第34話_イングラムフォート
「ルナー!見えてきたよ、町だー!」
私はいても立ってもいられず走り出す
私たちが出発してから2日が立ち、なんとか昼のうち
に初めての町イングラムフォートが見えてきた
お師匠様との家をでてからいろいろあって半年以上
掛かってしまったがたどり着くことができた
イングラムフォートは周りが高い壁で覆われた
なかなか大きな町だ
森の近くで魔物の発生が多いからだろう、頑丈な
作りをしている
初めての町、初めての他の人で期待が高まっていた
ルナやルージュ、シルファさんともあってはいるが
いずれも人の形を取った違う生き物だ
本物の人間と合うのはこれからが初めてである
いわば私の同族達だ
「主様ー、待ってくださーい!」
町の入口まで近づくと二人の兵士が立っているのが
見えてきた
甲冑を身にまとい腰には剣を携えている
「誰か立っていますね」
「多分見張りじゃないかな、ほらここらへんて森の
近くだし、魔物が多いから
しっかし、近づくと大きな町だねぇ」
兵士もこちらに気がついたのだろう、声を掛けてきた
「お前達、止まれ」
兵士二人は私達の目の前に立ちはだかり、腰の剣に
手を掛ける
なぜか戦闘体勢だ
「この町の人間か?見ない顔だが」
一人は体系が良くがっちりとした強面の男だ
もう一人は痩せてはいるがきりっとした面持ちを
している
私はルナよりも前に出て
「初めまして、私はステラと言います
こちらはルナ
私達は旅の途中で、この町に立ち寄りました」
なるべく荒事にならないように話をする
兵士の二人はこちらを怪訝そうな顔で見つつ
「こんなに小さい子供がそんなに丁寧に話すなんて
貴族か何かか?
お前たち親はどうした?
まさか二人だけか?」
未だに手は剣を握ったままだ
流石にまだ小さいし、そういう疑問が出てくるのも
無理はないだろう
「はい、両親はいません
唯一の家族であったお師匠様も1年前に死んで
しまいました
今は二人でこれからどうしていくのかを探している
途中です」
同じ人間に出会ったからだろうか
なんとなく自分の話を聞いてほしくなってしまい、
話していたら悲しくなってきてしまった
そんな俯く私に、ルナが手をぎゅっと握りしめて
くれる
「ガイン、流石にこんな子供に詰め寄ったら可愛そう
ではないか
それに身なりからしても、きっと良いところの
出だろう
服は見たことはないが怪しくはなさそうだ」
まぁ、良いところの出では決してないのだが
強面の男はガインという名前らしい
もう一人の兵士がガインの前に出てきて私達の
目線に合うように屈んで話をしてくれた
「ごめんなお嬢ちゃんたち、俺はバジル―ル
最近人型の魔物が増えててな、すこし警戒
しているんだ
こいつは顔が怖いだけで、内面は良いやつなんだ
許してやってほしい」
バジル―ルは笑いながら話してくれる
ガインも剣から手を離しその隣に屈んだ
まだ少し怪しみをもっているのだろう、警戒は
解いていない様子
「いや、しかしだな
荷物も何ももたずに旅をしているのだぞ
少しは怪しめ、バジル―ル」
ガインは嫌なところをついてくる
確かに私もルナも荷物は一つももっていない
全ては指輪の中にしまい込んであるからだ
だが、指輪のことはお師匠様からも言わない方が
良い言われているし・・・そうだ
「荷物は道中で魔物に襲われてしまい、
そのまま置き去りにしてきてしまったのです」
嘘ではなない、嘘では
ルージュやハデスに襲われて無くなった荷物はある
「そうかそれは災難だったな
この町は守りが硬い、ゆっくりしていくと
良いだろう」
バジルールはガインとは裏腹に優しい言葉をくれた
ガインはまだ怪しんでいるようだが・・・
しかし、人型の魔物かー
ルナも言ってしまえば人型の魔物だよね
聖獣だけど
「主様」
今まで黙っていたルナが握っていた手にぎゅっと力
を入れ、上を見上げている
ルナが見ている方を私も見ると、壁の上には羽を
生やした一匹の魔物が座っていた
「兵士さんたち、もしかして人型の魔物というのは
あれのことですか?」
魔物の方へと指をさす
「ん?」
すぐに二人の兵士はその姿を見るとギョッとした
顔になった
「あいつだ!
バジル―ル!急いで応援を呼んでこい!
お前達も急いで町の中へ入れ、早く!」
ガインはすぐさま全員に指示を出し、腰の剣を
抜き放った
バジル―ルは町の中へと走っていく
壁に座っている魔物は初めて見るタイプだ
羽を生やし、角があるが女性のように見える
「主様、どうします?」
「うーん、兵士さんのもってる武器だと届かない
だろうし、助けてあげよっか」
そんな会話をしていると、魔物もこちらの視線に
気づいたのか、戦闘体勢だ
距離が遠いからわかりにくいが、おそらく森の中の
魔物より少し強いくらいだろう
ガインもそれなりに鍛えてはいそうだけれど、
一人ではやられてしまいそうだ
「お前達早く!
あいつは強い!何人もあいつにやられているんだ!」
ガインが叫ぶ
それと同時に魔物は羽を羽ばたかせ壁から急降下
してきた
「くそっ!」
ガインが動こうとするが、それよりも早く
私はいつものようにマギでワイヤーを作り出し、
スパンッと振るう
しかし、魔物は片方の羽を動かしワイヤーを避ける
高速で滑空しているのにも関わらず、瞬時に避ける
その機動性に少し驚いた
それに・・・
「主様、あの魔物見えてますね」
ルナが隣に立ち相手の動きを観察している
ガインはなんで魔物が避けるような行動を取っている
のかがわからないでいる様子
「マギを使えるのかな?」
マギを使える魔物はルージュ以来だ
使える種族はなかなか珍しいはず
けれどルージュのように話せるわけではないみたいだ
「この距離では攻撃が届きませんね」
ルナが拳を握りしめながら顔をしかめる
「大丈夫、私がやるよ」
しかし戦闘体勢に入る前にガインが私達の前に出て、
魔物を迎え打とうと剣を構える
「何をしている、早く町の中へ急ぐんだ!」
そうこうしている間に魔物はもうすぐそこまで
来ていた
近くで見ると羽と角が生えていること以外は人間の
女性と対して変わらない
「キシャアアアア!」
魔物はマギを右手の長い爪にかき集めて鋭い刃を作り
出している
突進している速度もあるし、流石にあれで突かれては
甲冑と言えど簡単に貫かれてしまいそうだ
だがそれに対してガインも全身を覆う程の気力を
放出している
やはりなかなかに鍛えているようでガインも強い
ようだ
「はぁあああああ!」
高速で突進し突かれる爪
ガインも気迫とともに魔物に向かって剣を振り下す
ガキィイイイン!
と甲高い音とともに爪は剣で逸らされガインの右肩を甲冑ごと貫く
が振り下した剣は魔物の右肩から腕を上手く切り
落とした
「んぐぅ!」
「キシャアアア!」
両方共に声を上げる
どちらも負傷はしたものの、甲冑を着ていた分ガイン
の方が軽傷だろう
だが、先に追撃を仕掛けたのは魔物の方だった
肩口からだらだらと血が流れているのもお構い無しに
今度は右足にマギを集中し、ガインの脇腹へと
強烈な蹴りを放つ
剣を振り下した体勢から防御に入ることができず
ドゴンッ!
と鈍い音を立てながら町の壁へと吹き飛ばされた
壁に叩きつけられたガインの甲冑は大きくへこみ
口からは血が流れて意識を失っている
その姿を見て
「キシャシャシャッ」
と妖艶な笑みを浮かべる魔物
本当に人間見たいだ
そんな顔を今度はこちらへと向けてくる
戦い慣れをしているのか、次の攻撃に移るのが
思ったより早い
「ルナはガインさんを見て上げて
こいつは私がやるから」
「・・・・わかりました」
ルナは少し不服そうだ
ハデスの一見もあってからか私が戦うことを余り良く
思っていない
だがしっかりとガインの元へと向かうを姿を見て、
なんだかんだ言うことは聞いてくれるんだよなぁ
と思う
てくてくあるっていくルナの後ろ姿を見つつ
「さて、ちょっと試してみたかったんだよね」
手負いではあるが久々に強そうな魔物
ちょっと楽しみではある
私は押さえ込んでいたマギを徐々に辺りに放出
していく
魔物もマギが使えるからだろうか、周囲に漂う
マギの量に感づき、何かがおかしいと悟り始め
笑っていた顔がいつの間にか真剣な表情となる
さらにどんどんマギの量を増加させていくと、
魔物の口元は引きつり始め、足が一歩後ろへと
下がった
だが、判断が遅かった
私は辺りにまき散らしたマギに圧を一気に掛ける
「グラビティバインド!」
ズンッ!と周辺の地面が割れ、魔物の体は地面へと
押しつぶされる
ハデスが使っていた魔法をオリジナルで再現した
魔法だ
押しつぶされた体を何とか起き上がらせようとする
が、さらにマギに掛ける力をどんどん増加させていく
それに伴って辺りもメキメキと音を立てながら地面に
亀裂が入っていき、ついには顔が地面にくっついた
しだいに魔物の体も平たくどんどん押しつぶされ
ていき、魔物の口から血が零れ、切られた肩からも
血が吹き出し続ける
もはや呻き声を発することも許されなかった
そして最後は
「黒槍!」
黒い鋼の槍を魔物の頭上に作り出し、頭部を貫いた
お師匠様の言いつけ通りきちんと止めを刺しに掛かる
魔物はピクリとも動かなくなり絶命した
「ふぅ、意外と上手くいくもんだなぁ」
試しにやってみたら思いのほか上出来だったので
満足である
「主様、今のは・・・・」
「ああ、ハデスの魔法を私の魔法に置き換えて見た
んだけど、どうだった?」
「凄いですけど、嫌な気分ではありますね
私は目の前で主様が串刺しにされているのを
見ていますから・・・」
やっぱりルナには不評だったか
嫌な思い出だもんね
「ごめんね、ちょっと試してみたかっただけだから」
「黒い槍はできれば使わないで欲しいです」
ルナから要望が出てくるのは中々珍しい
それほど嫌な魔法のようだ
「さてどうしようか、ガインさんはどう?」
「負傷はしていますが、問題はなさそうです
念のため再生魔法はかけておきましたが」
ルナは私よりも魔法は苦手だが、問題ないというので
あれば大丈夫だろう
「そっか、よかった
それじゃあ、魔石だけ回収して町の中に入ろうか
兵士に捕まったら時間取られそうだし」
ガインには申し訳ないが、初めての町なのだ
そちらを優先させてもらおう
こうして魔物から魔石を回収して、バレないように
そそくさと町の中へと足を運ぶのだった