第22話_出発
~ルナside~
ステラが出発することを切り出す前、私とルージュは
これからのことで話をしていた
ステラが寝た後、ルージュを連れ出し岩山に二人で
座る
「ルージュ、その聞きにくいことなのですが
これからどうするつもりですか?
私達は旅の途中、いずれはここから離れることに
なるでしょう?」
私は星を見ながら、それとなく聞いてみる
「そうね
でも私はついていくことはできないわ
私がここにいる理由は最初に話したはずよ」
ルージュも星を見ているのだろうか
空を見上げながら答えた
「体のことはどうするんですか
今は良いですけど、何日もまたマギを供給され
なかったら
次はどうなるかわかりませんよ?」
「それが一番の問題ね
最近は慣れてきたからしばらくはもつでしょうけど
その時がきたら気合でなんとかするわ」
ルージュの意思は思ったより硬い
「どうしてもついてきてはくれないのですか?
ルージュについてきて欲しいから言ってるのですが」
「しつこいわね・・・・」
ルージュは少し悲しそうな顔をしている
「ルナ、こっちへ来て」
私はルージュの前に座り、寄りかかった
すると彼女は後ろから抱きしめてきた
少し震えているだろうか
「ルナ、私はね、本当はついていきたい
始めてできた友達だもの
私も一緒に旅をしてみたい」
腕に力がこもる
「だからね、少し待っててちょうだい、何年、何十年
になるかわからないけど
今度こそ私は負けないから
そして、絶対に二人のところに帰ってくるわ、
約束よ
それまでステラはあなたに任せたわ」
「私の手には余ってしまうのですよ
だからルージュと二人なら大丈夫だと思っていた
のに・・・
主様が本気を出したら、私一人ではどうにもなりま
せん・・・」
クスッと笑うルージュ
「そうね、でもあなたにならできるわ、私にはわかる
もの
だって、マギを分かちあった姉妹でしょう?
もう3人で家族よ」
「なんですかそれ
まぁ、そうですね、なるべく早く来てくださいね」
私たちは夜の間少しだけ語りあった
ルージュの体は暖かくて気持ちよく、いつの間にか
眠ってしまっていた
~ステラside~
「本当についてきてくれないの?」
上目使いで目をうるうるさせながら懇願してみた
「そんな顔をしてもダメよ
私だけ責任放棄することは許されないわ」
そんな言葉にしゅんとしてしまう
「そっかー・・・・
でもいつか会いにきてね、待ってるから」
「ええ、必ず」
そう約束して私たちは抱きしめあった
「それじゃあ、人里の近くまで送るわ
空を飛んで行った方が早いでしょ」
「え、いいの?」
「それにこれは私からのお礼よ
あなたたちのおかげで楽しい時間を過ごすことが
できたわ」
服を脱ぐルージュ
「これもあなたに返すわね」
服を渡そうとしてくるルージュを私は止めた
「それはルージュにあげたの
だからこれからも着てくれると嬉しいな」
「そう、ありがとう」
ぎゅっと服を抱きしめる
ルージュは人型から龍へと姿を変えていく
最初に出会ったころよりも一回り大きくなり、
力強さも増していて全く別の龍にしか見えない
鱗の艶も増してるし、纏うマギの量も各段に
上がっている
私が千切ってしまった腕はすっかり元に戻っていた
バサッ!と翼を広げる紅い龍
「さぁ、乗って!」
私とルナは頷きあって、ルージュの背中に乗った
「それじゃ、いくわよ!」
バサッ、バサッっと一気に上昇する
「わぁ、凄い景色ね!」
陽の光が森や山を照らし、神々しい景色が辺り一面へ
と広がっていた
森の方を見ると私の生活していた場所も一望できる
「ルージュ、お願いがあるんだけど
森の上を飛んでから行ってもらっていい」
「いいわよ」
そういうと、バサッと進路を変え一度森の方へと
向かってもらった
森の中央辺りには住んでいた家が小さく見える
お師匠様と暮らしていた森、そんな9年に別れを
告げた
「行ってきます」
隣でルナも森をじっと見つめている
やはり自分の故郷をでいていくのは寂しいのだろう
顔は少し悲しそうだ
「ルナ、またここに戻ってきましょう
次はいっぱい思い出を作って」
「はいっ、主様」
バサッ、バサッとルージュは森を一周し、目的地へ
向かった
「しかし、凄いわね
山脈をこんな簡単に超えられちゃうんだから
飛べるって便利だなぁ」
下の景色を眺めると自分達が徒歩で超えようとして
いたのがバカバカしく思えてくる
森からでると山脈は遥か彼方まで繋がっているように
見えた
山は2つか3つという話だったが、思ったより広い
「落っこちないでよ?」
「わかってるよ」
お師匠様はこの山脈を一人で歩いて森までたどり
着いたのか
それを考えると感嘆しか無かった
1時間くらい空を飛んだだろうか
目的の場所までだいぶ近づいてきた
山脈も終わり、遠くには町らしき光景が目に入る
私達が最初に行く町
そして、生まれて始めて行く町
少しドキドキしてきた
「そろそろ降りるわよ
落ちないように気をつけて」
ルージュは羽を大きく広げ、速度を落としつつ下降へ
と入る
バサッ、バサッと少しづつ地面が近づき、それほど
衝撃も無く山頂へと着陸した
私とルナはルージュから降りると、広大な台地が目
に入る
これからこの台地をさらにさらに進んでいくのだ
「それじゃ、私は戻るわ」
「待って!
最後にちゃんとお別れさせて」
そそくさと戻ろうとするルージュを私は引き留めると
ルージュは私達の顔まで頭を下げてくれた
龍の姿だから抱きつくことはできないが、頬っぺたに
手をあて私は目いっぱいのマギをルージュへと流し
込む
「今までありがとう
そしてまた会いましょう!」
グッと力込める
「ルージュ、早く戻ってきてくださいね」
ルナもルージュに別れを告げる
「ええ、私もまた会えるのを楽しみにしてるわ
最後まで力を分けてくれてありがとう
またね」
彼女はそういうと翼をバサッと広げて、上昇していく
私とルナは龍の姿が見えなくなるまで、精一杯手を
降った
飛んでいく姿を目に焼き付けながら
「行ってしまいましたね」
「そうね、でもまた会えるよ、きっと
私達も先に進みましょう」
私とルナはゆっくりと歩き始める
また二人だけの旅となって、寂しくなってはしまった
が
今の最終目的地まではまだまだ先は長い
お師匠様が連絡をしてくれた学園がある都市は
魔法国家-マギーア
というらしい
この世界で一番の魔法国家で、世界中の魔法使いが
こぞって集まるのだとか
私のお師匠様ことマクスウェルもそこの出身みたいだ
「えーと、最初に見えた町わー・・
イング、ラム、フォート?
イングラムフォートって町らしいよ」
本を読みながらルナに説明しつつ、町の方へ向かって
下山していく
「主様、魔物です」
本に夢中になっていたせいか気づくのに遅れた
こちら側に来てからは始めての魔物との遭遇だ
本から目を離すとそこには数mはあるだろう巨木が
うねうねと立ちはだかっていた
「これは、トレントですね
木の魔物です
対して強くは無いのですが、ただ」
ルナが説明を付け加えようとしたとき、さらに周りの
巨木が動き出し
一斉に木の蔦がこちらへ伸びてきた
シュルシュルと伸びてくる蔦を私達は躱す
10,20,30本とどんどん蔦の数が増えてきた
「数が多いですね、戦いますか?」
トレントの数はざっと数えて13体程
蔦を躱しながら本を指輪の中へ収納し
「そうね、私達も修行してどれくらい強くなったのか
気になっていたし、半分ずつ倒しましょう」
「わかりました、じゃあ右を貰います」
「じゃあ、私は左ね」
そういってダッと二人は別々の方向へ踏み込んだ
体に留めていたマギを少しずつ解放していく
トレントもその気配にこれはまずいと気づいたのか、
少し動きがにぶくなった
私は少し大き目の水弾を作り出し
それを一本のトレントに向かって打ち出す
「ウォーターバレット!」
ドンッ!
とトレントにぶつかって水弾は貫通し、巨木は半分に
なってへし折れた
(これ威力あがってるのかなぁ)
「やっぱり白虎みたいな魔物じゃないとお試しに
ならないか」
次はどうしようかと考えていると、何本かの蔦が
こちらに向かって飛んできた
ちょうどよかったので相手の攻撃を受けてみること
にする
バシッ、バシッ、バシッ
何本もの蔦がぶつかるが私に傷はつかない
「そういえば、私に傷を付けてきたのってルージュ
だけか」
(これもテストにならないな)
もしかして、普通の魔物では何の指標にもならないの
ではと悟り始める
(もういいか)
結局どれくらい強くなったのかはルージュクラスの
魔物と本気でやらない限りわからないのだろう
結局両手からワイヤーを作り出して一気に切り刻み、
一瞬で左側のトレントを一掃した
右側をみるとルナも最後のトレントに向かって飛び
込んでいる
ルナの攻撃手段は格闘術しかないが、威力は半端ない
本気を出せば龍さえも一撃で吹き飛ばすくらいだ
向かっていたトレントも普通に殴られただけで弾け
飛んでいた
何体もいたトレントは一瞬にしていなくなった
「これってどこに魔石があるんだろう」
分解して魔石を探すがどこにも見当たらない
「主様、根っこの方にありますよ」
ルナは全部回収してきたのか、両手いっぱいに魔石
を抱えている
ルナの言うとりワイヤーでスパスパと分解していくと
確かに魔石があった
位置さえわかれば後はワイヤーで回収できる
倒れているそれぞれのトレントにワイヤーを突き刺し
綺麗に魔石だけを回収していく
「さすがですね」
ルナは後ろで関心していた
「こっちのほうが簡単でしょ?」
最近では近づいて魔石の回収をせず、ワイヤーで
引っ張ってしか回収していなかったため操作精度が
だいぶ上がっているようだ
大量の魔石を指輪に入れて再び歩き出す
それから進むにつれて魔物の量が増してきた
しかし、私達が住んでいた場所に比べると一体一体は
非常に弱く、数が多いだけだ
体の大きさもこちら側の方が大きいことが特徴らしく、
毎回出くわす魔物は数m、数10mはあるだろう
中身はすかすかという印象だが
お師匠様の本には危険視されている魔物の情報しか
載っていなかったので、個人的に魔物図鑑を作ること
にした
森の魔物についてはルナが多少詳しかったので、
それを元に作成していく
「あれはなんていうの?」
「タイラントスネークですね
力が強く巻きつくだけで絞め殺せる上に、毒を
持ってます」
かきかきかきかき
「あれは?」
「オーガジェネラルですね
オーガの上位種です、特質すべきところは特に
ありませんね」
かきかきかきかき
「あれは?」
そんなことを繰り返しつつ、私はほとんどピクニック
気分になっていた
始めて見た魔物を図鑑に記入、その度にルナが先生と
なって教えてくれる
ルナは私に質問されるのが嬉しいようだ
にこにこしながら教えてくれるので非常にありがたい
図鑑を作りつつ森を進んでいるが、森に住む魔物の
中で私達の相手になるような魔物は今のところいない
少し拍子抜けなところもあり、私とルナは退屈だった