第14話_カムイ
ジュー、ジュー!
私は回収した白虎の体を処理し、肉を削ぎ落した
そして生肉の処理しているうちにお腹が減って
しまったのである
「この、お肉はどんな味がするんだろう、じゅるり」
涎が出てきてしまうのを抑えながら、金属プレートで
肉を焼く
削ぎ落している時にわかったことだが、白虎の肉は
以外とやわらかい
私の打撃を何度も受けて無傷だった肉体の割りには
筋肉質では無かった
魔法は毛皮が、打撃は肉体の強度がと思っていたが
おそらく白虎は私と同じで魔気力を使うのかもしれ
ない
私も戦っていて魔法や打撃で傷ついたことはなかった
そんなことを考えていたら、おいしそうにお肉が焼き
あがった
「いっただきまーす!」
パクッと一切れのお肉を口の中へ入れる
トロッ
っと口の中でとろけるような感触
脂身が程よく、肉はやわらかく、今まで体験したこと
のないような
味が口の中に広がった
「うまっ!」
何切れも口に運び、すぐにお腹がいっぱいになって
しまった
「はぁ~、しあわせー」
うっとりとした表情でお腹をさする
しかし、まだまだ肉は残っている
処理してまた干し肉にしてしまってもいいがもったい
ない気がする
何か生で保存して品質が落ちないようにすることは
できないものか
しばし考えるが、いい案は思い浮かばなかった
「お師匠様にも食べさせてあげたかったなぁ」
そんなことを思っていると、先ほどまで横たわって
いた熊がズシンッと音をたて起き上がった
熊はこちらへと振り返り、牙をむき出しにする
「グルルルルッ!」
明らかに戦闘体制だ
(助けてあげたけど、やっぱり魔物は魔物なのかなぁ)
魔物は普通テイムすることはできない
歴史上そういったことを可能にした人物はいなかった
とお師匠様は言っていた
でもカムイはなんか普通の魔物とは違う気がする
「そうだ!」
私は隣で処理していた肉の塊をカムイへと放り投げた
やはり、動物は餌付けだ
カムイは放り投げられた肉を見つめ、その肉片を
食べた
やがて、体のあちこちをぺろぺろと舐め始める
舐め終わると牙をむき出しにしていたカムイは大人
しく地面に座った
さっき食べた肉、そして自分の傷が消えていること
先ほどまで白虎と対峙していたのにも関わらず、
自信が生きていることを魔物ながら悟っているようだ
そして、目の前に座る少女と目が合った
私は目の前でそんな行動を取る熊へと手を差し出し
動物を引き寄せるように手招きをする
「おいでー、おいでー」
するとカムイは頭を手へと近づけ、匂いを嗅ぎ始めた
それで気づいたのだろう、ステラに流れている魔気力
と今自分の中に存在している魔気力が同一のものだと
つまり自分はやはりこの少女に助けられたのだと
熊は顔を地面近くまで落とし、こちらへ差出した
「おおぉ、よーし、よーし」
すかさず、私は頭を撫でた
真っ白に輝く毛並み、それでいて凄くやわらかく
モフモフな毛だ
「やみつきになりそう」
そうして、ステラとカムイは人間と魔物なのに友達
となったのだった
私はそれから残った白虎のお肉を半分カムイへと
あげた
どうせ一人では食べきれないし、上手く保存する方法
も思いつかない
ある程度は干し肉にしてしまうが、せっかくなら
カムイに食べて貰った方が良い気がする
それを喜んでカムイは食べていた
「そうだ!せっかくだから名前を付けよう」
ステラは名前を付けることが凄く好きだ
自分の新しく作った魔法や技にもすぐ名前を付け
たくなる程に
「カムイだからー、カー君、でもオスかメスか
わからないなぁ
ムー君、ムーちゃん、うーん、でも少し味気
ないなぁ
真っ白でお月様みたいだから・・・
よしルナちゃんにしよう
君の名前は今日からルナちゃんだ!」
ビシッとカムイを指さし、名前を決めた
「クマッ、クマッ」
と何かちょっとだけ鳴いたが、良いのかダメなのかは
わからない
だけど、もう決めた
「ルナちゃーん」
名前を呼びながら大きな熊の体へと飛びつく
ふわふわの毛並みは極上だ
しかし、せっかく友達になったのも束の間、私は
この森を出なければならない
カムイにも自分の縄張りがあるだろう
付いてくるかどうかは本人次第のところがあった
私は道具を全て片付け、まずは第一目標である山の
麓へを目指す
すると、カムイは後ろからノシノシっとついてきた
(よしっ、よしっ)
そんなカムイを見て心の中ではガッツポーズだ
朝は一人ボッチで少し寂しかったが、魔物であろうが
一緒にいてくれるだけで凄く嬉しかった
時々モフモフの毛を堪能しながら、川沿いを一人と
一匹は歩いていく
4足歩行で歩く熊、それを見ながらステラは思った
(これ、もしかして乗れるのでは)
カムイは5m以上はありそうな巨体をしている
人が一人乗ったところで、特に問題は無いだろう
「よし!」
私は意を決した
カムイの頭を撫でてから、背中へと飛び乗った
ぴょんっと背中へ飛び移ると、カムイはちょっと
ビクッとしたものの
振り落とそうとはしてこない
「おおお」
流石は巨体の持ち主といったところだろうか、背中
は広々としており
高いところから見下ろす景色はまた違う世界を私に
見せてくれた
背中の毛並みも他のところと一緒でふかふかである
「はぁ~ふかふか~」
背中に抱きつきながらその毛を堪能した
ノシノシっと川沿いをまっすぐ歩く熊の背中で、
ステラはうとうととし始める
あまりにもふかふか過ぎて急な眠気が襲ってきていた
しかし、ここは危険な森の中
結界を張るにもカムイは魔物のため張ることは
できない
「ルナちゃんにも悪いし、しっかり起きてないとね!
でも、歩かなくなったら暇だなぁ、
そうだ!
ルナちゃんには歩ってくれてるお礼に私の力を
分けてあげよう」
私は背中に抱きつき、魔気力を流し始める
これはこれで良い修行になりそうだ
いつもは刀とかを強化したり、自信の身体強化を
しているのに使っているが
生きているものに分けて使ったことはあまり無い
カムイに分け与えることができたのも、瀕死で抵抗
されていなかったことが大きいだろう
ビクッ!
と熊の体が大きく震え、歩くのが止まってしまった
頭の方へ移動しカムイの様子を見てみると、目を
細めて今にも座ってしまいそうだ
見た感じからは嫌そうではなさそうだ
私はもとの位置に戻り、少しずつ力を流し続けた
流すことはできても、お師匠様のようにまだ上手く
同調させることはできないため、
カムイがどう受け取ってくれているかはわからない
そのうち、できるようにはなるだろう
私の新しい修行レパートリーがまた増えた
しばらくすると、カムイも慣れてきたのか少しずつ
歩き始める
魔気力を流して気づいたことだが、カムイも白虎や
私と同様、おそらく魔力も気力も使える構造を
していそうだった
すんなりと力が通っているのがその証拠であろう
つまり、カムイも本気を出せば私の打撃や魔法は
一切通用しないことになる
あまり考えたくは無いが、やはり魔物ということも
あり、これには何か対策を考えて置かねばならない
と思えた
しかし、カムイはどんどん私の力を吸い取っている
倒れていた時にはある程度のところで止まったが、
今回はそれ以上に吸われている気がするのだ
この熊は好き好んで吸っているように思えた
その証拠と言っては何だが、歩くスピードが徐々に
上がってきている気がするし体に力強さがより一層
増している気がする
私の魔気力がカムイに馴染み始め、身体強化として
役立ち始めたのだろう
私自身は今までかなりの総量を増やしてきたから、
まだまだ問題はなさそうだがいつかは全て吸い
取られてしまいそうだ
魔力についは大気中から還元できるから問題は無いが、
気力は自身に内包している分しか持ち合わせていない
「私もまだまだだなぁ・・・
くそ-、ルナちゃんに負けてなるものか!」
久々に頑張るポーズを取って、私は気合を入れた
そんなこんなで夕暮れ時
今日はルナちゃんのおかげで目算ではあるが道のり
の半分まで来ることができた
道中で何回か魔物と出くわしたが、ルナちゃんが
あっという間に倒してしまった
ありがたく今晩の夕飯にさせて貰おうと肉を回収した
河原に野営をする準備をしていく
魔物の肉を処理したり、ルナちゃんのご飯を用意した
り、自分のご飯を用意したりと以外とやることは多い
雨に振られるのも困るので、上空の雲だけは払い
のけておく
汗もかいているので簡易的なお風呂も用意しよう
一日の疲れをいやすにはやはりお風呂しかない
地面へと穴を堀岩を敷き詰めてお湯を投入、
そうすることで簡易的なお風呂があっという間に
完成する
「ふぅ、こんなところかな」
服を脱いで、足からお湯に浸かっていく
肩まで浸かると思わず溜息がでた
「はぁー、疲れたー」
一日の疲れがお湯へと溶けていくようだ
私が家をでてまだ一日目だというのに、今日は
いろんなことがあった
カムイと再会できたのもそうだが、まさか一緒に
旅をしてくれるなんてこれほど嬉しいことはある
だろうか
まだまだ先は長いけれど、頑張っていけそうだ
ゆっくりとお風呂に浸かりにこれからのことにも
思いを馳せるステラであった