第40話_初めての生成魔法1
アイシャのお使いを達成するために今度は西側の
区画へと私たちは足を運んだ
西側の区画には基本的に食べ物を売っているお店
が並んでいる
そんなもんだから私とルナにとっては拷問に近い
ような場所だった
おいしそうな香ばしいお肉の香り、果物の甘い匂い、
調味料の香り、いろんな香りが責め立ててくる
「ルナ、だめよ、我慢して」
「主様だって」
「ちょ、ちょっと、二人ともよだれよだれ!」
このままではせっかくスピカから貰った服がよだれ
まみれになってしまう
「お、アイシャちゃんじゃないか
今日もお使い偉いね~
おや、そっちの子達は友達かい?」
道なりに歩いていると一人のおじさんに声を
掛けられた
「え、ええ
今宿に泊ってくれてるお客さんに町の案内を
してるの」
お店を見た感じ肉屋のようだ
生肉がズラリと並んでいるが、その隣で焼いた肉も
売っている、串焼きだ・・・
「そうかそうか
しかし、今日はすっごいおしゃれをしとんのー
そっちの子たちも凄くめんこいし・・・
そうじゃ今日は特別サービスだ、もってけもってけ」
そういうとおじさんは串焼きを何本か袋に入れて
渡してくれた
「え、いいの?
わぁ、ありがとう!おじさん」
「そんなに可愛らしくしてるのに、よだれだらだら
じゃな~」
おじさんは私達を見ながら苦笑いをしている
「ほ、ほらよだれ拭いて、拭いて」
私たちはそのあとも同じようなやり取りを至るお店
で繰り返していった結果、手にはいろんなお店の
食べ物が集まった
「んー、これもおいしい!
ルナ、こっちも食べてみなよ」
「じゃあ、主様にはこちらを」
ちょうど良い空地があったので集まった戦利品を
食べることにした
やっぱり出来立てが一番だしね
「今日は二人がいたからかな、いつもはこんなこと
にはならないんだけど、ありがとうねお姉ちゃん」
お店をまわった感じ、アイシャは町の人達にとても
良くしてもらっている印象だった
決して私達がいたからというわけではないと思うの
だけれど
「あいふぁのじんふぉくだよ」
「ちゃんと食べ終わってから喋ってね~」
私達はそれからもバクバクと食べ続けた
アイシャのおかげで町の中を堪能することができ
私たちは思ったより早く宿屋に戻ってきていた
ライセンスを取得するための訓練は1週間後と
まだまだ先で時間がある
となれば当初考えていた通り
「ルナ」
「なんでしょう、主様」
「この部屋をリフォームします!」
「・・・結局やるんですか」
「だって、ライセンスの取得に1ヶ月は掛かるし
その間ずっとこの空間にルナは住みたいの?」
「いや、そうなんですけど・・・
まぁ、仕方ないですね
それで、どうするんですか?」
「ふふふ
昨日、アイシャのお父さんを治した時にヒントを
得たんだけどね
生き物も生き物じゃないものもダメなところはダメ
で一緒だと思うのよ
だから、昨日やったみたいに悪いところを取り
除いて、修復していったらそれは新品になると
思わない?」
「なるほど、再生魔法と生成魔法の間くらいのことを
やるってことですか」
「そのとおり!
もしかしたら、それで生成魔法の手がかりを掴む
ことができるかもしれないし、暇な時間をつぶせる
丁度いい修行になるでしょ
ねーえー、やろーよー」
上目使いでルナにお願いをすると
「しょうがないですね、主様は」
ルナは唐突の不意打ちで拒否を許されはしなかった
「それで、何からやるんですか」
「そうだねー試しに、テーブルからやってみよう!
ボロボロで今にも折れそうだし」
治す手順は病気を治したときと同じだ
マギを流し込み内部を調べ上げ、悪いところを除去
していき、除去したところを治す
「よし!それでは失礼して」
テーブルに手を置き、マギを流し込んでいく
テーブル全体に行きわたったところで、ダメな箇所
をピックアップしていく予定だった
だが・・・
「むむむ」
私は眉間にしわを寄せる
「どうですか?」
「ルナ、そもそも新品の状態ってどんな状態よ・・・」
「・・・あー、そういうことですか」
生き物と生きていない物の差として、生き物は常に
新しい物と古い物が入れ替わっている
病気なんかも本来は存在しないものがそこにあるから
簡単に見つけることができた
だが、生きていない物はただ古くなっていくだけで
痛んでいるというのはわかるのだが、痛んでいる
箇所に少し痛んだものを付け足しても余り意味はない
つまりのところ、このテーブルはどう治していいかが
わからないのだ
「うーん、新しいテーブルがまずどんなものなのかを
知る必要があるね
新品のテーブルを買ってこよう!」
「主様・・・
言いにくいんですけど、その買ってきたテーブルと
入れ替えれば良くないですか?」
「・・・・・」
一瞬時が止まった
きっと私の口はポカーンと空いたままにっている
だろう
確かにルナの言っていることは正しい
単純にダメになったものは捨てて、新しい物と
入れ替える、誰もがやっていることだ
「い、いや、でも
新しいのを毎回買っていったらお金がもったい
ないでしょう?
自分で治せるならそれに越したことはないと思うの
それに魔法のやり方も覚えられるかもしれないし」
あたかも何も考えてませんでした的な雰囲気は
出さないようにしたが
「はぁ~、まぁいいですけど」
少し飽きれ気味である
「あーでも、森に行って新品の木を取ってきた方が
早いか、お金も無いしね」
そういうわけで、森まで行って木を伐採し、ワイヤー
で程よくカットした新品の木材を手に入れてきた
「ルナが取ってきてもよかったのに」
「私もお散歩したかったし、いいじゃない
さてと」
右手で新品の木にマギを通す
流石は新品と言ったところであろうか
損傷などなく痛んでいる箇所も無いし、水分を大量に
含んでいてみずみずしい
同時に左手で古い方へもマギを通していく
新品と比べると内部にある質量が違っていたり
痛んでいる場所については何かが欠落しているように
感じる
この欠落しているように感じるものがなんなのか、
右手にはあって、左手には無い物
それを知るためにさらに、さらにとマギを流す量が
増加していく
読み取れる情報量から脳の負担も相当なものに
なってきていた
それを見ていたルナは主の異変に次第に気が付いた
バチッ、バチッと音がたちはじめ、主様の鼻からは
血が流れ始めていた
目も充血し始め、血が流れそうである
なにかやばいと感じとったルナは
「主様!」
ドンッと主様を付き飛ばし、両手を離れさせ、私達は
二人とも勢い良く床へと転げる
そして両肩を掴みグラグラと揺らすと
「あ、る、ルナ・・・」
主様はぼーっと私の顔を眺めている
「大丈夫ですか?
流石にやりすぎですよ・・・」
布で血を拭きとって上げるが、未だにぼーっと
している
すると、すっと右手を上に上げて主様はマギを放ち
始めた
そのマギは徐々に掌の上をぐるぐると舞はじめ
バチバチと何かが形成されていく
やがてそれは一つの木材となってゴロンと床に
落下するとともに、主様は気を失った
ルナは驚愕していた
その作り出された木材は先ほど取ってきた木材と
全く同じものに見える
とりあえず主様は気を失っているだけで、特に問題
はなさそうだ
体を担いで、ベッドへと運び横にならせ、今作り
出されたであろう木材を手に取ってみる
しばらく立ったのにもかかわらず、この木材は消える
ことが無い
普通は魔法から作り出された物はマナが無くなり霧散
してこの世から消えてなくなるはずだ
それはその人が創造したもので実物では無いからだ
森から取ってきた新品の木材も手に取り比べてみるが、
そこに違いは何一つないように見える
そしてこの現象がなんなのかなんとなくわかっていた
「・・・これが生成魔法」
主様はついにやった
本に書かれていただけの魔法を数か月で実際に
再現することに成功したんだ
でも、よくよく考えたら一度自分の服を治すことには
成功しているんだからいつかはできるだろうとは
思ってはいたのだけれど
「流石は主様ですね」
まだまだ、幼い少女の顔を覗き込みルナは頭を撫で
続けた
私が目を覚ましたのは次の日になってからだった
「んー、あれ、どうなったんだっけ」
いつの間にかベッドの上で寝ている
右を振り向くとルナの顔がそこにあった
ルナも起きていたようで、ばっちりと目が合う
「主様、おはようございます」
「はぁー、またですか」
だがなんとなくだけど今回は何もされていない
ように感じる
それにギューッと抱きしめられていて少し
気持ちが良い
「今日は何もしてないですよ?
いきなり倒れてしまったので、心配して添い寝
していただけです」
「ん?うん、そう
ならいいんだけど」
まぁ、いいか、気持ち良いし
「あの後どうなったんだっけ」
私が訪ねるとルナは昨日あったことを事細かに
説明をしてくれた
だが、一切合切の記憶が無い
私達は起き上がり、昨日森から取ってきた木材と
マギから作り出した木材を並べて比べてみた
そして驚くべきことに、その木材は形含めて全く
一緒だったのである
「これが生成魔法かー
記憶が無いからなんかできたっていう実感が
わかないなー」
「全部見ていたルナが証人です」
「いや、まぁ、実際ここにこうして二つあるから
疑いはしないんだけどね」
またやってみればなんとなくコツを掴めるかも
しれないし、一回できたんだったらまたできる
だろうから、焦らなくてもいっか
「ところで話が全然変わるんだけど
お風呂・・・入りたくない?」
「入りたいです!」