第37話_ハンターギルド
(んー、苦しいな)
翌朝になって余りの寝苦しさから目が覚める
まだ完全に目を開けているわけでは無いが脳は
起き始めている状態だ
昨日は確かルナと一緒のベッドで眠ったはずだ
宿の主人の病気を治すために慣れないことをした
せいか体が凄く疲れていたことを覚えている
だが、朝になっても体はまだだるい
そこまでマギを使っても無いし、きっとここまで
の疲れが出たのかな
そんなことを思っていると
いや、そもそも息ができない
単純に息ができなくて苦しい
ぱっと目を開けると目の前にはルナの顔があった
(なにしてるの・・・)
一瞬何が起こっているのかがわからない
だが、昨日までは向こう側を向いていたルナの顔が
今では目の前にある
しかも、完全に口が塞がれていた、口で
「んー、んー!」
必死に逃げようとするが体ががっちりとホールド
されていて抜け出せない
さらにはちゅーちゅーといろんなものが吸われ
ている、マギもだ
朝起きた時のだるさはきっとマギを吸われ続けた
結果だと気づかされる
(何をしてるの!この子わ!)
体中のマギを一気に放出して無理やりルナを引き
はがしにかかる
「んーーーー!!」
ドォン!
ゴロゴロゴロゴロゴロ!
勢い良く放出しすぎたせいか体ごと吹っ飛び
床を転げまわった
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「おはようございます、主様」
ルナはベッドからすくっと起き上がり、すっとボケた
顔であいさつなんてしてきた
私のげっそりしていそうな顔とは裏腹に彼女の顔は
つやつやのテカテカだ
ピキッ!
私は立ち上がり、スタスタとゆっくりルナへ近づく
そしてにこやかに
ドゴンッ!
とルナの頭に結構な威力でげんこつをみまった
一階におりてマーサさんにご飯をお願いした
「お母さん、ルナお姉ちゃんがたんこぶ作ってる」
マーサも降りてきた二人が険悪だったのをみて
驚いている様子である
昨日は凄く仲良さそうにしていたのに
「おやおや、朝から喧嘩かい?」
苦笑いを浮かべつつ料理をテーブルに並べる
「ルナが悪いんです!」
「・・・・・ごめんなさい、主様」
「ふんっ!」
ルナは凄くしゅんとしていた
これまでこんなに主様に怒られたことは無かった
からだ
流石にやりすぎてしまったという自覚は少しはあった
でも、主様のマギはそれほど魅力的なのだ
一回吸いだしたら止まらなくなるんだから
しょうがないではないか
そんな光景をみたマーサはあらあらと飽きれ
顔になる
「アイシャも一緒に食べちゃいな」
「はーい」
「アイシャちゃんは良い子だねぇ
よーしよし」
隣に座るアイシャを愛でていると、目の前に座る
ルナはピクリと食べる手を止めてこちらを
ジーっと見つめてくる
それに気づきながらもアイシャを愛でつづけた
さて気が張れたところでまずは今日の目的だ
未だにしょんぼりとしているルナのことは無視して
マーサに話しかける
「マーサさんギルドっていうところはどこに
あるんですか?」
「なんだい、ギルドに行くのかい?」
「はい、お師匠様からはギルドに行くと良い
って言われていたので」
「うーん、まだこんなに小さいのにあんなところに
行って大丈夫かねー
まぁ、昨日の件といい普通の子供ではないか・・・」
普通の子供というのがどれを指しているのかは
さておき、私達はどうやら一般的でないのは間違い
ないようだ
「町の真ん中に大きな建物があっただろう?
あそこにはハンターギルドだったり、商人ギルドが
あったりするんだ
お嬢ちゃん達のお師匠様が言うギルドなら
ハンターギルドの方かな」
少し苦い表情をしながらマーサさんは説明してくる
なんとなくだが乗り気では無い様子だ
「私達が行くとなにかまずいことがあるんですか?」
「いやね、まずお嬢ちゃん達は小さいだろう
あそこは野蛮な奴らが多いからねー
ケガでもさせられたらと思うとね」
マーサはアイシャの顔を見ながら話す
確かに私たちはまだアイシャちゃんと対して
変わらない年齢だ
今までの生活のせいで少し大人びてしまったという
のもあるかもしれないがまだ9歳
昨日のこともあるし、心配されるのも無理はない
お師匠様ももしかしたら心配して・・・
いや魔物と実戦させるような人だ、心配なんて
しないか・・・
「とりあえず行ってみます
危ないと思ったらすぐに帰ってくるので」
「気をつけて行ってくるんだよ」
マーサさんは私の頭を優しく撫でてくれた
なんだか、少しほっとする
私たちは宿を出て町の真ん中へと足を運んだ
「主様」
「なに?」
「その・・・ごめんなさい」
ルナに対する私の機嫌はまだ悪い
「何に謝ってるの?」
「今朝のことで・・・やりすぎてしまいました」
ルナもずっとしょんぼりしている
自分ではなくアイシャのことばっかり可愛がって
いるのをみて気が気じゃない
そんな姿を見ているのもだんだん辛くなってきたな
「何をやりすぎたかわかる?」
「マギを吸い過ぎ?」
やっぱりわかってない!
「キスよ!キス!!
普通しないでしょ、普通!」
周りの人たちがギョッと一斉にこちらを見てくる
あ、声を出し過ぎた
恥ずかしくて死にそうだ
顔から火が出そうな程熱くなっているのが自分でも
わかる
「もうっ!」
スタスタとその場を急いで離れる
ルナもその後を必死に追いかけつつ
「ごめんなさい、主様の誘惑に勝てませんでした
気づいたら、いつの間にか・・・」
私はルナの方へと振り返る
「もうしないって約束できる!?」
「・・・・たまには、したいです」
「いやいやいやいやいやいや
おかしいでしょ!!
ここはしないっていうのが普通でしょ!」
だが、ルナは今にも泣きそうな顔をしていた
そういえば今朝からずっとルナと目を合わせて
いない気がする
「だめ・・・ですか?
前したときはお返しまでしてくれたのに・・・
してくれなかったら私は耐えられそうにありません」
目をうるうるさせながら見つめてくるルナ
うぐっ
それは卑怯だ
そもそも、前したときは死にそうな状況だったし
気がおかしくなっていたというのもあるだろうし
しかも、そういうのは好きな人同士がするものだ
・・・あれ、別に私はルナを嫌いではないな
むしろ好きだな
ん?じゃあ、いいのか?・・・
見つめあっていたらだんだんと恥ずかしくなってきた
「考えとくわ!
もう、早く行くよ!」
だめだ、このままではルナに押し切られる
まずは一旦保留にしてギルドに向かおう
(おしい、もう少しだったのに)
ルナはそんなことを思っていた
町の中央に佇む大きな建物
目の前には噴水があり、町の人々の待ち合わせ場所に
なっているからか人が多い
建物の正面には大きな入口があり扉は解放されたまま
になっている
多くの人が出入りしていて賑わっているようだ
「ちょっと緊張するなー」
「主様でもそんなことあるんですね」
「だって、今までこんなところ来たことないし
人とだってまともに話したことないんだよ?」
そう考えるとだんだんドキドキしてフラフラしてきた
すーはーすーはーと呼吸を整える
「よしっ、行こう!」
汗ばむ手をぎゅっと握りしめ、意を決して建てもの
へと入った
中もやはりなかなかに広い
奥には左と右に円形のテーブルがあり、そこに受付け
であろう人が二人程作業をしている
特徴的なのは左のテーブル側は武装した人たち
だったり、騎士みたいな人たちで賑わっている
逆に右のテーブル側は身なりを整えた格好の人が多い
ようだ
マーサさんの話だとハンターギルドと商人ギルドが
一緒になっていると言っていたが、どっちがどっちか
は一目瞭然だ
「ルナ、左のテーブルにいくよ」
きょろきょろしながら左側へ向かって歩いていくと、
私たちを見てくる人達がだんだんと増えてきた
左と右で人相が違い過ぎる
こちら側には顔に傷がでかでかとある人や甲冑が
ボロボロの人だったり、強面のおじさんがいっぱいだ
女の人もちらほらと何人かはいるが、私達みたいな
子供は一人もいない
そもそも、この建物の中に子供自体いなかった
ハンターギルドのカウンターであろうテーブルに
辿り着くと中ではお姉さんが二人受付をしていた
「あのー、すいません」
やっぱり誰かに話しかけるのはドキドキする
少し声が上ずってしまった
「あら、可愛らしいお嬢さん
どうしたの?迷子?」
片方のお姉さんが気づいてくれた
茶色の髪の毛は長くポニーテールがとてもよく
似合っている
「いえ、魔石を買い取りをお願いしに来たんですが」
「あらあら、お使いか何か?
こんなに小さいのに偉いわねー」
頬っぺたに手を当てながら、私たちを交互に見つつ
「それに見慣れない服装ね、ここら辺の人じゃ
ないでしょう?
そんな奇抜な格好している人なんていないもの」
クスクスと笑うお姉さん
辺りを見回すと確かに私みたいな格好をしている人は
一人としていなかった
それ以前に町中をあるってくる途中でも同じような
服を来ている人は誰もいなかった気がする
あっ、だから皆こっちを見てたのか!
「もしかして、この服っておかしいんですか?」
「そうねー
結構昔だけど、似たような格好の人はいたかしら
確かもっともっと東の国から来た人だったような
その服は民族衣装なのかしら?
まぁ、でも可愛らしいわよ」
そうなんだ、普通ではないんだ
よくよく考えたらお師匠様の趣味で作られた服だし、
普通だと思っていたのが間違いか
「はぁー
それで、魔石の買い取りをお願いしたいんですけど」
溜息まじりに本題に移る
「ああ、そうだったわね
でもごめんなさいね、ライセンスを持っていない人
からの買い取りはできないのよ
だから、お父さんとかライセンスを持っている人を
連れてこないとだめなの」
え、そんなのが必要なの?
「ルナ、どうしよう
ライセンスなんて持ってないよ!」
「大丈夫です、主様
私も持っていません」
何が大丈夫なんだ・・・
「ライセンスってどうやったら貰えるんですか?」
「え、お父さんとか連れ来てた方が早いと思うけど」
普通はそういう人がいるのが当たり前なのだろう
ただ私にはそういった家族もいなければ親族も
いないし、今私にはルナしかいない
「親はいません
私たちは二人で旅をしてここまで来たんです」
「あら、ごめんなさい
女の子二人で大変だったわね・・・
そうね、ライセンスかー、取るには取れるんだけど
一応説明聞いてみる?」
「お願いします」
お姉さんはつらつらと説明をしてくれた
要約するとこうだ
ライセンスを取るには一ヶ月間の訓練を受けなければ
ならない
座学だったり、戦闘実戦だったりがあるそうで、
その後試験を受けて合格すれば取得することができる
ただ一番の問題はその訓練を受けるために30万ジウム
の費用が掛かることだった
タダではライセンスを取得することはできないらしい
それに一度不合格になった場合はまた30万ジウムを
払い再度訓練を受けなおさなければならないとのこと
ライセンスを持っている人のことを一般的にハンター
というらしく、魔物を狩って素材や魔石を売ることで
大金を手に入れやすいがリスクも大きい
リスクとはケガだったり酷い時には死ぬ場合もある
簡単にライセンスを渡して簡単に死なれては人が
どんどんいなくなって経済が回らなくなるため、
そういう取り決めにすることでハードルを上げて
いるようだ
「30万ジウムかー」
二人で60万ジウム
今の手持ちが70万ジウム、残るのが10万ジウム程
宿はいいとして、1ヶ月の食費だけで10万ジウム
無くなるから、終わるころにはお金はちょうど
0になってしまう
一発で受からなければ破綻だ
でもライセンスがなければ、私たちに稼ぐ手段は
今のところ無い
やるしかないのだ
「主様、どうします?」
「受けるしかないでしょ
稼ぎがないもん」
このまま受けずに行っても将来的には破綻だ
「受けます!」
「本当にいいの?
正直なところ、お嬢さんたちみたいな子供が受けた
前例は一度も無いわよ?
それに60万ジウムなんて大金・・・」
ドンッ!
「おい、アンナ―
こんなガキどもの相手ばっかしてないで、
俺の相手をしてくれよー」
そこに大柄なおじさんが割って入り込んできた
大きな音に少しビクッとなり、私とルナは同時に
おじさんの方へと顔を向ける
「ダガンさん・・・
今この子達にギルドの説明をしているんです
邪魔をしないでくれませんか?」
お姉さんはにこにこした顔はしているものの
声は非常に冷たい
しかも、大きな音をたてたせいで周りの人たちの
目線が一気にこちらへと向いていた
反対側の商人ギルドの人たちでさえこちらを
見ている人がいる
「こいつらがギルド?
はっはっはっはっ!こんなガキどもにギルドの
説明なんてしてどうすんだ、まさかハンターに
なるなんていうんじゃねぇよな?」
「そのまさかよ
前例はないけれど、なれないわけではないわ」
「おいおいおいおい
ギルドは託児所じゃあないんだぜ」
おじさんがそういうと周りからも多くの笑い声が
聞こえてくる
そうだそうだー
子供はまだ母ちゃんのおっぱいでも吸ってなー!
いろんな罵倒が飛んでくる
マーサさんが言っていたのはこういうことか
野蛮というよりは常識知らずといった方が
合っている気がする
「お前らもガキの癖にわきまえたらどうだ?
ここはな、稼ぎに来てる奴らの集まりなんだよ!
ガキが来るところじゃねぇんだ」
おじさんは身長が高いし、さっきからずっと上を
見上げているからだんだん首が疲れてきた
カウンターのテーブルも高いし
「お姉さん、ライセンスの受付けお願いしても
いいですか」
おじさんを無視してお姉さんに話しかける
早く終わらせて町を見て周りたい
「え?え、ええ」
お姉さんはおじさんと私たちを交互に見つつ、
受付けの準備を始める
はっはっはっ
ダガンのやつアンナにだけじゃなく、ガキにも
無視されてんぜ
馬鹿、言ってやるなよ、あいつも一人の寂しい男
なんだぜ
周りの人たちはこの状況を楽しんでいるようだ
その周りの煽りにダガンが次第にキレ始めた
ダンッ!っと思いっきりカウンターのテーブルを
叩き、テーブルをへこませる
「・・・ガキどもが!
俺のことを無視とは少し痛い目に見ねえとわからん
ようだな
躾が必要だ」
ついにはこちらへと殺気を放ち始めた
おっ、なんだなんだ、ついにダガンが女の子相手に
キレたぜ
年上が無理だから、今度は年下かぁ?
節操がないぜダガン
はっはっはっはっ
さらにおじさんへと追い打ちの言葉が掛けられた
ピキピキとおじさんのボルテージが上がっていくの
がわかる
(私達何も言ってないじゃん)
「はぁー、ルナごめん、お願いしてもいい?」
「はい、主様」
「あ、やりすぎないでね」
ルナがダガンの方へと前に出る
「どこまでも馬鹿にしやがって!」
(いや、だから別に何もしてないじゃん)
ダガンは私に向かって掴み掛かろうとする
が
同時にルナはジャンプし、ダガンの左頬に蹴りを放つ
余りにも早すぎる蹴りはおそらく誰にも見えていない
ドゴン!
という音と共に立っていたはずのダガンは頭から
床へとめり込み、木製で作られた床へ見事に
突き刺さった
建物の中はシーンと静まり返り、商人ギルドの人たち
も手を止め全員が私達の方を見ていた
そして私は静まり返る部屋の中でにこやかに
お姉さんへと言った
「受付けお願いしますね」