表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/47

第1話_誕生



「・・・・けて」



「・・・す、けて」



私は暗闇の中を沈んでいく

まわりには何もない

ただ永遠に続く暗闇の中を沈んでいく



「た、す、けて」



どこからだろう、誰かが喋りかけてくる

体は重く、心臓が下へ下へと引っ張られるような感覚



「・・・・たす、けて」



どこからだろう

呼んでいる気がする

左だろうか、右だろうか

自分の意識はどこにあるのだろうか

体のいうことが効かない、体が重い

ただ声だけははっきりと聞こえた気がした



「・・・・・・・・・けて」



重い体をなんとか動かし、右手を伸ばしてみる

沈んでいく暗闇の中で右手に何かが当たったきがした


ガシャ・・・・



何だろう

硬い



私が触れたのは鎖だった

古びた鎖

茶色く錆付いた鎖


ガシャ、ガシャ



その瞬間、この暗闇の中ではっきりと見ることができた

鎖に繋がれ泣きじゃくっている少女を



「助けてっ!!」



-------------------------



ドタンッ!!



気が付けば私はベッドから下に落っこちていた

落ちた瞬間に頭をぶつけたのだろう

とてつもない痛みが後頭部を襲い、私は悶絶して床を

転がり回った


「ううううぅぅ・・・」


後頭部を手で抑えながら体全部を丸め込む


いたい、いたい、いたい


痛みが数分続いたが、なんとか体を起こし部屋を眺める

誰かに呼ばれたような夢を見ていた気がするが、内容は

ほとんど覚えていなかった


「あー、痛かった・・・」



後頭部を手でさすりながら部屋を出てリビングに行き、

朝食をとることにした

リビングには大きな食器棚、2人掛け用のテーブルに

キッチンと簡素なものしか置いていない

家もそこまで大きくはなく、このリビングの他に二つ

部屋があるだけだ

キッチンにも食材は少なく、だいたい朝食は目玉焼きが

定番となっている


この世界では大抵のことは魔法でなんとかなる

土魔法で小さな土台を作りその上に生成した皿を置く

皿の上に卵を割り、中身を乗せた後に皿を火魔法で

熱していく

いいころ合いになったら熱を掛けるのを止め、皿を自然

に冷やす


そうすることであっというまに目玉焼きの出来上がり

である


出来上がった目玉焼きをテーブルへと運び私は一人

席につく


土からコップを生成した後、空気中から水を集め中へと

水を注ぎ込む



「いただきます」


私はもうすぐでで9歳となり、一人での生活が始まって

かれこれ半年となる

今は春の季節を迎えてようやく陽射しが暖かくなって

きた頃合いだ

窓から差し込む暖かな陽射し、外を飛び回る鳥を眺め

ながら朝食を食べる


「あれから半年かぁ、月日が立つのは早いものね」


私には一緒に住んでいた家族がもう一人いた

それはこの世界で祐逸の家族


お師匠様だけが私の唯一の家族だった



お師匠様は決まって口癖のように言うのだ


『我が名はマクスウェル、この世界で唯一無二の

大賢者なり!』


私は毎回冗談半分でそんなお師匠様の戯言を聞いていた

お師匠様はよくぎっくり腰で寝込むし、鳥の卵を取る

のは下手だしで


『本当に大賢者なんですか?クスクスッ』


と何度も笑う日々が続いた


それでもやはり年の巧とは言ったものだ、お師匠様は私

にたくさんのことを教えてくれた


魔法のこと、剣技のこと、世界のこと、生きていくため

の知恵

私が物心ついた時から僕はお師匠様に多くのことを叩き

込まれた



そして、私はこれからの人生をどうしようかと

ひたすらに悩む毎日が続いている

お師匠様はいつもどういうことを教えてくれただろうか

たまには思い出に浸るのもいいかもしれない




~~~~~~~~~~9年前~~~~~~~~~~~~



ドォオオオオオン!!



山々に囲まれ、深い森の中に開けた草原地帯がある

そこで爆炎が一つ巻き起こった

草原の真ん中にはクレーターが出来上がっている


「げほっ、げほっ、うーむ、今回も失敗じゃなぁ」


爆風によって舞い上がった煙の中には一人せき込む老人


その老人こそ自称『唯一無二の大賢者-マクスウェル』

である

この時すでに63歳を迎え、髪の毛は白に染まり、体も

やせ細り始めている


マクスウェルは失敗からの苛立ちで杖を地面に何度も

叩きつけた

「どうしてじゃ!なんでうまくいかんのじゃ!!」


これでちょうど1000回目の失敗


魔力が回復しては実験の繰り返しの毎日に何年の時が

流れたことであろう

杖を叩きつけることで冷静に戻ったのか、実験失敗に

対する考察をし始めた


(魔力は足りているはず、爆発するということはまだ

圧縮が足りていない?・・・

 いや、急速に圧縮しすぎて空間自体が消滅している?)


彼は顎に手をあてひたすらに考察を続けるのであった


マクスウェルには夢があった

何年犠牲にしても叶えたい夢があった


その夢は最愛の人を助けること


そう、過去に戻って一番大切な人を助けだすことだ


彼は数年前に過去に遡る方法を考えつき、人知れない

山奥で自分を使った

人体実験を行うことにした


彼の実験には多くの魔力を消費するため、1日1回実験を

するだけで魔力が空っぽになってしまう

そのため、長い年月を駆けて研究と実験を繰返していた



翌日になって、マクスウェルは昨日の失敗の考察から

始めた

魔力を圧縮し続け一定のところまで圧縮すると爆発を

引き起こす

力の流れを良く考え直し今日はどこを修正するかを

考え込み、初心に帰ることにした


大抵のことが魔法で何とかなる世界でさえ、時を遡り

過去へ行くことは不可能と思えた。


だがマクスウェルは考えた


ようは向きの問題だ


何事にも向きが決まっている

時間でさえ向きが必ず存在するはずなのだ

その向きを逆転させてやればよい


(向きが決まっているのであればその向きさえもない

空間を作り出すことができればあるいは?・・・

その後にその空間ごと逆向きに圧縮した場合は?)


様々な仮説を頭の中で構築していく


(とりあえず考えてもわからない・・・・か

 よし、やるだけやってみようかの)


彼は杖を構え、目の前の空間にむかって杖を突き出す


(まずは空間の除去だ)


目の前の空間から、空気、ゴミ、光さえもが入り込め

ないように

内側から外側に向かい押し出すように魔力を込めていく


すると周りの物体がそこに戻ろうとする力が働き、維持

することが辛くなる


(まだ・・・・まだぁあ!)


目の前の空間には光さえも通さない漆黒の球体が出来

上がっていた

球体の端に魔力を集中させ中になにも入れないように

膜を形成する


マクスウェルは最後の力をふり絞り、その球体の内側を

圧縮し始める


本当に何もない空間を圧縮した場合なにが起こるのか・・

もはや興味本位でしかなかった。


さらに圧縮をつづけた結果、漆黒の球体の中央で亀裂が

入り始めた

その亀裂はパラパラと崩れ落ちやがて中からは光が溢れ

始める


(何もない・・・ところから光が?・・・)


このときマクスウェルは人類始まって以来、次元に亀裂

をいれた男となる

しかし、彼の最大の失敗はそこで気を緩めてしまった

ことだ

実験によって起こった不思議な現象を頭の中で考えて

まったがために

杖に掛けていた集中が一瞬揺らいでしまった

そこからの魔力制御の崩壊は速かった


彼は大きくを目を見開き


「まずい!!!」


同時に自分の持てる全ての防御魔法を一気に自分へと

掛ける

そしてその光は急速に広がり、草原一体を一瞬で埋め

尽くした


ドオオオオオオオオォォン!!


すさまじい爆発が巻き起こる


爆発は白い光の柱となり天高く突き抜けていった

雲を超え、惑星から飛び出し、宇宙の彼方まで


この光の柱は昼だというのに各国で確認されるほどで

あったという

ある国では神様の降臨

ある国では悪魔召喚

そういった噂がいくつも立ったという



爆発の中心にいたマクスウェルはなんとか生きながら

えていた

防御魔法を何重にも掛け、風魔法で自分の体を浮かす

ことによって爆風と共に外側へと逃げたのだ

しかし、横たわっている彼の右腕と杖は消失していた


彼は這いつくばった体を何とか起こそうとするが、右腕

がないことに気づく


(右腕を持っていかれたか)


無くなった部分から血がだらだらと流れでいてた

急いで回復魔法を右肩に掛ける


傷口は塞がったものの無くなった血は戻らない

多少貧血気味に陥り意識が朦朧とする

周りは爆発の影響か煙がまい、空気も少なく息苦しい


「げほっ、げほっ」


せき込むと口からはいくらか血が出ていた

爆発の衝撃で肺もそれなりにダメージを受けたらしい


彼はなんとか起き上がり周りを見渡す

先ほどまであった広大な草原はあたり一体全て消滅し

大きなクレーターとなっていた


あまりのクレーターの大きさにマクスウェルは唖然と

するしかない

空を見上げると雲が円上に綺麗に無くなっている


「ここまでの威力、わし最大の攻撃魔法でも作り出せ

 まい・・・・」



だが彼の目的は攻撃魔法を作成することではなく、過去

へと遡る魔法を作ること

今回の実験も威力はすさまじいものではあったが単純に

失敗であった

それも体の一部をなくす程の失敗


「しばらく実験は中止かのぉ」


マクスウェルはぼぉーっと立ち尽くし、目からは涙が

こぼれていた

そんな悲壮感溢れている中


「おぎゃああぁああ!」


どこからともなく赤子の声が聞こえてきた


マクスウェルは意識を現実へ戻し、辺りを見渡す

(近くに人がおったのか!)


その声はクレーターの中央から聞こえてきた


彼は傷だらけの体をなんとか歩かせ声の主の元へと

向かう

赤子は元気よく泣いていた


「おぎゃああぁああ!」


(なぜ子供が・・・しかも爆発の中心に?)


マクスウェルは体に鞭をうち赤子を抱き上げた

腕の中に収まる小さく元気な声で泣く女の子

彼は女の子を抱き抱え、なんとか連れ帰るのだった



これが私とマクスウェルの始めての出会いだった





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ