第13話_白虎
ステラは午後の気持ちの良い陽射しの中スヤスヤと
眠っていた
真夏の暑さではあるが、河原の心地よい風とちょうど
良い陽射しで絶好のお昼寝日よりである
しかし、気持ちの良いお昼寝も大きな地響きによって
邪魔が入った
ズシンッ!!
ステラが心地よく眠っている最中、地面がぴょんっと
跳ねるような感覚で起こされてしまう
「うぅぅん、なに~?」
目を擦りながら起き上がり、私は辺りを見回した
すると白い巨体が河の中に水没しているのが目に入る
白い巨体はいつしか見た熊の魔物『カムイ』だった
私は久々に見たその魔物に興奮した
「見つけた!」
最初に戦ってからすでに1年以上が立っている
いつかもう一度再戦し、自分がどれだけ成長したのか
を試したかった
簡易結界をとき、臨戦態勢をとる
しかし、どうやら相手の様子がおかしい
カムイは中々河の中から起き上がろうとしない
そんな熊をよくよく見ると、白い毛のところどころに
赤い斑点模様が付着していた
「ケガ、してる?」
少しずつ近づく
熊まではすぐ近くだ
「もう少し、もう少し」
近距離まで近づいたその時、木々の間からガサガサッ
という音が聞こえた
バッと振り返ると、そこには3匹のトラがいた
トラ達は牙をむき出しにし、こちらへとゆっくり
近づいてくる
トラはカムイと同様に白い毛並みをしていた
おそらくカムイはこのトラ達と戦っていたのだろう
(魔物同士で縄張り争い?)
カムイは気絶しているのだろうか、起き上がっては
こない
そんな熊さんは私の宿敵、腕試しの相手
ここで死なれては困る
そう思うと体は自然とトラと真正面から向き合う形と
なっていた
(お師匠様から聞いたことがある、カムイと同じ色の
毛をしているトラ
あれはおそらく白虎だ)
「グルルッ!」
この森でカムイと同レベルの敵であることは雰囲気
からなんとなくわかった
(白い毛並み、たぶん魔法は効かないんだろうなぁ
でも牽制ぐらいにはなるかな)
以前同じ毛を持つカムイに魔法はそこまで通用しな
かった
おそらく白虎もまた同じだと判断する
対峙しあう3匹の白虎とステラ
ステラは徐々に自分の魔気力を高め始める
(久々に全力で行こう)
まずは自分にどの程度の実力が身についたのかを
確かめたい
最初に動いたのはステラだった
「ウォーターバレット!」
一瞬で3つの水弾を作り出し、3匹めがけて発射する
その水弾の速さに白虎は対応することができない
顔や胴体に水弾を直撃してしまう
しかし、衝撃によってよろけはするもののやはり
傷はつかない
続けて連続で水弾を発射する
ドドドドドドドドドドッ
水弾によって怯んではいるものの
「やっぱり、無傷かぁ、こっちも威力は上がってるは
ずなんだけど!
次はこれでどう?!」
さらに水を集め、今度は平たく圧縮していく
高密度まで圧縮され魔気力で強化された水はやがて
一閃の巨大な刃と化した
「いっくよー!ステラ作『ウォーターブレード!』」
バシュンッ、と放たれた水の刃は3匹の白虎をまとめ
て吹き飛ばした
ドォオオオンッと衝撃刃がこちらまで飛んでくる
威力的には昔カムイに放った白炎球以上だ
砂煙が開けると
白虎は健在だった
しかも無傷だった
想定はしていたが、ある程度のダメージは与えれると
思っていた分ショックだった
昔よりも魔気力の操作は上手くなり、質も量も
上がっているのだから
そして今度はこちらの番だと言わんばかりに白虎は
遠吠えを上げ白虎とステラの戦いは幕を開けた
左側の白虎が遠吠えを発した瞬間
他の2匹の力が増したのを感じる、身体強化を施した
のだろう
それと同時に真ん中の白虎はこちらへ、右の白虎は
大きく腕を振り下そうとしている
白虎達の連携は魔物であるにも関わらず完璧だ
サポート、近接、魔法とちゃんと役割分担されていた
(これはカムイも負けちゃうよね!)
しかし、ステラも瞬時にそれを見抜いていた
突進してくる白虎に向かって、合わせて勢いよく踏み
込んで前へ出る
同時に
「ウォーターバレット!」
右側の白虎の腕目掛けて水弾を発射する
ダメージは無いものの衝撃によって魔法を遅延させる
ことくらいはできるはずだ
バシンッ!
と腕が弾かれ体制が崩れる
その合間に真ん中の白虎と私はぶつかり合う
相手は右腕の爪を振るってきている
私は相手よりも低い体制を取り、さらに一歩踏み込ん
で振るわれた腕を左腕一本でガードした
ズシンッ
左腕に鈍く重い衝撃が走る
しかし、魔気力で高められた私の防御を突破すること
はできないようだ
体制は万全
私は右手を下から相手の顎目掛けて、上空へと一気に
振り上げ掌底を放つ
ドンッ
その掌底はまともに顎にヒットし、白虎の体が宙に
浮く
そこにすかさず、右足で蹴りを放った
ステラがここ数年間の実戦で積み上げてきた近接
格闘術である
蹴りによって吹き飛ばされた白虎は左側でサポートを
していた白虎に思いっきり
ぶつかり、2匹の体制は崩れた
この間わずか5秒の出来事である
しかし、相手は3匹
今度は右側の白虎へと一気に距離を詰める
その間に、左側を確認するが、やはりというべきか
掌底を思い切り放ったにも関わらず無傷であった
(無傷かー、少しは自信あったんだけど・・・
お遊びは終わりかな)
魔法でもダメ、魔気力で強度を上げた格闘術もダメ
相手を倒す残された手段は後一つだけになった
右側の白虎は体制を立て直しつつあったが、さらに
水弾を打ち込んで体制を崩す
「ここまで傷を入れられないなんて思わなかったわ!」
私は突進と共に腰に納めていた刀へと手を伸ばす
左手を鞘へ、右手を柄へ、魔気力を流しつつ抜刀の
構えを取る
そして、突進で加速された重量と共に一気に刀を抜刀
した
「いっくよー!ステラ流、『瞬華一閃!』」
勢い良く白い刀身をした刀が鞘から引き抜かれ、
魔気力を通した刃は淡い赤色に輝く
スパンッ!
と白虎は一閃され、真っ二つとなり
ドサッ、ドサッと
二つに分断された体が地面へと落下する
神剣-アステラスに切断された傷口は全て焼きつく
され血も出ず、溶断されていた
アステラスに切れない物はなく、切った部分は全て
焼かれて溶断される
魔法が効かない白虎に対してもそれは例外では
無かった
体制を立て直し、その光景を目にした残り2匹の
白虎は私に勝てないと思ったのか、森の中へと駆け
出した
私も逃げる相手を追おうとは思わなかった
「はぁー、結局刀使っちゃったなー」
先ほどの戦闘を思い返すと、現状の自分では刀を抜く
以外に勝ち筋が見当たらなかった
もし刀を持っていなかったら、負けていたかもしれ
ない
「また、お師匠様に助けられてしまいましたね
まだまだ頑張らないと」
そう言いながらながら、白い刀を鞘へと納めるの
だった
白虎の心臓からは大きな白い魔石が取れた
普通の魔物からだと赤とか青とかの魔石だったが、
白虎は普通の魔物とは違うらしい
それから、白く毛並みの良い毛皮をはぎ取った
魔法をほとんど受け付けない毛皮なんて希少なもの
だろう
さらに驚くべきは心臓だけでなく、目からも魔石が
取れたことだ
合ったときは魔石では無かったが、死体へと変わった
時に魔石になったようだ
これもまた魔石としてはどの色にも属さなかった
それらを全て採取し、指輪の中へと保管した
「お肉は後で処理しよう」
そして、立ち上がり後ろを振り返る
未だに河の中に白く大きな熊は沈んでいたので、
溺死されては困ると思い
私は河岸まで熊を引き上げた
呼吸はあるので生きてはいるらしい
だが、あちこちケガをしているため、血の損失が
激しい
「魔物を回復するってどうなんだろう」
私は迷った
魔物は倒すべきものとお師匠様からは習ってきた
だが、回復させてはいけないとも習わなかった
巨大な熊を見つめる
「うーん、ここは私の気持ちで!」
そう決心し、熊に自分の魔気力を与えて見ることに
した
ステラは回復魔法を使えない
まだ教えて貰っていなかったというのもあるが、
自分自信が傷ついたことが無いため、これまで必要と
もしてこなかった
ただなんとなくだが、力を分けることで回復するよう
な予感はしている
私は熊に手を当て、自分の魔気力を流し込んでいく
あまりにも巨大な体は私の魔気力をどんどん吸い込ん
でいってしまう
(これ、どこまで吸うんだろう)
だが、吸えば吸う程、血の流れは止まっていった
しばらく与えていたら、吸うのが止まった
かなりの量を持っていかれたように感じたが、
総量の1/5程度だろう
「ふぅ」
っと溜息を一息ついた
熊は未だに眠り続けている
このまま放置しても良いのだが、また白虎に襲われた
ら治した甲斐がない
とりあえずは起きるまで一緒にいることにした
宿敵だと思っていたカムイであったが
なんとなく愛着が湧いてきてしまっているのを感じて
いるステラだった