第31話_お礼1
「よしっ!なおったぁああ!」
私は床の上をぴょんぴょん跳ねたり、体を動かしたり
マギを通してみたり、体に問題がないかを隅々まで
確認した
その結果、特に異常は見られず完全に完治したようだ
むしろ、前よりも体は強くなっている気がする
一度全身がボロボロになったおかげだろうか、魔力
経路はさらに頑丈になり、マギの総量も増えている
ようだ
「良かったですね、主様」
「無事に完治してなによりです」
二人からも完治したことを喜ばれた
「何から何まで本当にありがとうございました」
だが完治したといってもかれこれ2ヶ月近く動かない
状態が続いた
これからしばらくはリハビリを続けていくことになる
だろう
「今日は完治祝いとしましょう
腕によりをかけて料理いたしましょうか」
シルファさんは腕まくりをして気合を入れ、キッチン
へと向かっていった
「ルナにもいっぱい心配かけたね」
「ルナは主様が元気になってくれればそれだけで幸せ
なのです
本当に良かった・・・」
そんなルナをぎゅっと抱きしめる
本当にいっぱい心配をかけてしまった、これからは
もっと気を付けないと
「それで、早速なんだけど、明日から私のリハビリに
付き合ってくれる?
流石に体が鈍ってしまっているだろうから・・・」
「はいっ、もちろんです!」
ルナは快く引き受けてくれた
「シルファさんにもちゃんとお礼をしなくちゃね
何が良いだろう」
「主様、治ったばかりで言いにくいのですが、
お風呂を作って貰えないですか?
その、水浴びはできるのですが、やっぱりお風呂に
入りたいです」
珍しくルナがお願い事をしてきた
そんなことならもっと前から言ってくれれば良かった
のに
いや待てよ、お風呂か、シルファさんへのお礼にも
なるかも
「ルナ!、それいい考えだね
早速今日作ってしまおうか!」
思いついたら善は急げだ
「シルファさーん、まだご飯までは時間ありますか?」
「そうですね、これから下ごしらえをしますので
後1時間以上はかかりますね
どうかされましたか?」
「いえ、少しルナにお願いされまして
少し散歩をしてこようと思います」
「そうですか、まだ寒いので厚着の方が良いかも
しれません」
トタトタとシルファさんはコートを貸してくれた
茶色のもこもこしたコートはとても暖かい
「すいません、ありがとうございます
行ってきます」
「行ってらっしゃい」
お礼を言って、ルナと二人で散歩へと出かける
こんな何気ないやり取りでもなぜか暖かみを感じた
「主様、嬉しそうですね」
「そうね、なんだか心地良くって」
さて、ルナにお願いされたお風呂作りだが、
シルファさんのお礼にもしたいのでなるべく良い
物を作りたい
作る場所も重要だろう
この家に来てからほとんどがベッドの上での生活
だったため、どこになにがあるかまでは把握
できてはいない
家自体は大きな木をくりぬいて作ってあるらしく
部屋といってもさっきのキッチンがある場所と
シルファさんがいつも寝ている寝室の2部屋ぐらい
のようだ
となれば、作る場所は必然的に外になってしまう
なるべくなら近くが良いだろうし、でも木の近くに
水場を作ってしまうと木にも悪いだろうし、少し
考えなくてはならない
外はまだ雪がちらほら残っており、肌寒かった
辺りはたくさんの木々に覆われており、本当に
森の中だ
だが、ちょうど良く家の近くに少し開けた場所が
あった
5m四方で少し凸凹はしているが、周りに草木も無く
作るのであればここが良いだろう
「ルナー、ここら辺にしようと思うんだけどどう?」
ルナにも意見を聞いてみる
もしかしたら、実は何かで使っていてダメかも
しれないし
「おそらく大丈夫だと思います」
私よりも多くの時間をシルファさんと共にしていた
ルナがそういうのであれば大丈夫なはずだ
「よし、じゃあ作りますか!」
久々にマギを使っての作業だ
ケガをしてからはそこまで大量のマギを消費して
はいない
下手になってなければ良いけど
少し緊張した状態で、マギを操作する
明らかに前よりも増加しているマギだが、体も以前
よりまして頑丈になっているせいか、今までよりも
操作しやすい
加えてシルファさんに学んだ魔法の基礎がかなり役
だっているように思えた
お風呂を作る時の大半は干渉魔法で作り上げること
になる
大量のマギを放出、操作し地面を綺麗に抉った後、
圧縮したり平にしたりして施工し、円柱状の綺麗
なくぼみを作り出すことができた
後は水が染みこんで行かないように岩をはりめぐら
せたりするのだが、今回はちょっと違う方向性で
作成することにする
岩だと体に当たって痛いので、せっかくなら平で綺麗
なものにしたい
「ルナー、あったー?」
「少し小さくはありますが、これぐらいで
どうでしょう?」
ルナは3mはあるだろう岩を運んできてくれた
その岩をくぼみの中へ置いて貰う
「うーん、多分大丈夫かな
ここからちょっと危ないから離れててね」
そう言い私は岩へ大量のマギを流し、火魔法を掛ける
魔法は想像と創造
早速学んだことの実戦だ
温度は今まで作ったことのある白炎球辺りが良い
だろう
マギの温度を上昇させ、岩をどんどん熱していく
次第に岩は赤くなりドロドロと溶け始めた
魔法としては成功である
岩全てをドロドロに溶かした後、今度は
円柱状のくぼみに合うようにマギで引き延ばしていく
全てが行きわたったのを確認してから最後の仕上げだ
大量の水をそのくぼみに投下する
ジュウウウウウ
という音とともに凄い量の水蒸気が立ち込める
水蒸気を払いのけるとそこには綺麗なくぼみ状に成形
された岩の姿があった
「よし、うまくいったみたいね」
自分でも最初で上手くいくとは思っていなかったが
マギの操作に衰えは無いようで一安心した
「うぁああ、凄いですね
あ、でもところどころひび割れがあります」
一気に温度を冷ましたからだろうかひび割れが発生
してしまったようだ
「そうみたいだね
まずは表面を綺麗にしてから修正しようか
ひび割れているところを探してもらっていい?」
私は大量の水を今度はぐるぐると回転させ表面の汚れ
を洗い流していく
汚くなった水は遠くにポイッだ
それからルナと一緒に手直しをし、綺麗な湯舟が
完成した
「どう?こんな感じで?」
「流石です、凄いです、早く入りたいです」
ルナは待ちきれない様子だ
「だめよ、今日はせっかくなのだから皆で
入りましょう」
シルファさんへのお礼もかねて今日はぜひとも皆で
入りたい
「後は汚れ無いように屋根とか壁とかを作って
いこうか」
森の中というのもあるし、流石にこれだけではいずれ
中が葉っぱだらけになってしまう
プレゼントするのだから周りの見た目も重要だろう
これだけみたらタダのくぼみにしか見えない
「うーん、お師匠様の家にあったお風呂を参考に
させてもらおうか」
良い内装が思い浮かばなかったのでとりあえず記憶
に新しい我が家のお風呂に似せることにした
湯舟の周りを堀り、そこに岩を並べていく
岩と岩の空いた空間には溶岩を流し込むことで
隙間を埋めるのと同時に岩同士をくっつけていく
「おお、なんかそれなりに雰囲気でてきた」
自分としても中々の出来ではなかろうか
次は床かな
服を脱ぐ場所や、足場が無いからこのままだと
素足が汚れたり服が汚れたりしてしまう
「ルナー、ここら辺の木って一本倒しても問題
無いかな?
シルファさんにちょっと聞いてきてくれる―?」
「はーい」
ルナはすぐ聞きに行ってくれた
周りの足場は木の板にして、四隅に柱を立てて
ある程度の囲いと屋根をつければ完成かな
頭の中でどういう風にするかを考えている間にルナが
戻ってきた
「大丈夫だそうです」
「ありがとう、あそこのそれなりにしっかりした木を
一本貰いましょう」
私はワイヤーを作り出して、大きな音が立たない
ように木を切り倒した
そこから何等分かして、何本もの柱と何十枚もの板を
作り出していく
後はこれを立てたり、繋ぎ合わせたり、床に敷き詰め
たりすれば完成だ
お風呂作りを初めてから、わずか1時間足らずで
あっという間に完成してしまった
日がくれてしまっていて、細部が良く見えないため
外観はまた明日にでも良く確認した方がいいかも
しれない
「よしっ、とりあえず完成ね、今日には入れるよ」
「主様、ありがとうございます」
ルナは完成したお風呂をみて感動しているようだ
ルージュとかと入ったお風呂は簡易的に作った
ものだし、ここまでしっかりしたのに入るのは
初めてだ
「ルナにもお世話になりっぱなしだし、これくらい
いいのよ
たまにはわがまま言って貰った方が私も嬉しいし
とりあえず戻ろうか、そろそろご飯の準備が
できる頃かも」
シルファさんのご馳走かぁ
楽しみだなぁ
それでなくてもシルファさんの料理はとてもおいしい
今まで肉しか焼いて食べてこなかったことの反動も
あるのだろうが・・・
そんなことを考えるとお腹がグゥーと鳴り、
私たちは料理を楽しみにしながら家へと戻ること
にした