第41話_初めての生成魔法2
「ないよ、そんなもの」
私たちはアイシャにお風呂の場所を聞いていた
だが、この宿にはもちろん普通の宿にもそんな高価
なものはついていないようだ
そういうのはお金持ちだったりお貴族様が持っている
ようなもので、一般市民達は体を拭いたりして生活
しているらしい
これも私たちがこれまで生活してきた中での常識を
覆すものであった
部屋に戻った私たちはどうするかを考えていた
「そうなのかぁー」
「困りましたね
森にでもいってまた作りますか?」
「それでもいいんだけねぇ
どうせだったらこの宿にあった方が便利じゃない?
いっそのことここに作っちゃおっか
そうすれば、ルナも毎日入れるよ?」
移動するたびに毎回お風呂を作るのも面倒だが、今回
はいつもとは少し違う方法で試してみようとも
思っている
そう、生成魔法だ
せっかく昨日糸口を掴んだのだから、これを使わない
手は無いし、丁度良い修行にもなる
「なるほど、早く作りましょう
今すぐ作りましょう」
現金な聖獣様だ
「まぁ、ちょっと待って
そもそも許可も必要だろうし、ルナはマーサさんに
聞いてきて、私はその間にいろいろ準備するから」
そういうと、ルナは部屋から出ていった
私はというと指輪の中から使えそうな素材を取り出し、
昨日と同じ容量で同じ物が作れないかを試しに掛かる
取り出したのは岩だったり、木の板だったり、
移動したときに使う用で入れておいたものが役に
立ちそうだ
昨日の復習でまずは木の板からやってみようと
マギを流し続ける
だいたいの構造はほとんど同じようだ
だったら全部把握しているから、後はこいつを複製
してみるだけである
ルナの話だと手の上でマギがぐるぐるしながら木材が
端からどんどん生成されていったと言っていた
多分把握した構造を端から再現していったのだろう
今は右手に複製したい物を持っているから、それを
左手の方に再現すればいいので、何も持っていな
かった昨日よりは簡単なはずだ
案の定今回はすんなりと木の板を再現することが
できた
そしてなんとなくだがコツを掴むことができたような
気がした
結局中身は創造魔法と対して変わらないとの予想だ
一つを丸ごとマギで作り出すのではなく、組成レベル
で一つ一つをマギで作り出すかの違いでしか無いと
言うことがなんとなくわかった
組成レベルで作りだしたそれを何十にも繋げることで
一つの物体を形成してやれば、魔力の霧散を押さえる
ことができるらしい
手と手が繋がった組成同士は一つが消えようとしても
手を繋いでいるもう一つに阻まれ消えることが
できないようだ
だが、その手さえ断ち切ってしまえば作り出した物は
簡単に朽ちていった
そして、それは私が作り出した物に限らない
「これは・・・魔法にも応用できるかも・・」
そんなことを思っていると
「主様、部屋を一つ使っても言いそうです
どうせ使っていないからと」
ルナが戻ってきた
「わかったー!今行くー!」
丁度試しも終わったところなので、あとは実際に
どこまでやれるかだ
新しい発見と実戦は私の心をわくわくさせていた
案内された部屋は一階の一番奥の部屋だった
中に入ると、昔使われていた部屋らしかったが
いたるところがボロボロになっていて部屋として
使うには少し危険である
いつ崩れてきてもおかしくはなさそうな場所だった
「ところで、あんたたち何をするんだい?」
案内してくれたマーサさんが当然の疑問を投げかけて
きた
「ふふふ、お風呂を作るんです!
無いなら作るしかないのです!」
「本気で言ってるのかい?
いくら何でもそれは・・・」
「ぜひ楽しみにしててくださいね!」
そういうとマーサさんは半信半疑のまま仕事へと
戻っていった
改めて部屋の中を見回してみる
「しっかし、これはひどいねぇ」
昨日買ってきたばかりの畜光石で部屋の中を照らし
出すと、床は抜けていたり壁は崩れていたりで
治すは大変そうだ
「それで、主様どうするのですか」
「そうだねー
石造りにしようかなって思ってたけど、
今回は木で作ってみようかな
床からなおしていこう」
マギを床へと流し込み、まずはダメになった組成
を随時取り替える作業からだ
組成同士の手を切ることでダメになった部分だけを
霧散させ、他の問題無い箇所は私のマギで守る
そうすることでダメな箇所だけの取り替えを
していった
床の木材はみるみる新品の姿へと戻っていく
「ルナ、部屋の中のお掃除してもらっても良い?
流石にゴミは取り除くことができないから」
「はい、主様」
元に戻すと行っても本当に少しずつしか進まない
かれこれ1時間は同じ作業をしているが、床は部屋の
半分程度までしかまだ治ってはいない
「ふぅー
マギの消費がすごいなー、これ」
体感ではあるが持ってるマギの半分以上が無くなり、
一度休憩が必要そうだ
森に住んでいた頃とは違い、ここら辺はマナの循環が
悪いのかあまり取り込むことができない
「ルナー、休憩にしよー!」
「はーい、これを運び終えたらー」
ルナは部屋の中の物を外に運び出す作業をずっと
してくれている
使わなくなった棚やテーブル、いらなくなったものを
この部屋に押し込めていたのだろう、不要物で溢れ
かえっていた
(いらなくなったものはまとめて燃やすかぁー)
しばらく休憩してから作業を再開したところで
少し違和感を覚えた
ルナが物を運んでいる時に床の軋む量が少しだけ
違う気がする
治したところでも軋む量が違っているのだ
「んー?
あー、なるほど」
昨日森から取ってきた木と新しく自分で生成した
木を手に持つ
「ルナー、ちょっと二つとも殴ってみて」
「??・・いいですけど」
首をかしげながら、拳を突き出す
パァン!と一つは粉々に砕け散り、もう一つは
私の手から離れて飛んで行った
「あー、やっぱりかー」
「なにがやっぱりなんです?」
「私のマギで作った材料の方が各段に硬いのね
一つ一つに込めているマギの量が遥かに違うから
だと思うんだけど・・・
なるほど、なるほど」
ルナは意味がわからない顔をしているがこれも
また新しい収穫だ
同じ材料でもマギを込めた量によって元よりも凄い
ものになる
今回はお風呂場で濡れ場になるだろうからなるべく
強く作って置くに越したことはないかな
そうして新しい発見と部屋の修復は順調に進んでいき、
初めて生成魔法を使った床は一日で全て新品の床へと
置き換えられたのだった
「マギが・・・・足りない!!」
次の日になって、私の体からはほとんどのマギが
無くなり、すっからかんになっていた
生成魔法は凄く便利なんだろうが燃費が悪すぎる
ところが欠点なのかな
一晩立っても少ししか回復せず、このままではまた
体に異変をきたしかねない
「うーん・・・」
「じゃあ、森にお散歩しませんか?
ルナも最近動いてないのでたまには動きたいです」
ルナも元は獣だからだろうか、動きたくてしょうが
ないせいかイライラも溜まってきている
「そうだね、森の方がマナも多いだろうし
今日は外にでようか」
「はいっ!主様」
ルナはにこにこ満面の笑みを浮かべた
「ついでに不要になった物を燃やしちゃうから、
集めといて―」
「はーい」
森につくなりルナは駆け出して行ってしまった
「今日の魔物達は可愛そうなんだろうなぁ」
あの調子だと出くわす魔物はかたっぱしから八つ裂き
にされそうだ
魔物に罪は無いんだろうけど
私はというと丁度良い河原を見つけたので、
しばらくはここでボーっと過ごすことにした
宿で不要物になったものを指輪から取り出し
焚火を始める
(一緒に魚でも焼いてルナを待つことにするかな)
それからは1日を使ってお風呂を作成し、マギが
無くなっては森に行く生活が続いた
生成魔法もだんだんと使い慣れてきて作業のスピード
も最初と比べると各段に向上している
部屋は全て改修され、後は浴槽を作って完成だ
「終わった――――!」
「お疲れ様です、主様」
「長かった、長かったねぇー」
作り始めてからもう5日が経過し、ようやく完成に
至ったお風呂はなんとも言えない達成感だった
今回は全て生成魔法を使用しての作成物なので、
全てが自分のマギによるものだ
いわばこの部屋自体が自分自信の分身でもある
「最後にチェックしないとね」
全てを木造で作ったということもあり、なるべく多く
のマギを供給してはいるが、抜けがあればそこから
腐っていってしまう恐れはある
部屋全体にマギを行きわたらせ、最終チェックを
念入りに行い、漏れが無いかを確認していく
「よしっ、問題ないかな」
完成したお風呂はこの宿にとって、かなり異質な空間
となっていた
他の部屋は年季がたってぼろくなっているのに対し、
ここだけはぴかぴかなのだ
扉も新調し廊下からもみてもわかる程神々しい
それに、全ての木材に大量のマギが注ぎ込まれている
からなのか、買ってきた新品の木材よりも艶があり
光沢を放っていて少し眩しいくらいだ
部屋の作りとしては脱衣場、洗い場、浴槽と簡素な
作りではあるが、仕切りも設けてあるし、水は外へ
流れるようにしてもある
元々あった窓は塞いでしまい、変わりに天上付近に
換気用の窓と隅の何か所かに畜光石を追加した
「さーて、お湯を張りますか!」
「主様、早く、早く」
ルナも出来栄えには満足しているようで
ぴょんぴょん跳ねながら私をまくしたてる
「急かさないでねぇー」
マギを浴槽に充満させ、生成魔法で一気にお湯を
作りだす
どぱぁっと広がったお湯は一気に湯気を立ち上らせた
「さぁ、入ろう!」
久々に入るお風呂は最高だった
森を出てからかれこれ数日入らなかっただけだが、
体がお湯に溶けていくような快感が二人を押し寄せた
「何これ!すごーい!
お母さーーーん、すごいよー!」
部屋の入口からアイシャの声が聞こえてくる
そこに呼ばれたマーサさんも一緒に現れた
「へぇ、こりゃあ凄い
これがお風呂ってやつかい、見るのは初めてだよ」
「へへへ、なんとか完成しましたぁ~」
「お姉ちゃん気持ちよさそう・・・
あたしも入りたい!」
「いいよー、広めに作ったからまだ何人かは入れるし
マーサさんもどうですかー?」
「いいのかい?」
マーサさんも口には出さないが、アイシャ同様に凄く
入りたそうな顔をしている
「構いませんよー
それにせっかくここに作ったんだし、いつでも
使ってくれて構いません」
「じゃ、じゃあ、せっかくだから」
「お母さん、はやく、はやくー!」
アイシャは颯爽と服を脱ぎ、浴槽へダイブしてきた
マーサさんも恐る恐るお湯の中に浸かる
『はぁ~、気持ちいい~』
二人は同時に同じ声を漏らす
私としても二人に気に入って貰えて大満足だ
自分の作った物で他人に喜んでもらえることって案外
嬉しいものなんだなって思う
「このお湯もなんだか普通のお湯と違う気がする
んだけど、なんか入ってるのかい?」
「あー、たぶん私が作ったから他のとは少し違う
のかもしれないですね
不純物が無いというか、なんというか」
「へぇ、魔法っていうのは便利なんだねぇ
濁りも無くて、さらさらするし肌がスベスベに
なっていく気がするよ」
思いのほか生成魔法で作りだした物は他にも恩恵を
もたらすらしい
相当な魔力量を消費するし、私の場合はマギを使って
作り出しているからそういうのも関係するかも
「魔法は本来誰でも使えますよ
生き物の体はそういう風にできているみたいなので
個人差はどうしてもありますが」
「え、じゃあ、あたしにも使えるってこと?」
「そうだよ、アイシャも訓練すればいつかは使える
ようになるよー」
「ほんとー?
じゃ、じゃあお姉ちゃん教えて?」
「うーん、空いてる時だったらいいよ
教えてあげる」
「やったー!ありがとう、お姉ちゃん!」
アイシャは嬉しそうに私に抱きついて来るが、隣で
ルナはまたむっとしていた
(よりによって、裸で主様に抱きつくなんて!
私だってそんなにしたことないのに!)
ジーっと私とアイシャを見つめてくるルナに苦笑い
になりつつも、後のことを考えるとアイシャが魔法を
覚えることは私にとってもまんざらでもなかった
いずれは私たちもこの町を離れるだろうし、せっかく
作ったお風呂にお湯を張れる人がいないとダメ出しね
「アイシャもあんまり無理いうんじゃないよ?
こんなお風呂まで作って貰って、お父さんの病気
まで良くして貰ったんだから
本当にすまいないねぇ、ありがとう」
「いえいえ、そんな、好きでやったことなので」
「そんなことは無いよ
あたし達は感謝しても感謝しきれないよ」
そう深々とお礼をされた
「何かお礼をできれば良いんだけど・・・」
お礼かー、お礼・・・あ、そうだ
「じゃ、じゃあこの宿を好きにしても良いですか?」
「えっと、それはどういう・・・
あ、これだと宿を乗っ取られると思っちゃうか
「その、いっては何ですけど、ダメになってる部分が
いっぱいあるじゃないですか
だから全部治すことを許してほしいんです
私としてはちょうどいい実験材料になるし、上手く
いけば宿も修理できてお互い得になると思うんです」
「で、でもそれだとお礼にはならないんじゃ・・・」
「主様はいつもこうなんですよ
やりたいことがあればただやりたい人なんです」
っとルナも隣から付け加える
「そ、そうかい、申し分ない提案だからあたし
としては問題ないけど」
「じゃあ、ぞんぶんに使わせて貰いますね!」
マーサさんの許可も得ることができたし、これで
部屋も思う存分に自分ごのみにすることができる!
明日からはギルドのこともあるし、やることが
いっぱいだけどやる気は十分だ
「よしっ!明日からも頑張ろう!」
グッと手を握り久々に頑張るポーズをとるのであった