第39話_初めての服屋
東側の区画には武器屋や防具屋が多く並んでいて
武装した人がなかなか多い
そんな中に一般的な服屋もあるため、町を歩く人達
の姿は入りまじりの不思議な光景だった
いろんな格好をしている人が多いから私見たいな
格好をしていても特に違和感がないのだろう、
周りからの目線は少しは減った気がした
ずらっと並ぶお店の窓際には自分の店で自慢の一品
であろうものが飾られていて面白い
武器屋だったら剣や槍が、服屋だったらドレス等
が飾られ目移りしてしまいそうだ
「いっぱいあるねー」
「この道沿いを歩けば装飾品ならだいたい揃うよー」
「あっ、あの服可愛いい」
窓際に飾られたドレスを見に走って近寄る
「あ、そのお店は・・・」
アイシャが呼び止めたのも束の間、お店のドアが
ガチャッと開かれる、その瞬間
ドンッ!
と私はお店から出てきたお姉さんにぶつかった
お姉さんの身長はスラっとして凄く高く、
地面にまで届きそうな長い金髪に黒いワンピース
がどこか妖艶な感じで大人の色気が凄い
「おや、お嬢さん
いきなり走ってきては危ないだろ」
私はそのお姉さんに抱きとめられていた
香水を付けているのか、凄くいい匂いがする
「ごめんなさい、ぶつかってしまって」
謝罪とともに一歩後ろに下がる
「んーーー?
お主、見ない格好をしているな」
お姉さんは目を細めて私の全身を撫でるように
見てくる
そして、次第に震え始めた
「ほぉ、ふーん、え?、ごくりっ」
徐々に震える手を私へと伸ばしてくるので
なんだか少し怖くなり、じりじりと足が下がる
そんな警戒をしているのにも関わらず、お姉さんは
気づかない間に私の周りをくるくる周りながら、
服を観察し始めた
(え、この人いつの間に・・・)
自分の目でも全然捉えることができなかった・・・
それに服が触れていることや体を触れていること
さえも認識するのに時間が掛かった
しかし、考えているのも束の間、お姉さんはいろんな
ところを触りながらぶつぶつと呟き始める
「これは一体なんの素材でできているんだ
一つの素材ではないな
それに布は凄くやわらかいのに、刃を通せそうに
ないくらいの強度がある
はっ、これはもしかして魔力・・・魔力を流せる
ような構造にしていることで強度を保っているのか、
毒とかも防げるようにところどころの装飾に仕掛け
があるのも凄いな」
それからもしばらくぶつぶつとお姉さんは呟き
続けた
「あのーーーー!」
いつまでも触り続ける彼女に大きな声で呼びかける
だがしかし、彼女には届いていないのか反応がない
埒が空かないので彼女の手を掴んで、引きはがしに
掛かろうとするが
すかっと躱されてしまう
(えっ・・・)
何度も何度も掴もうとするが彼女を捉えることが
できない
「主様が全部躱されてる・・・」
追いついて後ろから眺めているルナも驚愕させ
らていた
ルナにはどちらの動きもわずかにしか見えていない
その速さの中で、あの人は全てを躱しきっているのだ
「はぁ~、堪能させてもらったぁ」
そういうとお姉さんは頬に手を当てなぜか顔を赤く
染め上げていた
「はぁはぁはぁはぁ
なん、なんですか、あなたは」
わずか数分の出来事なのにも関わらず息が上がる
いくら全力で身体強化をしていなかったとしても
こんなことは今まで無かった
「おっと、これは失礼お嬢さん
私はこの店の店主をしているものだ
あまりにも着ていた服が珍しくてな、ついつい
手が出てしまったのだ、すまないすまない」
ただの服屋の店主ではない
この人は自分の強さを隠している、私と同じように
「そう、ですか・・・」
「ところで、ウチに何か用かな?」
「いえ、そこに飾ってあったドレスが凄く可愛かった
ので近くで見ようかなって思っただけです」
「ふむ・・・
べたべた触ったお礼と言っては何だが、中を
見てくかね?」
そういうと、アイシャが止めに入った
「ステラお姉ちゃん!ここはダメ!
他のところにしようよ」
「え?なんで?」
「ここは貴族の人とか領主様とかが御用達にしている
すっごく高いお店なの
あたし達みたいな庶民が入れるお店じゃ・・・」
「あー、かまわんかまわん
そもそも、このお嬢さんが着てる服は貴族が着てる
服の何百倍も凄い服だ
ウチの店にだってこんなの売ってやしないよ」
「え?」
アイシャは驚きつつこちらを見てくる
しかし、私も服の価値なんてわからない
そもそも、他のを見たのが初めてなくらいなんだから
でもお師匠様の作ってくれた服ってそんなに凄いの?
タダの趣味だけじゃなかったんだ
「まぁ、立ち話もなんだ
入っていくといい」
お姉さんは長い髪とともに翻し、店の中に入って
いった
私達3人はお互いに顔を見合わせ、コクリと頷き
あってから後に続いた
お店の中にはたくさんの洋服が並んでいた
色鮮やかなドレスだったり、シンプルなニット
だったり、女性用から男性用まで幅広い品揃えだ
それに部屋の中はとてもいい匂いがした
「あっちのソファで待っていてくれたまえ
お茶を入れよう」
私たち3人の場違い感は凄い
2人は戦闘用で動きやすい服だし、一人は宿屋で
働いているときの服で、周囲にはお貴族様しか
着れないような綺麗な服ばかりだ
「しっかし、すごいねぇ」
「あ、あ、あたしもこういうところは初めて
きました!」
アイシャはカチコチになってだいぶ緊張している
ようだ
私とかルナはそもそもお店自体が初めてだし他を
知らないので、なんとも思ってはいないが・・・
逆にさっきの店主の動きを思い出してしまうので
そっちの方が気がかりだ
「失礼します」
店主では無く別の女の人がお茶をテーブルへと
置いてくれる
店主さんは反対側のソファへと腰をおろした
「さて、さっきは失礼したね
私はここの店主をやっているスピカだ
こっちはメイドのシルマ」
スピカはお茶を飲みながら自己紹介をしてくれた
シルマと呼ばれたメイドさんも身長が高く白と黒
を基調としたフリル付きのドレスを着ている
「次はこちらですね
私はステラ、こっちがルナで、アイシャです
私たち2人は旅をしていて、たまたま泊った宿の
娘さんになります」
それぞれ自己紹介をすると、スピカはじーっと
アイシャのことを見つめていた
それに気づいたアイシャもさらに緊張がまし、
手に持つカップがカタカタと震えている
「そう、ところでお主の服は本当に凄いな
ここらへんでは見ないが、誰が作ったんだ?」
いきなりだったから話のネタも無いので、お師匠様
がどうやって作ったのかを知っている限りで説明した
「へぇ、それじゃあその服はお主の髪の毛から
できているのか
凄い考え方を持つものがおったのだな」
妖艶な瞳がずっと私の服を眺め続けている
「私のお師匠様は少し変わっている人だったので・・」
「もしよかったら、もっと良く見せてはくれないか?
お礼と言ってはなんだが、好きな服をプレゼント
しよう、ここにあるものですまないけどね」
「え、良いんですか?
高いのでしょう?」
「かまわないさ、言ってはなんだけど私も趣味で
作っていたら貴族に売れるようになっただけで、
元はお主の師匠と同じだよ」
世の中には酔狂な人たちがたくさんいるのかな
「ははは
それじゃあ、お言葉に甘えて」
「シルマ、お嬢さん達のコーディネートを頼んだよ」
「はい、ご主人様」
それからはシルマのコーディネートによって、
私達3人に合う服を見繕って貰い、品評会が始まった
スピカはずっとユリの出来を観察したり、伸ばしたり
していじり倒している
少し心配ではあったが、服を作っている主でもあるし、
服に危害を加える人ではないだろう、たぶん
そんなこんなでシルマさんから選んで貰った中で、
ニットにチェックのスカートとシンプルなデザインな
もので落ち着いた
初めて3人で買い物にきた記念ということもあり、
なんとなく合わせたくなったので色は違うものの同じ
デザインにした
途中ちらりと値段を見てしまい、あまりの丸の多さに
驚愕する
(これだけで20万ジウム・・・
よし見なかったことにしよう)
さらには髪の毛まで綺麗にとかして結って貰ったが、
私とルナはこの時心底あれが必要だと感じていた
「おや、これはこれは
皆可愛いじゃないか、どうだい?
気に入ってもらえたかな」
ユリの出来を粗方観察、調査?を終えたスピカが
着替えを終えた私たちの元へやってきた
「はい、とっても
着やすいし、可愛いしでもったいないくらいです」
「そんなことはないさ
服に着られることもなくとても幻想的で
似合っている
こっちも服を見させて貰って大満足だよ」
「そう言って貰えるととても嬉しいです」
ちょっと恥ずかしいが大絶賛された
「せっかくだからそのまま着て行くといい
お主の服は持っていきやすいようにしておいた」
ユリは綺麗にたたまれて袋に入れて渡してくれた
流石は服屋だ、服が痛まないように配慮している
「なにから何までありがとうございます」
「いいや、また会えるのを楽しみにしているよ」
私たちはお店から出て、スピカ達と別れた
まさか服を見るだけでなく、手に入れることが
できるとは思ってなかったから満足だ
「し、死ぬかと思ったよ・・・」
アイシャは未だに震えている
「そういえば服を着ている時もずっと震えてたね」
「だって、一生入ることのないお店だと思ってたし、
しかもあたしまで貰っちゃってずっとドキドキ
だったんだよ
でもお姉ちゃんたちがいなかったらあのお店の服
なんて着ること無かっただろうし、お姉ちゃんたち
には感謝しかないよ」
「ルナはどう?」
「ルナは主様と一緒の服が着れて満足です」
なんか少しずれている気がするけど、気に入って
いるようだしまあいいか
「よし、次はアイシャのお使いを済ましに行こうか
また、案内よろしくね」
「えっとー、食材とかの買い出しだから、ここから
だと町の反対側だね」
同じ格好をしている少女3人衆だということも
あってか、今度は別の意味で周囲の人たちから注目
を浴びつつ町の西側へと足を運んだ
「ご主人様、いかがでしたか」
スピカとシルマはソファに腰かけ一緒にお茶を飲む
「うーん、そうだね
凄い子達だったね、特にあのステラとルナって子は
相当強いんじゃないかな
あの年であの速度、今後が楽しみだ」
「そこまで言うなんて珍しいですね」
「着ていた服も凄いものだったよ
よほど師匠はあの子のことを気にかけていたんだね
それに、あの子達はまだ何かを隠してる
ふふふ、一度吸ってみたいものだな」
「また悪い癖がでてますよ
最近やりすぎて目立って着てますし、少しは自重
した方が良いかと」
「わかってるよ
シルマは心配性だなー」
お茶を飲みながら話すスピカはとても上機嫌だ
「まぁ、そのうち嫌でも会うことになるだろうさ
次は彼女に決めたからね
楽しみだなぁ」
顔を赤く染めながら天上を仰ぐスピカにシルマは
溜息をつくのだった