第42_ライセンス取得ヘ向けて
翌日になって私とルナは再びギルドを訪れていた
今日からライセンスを取得するための訓練が一ヶ月程
行われる
「やっぱりちょっと緊張するね」
ギルドの中に入ると子供二人というのが少し目立って
周囲からの視線が気になる
前に私たちのことを見ていた人たちもいるのだろう
ヒソヒソと噂をする声もあるようだ
まぁ、そんなのを気にしていてもしょうがない
さっさと受付けを済ませてしまおう
そう考えていると
「ステラちゃーーん!」
カウンターの方からアンナさんが元気良く声を掛けて
きた
今日もきょろきょろしていた私にとっては丁度良い
助け船だ
「アンナさん、おはようございます」
「はい、おはようございます
受付けよね」
「はい、お願いします
あ、それとこれお金です
二人分で60万ジウム入ってると思います」
ほぼ私たちの全財産だ
まだ少し手持ちはあるが、これですっからかんである
「はい、ありがと
じゃあ、これが訓練教育生のカードね
まずはそこの階段を上がって、2階のすぐ左の部屋
に入って
そこで最初の説明会が開かれるから
カードは階段のところにいる人に見せてね
訓練中はずっと使うから無くさないように
じゃっ、がんばってね!」
「わかりました、ありがとうございます
ルナ、行こう」
「主様、カードは持っていてくれませんか?
ルナが持ってると無くしちゃいそうです」
「うーん、それもそうか
じゃあ、預かっとくね」
ルナが持っているよりは確かに私が持っていた方が
安心だろう、指輪の中に入れておけば絶対に
無くさないだろうし
2階に上がり部屋に入るとそこには十数人の人が
中で待機していた
ほとんどが男の人で遥かに年上の人ばかり
女の人も数人いるが、こちらも私達の2倍は年齢が
上だろう
「結構受ける人っているんだねー
何回も開かれてるらしいから、もう受ける人なんて
いないものだと思ってたよ」
「でも強そうな人はいませんね」
「うーん、中には私たち見たいに隠してる人も
いるだろうからなんとも言えないけど・・・」
周りをちらちらと観察しながら空いてる席に座るが
逆に周りからの視線も痛い
見られて少しむずむずするし、ルナもさっきから
鳥肌が止まらずぴくぴくしているようだ
「隣、いいかな?」
そこには赤毛の帽子を被ったお姉さんと赤毛の青年が
立っていた
「え、あ、はい、どうぞ」
4人掛け用の机なので少しずれると二人は遠慮なく
座ってきた
「わぁー、ちっちゃーい、かわいいー!」
お姉さんは目をキラキラさせて私たちを眺めている
「こんな子供でもライセンスって受けれるんだな
ギルドは馬鹿なのか」
「もーあにきー、そんなこと言ったらだめでしょ!
この子たちも怖がっちゃうしー」
男の方は私たちを睨め付けながら、邪魔者扱いを
している様子だ
この男のいう通りこんなところに子供がいるのが
おかしいとは最近思い始めてはいるんだけど
でも世の中のことなんて知らないし
「ごめんねー、このお兄ちゃんはいじわるさんなの
許してあげてね
あ、お菓子食べる?」
機嫌を取ろうとお菓子を差し出してくるが、私が
こんな食べ物ごときでつられると・・・つられると
「あ、ありがとうございます
いただきます」
ルナにも手渡すと一瞬でもぐもぐと食べてしまう
少しは遠慮とか、まぁこの子にはそんなものないか
「うんうん、食べて食べて」
「これだからエリスは・・・」
「なーにー、自分も食べたかったんでしょ
しょうがないなぁー」
「いらんわ!」
この二人はきっと仲が良いのだろう
同じ容姿をしているし兄妹かな
「あ、私はエリスって言うの
こっちのこわーいお兄ちゃんはクラウスね」
「私はステラです、こっちはルナ」
「二人ともめっちゃ似てるけど姉妹なの??
実は私達も兄妹なんだー」
「まぁ、そんなところですね」
説明するとめんどくさいのでここは話を合わせて
おこう
エリスがそれからもなんだかんだと私達にちょっかい
を出してる間に説明の時間になった
部屋に二人の男性と一人の女性が入ってくる
よーく見ると、この町に来た時初めて門のところで
あった、ガインとバジル―ルだ
少し格好がラフになっているが、見間違いはない
女性の方は長い金髪に長い杖と長いコートが印象的
でどことなくバジル―ルに似ている
なんだろう、もしかして兄妹でこの仕事をする人って
多いのかな
そんなバジル―ルは部屋中を見渡し、私と目が合うと
少しにやりと微笑んだ気がした
なんだか薄気味悪い
そしてざわざわしているところにダン!っと
教壇を叩く音が部屋中にこだました
「それでは、ライセンス取得に関する説明会を
実施する!
今回の教官を請け負ったバジル―ルだ
こっちが自分の補佐をするガインに魔法の訓練を
専門でやってくれるセレーネ
全員5つ星のハンターだ、舐めてかかると痛い目
を見ることになるから注意しろ!」
流石は教官といったところだろうか
さきほどまで騒がしかった部屋を一蹴して静まり
返らせた
「じゃあ、これからお前たちが行っていく訓練の内容
を説明する」
訓練の内容は至って単純な物だった
基本的に午前中は座学、ハンターとして必要な教養を
勉強する時間になり、午後は実戦、実際に必要な技能
を体に覚え込ませる時間になる
それらがある程度終わると半月後には野外演習、
森に遠出し一週間程森の中で生活をするようだ
そして最後に試験・・・
この試験が大問題だった
「あ、ある、じ、さま」
ぎぎぎぎっとルナが顔をこちらに向けて青い顔
をしている
「これは、困ったねぇー・・・・」
その試験の内容がなんと筆記試験と実技試験で
総合70点以上が合格
筆記試験が50点、実技試験が50点で計100点の試験だ
実技はおそらく問題無いだろう、だが筆記試験は
そもそもな話文字を書くことができなければならない
そしてルナは・・・文字が一切書けない・・・
そんな中で最低でも20点は必ず正解しなければ
ならないのだ
「まぁ、頑張るしかないよ・・・頑張るしか・・・」
ズーンっと暗くなるルナ
これは宿でも勉強だなっと私も気が重たくなるの
であった
初日ということもあって気力型なのか魔力型なのか
で組み分けをすることになった
私としてはどっちでも良いんだけど、ルナはどちらか
といえば気力型かな、魔法は苦手みたいだし
「ステラちゃーん!
ステラちゃん達はどっちにするのー?
私はもちろん魔力型!」
エリスはまぁ、見た目が魔法使いっぽいし魔力型
でしょうね、クラウスは装備からして気力型かな
「そうですね、どっちでも良いんですけど・・・
魔法の方が面白そうなので魔力型ですかね」
「あ、主様、ルナは魔法得意じゃないですよ・・」
「え、うん
だからルナは気力型にしなよ」
「えーーー!
主様と一緒がいいです!」
「だったらあにきが気力型のほうだからルナちゃん
と一緒だね」
「子供のお守りはしないぞ!」
「ルナ、これはやっぱり向き不向きだから
しょうがないよ
じゃないと試験合格できないよ?」
「うーーー・・・
主様が気力型にすればいいじゃないですか」
まぁ、それもそうなんだけどね
「クラウスさん、ごめんなさい
出会ったばかりで失礼なんですけど、ルナのこと
お願いします」
ここで使うべきだと思い、必殺の上目使いを発動する
うるうるさせた瞳で見つめるだけで大抵の大人は
本能のままに養護したくなるのだ
「くっ!くそがっ!
わかった!わーったよ!」
「ありがとう」
「ステラちゃんすごーい
あにきを簡単に手籠めにしちゃうなんて」
ふふふ、最近覚えた必殺技が通用してよかった
「ルナもごめんね」
そう言って頭を撫でてやると
「ご褒美・・・」
「はいはい」
こういうところはまだまだ私よりも子供
なんだよなぁ
お互いにそれぞれ組み分けが済んだところで
バジル―ルが案内を出し始める
「だいたい決まったか?
それじゃギルドの地下へと移動してもらう
着いてこい」
全員がバジル―ルに着いて地下室へくると、そこは
かなり広い空間となっていて、訓練場になっている
ようだった
「今日から実技はここでやってもらう
そして今日は初日だ!まずは各個人の実力でも
見させて貰おうか
右側が気力型、左側が魔力型に別れ教官の指示に
従え」
ぞろぞろと左右に別れていく
「それじゃルナ、頑張ってね」
「うーーー」
「ほら、こっちだ、行くぞ!」
そういうとクラウスに連れていかれた
「大丈夫、あー見えて面倒見の良いお兄ちゃん
なんだよ、心配しないで」
エリスはなんだかんだ言ってクラウスを慕っている
ようだ
「別に心配はしてないですよ
逆にクラウスさんの方が心配ですね・・・」
正直私から離れたルナは何をしでかすかわからない
だからと言っては何だが、少し私から離れた場合でも
問題なく生活できるのかは見ておきたいのだ
「さっ、私たちも行きましょうか」
魔力型の教官はセレーネさんだ
セレーネは少しおっとりとした感じのお姉さん
なのか話方がバジル―ルと違い凄く優しい
「それじゃー、まずは皆さんの魔法がどれくらい
なのか今日は見ていきますねー
そーですねー、基本的な魔法として火の魔法を
見せてもらいましょう
ファイアーボールがいいですかねー」
ファイアーボール?火の球かな
私が思っているのであってればいいけど
そういうとテクテクと部屋の反対側10m程まで歩いて
いき立ち止まると何やらぶつぶつ唱え始めた
『我が杖よ、我が命じる理を導きここに誘え
内に秘めたるマナを糧とし水流の壁を顕現せよ
ウォーターウォール!』
唱えている最中魔力がどんどん杖に吸収されていき
溜まった魔力は解放され大きな水壁を作り出した
おお、何あれ、凄い
「エリスさん、今のはなんですか?」
「ん?詠唱魔法だよ
一般的な魔法だけど?見たことない?」
一般的?お師匠様もシルファさんも使っては
いなかったけど・・・
「初めて見ますね」
「え?じゃあステラちゃん、杖は?」
「杖なんて必要なんですか??」
私は辺りを見渡すと確かに各々杖を取り出している
全員が手に持っているようだ
いや、そんなの知らないし、どうしよ
「はーい!じゃあ、皆さん一人ずつここに打ち込んで
見てくださーい!!
一番右のあなたからー!」
遠くからセレーネが呼びかける
そしてもれなく一番右にいるのは私だ
「あ、ステラちゃんだね、でも杖が」
「うーん、でも特に必要ないと思うんだけどなぁ」
ご指名なので皆の前に出る
周りの人たちも私が杖を持っていないを見てか
ヒソヒソとしている
同時に反対側の気力型の方にはルナが前に
立たされていた
バジル―ルは木剣を握っているがルナは素手と
丸腰の状態だ
他の訓練生を見てもそれぞれ持参した武器を
持ってきているためこちらも異質に見られている
ルナの方を見ているとルナもこちらを見てきた
そして私達は同時に標的に向かって前を向く
「ふぅー」
これだけ大勢の前で魔法を使うのは初めてだ
ちょっと緊張しちゃうなー
あの壁を消し飛ばすとなると、火炎、青炎、白炎
どれだろう?
火炎2mぐらいで行けるかな?蒸発から乾燥まで
考えたら青炎でもいいか
私は右手を前に出し、掌にマギを放出する
火魔法は魔法の中でも一番簡単な部類で
セレーネさんがいう通り本当に基本的な魔法だと思う
単純に火を創造するだけで人それぞれ違うが最終的
には熱が掛かっているだけ
だけど、その基本的な物でも応用は存在する
昔にも似たようなことやったっけ
私はさらに掌に出した炎に酸素だけを生成魔法で作り
出し、マギで圧縮して炎の温度を上昇させていく
どんどん大きくなっていく赤色の炎はやがて青色に
変化し始めた
前は空気ごと圧縮していたが今回は酸素のみなので
遥かに作り出す時間が短い
「え、ちょ、ちょっとまってください!
それはダメです!
止まって!止まって――――!」
セレーネもすぐに炎の球がおかしいことに気づくが
すでに遅かった
そして私が打つのと同時にルナの体も揺らぎその場
から消える
直後、バキィン!っと甲高い音が部屋にこだまし、
ルナがバジル―ルの木剣を真っ二つに拳でへし折った
のだろう、剣先が地面に転がった
唖然とする気力型の訓練生達
それとほぼ同時に青炎球が水の壁に衝突する
凄まじい熱量が一気に水にぶつかりそれを
蒸発させながら大爆発を引き起こした