第15話_バイバイ
翌朝、私は凄く快眠が得られたため体の調子が
よかった
それもそのはず、夜はルナがモフモフな体を貸して
くれたのだ
結界を張ることはできなかったが、ルナが見張りを
してくれていたので安全安心だった
おかげで昨日の疲れは吹き飛び、非常に調子が良い
そんな一緒に寝ていた熊は朝起きたら何かをむしゃ
むしゃを食べていた
どうやらウサギのようだ
「インビジブルラビット」
私が寝ている間に襲ってきたのであろう
ルナはそのことごとくを返り討ちにしてくれていた
(私を起こさないように戦えるなんて、起用だなぁ)
私が起きたことに気が付いたのか、仕留めたウサギを
一匹くれた
「くれるの?」
「クマッ」
くれるらしい
私はその一匹を貰うと朝ごはんとしてお肉を処理した
朝から肉料理は流石に胃がもたれそうだが、せっかく
ルナがくれたのだ、食べよう
朝食を取り終え、
「さぁ、今日は麓までいくぞー」
と気合を入れ、歩き出そうとする私
その隣ではうつ伏せの状態で動こうとしないルナ
「あれ?、いくよ?」
だがしかし、ルナは体制を低くしたまま動かない
「もしかして、乗れってこと?」
「クマッ」
なんて、可愛い熊なのだろうか
私は頭を撫でてから、背中に飛び乗った
そうすると、ルナは立ち上がりノシノシと歩き始めた
だが、様子がおかしい
ルナは時々ちらちらとこちらを見ながら歩く
(これはもしかして、味をしめたな)
ルナはステラに魔気力を流して欲しいのだろう
だから、まだかまだかとこちらを見てくるのだ
「しょうがない子だなぁ」
そんな姿のルナが可愛くなってしまい、今日は朝から
修行となった
魔気力を流すと
「クマッ」
っと鳴いて、ルナは凄く嬉しそうだ
それからのルナは快調にペースを上げ川沿いを歩く
このままだとお昼には麓につきそうだ
麓に近づきつつあるが、変わりに魔物の数も増えて
きた
時折、デスウォルフやウサギが現れたり、家の近くに
はいなかった
始めて見る魔物も増えてきた
一番厄介だったのは蜂の大群だった
名前は『ジャイアントホーネット』と呼ばれ、名前
通り凄く大きな蜂だ
虫の癖に私と同じぐらいの大きさがある
それが大群で私たちの上空を飛んでいるのだ、非常に
厄介であるし気持ち悪い
蜂は私達のことを刺そうと一生懸命だが、魔気力を
纏っているため針を通すことはできなかった
しかし、羽音が非常にうるさい
「邪魔だなぁ」
時々飛んできては攻撃を仕掛けてくるので、ゆっくり
することもできない
仕留めた魔物からは少し小さいが魔石は取れるので
良いのだが、食べることはできないだろう
「なんか一気に仕留める方法はないかなぁ」
私は魔気力をコネコネといじりながらしばし考える
できるなら一か所に集めて、まとめて倒したい
上空を舞う蜂は百匹単位でうじゃうじゃといるため、
一気に燃やしてやりたくなってきた
そこでピーンときた
ならば空間を操って虫を一か所に集めてはどうか
「よぉーし」
思い立ったらやってみるのがステラ流だ
やってみてから考えよう!
私は立ち上がり、自分の魔気力を上空一体へと霧散
させた
その魔気力を今度は球状に変化させて行く
「そして一気に真ん中へー、集まれーッ!」
ギューッと空間が丸ごと圧縮されていき、蜂も真ん中
へ強制敵に移動させられていく
蜂達は一生懸命逃げようとするが、強靭な膜からは
逃げ出すことができない
ついにその球は何百匹はいるであろう蜂の塊と化した
ゾクッ
(うぉー、気持ち悪い)
その光景を見て思わず鳥肌が立つほどだ
集合体恐怖症の人がいたら見ない方が良いレベルで
気持ち悪い
私は火炎球を構える
そこに
「いっくよー!ステラ作『エクスプロージョン!』」
思いっきり火炎球を投げつけた
球の中は蜂でいっぱいだが、空間圧縮の際に大量の
酸素も一緒に圧縮されている
そこに火の球が着弾
ドォオオオオオオオオン!
大量の酸素に火が着火し、大爆発を引き起こした
ルナは体をビクッっと振るわせ、上空を見ている
ブワッ!と爆発の衝撃刃がこちらへも届き、白い髪が
風でなびくのを手で抑える
爆発地点では大きなキノコ雲が作られ、そこいたはず
の大量の蜂は跡形もなく弾け飛んでいた
上空からパラパラと光る石が落ちてくる、魔石だ
だが魔石も粉々に砕け散っており回収しても価値は
無いだろう
「ありゃりゃ、魔石まで一緒に砕けちゃった
威力的には申し分無いんだけど、この魔法も
ぼつだなー」
自分の作った魔法に酷評だ
魔石が回収できなくては、相手を倒す価値はあまり
ない
「うーん、なかなか上手くいかないなー
あっ!あのまま押しつぶしちゃえばよかった?
でもあんなにうじゃうじゃいたらさらに気持ち悪く
なるかー」
振り返るとわざわざ爆発させる必要性は確かに
無かったが、つぶした時の光景を思い浮かべると
やはり鳥肌が立つ
「まぁ、今回はしょうがないよね」
しょうがない、しょうがない、次は違う方法を
考えようととポジティブに済ますステラであった
蜂の大群が一気にいなくなり、邪魔物はいなくなった
大きな爆発を起こしたからだろうか、辺りには他の
魔物もいなくなっており、無事にお昼には山の麓へ
と到着した
「とうちゃーく
ルナもありがとーっ!」
ぴょんっと背中から飛び降りて頭をわしわしと
撫でてやる
「クマッ」
とルナは気持ちよさそうにして鳴いてくれた
まさかわずか1日半で麓までつけるとは思ってい
なかった
当初のペースを考えれば後2日は掛かっていただろう
これもルナのおかげである
「お昼ご飯にしよー」
私は指輪からいろいろ取り出して、お昼ご飯の準備に
取り掛かる
近くに魔物がいなかったから非常食で作っておいた
干し肉料理だ
「ルナも食べる?」
聞くとルナは頭をそむけた
いらないらしい
「まぁ、あれだけ道中つまみ食いしてれば
いらないかー」
ルナは歩きながら襲ってきた魔物を倒してはむしゃ
むしゃ食べていた
最後の方は爆発のせいで何も現れてはいなかったが、
お腹はいっぱいらしい
今は汚れた体を毛づくろい中だ
昼食を取り終え、一息つく
山の方を見るとまるで壁のようだ
ある程度頂上まで進まなければ向こう側へ行くことは
無理だろう
地図を見ると山は向こう側へも続いているらしい
「今日は中腹辺りで一回泊まるしかないかな」
お師匠様の調べだと山には森よりも強い魔物がうじゃ
うじゃいるらしい
なるべく体力は回復しつつ、少しずつ進むのが良い
だろう
そんなことが本には掛かれていた
お師匠様に残して貰った本にはいろんなことが
掛かれている
今かなり参考になっているのが魔物の情報だ
どんな魔物が住んでいて、どの魔物が脅威なのか
それなりに詳しく書いてあった
お師匠様もここに住む前は通ってきた道らしく、
どこで休憩するとよいのかもある程度目印が記
されていた
本の情報を再確認した後、出発する準備を始める
「さて、いこうか」
私は立ち上がってルナの方を見る
しかし、また熊は動こうとはしなかった
山を見て、森をみて、私を見る
そんなことを繰り返していた
「ルナ?」
近寄って頭を撫でると
「クマー」
っと少し寂しげな鳴き声をした
そんな仕草をするルナに私は気づいてしまった
「あっ、そうか、この森を離れるか迷っているのね」
この森はルナにとっても故郷である
私にとっても故郷ではあるが、今はやることを探す
ために出ようとしているところだ
しかし、ルナにとってはここを離れる理由はない
もしかしたら他に家族もいるかもしれない
「クマ-」
寂しげに鳴く、そしてうつ伏せに座り込んで、目を
閉じてしまった
「ルナ、迷っているのね
私はどのみちここをでなきゃ行けない
あなたにはあなたの道があるわ
とりあえず今日はここで一泊しましょう」
ルナには言葉が伝わってはいないだろう
だからルナに触れて優しく魔気力を流し込む
そんなステラの行動にルナも察してはいるのだろう
ルナは迷っている、でも私にはどうすることも
できない
どっちに進むことになろうともせめて今日は一緒に
ここにいようと思った
翌朝目が覚めると、隣にいたはずのルナはいなく
なっていた
「行ってしまったのね」
私はまた一人になって寂しくなった
せっかく友達になれたのに
わずか2日間の付き合いでしかなかったが、ルナとは
相性がとても良かった気がする
でもルナにはルナの、私には私の道がある
これはしょうがないことなのだ
そう自分に言い聞かせて、沈んだ気持ちを何とか
立てなおす
「よし、先に進もう」
野営の後片付けを済ませ、壁のような山へと足を
進めた
昨日までとは違い足どりが重い
単純に道が斜面になっているというのもあるが、気
持ちがずっしりと重くなっているほうが大きいだろう
ある程度のところまで来ると、森全体を見回すことが
できる高さまで来た
いつもお師匠様と修行した草原や、家の周りの風景が
目に入る
いよいよ私はここから出ていくのだ
最後は一目ルナの顔を見たかったなぁ
私が生まれてかれこれ9年
また戻ってくるかはわからないけれど
私をここまで育ててくれた森
「ありがとうございました!」
深々と頭を下げる
そして
「バイバイ」
私は振り返らない
途中途中で涙が溢れてきたが、私は止まれない
自分の人生は自分で決めるのだ