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第27話_光の剣



~ルナside~


主様は圧倒的だった

私ですらその動きを捉えられなかった


いつの間にかハデスは地面にめり込み、瀕死の状態だ

だが主様の体の様子もおかしい

血がとめどなく溢れ続け、マギの放出も止まることが

無い

完全にマギの制御が意識から手放されている

主様のマギの量は膨大だ、それこそルージュの何倍

も持っているはずだ

それが一気に放出され続け、このまま放っておけば

必ずいつかは死んでしまう


私は溜まらず駆け出した


「あるじ、さま?」


恐る恐る近寄る

だが私の呼び声にはやはり反応してくれない


ハデスはもう虫の息だ

こんなボロボロの状態では何もすることはできない

だろう


思い切って主様の正面に立つ


「主様」


その瞳の焦点はどこにもあっていない

うつろな瞳がどこかを呆然と見ているだけで、

それは一種の屍と化している

体からは絶え間なく白い蒸気が溢れ続け、まるで命を

燃やしているかのようだ

なんとかしなければ


さらに距離を詰め寄り体に触れようとする

だが、その瞬間


シュパッ!


と私の頬が切れ、何が起こったのか目で見ることは

できなかった

頬からはツーと血が流れ落ちる

主様にとっては今触れるもの全てが敵なのだろう

でもこの状態を元に戻せるのは私しかいない

どんなに傷つくことになろうとも


私は優しく相手を刺激しないように全力でマギを

放出した

そのマギは主様へと届いているだろうか

それとも防がれしまっているだろうか

でもそんなのは関係無い

ゆっくりと近づき優しく体を抱きしめる


ジュッと肌が焼ける

その体は驚く程に熱かった、でもこんなことで怯んで

はいられない

いつも主様がやってくれているように優しくマギを

体に流し込んでいく

もしかしたら私のマギを感じ取って正気に戻ってくれ

るかもしれない

拒みはされていないと思う

ゆっくり、ゆっくり、体の中へ溶け込ませていく


だが、


主様の虚ろな瞳はこちらへと向けられた

ギロッと睨みつけられ、体がビクッと硬直してしまう


そして、


ドスッ!


お腹に激しい痛みが走った


「カハッ!」


胃の中から何かが込み上げてくる


「うぇえ、げほっ、げほっ」


ダバダバと口から大量の血が出てきた

それは思いっきり主様の顔に掛かってしまう


お腹は焼けるように熱い

そこを見ると、私のお腹は主様の手によって貫通

させられていた

血が足を伝って地面に滴る

せっかく貰った服も一瞬で血だらけになってしまった


「ぐぅう、ううう」


痛い、熱い、意識が朦朧とする

だが逆にこれはチャンスだ

体内にまで主様の体があれば、よりマギを通しやすく

なる

私は一生懸命主様にしがみ付く


(もっと、もっとマギを!)


残された体力をふり絞って、マギを通す


「主様、主様!」


そして何度も叫び続けた


他にできることは何か無いか

これで元に戻らなかったら二人ともここで終わりだ


(どうせ終わるくらいなら、最後くらいおいしい思い

ぐらいしてもいいよね)


・・・・


私は目を閉じてゆっくりとキスをした




~ステラside~


私は光に向かって必死に走った

なぜかそうしなければならないと感じたからだ


そっちからは優しくて暖かい光が流れ込んでくる

同時に誰かが私を呼んでいる声が聞こえた


先ほどからずっと、主様と呼ぶ声が聞こえる

きっと私のことなのだろう


だから一生懸命走った


早く、早く、すぐそこへ


そして、視界は一気に光の中へ包まれる



そこにはルナの顔があった

彼女は目を瞑り、私にキスをしていた


唇はやわらかく、口からマギを通されているのを

感じる

とても気持ち良い

私もお返しにマギを送り返してみる


するとルナは目を見開いて、唇を離した


(ああ、もったいない)


なぜかそんな邪な気持ちで心が淫れた


「主様!」


ルナは目にいっぱいの涙を浮かべる

そして


「よかった、元に・・戻ってくれ・・・て」


彼女は力が一気に抜けたのか、地面へと倒れた

倒れる瞬間、私の右手が生暖かいところを通って

ずるっと抜け落ちる

嫌な感覚だ


何が起こっているかさっぱりわからない

倒れたルナを見るとお腹から大量の血が溢れていた

そして、私の右手からは大量の血が滴っていた


え、なに、これ

わたしが・・・やったの?


頭の中がぐちゃぐちゃになり、頭の中からスーッと

血の気が引いていく感じがした


「る、な・・・・」


恐る恐る近寄る

ルナに意識は無く、ただただお腹から血が流れていた


「ルナ!ルナァアアア!」


頭の中はパニック状態だ

突然目の前にはルナがいて、血だらけで、私も

血だらけで

地面にはルナの血がいっぱいになる程飛散している


急いでルナに駆け寄り回復しようとマギを流そうと

するが


「アァアア”ア”ア”ア”ア”」


バチバチと体全体が悲鳴を上げた

全身からくまなく激痛が押し寄せる


もう何が何だかわからない

マギを出すことができない


「なんで、どうして!」


自分の体中を見回すと、体からはあらゆるところから

血が溢れだしている

そして私の中にあるはずのマギがほとんど空っぽ

だった


周りを見回すとぐちゃぐちゃになっているハデスが

目に入り、辺り一体には私のマギであろう魔力が森

を包んでいてる


「魔力暴走・・・・か・・・」


さらに血の気が引いていく気がした


おそらく、体から全部のマギを一気に放出して

しまったのだろう

昔は溢れた魔力に体が耐えられなかったが、今回は

一気に経路を通したたため体が耐えられなくなった

のだ

体がバラバラになりそうなのはそのせいだ

これではルナを回復することができない


「どうしよう!ルナ!ルナ!

 このままじゃ死んじゃうよぉ!」


私は焦る、目からは涙が溢れる


「あ、る、じさま、泣か、ないで」


ルナは私の頬に手を当てた

まだ意識はある、まだ間に合う


「ルナ!助けるから、絶対助けるから!」


手は地面へと落ち、ルナはただ微笑むだけだった

そんなルナの顔を見て私は涙を拭う


マギが無いなら集めればいい!

体がバラバラになりそうなら我慢すればいい!

もともとは私のだ!何とかして見せる!


大気中のマギをルナへと集中させる

だが自分の体もバチバチと悲鳴を上げる

体を起こしているのも、意識を保っているのもやっと

の状態だ


「ぐぅう”」


気を抜いたら一瞬で意識が飛びそうだ、でもここで

やめたらルナは助からない

私の体からも血が再び流れ出す


諦めない、絶対、諦めてやるもんか!

昔からこれぐらいの制御やってきただろう!

何のために修行をしてきたんだ!


次第に大気中に霧散していたマギはルナに集まり

始めた

なんとかルナの傷口にマギを集中させる


まだだ、もっと、もっと!・・・・




~ハデスside~


これはチャンスだ

辺り一体のマギが消えていくことを感じた私はそう

思った


私をここまで追い詰めた根本原因の体はボロボロ

聖獣様は回復してもすぐに戦える状態にはなれない

だろう


(回復を急げ、動ければとりあえず何とかなる)


マギの干渉が無くなった今、回復魔法を使うことも

可能だ

先に腕だけを回復させ、薬を取り出した

こんな時のために常備しておいて正解だった


それを何とか口に流し込む

少女は聖獣様の回復で手一杯、こちらには気づいて

いない


徐々に体が回復していき、魔力も少しずつだが回復

している

飛び出た内臓の回復は中々困難だが、これでも魔族だ

体の再生能力には自身がある


もう少し、もう少しと急ぐ気持ちを抑え回復に

専念する


それさえ終われば後一回魔法陣を描いて、二人を

消し去れる

まだこちらの方が魔力には圧倒的な余力があるはず

聖獣様が確保できないのは惜しいが、今回ばかりは

相手が悪かったと諦めるしかなさそうだ



そして、その時は来てしまった


「よしっ」


ハデスは体のほとんどを回復し終えた

飛び出た内臓も元の位置に戻し、ぐちゃぐちゃに

なった体も何とか元に戻った

大量の魔力を消費してしまったが、あと一発分ぐらい

の余力は残すことができている


私は相手に気づかれないように、再度魔法陣を上空に

描き始めた

まだ聖獣様の傷を治すには時間が掛かりそうだ

おそらく回復魔法を覚えていないのだろう

自己治癒能力の強化しか使えていない様子


相手の分析をし終えた後で、私にはまだまだ余裕が

ありそうだ

ゆっくりと立ち上がり、空を眺める

そして


ドンッ!


と魔法陣の仕上げするため、一気に上空まで飛んだ

少女は私の行動に気づいたのだろう

驚きの表情をこちらに向けている


「これで本当に最後です

 私をここまで追い詰めたことを誇るがいいでしょう」


空に先ほどと同じ魔法陣をどんどん構築していく

一度描いたせいか、2発目の完成に掛かる時間はさ

ほどでも無かった




~ステラside~


上空にはハデスと巨大な魔法陣が生成されている

気が動転しすぎて周りのことが全然見えていなかった

いつの間にかハデスは体を回復し、またあの魔法を

うとうとしている

ルナの傷口は半分は治ってはいるが完治まではほど

遠いだろう


「次に、あれを打たれたら、間違い無く死ぬ」


どうしよう、どうしよう


ルナの回復はまだ終わっていない

でもあれを対処する術も無い

マギが無くては防御することもできないのだ


次魔力暴走をすれば、私も確実に死ぬ

残された手段は何かないか、なにか


カチャリと腰の刀が鳴る


そしてその刀の能力を思い出す

もう、ダメ元でもやってみるしかない

どうせ今はどの手段も残されてはいないのだ


バチバチと悲鳴を上げる体を無視して私は立ち上がる

ルナの方を見ると先ほどよりは顔色がよさそうだ

なんとかもってくれるとありがたい


(私が死んじゃったら、ルナは怒るかな?)


ごめんねと先に心の中で謝った


そして、私は腰の刀を抜いた

真っ白な刀身をした刀、神剣-アステラス


全然上手く使って上げられなくてごめんね

刀にも謝る

アステラスは少し淡く輝いて何かを答えて見せている

ようだ


「最後になるかもだけど私に力を貸して!」


刀を上段に構える


お師匠様は言った

この刀に切れないものは無いと、それはどんなもので

あろうと例外は無いと

お師匠様が私に残してくれた最高傑作

今はそれを信じる他無い、最後の希望だ

刀一本であの膨大な魔力を切ることはできないかも

しれない


マギももうほとんど残ってない

立っているのもやっとなほど体はボロボロ


だけどっ!


グッと力を込める


それでも今はやるしかない!


アステラスに残っている全部のマギを込めていく

刀身は徐々に淡い赤色に輝き始めるが様子がおかしい

明らかに私の込めれる量ではない大量のマギが

アステラスへと流れ込んでいる


マギの流れが風を巻き起こし、その風が渦を巻いて刀

へと向かっている

その刀は大気中に霧散していた私のマギを全て吸い

取っているようだった

森全体に散らばっていた全てのマギが刀へと収束し、

同時に刀の光がどんどん増していく

やがてそれは一本の巨大な光の剣となった

刀もきっと答えてくれようとしているのだ


「綺麗・・・」


後ろからそんな声が聞こえた


「主様、頑張ってください、ね」


意識を取り戻したルナが後ろから応援してくれた


「待っててね、すぐに終わらせるから」


上空に浮かぶ魔法陣は周りから光を吸収し始めている

辺り一面が暗くなり次第に魔法陣が輝いた


ハデスも本気だ


「これで終わりです!

 『術式起動-ソーラーレイ!』」


それは再度大地へ向けて放たれる、一本の光の柱と

なって


私もそれに合わせて巨大な光の剣を振るう


「ハァアアアアアアアアアアア!」


光の剣はどこまでも伸び柱と剣が衝突する

バチバチと衝撃による突風が吹き荒れ、辺り一面が光

で輝き照らされた

そしてアステラスは徐々にその光をも呑み込んで斬り

裂いていく


「ぐぅうううう!

 まっけるもんかぁあああああ!」


アステラスに集まったマギは私に呼応するようにさら

に光輝き、淡い紅色に輝き出す

どんどん全てを呑み込みながら刃が突き進む


「なんだ、これは、一体、なんなんですか!

 あなたわぁああああ!」


ハデスの目の前には巨大な紅い刃が差し迫る

もう逃げ場は無かった

体は全て溶かされていき、心臓にあった魔石もついに

はパリンと割れる


「ま、おう、さま・・・」


ズパァアアアン!


その光の刃は柱と魔法陣だけでは無く、ハデスや雲、

山を巻き込み

大地をも全て真っ二つに分断した


ズドォオオオオオン!


遅れて盛大な爆発音と共に森には幾つもの爆風が荒れ

狂った




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


バタンッ、と私は地面に倒れた

私の体はもうバラバラだ、指一本動かすことができ

ない

体中の感覚がもう何も無い


「ある、じさま」


ルナの声が聞こえる

でも意識が朦朧とし、目が霞んで良く見ることが

できない


ルナは私の元まで這いつくばり、手を握った

その手からは暖かさを感じる

もう限界だ


「少し、やすもっか・・・」


「はい・・・」



そのまま私たちは気を失ったのだった





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