第38話_町の散策
ええええええええええええええええ!
建物全体から驚愕の声が響き渡った
あ、あの5つ星のダガンさんが一撃で・・・
38歳なのにハンター一筋で独身のダガンさんが・・・
トレントだって一人で倒せるあのダガンさんが・・・
毎年アンナさんに振られ続けているのに未だに告白
をし続ける勇気をもつあのダガンさんが・・・
周囲からはダガンのプライバシーがだだ漏れであった
そのダガンは床に突き刺さったままピクリともしない
(可愛そうに・・・)
「お、お嬢さん強いんですね」
アンナも驚きを隠せないようだ
受付用紙を手に握ったままプルプルと震えている
「主様はもっと強いです」
ルナはアンナへ向き直り訂正した
「あ、ええ、ええええ」
アンナは私の方を見てくるが用紙の催促をする
「あ、ああ、こちらが受付の用紙になります
名前とか今住んでるところとかを書いて貰った後、
最後に血判を押してもらえば登録完了です」
「主様、ルナは文字を書けません」
「ああ、いいよ
私が書くから」
お師匠様からある程度のことはできるようにと
生まれてから勉強させられてきた
だが、ルナにとっては森で生活できれば良かった
ため、文字の読み書きとかはどうでもよかったのだ
渡された用紙につらつらと私とルナの分も書いていく
「ルナって何歳だっけ」
「11です」
隣から覗き込むような形でルナも一緒に用紙を見る
目の前のアンナはその書かれている用紙を見て
さらに驚愕していた
(9歳と11歳・・・
とんでもないわね・・・)
今までのやり取りでもう少し年齢的には上だと思って
いたのだが、まさか遥かに下だった
しかも主と呼ばれている方は10歳にもなっていない
「よしっと
お姉さん、書き終わりました
お金はいつ払えば?」
「あ、え、ええ、ありがとうございます
今から一週間後に訓練が開始されますので
初日に持ってきて頂ければ大丈夫です」
「わかりました
後は他に何かありますか」
「特にはありません
こちらで手続きをしておきますので
今日はもう大丈夫です」
「やった、じゃあいこっか
早く町を見て回ろう!」
私はルナの手を引いて静まり返った建物の中を
歩いていく
そんな私達を全員で見つめてくるのが凄く
恥ずかしく、急いで外へ出た
私達が出ていった後も建物の中は騒然としていた
あの少女達は一体何だったんだとハンターギルドでも
商人ギルドでも話のネタになっていた
「アンナさん、あの子達は一体・・・」
「私もわからないわよ
ただ・・・」
先ほど書かれた用紙をテーブルに出す
「9歳!まじかよ・・・
やった方は11歳か、ダガンがそんな子供に
やられちまうなんて・・・」
テーブルの周りには大勢のハンターで人だかりが
できている
そこに
「おお、どうした
皆で揃って何かあったか?」
一人の男が人だかりの間から顔を出す
「あ、バジル―ルさん
実は・・・」
バジル―ルは騎士であるとともにハンターでもある
ガインも同様だが、昨日の戦闘で負傷したため今日
は一人でギルドを訪れていた
アンナから一通り何があったかを聞くと
「ステラに、ルナか
確か昨日この町に来た女の子二人組の名前と一緒
だな」
実はバジル―ルもこの二人を探していた
昨日魔物との戦闘でガインが負傷し気絶していた
のにも関わらず、近くには魔石の取られた魔物が
死んでいた
そこにいたはずの少女達の姿もなく、何があったの
かを聞きたいところだったのだ
「この二人を知っているのですか?」
「ん?あ、ああ
昨日ガインが町の外で魔物にやられたのは報告した
だろう?
その襲われた時にちょうどそこにいたのがこの二人
だったんだ」
その話を聞きアンナは少し思案しながら
「もしかすると・・・
その魔物をやったのはその二人かもしれません」
「まさか?
あんなに小さい子供にガインが負けた相手を倒せる
とは到底思えないんだが」
説明をするときにダガンが可愛そうだから名前は
伏せていたのだが
「実はやられたハンターというのはダガンさん
なんです」
その話を聞いたバジル―ルは驚愕していた
「いや、ダガンって5つ星だろ?
俺たちと同じランクだぞ・・・そんなまさか」
アンナはバジル―ルの後ろを指さした
ハンターの何人かが床に突き刺さったままのダガンを
掘り起こす
そこから出てきたのは頬が陥没した情けない男の
姿だった
「まじかよ・・・」
そんなダガンの姿を見て少女達が強いことを確信する
だが、ガインがやられた魔物をやれるとは思えない
「そうだ、アンナさん!
今度のライセンス資格の教官はガインだったよな
あいつは今負傷していてだめだ
俺と交換することはできないか?」
「そう、ですね
確認は必要かと思いますが」
「すまない、頼む」
教官になれば少女達の実力を間近で見ることができる
本当にそこまでの強さがあるのか見極めてやる
「ふふ、楽しみだな」
私とルナはギルドを出てから一度宿屋へ戻って
来ていた
町を見て回ろうとしたのだが、どこへ行っていいのか
わからずマーサさんに教えてもらおうと思ったからだ
「おや、ずいぶん帰ってくるのが早いじゃないか
大丈夫だったかい?」
「ええ、少しいろいろありましたが来週から
ライセンス取得のための訓練を受けることに
なりました」
「なんだい、ライセンスを持ってなかったのかい」
「はい
代金通り1ヶ月は泊ることになりそうです」
「いいっていいって
前払いまでしてもらって、あまつさえ主人の病気
まで治してもらったんだ
今度はこっちが恩を返す番さ、何かあったら言って
おくれよ」
マーサさんは気前よく返事をしてくれた
「でしたら、今から町を見て回ろうと思ってた
んですが、どこから見て回ればわからなくて」
「だったらアイシャにお使いを頼むところだったから
一緒に見て回ってくるといいよ」
マーサさんはアイシャに案内をさせることを
提案してくれた
「アイシャ、任せられるかい?」
「任せてお母さん!」
アイシャはやる気まんまんだ
「じゃあアイシャ、悪いけど
お願いするね」
そういって頭を撫でるとえへへとにこにこと
嬉しそうだ
私達は早速宿屋をでて町の中へ繰り出した
アイシャには町の構図を一通り教えてもらった
私達が昨日入ってきた方角から西側には食べ物
だったり、日用品だったりを売っている商店街が
広がっている
逆の東側は装備品だったり、服屋だったりカフェ
見たいなのが並んでいるようだ
たくさんのお店がギルドがある建物まで続いていてる
だが、打って変わってギルドより奥の西側には私達が
寝泊りしている宿屋や住宅街が並んでいるようで
人が住むための区画になっている
反対の東側はこの町を納めている領主だったり貴族
だったりのお偉いさんが住んでいる区画なのだとか
構図としては円形状に4等分されているので非常に
わかりやすいのがこの町の特徴らしい
「まずはどこから見て回ろうか」
「主様、ルナはお腹が減りました
ご飯が食べたいです」
「そういえば、そろそろお昼になるね
どこか良いところある?」
「だったら、あたしおすすめのお店があるんだ
けど、そこに行ってもいい?」
「いいよ、アイシャにお任せする」
どのみち私達にはどこが良いかなんてわからない
マーサさんの料理もおいしかったけど、本格的な
お店の料理だ、そう考えるだけで涎が出てくる
アイシャに先導してもらい、一件のこじんまり
としたお店に入った
「こんにちわー!」
中に入るとアイシャは元気良く挨拶をする
「あら、いらっしゃい
アイシャじゃないの、久しぶりね」
中からは私たちと同じくらいの年の女の子が
でてきた
「ひっさしぶりー
フィーナも元気してたー?」
「元気も何も毎日忙しくて辛いよー
ところでそっちの人は?友達?」
どうやらアイシャの友達らしい
いいなぁ
「えっとね、宿に泊ってくれてるステラお姉ちゃんと
ルナお姉ちゃんだよ
町の案内をしてるところなんだー
お昼ご飯食べて行ってもいい?」
「いいよ、今は空いてるし
でもお客さん来てくれてよかったね
最近全然だったでしょ、心配してたんだよね」
女の子はテーブルへと案内してくれた
「えへへ
あ、えっとね、あたしの幼馴染でフィーナです」
「フィーナでーす、よろしくね」
フィーナは手を振りながら挨拶をしてくる
背中まで伸び、キラキラと光る金髪が特徴的だ
健康的な体をしていて、胸も大きい、大きい
「私はステラ、こっちがルナです
よろしくね」
ルナも軽く会釈だけする
「しっかし見ない格好してるねー
どこから来たの?」
フィーナは私の格好をじろじろと眺め、興味津々だ
「これは私のお師匠様の趣味なの
どこの国の衣装なのかはまだわかってないわ」
「そうなんだー
でも凄く綺麗、うちは好きだよ!」
余りにもキラキラと目を輝かせながら褒められた
もので少し照れくさい
「フィーナーおすすめ3つお願い」
「はいはい、少し待っててねー」
アイシャが注文をするとフィーナは店の奥へと
消えていった
「仲いいんだね、幼馴染かーうらやましいなー」
隣でルナがムッとする
「主様にはルナがいるじゃないですか」
「うーん、ルナは友達というより家族見たい
な感じだからさ
なんか違うんだよね」
「家族・・・ですか」
「友達よりも大切ってことだよ」
そういって頭を撫でてやると、恥ずかしいのか
顔を赤くしながらも嬉しそうだ
私には友達と呼べるような人はよくよく考えたら
いない
ルージュは友達といえ見た目は幼いが60超えの
おばさんだ
「あたしも、ステラお姉ちゃんやルナお姉ちゃん
見たいなお姉ちゃんが欲しいよ」
「お互い無いものねだりだねぇ~」
そういって笑いあった
しばらくするとフィーナが3人分の料理を運んできて
くれた
アイシャが頼んでくれたのはこのお店のおすすめ料理
であるオムライスと呼ばれるものだった
赤色に染められたお米の上に大きな黄色い物体が
のせられている
周りには野菜が並べられ、色合いもとても良い
「わぁ、ひさしぶりー
おいしそう!」
「ちょっと待ってねぇー」
そういうとフィーナはナイフで黄色い物体の真ん中に
切れ目を入れていく
そうすると、卵だろうか、半熟になった卵がトロリと
お米を覆いかぶさるように流れた
中からは湯気と良い香りが漂う
そこにさらに赤茶色の液体を掛けて完成のようだ
「はい、どうぞ
うちのおすすめ、ふわとろオムライスだよ!」
ゴクリッと喉のおくがなる
「おいしそう、頂きます」
スプーンで一口分を拾い上げ、口へ運ぶ
半熟の卵と味付けされたお米が絶妙に噛みあい舌の
上でとろける
「んー!
すごいね、これ」
その料理はとてもおいしかった
ルナも無言で食べ続けているということはお気に
召したのだろう
「よかった、気に入って貰えて」
アイシャは少しほっとしているようだ
フィーナもおいしそうに食べる私達の姿をみて
嬉しそうにしている
「じゃあ、うちは手伝いに戻るよ
ゆっくりしていってねー」
だんだんと人が増えてきたので忙しいのだろう
「いいなぁ、うちの宿屋もこのぐらいお客さんが
いたらいいのに・・・」
アイシャは少し悲しそうにぼそっとそんなことを
漏らした
「お父さんもそのうち治るだろうし、これから
なんとなかなるよ」
「そう・・だよね
ううん、あたしも頑張らないと」
フィーナの働く姿を見て感化されたようだ
お昼時というのもあり、混雑してきたので早々に
お店を出た
「はぁ~、おいしかったねー
今度はゆっくりできる時に来よう」
「次はどこへ行きましょうか」
「そうだねー、アイシャのお使いはいつまでに戻れば
大丈夫そう?」
「日が暮れるまでに戻れば大丈夫だよ」
「結構時間はありますね」
「じゃあ、ちょうど東側にいるから、服屋さんに
行ってみたい!」
私もこう見えて年頃の女の子だ
この町に来て、たくさんの人の服を見ていたら
ちょっとは欲しくなってしまう
今の服も凄く気に入ってはいるものの、流石に
周りの人から見られすぎて少し恥ずかしいし・・・
「服屋さんならあっちだね」
またアイシャに先導して貰い私たちは服屋さんへと
向かうのだった