第35話_ドルミーレ
町の中に入った私たちの目の前には多くの建物が
並び広がっていた
良く呼んでいた本では洋型と和型で建物がだいぶ
違うが、見た感じだと全てが洋型の建物だ
道もレンガが敷き詰められていて綺麗に整理され
ている
「わぁ、これが町かぁ」
「凄く、広いですね」
そのあまりの大きさに私たちは驚きを隠せない
今までの森生活から大一変しての大都会になったの
だから無理もない
町の中央と思われるところには大きな建物が立てられ
ており、そこから蜘蛛の巣状に道が別れ商店や民家
が並ぶような作りとなっている
数多くの屋台が並んでいたり、人でにぎわっていたり
と目移りしてめまいがしてきそうだ
きょろきょろと周りを見渡しながら少し歩くと、
目の前から兵士やら武装した人たちが門に向かって
走っていく
バジル―ルが応援で呼んできた人たちだろう
「危なかったですね」
「そうね、もう少し遅かったら鉢合わせだったね」
おそらく、どうなったのかを根掘り葉掘り聞かれ、
時間を取られることになったは明白だ
「それで主様、これからどうしましょうか」
「うーん、今日はもう少しで暗くなるし、宿を
探そう」
急いでいるわけでもないし町の中を見て回るのは
明日で良いだろう
お師匠様の本にどの宿がよさそうかが書かれていた
はずだ
パラパラめくるとお世話になった宿の名前を見つけた
『おすすめの宿、ドルミーレ』
ご丁寧におすすめとまで書いてある
こういうのを見るだけで少し心が暖かくなる
だが、どこにあるのかまでは流石に書かれては
いなかった
「誰かに聞かないとわからないかな」
「それなら少し待っててください
聞いてきますから」
「あ、ちょっと・・・」
そういうとルナは人込みの中に消えていった
「もう、しょうがないなぁ」
ルナなりにお手伝いがしたいのだろう
気持ちはわかるけど
近くにあるベンチに座りルナを待つことにしよう
足をぶらぶらさせながら人が通っていくのぼーっと
眺める
お師匠様や私と似たような顔をした人達が道を
行きかっているの見ると凄く不思議な感じだ
今までは私一人だけがこの世界に取り残されている
ような感覚になっていたが、こんなに多くの同族が
この世の中にはいるんだという安心感があった
しかしながら、先ほどからちらちらとこちらを見て
くるものが何人もいる
クスクス笑っている者も中にはいた
何だろう
私はどこかおかしいのだろうか
やっぱり姿は似ているが、別の生き物なのだろうか
少し困惑しているとルナが走って戻ってきた
「主様、お待たせしました
場所がわかりましたよ」
「ありがと、いこっか」
ぴょんと立ち上がり、ルナに先導してもらう
一緒に歩いている最中でもやはりちらちら見られ
ている気がする
「どうしました?
少し浮かない顔をしていますね」
「いやね、さっきからなんかちらちら見られている
から、やっぱりなんか変なのかなって」
「なんでしょう、確かに少しそんな気はしますが・・・
別に主様におかしなところなんてありませんよ
いつも通り可愛いです」
ルナからそんなことを言われると少し恥ずかしい
容姿的にはほとんど一緒だし
「ところで、宿なのですが・・・
あまり良いところではなさそうですね」
「ん?
でもお師匠様がおすすめするところだから
それなりのところなはずだけど」
「私も詳しくは教えてもらえませんでしたが
行ってみたらわかるそうですよ」
人づてで聞いただけだから、もしかしたら勘違い
しているだけかもしれないし、見てみないと
わからないよね
「とりあえず、まずは見てみよう!」
・・・だが、実際に宿についてみると確かに
良いところではなさそうだ
入口のドアは汚れ、建物自体も結構ボロボロ
手入れされているようには到底思えない姿だった
もしかして宿の名前が違うのではと思いもしたが
汚れた看板にはきちんと
『ドルミーレ』
と書かれている
「主様、本当にここであっているのでしょうか?」
あっているはずだ、名前も確認した
ゴクリッ
私たちは二人で宿の前に佇む
「ま、まぁ外見がそう見えるだけで
な、中はまともなのかもしれないし」
周りの建物と比較しても明らかにここだけ別空間の
ように感じてしまう
他にも宿と思えるような建物は何か所かあったが
どれもここよりは遥かに綺麗ではあった
「とりあえず、入ってみよう!」
私は恐る恐るドアへと手を掛ける
ドアは重くギィッと少し擦れる音がした
中に入るとやはりというべきか、外装と余り変わらず
内装もそこまで手入れがされていない
言ってしまえば汚い
これなら元の家やシルファさんの家の方が何倍も
マシであろう
中は薄暗く明かりもほとんど無い
「誰もいませんね」
「うーん
すいませーん!誰かいませんかー!」
少し声を張ると廊下からドタバタと走ってくる音
が聞こえる
「はいはいはーい」
薄暗くて良くは見えないが小さい女の子がでてきた
髪は肩までと短く、茶色の瞳と同じ色だ
少し大き目のエプロンをひらひらとなびかせている
その少女は私達と同じくらいの年だろうか
「お客さんですか?
泊っていってくれるんですか!?」
入口まで掛けてきた女の子は目をキラキラさせながら
口早に聞いてくる
「え、ええ
泊ろうと思って入ったんだけど・・・」
「ホントですか!
ありがとうございます!
おかあさーーん!お客さんだよ!」
女の子は元気よくスリッパをぱたぱた鳴らしながら、
また奥へと走っていってしまった
「主様、いいのですか?本当にここで
他にも宿はありますけど」
「そ、そうね
でもお師匠様がお世話になった宿みたいだから
一日ぐらいならいいよね?」
「主様がそういうのでしたら・・・」
女の子が呼んできただろうお母さんは大柄な
女性だった
少し太めだが健康そうな体つきをしていて白い
エプロンと三つ編みの髪の毛がとても似合っている
まさにお母さんって感じの人だ
「おや、お客さんてのは嬢ちゃんたちのことかい?」
「あ、はい
泊れますか?」
「こんなに可愛らしい子達は久々だね
ただね、あたしがいうのも何だけど、こんなボロい
宿で良いのかい?
見たところお金には困って無いんだろう?
他に良い宿なんていっぱいあるよ?」
私達の身なりを見て少し困惑気味のようだ
やっぱり私たちの服装はそれなりに見えるのだろうか
「昔私のお師匠様が良くしてもらった宿みたい
だったので、立ち寄って見たのですが・・・
マクスウェルという白い髪の人なんですけど
知っていますか?」
「マクスウェル・・・・・・・
あー、いたよ、いたいた
唯一無二のなんちゃらさんだろ?
懐かしいねぇ」
(やっぱりあれはどこでも言っているんだ・・・)
「もうかれこれ10年以上も前になるかな
よく泊っていってくれたもんだ
あっ、そういえばいくらか付けもあったけか・・」
(お師匠様・・・何してるんですか)
「その、すいません
私が立て替えますんで」
「いいよ、いいよ
お嬢ちゃん達の責任じゃないさ」
それでもなんか気まずい感じがしてしまうので
後で何か手伝いでもしよう
「そういえばまだ名前を言ってなかったね
あたしはマーサ
あの子は娘のアイシャだ」
「私はステラ
この子はルナです」
「ステラちゃんにルナちゃんだね
うちの娘と対して変わらないのにしっかり
してるねぇ
部屋へ案内するよ、部屋は一つで良かった?」
「はい、問題ありません」
マーサさんは2階の部屋へ案内してくれた
宿の中も結構年月がたっていて補修もされていない
ためか、歩く度にギシギシと音がなる
(これ、崩れないかな)
ちょっとばかし不安だ
部屋の前に付くと宿の説明をされた
「ここが使って貰う部屋になるよ
一泊3000ジウム!ぼろいからちょっとばかし
他の宿よりも安い程度だ
ご飯は言ってくれれば作るよ、有料だけどね」
初めて町に出てきたので相場はよくわからないが、
本で読んで得た知識よりも遥かに安くは感じる
この世界の共通通貨はジウムだ
1,10,100,1000,10000と0が一つ増えるごとに使う
硬貨が変化する
私は宿泊料として1000ジウム硬貨を3枚マーサに
渡した
「まいどあり
ま、気軽に泊って行ってちょうだい
他に客はいないから」
そういうとマーサは下の階へと戻っていった
「大丈夫かな、この宿」
私とルナは部屋を見渡す
部屋は一応手入れはされているらしく、埃っぽさ
は無い
ただ、ベッドが二つとテーブルが一つ、クローゼット
が一つの凄く簡素な空間だ
「主様、明かりがつきません
というよりこのランタン中身が入ってません」
「えー、私も予備の蓄光石はもってないよ?」
普通だと中に蓄光石という光や魔力を蓄えることで
光を放出することのできる石があるはずなのだが
私もランタンの中身を確認するが中には何も入っては
いなかった
宿の中もところどころ薄暗い理由はこの石を買う余裕
も無いということ
宿もボロボロだし、いつつぶれてもおかしくない状態
だということだ
「うーん、あのさルナ・・・」
ルナは引きつる顔をこちらに向ける
「・・・なんですか?」
「この宿を立て直してみようと思わない?」
「思いませんが」
ルナは即答だった
珍しく即答だった
「いや、一応お師匠様もお世話になったっていうし、
付けもあるみたいだし
何かお手伝いできないかなって・・・」
「確かに助けることはとても良いことだと思います
ですが、見た感じものすごくボロボロ
直すにしても新しく立て直した方が良い状態ですよ?
流石に労力に見合ってません」
ルナの言うことはごもっともだ
私もお師匠様がお世話になったというだけで、
そこまでする理由は特には無い
(まぁ、明日すぐにこの町を出発する気もないし、
もう少し考えても良いかもしれないかな)
「それはともかく
主様、よくお金なんてもっていましたね」
「あー、お師匠様が最後に残しておいてくれたんだよ
全部で80万ジウムぐらいはあるかな」
旅に出るであろうということでそれなりにお金は
用意されていた
後は途中で狩った魔物とかの素材を売ればお金に
困りはしないだろう
「でも、無限じゃないからね
明日は魔物の素材を買い取ってくれるところへ
行こう」
「ギルドと呼ばれるところですね」
「そうそう、そこに行けば物を売れるはずだよ
そしたらこの町を見て周ろっか」
明日の予定を立てているとルナのお腹からぐ~っと
可愛らしい音がなった
「お腹すきましたね」
「そういえば昼から何も食べていなかったね
マーサさんに何か作って貰おう!」
有料ではあるが、言えば作ってくれるって言って
いたし
私たちは部屋をでて一階へと向かった