第29話_療養
「暇だなぁ」
ここ最近は療養に徹しているせいかやることが無い
ルナとシルファはハデスが森に残していった魔物の
残党を探しては消滅する作業をしているため、私は
常に一人ボッチだ
常々の修行の一環として、肉体の作り変えを行って
いる体であっても今回の傷は相当に重症らしく、何か
するにもまだ体のダメージが癒えていないため何も
できない
思えば昔から修行だのなんだのとじっとしていたこと
なんて無かった
きっとじっとしていられない性分なんだろうなぁと
自分でも思う
そんな時だった
一匹の白い犬がこちらへと向かってやってくる
体はそこそこ大きく1mくらいはあるだろうか
シルファが飼っている番犬だ
私の気持ちを悟ってくれたのか、暇つぶしの相手を
してくれるらしい
「わふっ」
長めの耳とつぶらな瞳をこちらに向けて、ベッドの
隣でお座りをしている
「おいでー」
そういうと犬は私の体の上にぴょんと乗ってきた
ドスっ
やはりそれなりに重たい
犬は私の体の上で丸まると目を閉じて気持ちよさそう
に寝息を立て始めた
そういえばルナも良く同じように目を細めて気持ち
よさそうにしているなぁ
と既視感を思い出す
「そういえばルナにも悪いことをしちゃったし、今度
埋め合わせをしてあげないとなぁー」
犬の頭を撫でながら、ハデスとの戦闘の時のことを
思い出した
私が慢心していたせいもあり、結局はルナをも傷つけ
るようなことになってしまった
ハデスとの戦いでは体や心の弱さ、技術の無さまで
露呈させられてしまい、自分の不甲斐なさを痛感
させられた
膨大なマギの量があったからこそ何とかなっただけで、
それ以外のことに関しては明らかに完敗だ
魔法の精度、使い方、知識量、戦い方、どれをとって
もハデスには遠くおよびはしない
あの時ああしていればとか、後になって後悔が押し
寄せてくる
「はぁ~」
ルナにも回復魔法を使うことができれば、あんな瀕死
な状態にはさせずに済んだだろう
いろいろ思うところはたくさんありはするが
でも、逆にいい経験だったと思うことにしよう
次は後悔しないように私が強くなっていればいいのだ
戦い方なんてなんとなくでやってきただけでそもそも
知らないし、魔法とかも私の知識量なんてスズメの涙
程度だ
それに使っている魔法も全てが自分で考え出した
オリジナルばかりだし、他の人が考え出した魔法を
覚えることも悪くは無いかもしれない
「あの時、使っていた魔法はなんだったかなぁ」
ハデスが実際に使っていた魔法を思い出す
黒い槍を飛ばす魔法、透明化する魔法、回復魔法、
空を飛ぶ魔法、魔法陣、死者を操る魔法、重力を操る
魔法も使ってたっけ・・・
そこそこ多くの魔法を使用してるなぁ
しかも途中からは2つの魔法を同時に使用していたし、
それに加えて、私の防御を突破するほどの威力も込め
ていた
魔力を込める緻密な操作もよほど凄かったのだろう
黒い槍についてはきっと魔力物質変換で作り出した
ものだ
ハデスから感じ取れた魔力総量はルージュと同じ
くらいはあったし、魔力操作も際立って上手かった
からそれ以外は考えられない
私の魔法はすでにあるものと複合させて使うことが
多いから、そこまで威力を上げれない・・・というか、
今まで必要なかったっていうのが大きいかな
例えば大爆発を起こすエクスプロージョンであれば
周りから酸素をかき集めるのでは無く、最初から酸素
を作り出した方が不純物が無い分爆発力は増加する
でも、それを作り出すということがとても難しいのだ
ただ慣れさえすれば瞬時に魔法を作り出すことが
できるため、どちらかと言えば
便利なのはこちらだろう、マギの消費量を抜いた場合
ではあるが
「いざというときのために慣れておいた方が
いいなぁー」
これからはなるべく、自分で作り出すことを
心がけよう
他の魔法についてはいくつかの原理はなんとなく
わかる
空を飛ぶなんてものは風魔法でも重力でも操れば
可能だろうし、魔法陣は私がいつも使っているような
魔法を装置に置き換えたものに近いだろう
回復魔法はおそらくいつも私がやってる肉体の
作り変えに近いと思う
「シルファさんが使うことができそうだから後で教え
て貰おうかな」
もしかしたら、今の体もちゃんとした回復魔法なら
少しは早く治せるかもしれないし
ただ、透明化や死者を操るなんて魔法については
さっぱり理解ができない
誰か使える人がいればわかりそうではあるけど、
これもシルファさんに一度聞いてみるとしよう
「ただいまもどりました」
どうやらルナとシルファさんが戻ってきたようだ
魔法の原理やらこれからの修行やらについて考えてる
間に数時間は立っていたらしい
ルナはとてとてとこちらに近づいてくると、私の体の
上にいた犬をじっと見つめた
犬もルナの視線に気づいたのかゆっくりと目を開け
ルナを見つめ返す
すると
「わふぅー」
とゆっくりと起き上がり悲しそうにベッドから去って
いってしまった
ああ、せっかくのモフモフが、ルナめ、威嚇したな
そこにすかさずルナがダイブしてきた
ドスッ!
「うぐっ」
犬の数倍はあるだろう体重が体にのしかかる
そして頭をぐりぐりと押し付けてきた
たぶん撫でて欲しいのかなぁー、ちょっといじわる
してみよう
私は頭を押し付けてくるルナをしばらく放置してみた
ぐりぐり、ぐりぐり、ぐり・・・・
頭の動きが止まり、少しすると涙目でこちらを
見てくる
ドキッ!
と心臓に少し跳ね上がるような痛みが走り
(可愛いすぎる!)
なんとも言えない優越感が押し寄せ、ずっと見てい
たい気分になるがそこをグッと押さえて、ルナの頭を
撫でてやった
「焦らすのは酷いです・・・」
少し怒ってしまったようではあるが、満足はして
もらえたようだ
「あらあら、仲良しさんですね」
シルファさんがそんな光景を見つつお茶を運んできた
「すみません、ありがとうございます」
お茶を運んできたシルファにお礼を言いつつ、ルナを
引きはがそうとするが彼女は断固としてそれを拒否
した
未だに頭をぐりぐりと押し付けてくる
「そのままでもいいですよ、もう見慣れましたので」
少し苦笑しながら、目の前にお茶の用意がされていく
今日のお菓子はクッキーのようだ
療養中でやることが無いため、最近の楽しみは
シルファが用意してくれる料理やお菓子になっている
きらきらと目を輝かせているのがバレたのか
「食べてもいいですよ」
と笑いながら言われた
少し恥ずかしくなりつつも、体は正直である
我慢などできはしない
「頂きます!」
サクッと子気味の良い音が口の中でなり、ほどよい
甘さが一気に広がる
「ん~~、おいしいっ」
頬っぺたに手を当てながら至福の時を過ごす
生きてて良かった~、そんな思いが頭の中をよぎった
お茶を飲みつつ休憩を取った後で、シルファさんに
お願いをしてみた
ここまで良くしてもらっているのにも関わらず、
さらに何かをお願いするのは申し訳ないが、今後の
ためでもある
「シルファさん、回復魔法を教えてもらえませんか?」
一人反省会の中でだした答えの一つである回復魔法の
習得、まずはそこから手を出していこう
唐突の申し出に一瞬戸惑うシルファさん
「回復魔法ですか・・・・
確かに私も少しは扱うことができますが、教えられ
るような程には上手くありませんよ?
それに他の魔法と違って使うのがとても難しい魔法
でもあります」
苦笑いをしつつお茶を口に運ぶ
だが今頼れるのはシルファさんだけなのだ
お師匠様の本を見返しもしたが、回復魔法についての
記載は得に書かれていなかった
もしかしたら、お師匠様ですら使えなかった可能性が
あるわけだが
「お願いします
今回見たいにまたルナが傷つく可能性もあるので、
できることはやっておきたいんです」
そういいつつ頭を下げた
そんな私の姿勢とルナの顔を見つつ、
「そういうことなら
明日から少しづつやっていきましょうか
ただ、ハデスの生み出した魔物も全ていなくなった
わけではないので手の空いた時になりますが」
「ありがとうございます」
そういうとシルファさんは椅子から立ち上がってどこ
かへ行ってしまった
そんな一連の会話をじっと聞いていたルナは
「主様、そんな気にしなくてもいいですよ
私は見ての通り元気ですから」
ルナは自分が傷ついてしまったことが悪いのだと思い
込んでいるようだ
本当に悪いのは私なのに
「違うの、今度また誰かが傷つくことがあったときに
覚えて置いた方が良いでしょう?
後、今回のことは完全に私のせいだから」
私は済ました顔でお茶を飲んだ
そうはっきり言っておかないと、後でまた私がと言い
始めるのが目に見えていた
案の定ルナの顔は納得の言っていない表情に
なっている
しばらくするとシルファが一冊の本を手に戻ってきた
「あった、あった」
凄い古くほこりだらけになっていてとても分厚い
彼女はその本を綺麗にしてから、こちらに渡してきた
「凄く昔の本になるのですけど、中には回復魔法に
関する内容がたくさん掛かれていたはずです
私も途中までは呼んだのですが、内容が難しいのと
覚えても使わないものが多かったので隅々までは
呼んでません
何かの約に立てば良いのですが」
「いえ、助かります
明日からという話でしたが、まずはこの本を呼んで
からでも良いですか?」
シルファさんの手を煩わせるのも申し訳ないので、
ある程度予習をしてから教えてもらうことにしたい
もしかしたら本の内容だけで使うことができるように
なるかもしれないし
「構いませんよ」
彼女はお茶を飲みながらにっこりと微笑んだ
「何から何まですいません・・・
こんなに良くして頂いて聞くのも失礼なんですけど、
どうしてここまで良くしてくれるんですか?」
かれこれ一か月もの間お世話をしてもらっている
いくらルナが聖獣であろうと私はタダの人間だ
ドルイドにとっては人間なんて良いイメージがなさ
そうなものである
「うーん、そうですね
聖獣様がこんなに懐枯れていることですかね
聖獣様が認めた人なら安心できますよ
まぁ、後はそれよりも私にとっては娘が二人も
できたような感覚が強くてですね、いわゆる母性
ですね」
シルファは少し恥ずかしそうにしながら、耳を赤く
染めていた
「かれこれこの森で何百年も生きているのですが、
これまで他の人と関わったことが無かったという
のもありますし・・・・
きっと寂しかったのでしょうね」
少し悲しそうな表情を浮かべるシルファ
私はなんとなくベッドから立ち上がり、椅子に座る
シルファへと抱きついた
そんな行動を取った私に、彼女も驚いている
「えっと・・・」
だがそんな私を暖かく抱きしめてくれた
シルファの体は私なんかよりも大きくて、全部を包み
込んでくれるような抱擁感があった
私にはお師匠様はいたけれど、お父さんもお母さん
もいない
本では読んだことはあるが実際にどういったことを
してくれるような人なのかが全然わからずに育って
きた
シルファに抱きついてなんとなくだがお母さんがいた
らこんな感じになっていたのかなぁと凄く暖かい
気持ちになる
いつしかルナも隣にきて
「ずるいです」
と抗議を上げた
私たちは二人でシルファに抱きつき、一緒に頭を撫で
て貰った
私もシルファもお互いに幸せの形があるのならこんな
感じ何だろうなと思う瞬間であった