第16話_死の山
私は山を上り続けた
急な斜面や岩場、足が取られやすく体力も奪われ
やすい
それに加えて魔物も多かった
狐やコウモリ、鳥等種類は様々だ
どの種類も素早く、捉えるのが難しい
私が普段良く使っている水弾もコウモリや鳥には
当たらずひらりと躱されてしまうことが多かった
お師匠様の情報によれば注意すべきはコウモリらしい
コウモリの名称はブラックバット
超音波で相手を混乱させ、身動きが取れないところ
を吸血してくる
そんなコウモリが目の前には何匹も飛んでいる
特に超音波が厄介だ
キーンと耳の中に入ってくる音で頭がどうにか
なりそうだった
私が正気を保っていられるのもユリのおかげだろう
様々な状態を無効化してくるこの服が無ければ、
とうにどうにかなっている
そんな襲ってくるコウモリに水弾を何発も放っている
が全部躱されてしまう
「もうっ」
次第に苛立ちが増してくる
水弾が当たらないとなると火球も当たらないだろう
どうしたものか
「風魔法だったら範囲も広いし単発じゃないから
当たるかな?」
修行によって基本的な魔法はすでに習得済みだ
お師匠様は風魔法が割りと好きだったらしく
レパートリーも多く教えてくれた
そのうちの一つがカマイタチである
魔気力をぐるぐると高速回転させることで風の刃を
作り出し、それを前方へ向けて放つだけなので簡単だ
「えいっ!」
っとコウモリに向けてカマイタチを放つ
意気揚々と飛んでいたコウモリであったが、風が乱流
で飛んで来たため上手く飛行を続けることができず、
羽や胴体は風に切りきざまれ何匹ものコウモリが
落下してきた
ステラはそのタイミングを逃すはずもなく
一気に踏み込んでかたっぱしから殴り付ける
体の強度はそこまで無いのか一発殴るだけで弾け
飛んだ
「うーん、どうせなら一発の方が楽だよねー」
一発で相手を仕留めきれないところが手間だ
ところどころに魔物が散らばっているためそこまで
近づくのもめんどくさい
落ちてきたところに水弾を当てても良いが、結局回収
にいくのに近づか無ければならないし、この案も微妙
だと切り捨てた
(これをやるぐらいなら、前見たいに空間を縮めて
全部集めたほうが楽よね
でもなー、あれはあれで結構操作に時間掛かるん
だよなー)
私はお師匠様と同じように顎に手を当てながら考え
込んだ
山の傾斜を歩きながらじっくりと考える
その間に襲ってきた敵はカマイタチでぺちぺちと
一掃した
追い打ちを駆けるのも面倒なため、そのまま放置して
歩き続ける
ふと切り刻まれた鳥が目の前に落ちてきた
そんな網目模様をした鳥の姿を見て
「あっ、良いこと思いついた!」
よからぬことが頭の中を駆け巡る
だが、その前にまだお昼ご飯の調達をしていなかった
ため、鳥を絶命させ、魔石とお肉をはぎ取ることに
した
山の中腹は少し開けていた
斜面も緩やかになり、少し平地になっているらしい
休憩するにはちょうど良い場所である
いつものように調理器具を展開させ肉を焼き始める
そこで気づいた
「最近、お肉ばっかりな気がする」
そんなことが頭をよぎり、お師匠様の本に掛かれて
いたことを思い出してしまった
『ステラはまだ9歳なのだから好き嫌いせず何でも
食べるじゃぞ
じゃないと大きくなれんからな』
確かそのページには食べれる野菜や野菜の作り方
とかが乗っていた気がする
正直、修行とかにしか興味が無かったため読み
飛ばしていた
指輪から本を取りだし、食べられる野菜について
調べながらお肉を食べる
「これからは野菜も取りながら進もう・・・」
心の中でお師匠様には謝った
お昼ご飯を食べ終わった後は先ほど考えていたことを
実戦してみた
魔気力を広範囲に飛ばすわけでもなく、効率的に魔物
を倒せる方法を編み出すために
(まずは魔気力を細く引き延ばすところからだ)
ぐにぐにといじり始め、自分の思った通りの形状に
していく
そして細く長い、ワイヤーが作られた
そのワイヤーにさらに力を込めて強化していく、絶対
切れないように
そうして作り上げられた一本のワイヤーを木へとぶつ
けてみた
スパンッ!
とワイヤーが木を通り抜け、少ししてから木が倒れた
ズシンッ!
「おお、凄い切れ味」
そのワイヤーは魔法というよりは武器に近かった
しかも一回作ってしまえば手から離さない限り消える
ことは無いし
魔気力が消費されることも無い
それから一本だけでなく、指全てからワイヤーを作り
出し、計10本の
ワイヤーを木へと叩き付けた
木はスパパパパンと10等分に切り刻まれる
それを見て
「これ、凄いかも」
いろんな魔法を作ってきたが、今までは火や水とかに
変換するものばかりだ
しかし、今回のことで自分の魔気力の形状を変え武器
に変換できることも知ってしまった
これはマクスウェルですらできなかった芸当だったし、
本にもこういった魔法は掛かれていない
完全にステラのオリジナルだ
それからステラは何ができそうかをいろいろと試した
ワイヤーを太くすれば縄のようになるし、束ねて先端
だけを細くすれば槍にもなり、その槍は木々を貫いた
届かせられる距離は魔気力を込めた量に依存するが、
昔から空をキャンバスにお絵描きをしていたステラの
射程は、見えるところならほぼ全てであろう
小さい頃から、魔気力を鍛え、緻密な操作練習をして
きたからこそ成せる技でもあった
ここに魔力物質変換まで加えたらどうなるのだろうか
ステラはわくわくが止まらず、久々に新しい遊びを
覚えた子供に戻っていた
ステラの実験が終わる頃には、陽も暮れ始め、辺り
一体の木々は全て無くなり
山の一区画はハゲ山と化した
「夢中になったら夜になっちゃった」
今日はこれ以上進むのは諦めることにした
流石に夜に斜面を上る気にはなれないし、せっかくの
平地なのでここで一泊することにする
(お風呂を作ってゆっくりと体の疲れを癒そう)
昼間の実験で辺りの木々を薙ぎ払ったおかげか、
上を見上げると星々がばぁーっと広がる夜空が見えた
「きれー」
ぼぉーっと見ていると吸い込まれてしまいそうだ
ザパァンっと立ち上がり
「よぉーし、明日こそは頂上までいくぞー」
っと気合を入れた
翌日からの山登りは昨日とは打って変わって快調
だった
新しく作り出したワイヤーは魔物に効果てきめんで
ある
どうやら魔気力によって作り出されたワイヤーは
相手に見えていないようで躱されることがない
腕を振るうだけで何本ものワイヤーが相手を引き
裂いていく
このワイヤーの良いところは魔物を倒した後に、
太さを変えることで絡みつかせ
こちらに引っ張ることができるため、魔石の回収が
用意であることだ
「うーん、便利」
私も出来栄えには満足だった
難点といえば操作することが難しく、辺りの木々まで
真っ二つにしてしまうところだろうか
ただ慣れればピンポイントで相手に当てらせそう
なので、今はまだ練習中である
白い髪の毛が靡き、着物がふわふわとゆれ踊る様は
まさに妖精のようだった
魔物にとってはタダの通り魔でしかないが
そうこうやっている間に山頂についた
(死の山という割には特に相手になるような魔物は
一匹もいなかったなぁ)
森の中だと白虎やカムイとかいい勝負をする魔物は
結構いたのだが
この山ではまだ出くわしてはいない
山頂につく頃にはちょうどお昼になった
地図によるとここが休憩ポイントらしい
「はぁー、山を上るのは大変だなー」
慣れない山上りのせいか、いつもより疲れている
気圧の変化による体力消耗は強靭な体を持つステラと
いえど抗うことはできなかった
(いつもよりちょっと長めに休憩をしよう)
地面に腰をおろし、袋から回収してきた食材を広げる
今回は肉だけでなくしっかりと山菜も採取してきて
いる
私はちゃんとお師匠様のいうことを聞く良い子なのだ
しかし、料理のレパートリーは少なく結局一緒に
焼いて食べるだけだが
「せっかくだったら料理のレシピも乗せてくれてば
よかったのに」
いろいろ書いてはいるものの料理に関しては道具だけ
の説明で肝心なレシピは一切載っていなかった
ステラも少しぐらい料理はできるが、レシピが無けれ
ばどれも簡素なものになってしまう
鉄プレートにお肉と山菜を並べて焼いていく
「んーー、この時が一番しあわせー」
焼いただけでも食材が良いため、味としては最高だ
山に生息している鳥、『アサルトバード』はなかなか
美味である
鶏肉としては今まで食べた中では一番だった
そんなご飯を堪能中のステラだったが、ここは魔物が
ゴロゴロいる山の中
いつもはたまたま襲われていないだけだということを
失念していた
ご飯に夢中になっていて辺り一面が暗くなっている
ことに気づくのが遅れた
頭の中ではてっきり雲が陽射しを隠しているのかと
思っていたが私の周りだけが暗いことに気づく
その暗さは次第に大きくなっていく
肉をかじりながら私は空を見上げたが、時すでに
遅かった
ズドォオオオオオン!!
ちょうど私が座っていたところに巨大な何かが
突っ込んできた
その衝撃はすさまじく、警戒していなかったは私は
遠くまで吹き飛ばされ、
ベチッっと岩に叩きつけられた
まだ肉はかじったままである
吹き飛ばされただけなのでダメージはないが、
「私のお昼セットが!!」
と意識は別のところにあった
大きく舞い上がった砂埃が風で払われると、そこには
突っ込んできた主が現われ始めた
大きな翼、力強い腕、大きな角、さらに鋭い牙が徐々
に見え始める
バサッ!っと大きな翼を広げ、咆哮した
「ガァアアアアアアアア!!」
そこにいたのは『紅龍-イドラ』だった