第33話_お礼3
リハビリを開始してから数日がたち、そろそろ雪も
溶けはじめ、春の季節がやってきている
たくさんの草木が花を咲かせ始め、私達は再び
出発の次期を伺っていた
余りにもここでの生活が心地良かったせいで忘れて
いたが、まだまだ旅の途中である
春とは旅立ちの季節で合ったり別れの季節だったり
するらしい
しかし、いつになってもシルファさんにはそのことを
打ち明けられずにいた
かれこれ数か月、自分たちをここまで面倒見てくれた
し、いきなり別れるのにも抵抗があった
「ルナー、そろそろだと思うんだけど、どうする?」
私は魔物探索の最中、ルナに相談していた
「主様も悩む時があるんですね
そろそろとはここを出るかどうかですか?」
「私をなんだと思ってるの?
まるで非常な生き物見たいじゃない?」
ルナも冗談まじりにそんなことを言ってくるが、内容
はきちんと伝わっているらしい
どこか抜けているように見えてルナもそこそこ頭が
良いほうだ
「確かに切り出しづらいのはありますね
ルナにとっても母親見たいに感じてきてます」
「だよねぇ、私も最近そう思ってるよ
ということはシルファさんも少なからず
そう思ってるってことだよね
悲しませたくはないなぁ」
そんなことを言いつつ、魔物を探しながら散歩をする
「そう考えるとルージュの時はあっさりでしたね」
「そうね、ルージュは、ほら、友達見たいな感じ
だったでしょう?それに性格が・・・ね
悲しくは合ったけれど、シルファさんは親見たい
になっちゃってるし、やっぱり切り出しづらいよね」
何かいい案はないだろうか
どうしたらそこまで悲しまずに済むだろう
うーん
「よしっ、決めた!
ルナお願いがあるんだけど!」
翌日になって、ルナとシルファさんはハデスの残した
魔物の探索へと出かけて行った
今日は休養を取るということにして、ルナには
シルファさんを連れ出して貰ったのである
残った私はというと、出発するということを切り出す
ために、お世話になったこの家の掃除とシルファさん
へ料理を作ることにした
少しでも悲しませないように
まずは掃除だ
家の中を隅々まで綺麗にしてぴかぴかにしてしまおう
魔法を駆使すればそこまで時間は掛からないはずだ
~ルナside~
主様は大丈夫だろうか
私はシルファさんを連れ出すだけだからそんなに
大した役目ではない
どちらにせよ、主様のそばにいても今回は私の
役に立てることはそんなにないからしょうがない
のだが
「今日もいい天気ですね
ルナ様にもこんなに手伝って貰っちゃって
本当にありがとうございます」
「私達聖獣も森を守るのが役目です
今回の件は流石に私としても見逃すことは
できないし、手伝わなかったら一族の恥になって
しまいます」
私としても思うところは少なからずある
ハデスと主様の戦いを見て、主様はその脅威を排除
してくれた
おそらく私だけでは不可能であったであろうし
最悪連れ去られて入れば、もっと酷いことになって
いたかもしれない
主様は気づいてはいないが、知らない間にこの森を
救ってくださっているのだ
「それに、本人はなんとも思ってはいませんが、主様
が命を掛けて守ってくれたのです
私もそれに報いなくてはなりません」
「そうですね、ステラさんには本当に頭が
上がりません
私にもこんなに良くしてくれて・・・」
シルファさんも口には出さないが思うところがあるの
かもしれない
ただ相手が人間ということもあり言い出し難い
のだろう
だからせめて娘のように扱っているのかもしれない
「主様はのんきな人です
きっとこれからも娘のように思ってくれることが
何より幸せなことだと思います
だから、主様のことをこれからも見守って上げてて
ください」
そんなことを喋っている間に魔物の集団が目に
入ってきた
「そうですね、私にもできることがあるのなら・・」
~ステラside~
「よしっ、まずはこんなものでいいかな」
部屋の中を隅々まで掃除し、キッチン周りを念入りに
掃除してぴかぴかにした
いつも料理を提供してくれるこのキッチンが一番
お世話になっただろう
新品かと見間違える程の綺麗さになったのを目の前に
うんうんと満足する私
「あとわっと・・・」
ここまでは特に考えることがない作業だが、料理は
少し違う
相手のために何を作るか、何だったら喜ぶのか考える
ことがたくさんある
食材もそこまでは多くはない
「やっぱりあれかなぁ」
私は自分の完治祝いの時のことを思い出していた
別れとはお祝いではないが、今後の皆の門出として
ならお祝いとなるだろう
「じゃあ、作りますか!」
一人意気込んで調理を開始した
レシピはすでにシルファさんから教えて貰っている
「お肉に下味をつけってー♪」
鼻歌交じりにてきぱきと下ごしらえを済ませていく
魔法を駆使しながら、味を染みこませ、鶏肉の中に
具材を詰め込む
それをハーブ等の香りのついたものや、野菜と一緒に
包み込み、ここからが難しいところだ
焼き加減が非常に難しいのである
一気に焼き過ぎてもダメ出し、ゆっくりでも
よろしくない
だが魔法の扱いには自身はある
「ほいっ!」
と炎を操作し、周りを包み込む
こんな時でも魔法は創造だ
肉の中身にマギを流し込んでどんな状態かを観察
しつつ、火であぶる
弱いところは内側から直接あぶるを繰り返す
ほどなくして、包みを開けると部屋中に良い香りが
漂った
「できたぁあ!
これは完璧なのではなかろうか!」
料理の成功に一人喜ぶ私
後は付け合わせの準備をしながら二人を待つだけだ
シルファさんとルナはしばらくして帰宅した
「主様ー、只今戻りましたぁ」
ルナが帰ってきたことを知らせてくれる
ぱたぱたと入口に向かい
「お帰りー、シルファさんもお帰りなさい」
「只今です
あら、いい匂いがしますね
それになんだか部屋中とても綺麗になって・・」
部屋から漂う匂いをくんくんと嗅ぎながら、
中を見渡している
「お腹をすかせて帰ってくると思ったので
ご飯を作って起きました」
さぁさぁと少しわくわくしながら二人をテーブルへと
つかせる
「教えてもらったレシピですが、頑張って
作って見ました!
おいしいといいのですが」
「あらあら、こんなに料理も上達してしまって
それでは頂きますね」
私は料理を口に運ぶのをじっと見つつ、胸が高鳴る
誰かに自分の料理を食べて貰うのがこんなにドキドキ
するとは思っても見なかった
パクッと一口、じっくりと噛みしめるシルファさん
「んー!おいしいです
私が作ったものより遥かにおいしいです!」
(はぁー、よかったぁー)
自信はあったものの内心ではドキドキだ
私の安堵した顔を見て、シルファさんもにっこりと
ほほ笑み返してくれる
「良く頑張りましたね」
そんなことを言われ、努力した甲斐があったなぁ
と思う
ルナは何も喋らず無言でパクパクと食べ続けている
最近わかったことだが、本当においしい場合ルナは
黙ったまま食べるのだ
ということは、やはり大成功と言って間違いは
ないだろう
「それじゃ、私も頂きます!」
こうして、初めてのお祝い料理は大成功で幕を閉じた
片付けも終わりテーブルについてお茶を飲む
ついに本題を切り出す時だ
「シルファさん
少しお話があるんですが」
私の雰囲気を察したのか、椅子へと背筋を伸ばして
座りなおす
そして、少し深く息を吸ってから
「そろそろ・・・だとは思っていました
今日の料理はそういうことなのでしょう?」
とっくに感づかれていたらしい
少し恥ずかしいな
「はい、私たちは旅に戻ろうと思います
だから、何かしたくて」
「そんな、気を使わなくて良いのに」
やっぱり顔は寂しそうである
「シルファさんからはたくさんのことをして貰い
ました
こんなのでは全然足りないくらい」
「いいんですよ、私も短い間でしたけど凄く楽しい
時間を貰いました
とても幸せでしたよ」
シルファさんは俯きながら、これまでのことを
思い出していた
そして、私とルナの顔を交互に見つつ
「ありがとう」
と深々と頭を下げた
「また、しばらくしたら会いに戻ってきます
次は楽しい旅の話でもしましょう」
「そうですね、楽しみにしてます」
それからは皆で談笑しつつ、今日はシルファさん
を真ん中にしてベッドに入った
ルナはしばらくすると寝息を立てて寝始めた
「まだ起きてますか?」
シルファさんはまだ起きているらしい
「はい」
「大切な話を忘れていました
成り行きとはいえ、魔族と戦い、それをステラさん
は倒しています
もしかすると、これから狙われる可能性があるかも
しれません」
あまりに気にしてはいなかったが、確かに気をつけた
方がいいかもしれない
「それに聖獣を狙ってのことなら今後もルナ様に
危険があるかも
どうか、ルナ様をよろしくお願いします」
やはり森を守ってきたドルイド族としては聖獣は
とても大切なものなのだろう
「もちろんです
一番の親友ですから」
私にとってもルナは一番大切な親友だ
どんなことになっても必ず守って見せる
ふふっと笑いあいつつ
「そうですね・・・
私たちもそろそろ寝ましょう」
私はシルファさんに抱きつきながら、眠りについた
いよいよ当初の目的に戻ってイングラムフォートへと
私たちは向かう
出発の際にもシルファさんが、あれもこれもと
たくさんの物を用意してくれた
「あ、そういえば本を返すの忘れてました
お返ししますね」
回復魔法に関する本を借りたままだったのを
思い出す
「ああ、あれはステラさんに差し上げます
私がもっていても役に立てることはできない
でしょうし、もしかしたらステラさんなら
あの魔法を使いこなせるかもしれません」
「良いんですか?
貴重な本なのに」
「良いんです
ステラさんになら安心してお渡しすることが
できます」
「わかりました
私が責任をもって預かりますね」
そんなやり取りをしつつ、最後に私とルナは
シルファさんに抱きつき別れの挨拶をする
「「行ってきます」」
これで最後というわけではない
また戻ってくることもあるだろう
だから、今回は行ってきますだ
「行ってらっしゃい」
そんな私たちをほほ笑みながら送り出してくれた
私達は手を振りつつ、お世話になった家を後にした