルナはいい子だったな
「よしっ!じゃあ頑張って治してこー!」
そうして私の趣味は再び始まったのであった
まずは一部屋を治すのにどれだけの時間が掛かるかだ
今回はもともとあるものを新品にするだけだから、
対して時間もマギも消費しないだろうとは思う
とりあえずやってみてから考えよう
「ルナはまたお部屋の片付けお願いしてもいい?」
「はーい」
部屋中にマギを流し込むと、普段使われていた部屋
だからだろうか、前の部屋に比べればそこまで痛んで
いたり損傷している場所はほとんど見当たらない
「これなら、すぐ終わりそう」
どんどん組成を改修していき、1時間程度で部屋全体
の修理が終わる
家具の修理も含めても、マギの消費量が全体の1/4
程度で済みそうだ
この調子なら3日もあれば終わるだろう
ルナもはき掃除や壁を拭いたりと身体能力を行かせる
ような手伝いをしてもらっているおかげで、綺麗に
なるのも各段に早い
「ルナー、次行くよー」
「流石、早いですね」
「次の部屋終わったら休憩しようか」
今日は午前中にギルドから帰ってきたしまったので
午後は特にやることが無い
やれる時にどんどんやってしまおう
もう一部屋が終わる頃には私のマギは半分ぐらい
無くなった
「はぁー、ちょっとしんどくなってきたなー」
「じゃあ、そろそろ補給しますか?」
消費すればするほど体はどんどん重くなっていく
それでも、まだまだ余裕はあるからさほどには
感じはしないが
「うん、そうだね・・・
そういえば、ルナってさ今どれくらいマギの容量
あるの?」
「自分じゃあんまりわかりませんけど、主様の半分
くらいだと思います
ルナが成長してる間に主様も成長してるから全然
追いつけなくて悔しいです」
「ふふふ、まだまだ抜かさせないよー
じゃあ悪いけど、ルナのマギを半分個させて」
ついでにお茶を用意して一息着くことにした
手だけは握りあって、マギを補給する
「ルナ、なんだか嬉しそうだね」
「ルナは主様の役に立てることが今一番の幸せ
ですから」
そうにこにこほほ笑みながら即答されてしまった
(ほんとこういうとこは可愛いんだよね)
ちょっと恥ずかしくなって、顔が赤くなる
最近ちょっと冷たすぎたかな、もっとルナのことを
大事にしよう
そう思うと握る手に力が入るのだった
なんだかんだで結局頑張ってしまい4部屋の改修を
一日で済ませてしまった
残りはまた明日からだ
ベッドに横になりながら残りのやることを考える
「あっ!私たちの部屋やるの忘れてた!」
今更になって思い出す
そもそも当初の目的は自分の部屋を快適にすることだ
そんな私の姿を見ていたルナは
「主様が元気になってくれて良かったです
まぁ、昨日みたいにしおらしくなっている姿も
それはそれでいいんですが」
確かにいつの間にかギルドでの一件については
心が晴れているようだ
何か別のことをして気を紛らわせることができたのも
大きいだろう
ん?ところで今なんて言いました?
「ルーナー!」
ドンッ!っと隣のベッドで横になっているルナに
馬乗りになって襲いかかる
「やっぱり主様はこのぐらい元気な方が素敵
ですよ・・・」
そう笑いかけられると、怒る気が無くなりもぞもぞと
布団の中にもぐりこむ
「なんだかんだ、一緒に眠ってくれますしね」
「もう!おやすみ!」
「おやすみなさい」
(ふふふ、今日も私の勝ちー)
そう思いながらステラに抱きつくルナなのであった
そして翌日からついにライセンス取得に向けて訓練が
始まる
「ステラちゃーん、ルナちゃーん!久しぶりー!!」
ギルドに行くと元気な声でエリスがやってきた
「あ、エリスさん、この間はごめんなさい」
訓練生の人達にはあれからあっていないので、謝る
ことができていない
ちょっと憂鬱だなー
「いいよー、そんな気にしなくて
でもめっちゃ凄かったね、びっくりしちゃった」
エリスもそんな気にしていないようで、少し安心する
「一緒してもいい?
訓練部屋に行くでしょ?」
「ええ
あれ、ところでクラウスさんは?」
いつも一緒にいたクラウスが今日は見当たらない
「あー、えーといるにはいるんだけどね
ほら、あそこ」
こっちを物陰から見つめている赤毛の男
はたから見たら凄く怪しいみえる
「何か、あったんですか?」
「あったといえばあったんじゃないかなぁ」
そういうエリスはルナの方を見つめて話を
はぐらかした
「おーい、あにきー
もういくよー」
手を振りながらクラウスを呼ぶが、等の本人は
私たちを見て顔を赤くしながら近づいて来ようと
しない
「うーーん??
うーん?」
というか、私たちというよりはルナの顔を見てるな
ルナの手を引っ張りクラウスに近づいていく
クラウスは近づく私たちを見て逃げようとするが
ワイヤーで足を固定して動けないようにして
さしあげる
「なんだ!
あ、足が動かねぇ!」
「おはようございます
クラウスさん!」
そういいながら引っ張ってきたルナをクラウスの
正面に立たせるとクラウスはさらに顔を真っ赤に
して、そっぽを向いた
なるほど、これはもしかして
「エリスさん、原因はルナですか?」
「バレるのはやっ!」
部屋に向かう途中でエリスからクラウスが不審な
行動を取っている理由はだいたいわかった
どうやら訓練初日の模擬戦でルナに目を惹かれて
しまったらしい
つまりは一目惚れというやつだ
バジル―ルへの攻撃が余りにも綺麗で美しく、
かっこよかっただのとかなんとか
エリスはここ数日そんな話を聞かされていたらしい
「へぇ~、ふ~ん」
私はクラウスの顔をにやにやしながら眺める
「なんだよ!」
「別に、なんでもないですよ」
そうかー、これが恋ってやつなんだ
本での知識しか無いから個人的には少しドキドキする
「ちっ、エリスのやつ余計なこと言いやがって・・・」
「主様、先ほどからちらちら見られてて気持ち
悪いんですが、なんとかしてください」
「まぁ、気にしないでいつも通りにしときなよ」
これはこれで面白そうだし
部屋に入ると訓練生のほとんどがすでに集まっていた
ので私はできる限り謝り倒した
バジル―ルからは今後の訓練の一部変更が
言い渡され、すぐに座学の勉強へと移る
座学の方では基本的にお師匠様に叩き込まれた内容が
ほとんどで新しく学ぶ知識はそれほど多くはない
ハンターとして生きていく上で必要な魔物への対処
の仕方や魔石の取り方、素材の取り方がほとんどだ
まだ初日ならそんなものかなぁと粗方聞き流していた
それよりも今はどうやってルナに文字を勉強
させていくかが優先だ
基本は26文字からなる字を連ねて言葉にしていく
この文字をまず覚えて貰わないといけない
そんなことを考えながらぼーっとしていると
教官であるバジル―ルはそれに気づいたのか
「はい、じゃあ嬢ちゃん、魔石とはなんだ?」
と質問をしてきた
訓練の一環であるため、ちゃんと聞いているのかを
確かめにきたのだろう
別に聞いていないわけではないんだけど、内容が
ざっくりしているので頭に入ってこないのだ
「魔石ですか、なんなのかと言われると少し難しい
ですね
そうですね、魔石とは心臓の内部にあって体全体
に魔力を供給するためのものであり、大気中のマナ
を吸収して魔力に変換するためのものでもあります
生きている生物全てにこれがあって、持っている
魔力の量によって石の色が変わったりしてますね
簡単に説明するとこんなところであってますか?」
そう説明するとバジル―ルは止まってしまった
持っている本を見つめて何かを確認しているようだが
「・・・・え、そうなの?」
っと投げかけられる
ん?間違えた?
「うーんと、正解ってなんですか?」
「魔力が込められた石のことって一般的には
言われているけど・・・」
ホントにざっくり言うと確かにそうだし、ハンターに
取っては別にそこまで詳細でなくても重要では無い
のかもしれない
「なるほど、そうですか」
シーンっとなってしまった部屋の中
「えーと、それじゃあ続きを行くぞ」
バジル―ルも空気を変えたくて次に進めることに
したようだ
隣ではエリスがクラウスにヒソヒソと喋りかけている
「ねぇ、あにき
ステラちゃんてめちゃくちゃ頭良いのかな?」
「そんなん俺がわかるか
そもそも何言ってるか全然わからなかったぞ」
「そうだよねー、私も全然わからなかった」
お師匠様から習っていたことの認識がずれいている
のか、それとも教えられていることがずれているのか
定かではないが、実体験も考えると前者の方が正しい
とは思う
ただ、どれだけ知っていようとここで生かされる
ことはなさそうだ
そんなことよりもだ
「どうやって教えるのが正解なんだ・・・」
助けてお師匠様・・・