第24話_VSハデス
ドォオオオン!
遠くの方から大きな衝撃音が聞こえた
スタッ
と私の隣にルナがやってくる
「死んでしまいましたか?」
「どうしようか迷ったけど、殺しはしてないよ
ルナは大丈夫だった?」
もこもこのワンピースを身にまとっているルナの
服には大した汚れも見当たらず、上手く逃げていた
ようだ
どのみちあの程度の攻撃では私もルナも傷一つ付き
はしないだろうが
「はぁ、毎回道具探しをしてるような気がする」
後ろを振り返ると地面はめちゃくちゃになっており、
調理器具を探すには骨が折れそうだった
戻ろっかとルナと踵を返すと同時にそれは起こった
ズドォンッ!
私がハデスを吹き飛ばした方角から激しい衝撃と共に
突風が吹き荒れた
凄い魔力量だ
魔力の質からしておそらくハデスのもので間違い無い
だろう
かなり遠くまで吹き飛ばされたはずだが、こちらに
まで届く程の量が放出されている
その膨大な魔力がこちらへ向かって少しずつ近づいて
くるのがわかる
「ルナ、もう一波乱ありそう
少し離れてて」
「いえ、私も戦います
私は主様を守るためにいるのですよ」
(何かあったらルージュに申し訳が立ちません)
ぷくぅと頬膨らませ、なぜか少し怒り気味だ
「そう?なら一緒にお願いするね」
ルナは、はいっ!とにこにこ顔に戻った
「クックックックッ・・・・
まさかこんなところで元の姿に戻ることになる
なんて
これも運命なのでしょうか」
森の奥からスタスタと少しずつその言葉を発する調
本人が見え始める
体からは大量の黒い魔力が放出され、歩く度に周囲
の草木が枯れはてていた
「凄い魔力ね、ルージュくらいあるかも
ルナ、防御することもしっかり考えてね
魔法によってはダメージが通る可能性があるから」
「はい、主様」
そういうと、ルナも体をマギで纏わせ戦闘体制に入る
ハデスの姿は全くの別人と化していた
頭からは2本の角がはえ、肌は青白く、おじさん
だった顔は少し青年に戻ったようで若くなっている
髪の毛も少し長くなっただろうか
手に持っていた杖は一振りの大きな黒い鎌に変貌を
とげ、漆黒のローブを身に纏っている
「あなた、ハデスだよね?」
髪の毛も金髪へと色が変わっている
あまりの変わりように私はそんなことを聞いて
しまった
「いかにも
だがこんなところで元に戻る気はなかったのですよ
ほら、見てください
私が通ったところは全ての命が奪われる、美しく
ないでしょう?」
枯れた草木の方を見る彼の顔は少し悲しそうだ
草木だけではない、魔物の死体もちらほらと目に映る
大量の魔力放出のせいで周囲にまで影響を及ぼしてい
るようだ
「ただ、おかしいですね
どうしてあなたたちは生きているのでしょう
聖獣様はまだしも、人間ごときには耐えられない
はず
先ほどの戦いからしても、もしかして人ではない
のですか?」
「列記とした人間だよ」
ふむ、と少し思案するハデス
彼もきっと研究者体質なのだろう、そういう顔する
人物は良く知っている
「やってみればわかることでしょう
ところでそちらのお嬢様もやるのですか?」
「ええ、のけ者にはされたくないみたいでね
ところでさ、一つ言いたいことがあるの」
私はさっきまでのイライラがまだ収まってはいない
相手がどんなに強大な魔力を放っていようがそんなの
は関係無い
「謝って、私達に、料理に、道具に!」
クレーターと化している元いた場所を指さしていう
「ああ、それで怒っていたのですね
これは失礼しました」
そんな感情の籠っていない言葉を聞かされさらに
イライラが増し
「もういいわ」
ギリッと歯音を立てる
こいつにそんなことを言っても無駄か
「2体1だと少し面倒ですね
ここはこの森で見つけた最高傑作を使わせて頂き
ましょう」
ハデスは鎌を地面にトンと当て、強大な魔力を流し
込んだ
地面がグラグラと揺れ始め
バカンッと割れて大きな龍が這い出てきた
その龍の肉体は腐り、羽もなくなんとも醜い有様だ
辺りには酷い腐敗臭がただよう
「紹介しますね
彼は元地龍-ハマス
この森の守り神だった龍らしいです」
その龍はルージュ並みの大きさを持っていた
他の魔物と違い圧倒的な強さを肌で感じる
「ルナ、任せてもいい?」
「はい、問題ありません
ルージュに比べれば対しことないでしょう」
確かにルージュに比べれば大した事はなさそうだが
相手は人型ではなく、龍型だ
少しでも当たれば用意に防御は突破してくるだろう
それに一応守り神であったというところも引っかかる
「じゃあ、私はハデスを
ルナはハマスを、気をつけてね」
コクッと頷くルナ
「じゃあ、2回戦目と行きましょうか」
ハデスの言葉で戦いの火蓋が切って落とされた
速攻で仕掛けたのはルナだ
思い切り踏み込み龍の胴体まで一瞬で近づく
腐敗しているからだろうか、龍の動きは凄く遅かった
その胴体に思い切り蹴りを決め込む
ドンッ!と言う衝撃とともに龍は森の中へ吹き飛んで
いった
ルナはこちらをちらっと見ると、吹き飛んで言った
龍の方へと消えた
私の邪魔にならないよう龍を引き離してくれたようだ
腐敗臭のせいで気が散りそうだったから凄く
ありがたい
「彼女も相当強いですね
蹴りで龍を吹っ飛ばすとは・・・」
ハデスはルナに関心している様子だ
しかし、そんな中でも私への注意は途切れさせては
いない
「さて、先ほどの続きといきましょうか
私を殴った代償は大きいですよ」
ハデスは手をこちらへ向けると
「さっきとは威力が違いますから
気を付けてくださいね
『グラビティバインド』」
ドンッ!っと地面丸ごと高重力で圧縮される
今までとは桁違いの魔力密度に
「ぐっ!」
っと私は思わず膝をつかされてしまった
地面が割れ、地形がどんどん変わっていくため逃げ
場が奪われる
そこにすかさず、四方八方から槍が飛んできた
(岩じゃない!)
鋼鉄の槍だった
槍は飛んでくる途中でぐるぐるとねじられ貫通力が
足されている
(これはちょっとまずいかも)
マギの量を一回り上げ防御で耐えようとするが、
思ったよりも槍の貫通力は高く、何本かの槍に防御
を突破されてしまう
だが、槍の速度はそこまで早くはない
(防御はだめか、避けてもいい、けど!)
指からワイヤーを操り、槍を叩き落とした
マギの量を増やせばこの重力化でも何とか動けそうだ
「ほう、奇妙な技を使いますね
それならこれならどうです」
それから槍の本数がさらに増える
20、30、40、次第に全方位に隙間なく槍が生成され
降り注いだ
「なんて魔力量
ルージュより多い、かも!」
ぐるぐるっとワイヤーで球上に繭を張りそれを一気に
広げて全ての槍を叩き落とす
それと同時にふわっと体が浮いた
(揺動か!)
ハデスがバインドを解いたのだ
体に掛かっていた重力が無くなり、踏ん張っていた
力が宙へと投げ出される
(空中では身動きが!)
「ハデスは!?」
元居た場所に彼はいなかった
辺りを見渡すが彼の姿は無い
まずい気がする
そう思い、マギを体からなるべく多く放出し防御体制
を取る
そのマギに彼の魔力が引っかかった気がした
「後ろ!」
ワイヤーを背後に素早く降りぬくが、すでにそこには
ハデスが持っていた黒い鎌が差し迫っていた
その鎌はワイヤーを斬り裂きつつ本体に向かってくる
そして
ザシュッ!
っとユリごと左腕を斬り裂いた
「クッ!うぅう」
(傷は浅い、追撃が来る!)
体を回転させ、何とかワイヤを適当にばら撒く
何かにバチバチと当たる気配はするが、斬り裂くまで
には至らない
だがその反動でその場から離れることはできた
周囲を見回してもハデスは見当たらない
(これは・・・)
こういう攻撃をしてくる魔物に心辺りがあった
そう、インビジブルラビットである
自分の姿を消して攻撃してくる魔物
その魔法をハデスも使えるのだ
ウサギより質が悪いのは私の防御を突破してくる点で
あろう
マギも魔法に強いと言えど、そのマギの量を大きく
上回る程の大量の魔力を込めた魔法であれば突破する
ことは可能だ
それに総量はルージュと同じとは言えどハデスの魔法
の使い方はかなり上手い
魔法の生成に無駄が無く、消費している量はかなり
多いだろうが最小限で私の防御を貫通できる魔法を
打ってきている技術的にはおそらくお師匠様を超える
だろう
(戦い方がうますぎるよ)
「ほう、今の攻撃を凌ぎますか
しかも鎌に付与している効果が効いていませんね
傷さえ入れば、動きを封じることができるのですが」
どこからともなく声が聞こえる
私は左腕から流れる血を見る
確かに回復速度はいつもより遅い
マギを集中させての局所治療のはずなのに
「ふむふむ、なるほど、ようやくわかってきましたよ
あなた、マギを使えるのですね」
やはりというべきか、ハデスもマギについては知って
いるようだ
ただ、ここまで魔力しか使っていないことを考えると
ハデスはマギを使うことはできないらしい
「人間でマギを使うことができた人はいないはず
ですが・・・
突然変異か何かですかね
これは本腰を入れる必要がありそうです」
未だにハデスの位置がわからない
このままでは防戦一方だ
どれだけ威力があっても相手の場所がわからないので
はどうしようもない
結局ウサギと戦っている間も、これといった攻略法は
見つけ出すことはできなかった
この状況に頭をフル回転させるが、中々いい案は思い
浮かばない
「ルナさえいれば」
ルナだったらウサギの位置をある程度把握することが
できていた
ん?
そもそもルナはどうやって把握していたんだ
よくよく考えればさっきも私のマギに何かぶつかった
ような気がした
それにワイヤーも斬り裂けはしなかったが当てること
はできている
そうか!
考えがまとまったところで、いつの間にか生成されて
いた大量の槍が追撃を仕掛けてくる
「しつこいなぁ!」
バシバシと払い落としつつ、徐々にワイヤーの範囲を
広げていく
ワイヤーさえ本体に当たれば位置は確認できるはずだ
「はぁはぁ、あれ、どこにもいない?」
どこに振り回してもハデスの存在は捉えることが
できなかった
そして私はそれに夢中になっていたせいで気づくのが
遅れた
それすらも揺動だったのだ
相手の集中を欠きながら、本命の攻撃を当てるための
上空からとんでもない魔力を感じる
上を見上げるとそこには空を覆いつくす程の魔法陣が
描かれていた
「え?魔法陣?」
私は唖然としてしまった
魔法陣は大気中のマナを集め、自分では足りない魔力
を補い、高威力の魔法を作り出すための一種の装置だ
そもそも通常戦闘中に大規模な魔法陣を作り出すには
時間が足りないため普通はやらないし
複数人で作ることが基本だと本には書いてあった
それをハデスは槍の生成と同時に少しずつ作り上げて
いたらしい、一人で
私とは魔法も、戦略も、何もかもが桁違いだ
「まずい、な」
ようやくステラは気づいた、自分と相手の力量差に
己惚れていたのだ、実は強いんじゃないかという
自分に
もう防げるかどうかわからない
規模から考えても逃げることもできないだろう
いくらマギ総量がルージュの10倍以上あっても、
それが全て使えるわけではない
全部放出なんてしてしまえば体がバラバラになって
しまう
そのため限界ギリギリまでマギを放出し、上空に
分厚く纏うしか方法が無かった
(これは賭けだ
魔法にやられるか、自分のマギにやられるか)
「さて、準備も整いましたね
久しぶりですねー、こんなに大きな魔法を使うのは
いつ以来でしょうか」
悠然と魔法陣よりも上に浮かぶハデスは、魔法陣を
起動させる魔力を流し始める
それと同時に魔法人は白く輝き出した
「そろそろ気づく頃でしょうか
ただ、マギを使えるのですからこれくらい
やらないと倒れてくれませんよね」
そして、ゆっくりと深呼吸をする
「行きますよ!
『術式起動-ソーラーレイ!』」
最後に起動するための魔力を流し込む
それと同時に魔法陣は周囲一体の光を全て吸収した
シュウゥンと辺り一面が一気に暗くなる
魔法陣だけが神々しく、その暗闇の中で見えなくなる
ぐらいのまぶしさで光輝き
そしてその光全てが光の柱となってステラに注がれた
全力で防御を纏った私はその光を眺めるしか無かった
前方に出したマギがどんどん押しつぶされバラバラに
霧散していく
そしてついにキィイイイイインという甲高い音と共に
光は地面と衝突し、大地を砕き、全てを溶かしていく
ドォオオオオオン!!
辺り一帯は光に呑み込まれ大爆発を引き起こした