進展進まず、悪意進む
そこは物静かな場所であった。誰もこの一帯には用事がない以外は誰もここには来ることはない。そのため近くに防犯カメラは設置されていない。そんなところに中年男性と、その後ろに部下と思われる男性が2人いたのであった。中年男性は30代後半から40代ぐらいの小太りで、背が低く部下の男性の腰辺りまでしかない。両手には多くの高価そうな指輪を付け赤い派手なスーツを着ていた。2人の部下は、黒いスーツに、表情が見えないように黒い眼鏡に黒いマスクを着用していた。そこへ、ザッザッと複数の音を立てながら、中年男性の所へ赴く集団がいた。やがてその集団が中年男性とやり取りができる距離まで行くと、
「ようこそ。本日は私の頼みごとを引き受けていただき……
「あぁ~そういう堅苦しいのはあんまり好きじゃないから、さっさと用件を言ってくれ」
「ふむ。流石は噂に名高い集団グループですな。常に報酬の事しか目になく、そのためならどんな残虐非道のことをやり遂げる裏社会では知らない者はいないと言われるほどですなぁ」
「オイオイ。その言い方は俺らを馬鹿にしているのか? 何なら今ここでテメーらを殺ってもいいがなぁ!」
集団の1人の男性が前に出て殺意を出していると、
「やめな! ここで依頼人を殺せばただの人殺しになっちまう。そんなにあたしの面子を潰す気かい」
「…ちっ」
男性は1歩下がる。
「悪いね。大半はこういう奴らで、自分の気に入らない者に対して毎度喧嘩を吹っかけていてね」
「ははは。私は別に気にしませんよ。ではさっそく仕事に関しての説明を行いましょうか。事前にあなたたちに簡単な依頼内容を送りましたが、もう一度、内容を確認しましょうか。まずは……」
と改めて依頼内容の説明を行うのだった。
そして説明をし終えると、
「…大体わかったが、まずは、この子供を見つけないと、何も始まらないだろ。何か目星はついているのか?」
「えぇ、そこは問題なく。事前にある探偵に探してもらっていますので、それに今日はデパートにその探偵が来ていることは確認済みです」
「…そうか」
と呟きデパートの方に顔を向けたのであった。
「おや、どうされましたか? もしかしてあのデパートには何か縁があったのでしょうか?」
「いや。何もないさ……。私たちは事前に金をもらっている身だ。この依頼内容に関してとやかく言う事はないが一つだけ聞こう。何故、あのデパートを破壊する必要がある?」
「そうですね……」
と、その中年男性もデパートの方へ顔を向け、
「いらないのですよ、あんな建物。特に、あの中で今でも笑っている子供など…私はですね、子供が嫌いですよ。何を考えているのかさっぱり分からないし、耳障りの声が頭から離れないから子供の声を聴いた日は、なかなか寝付けませんね。だからいっその事、子供がたくさん集まるこの邪魔なデパートなんて消えてしまえばいい……と」
「「「………」」」
デパートを破壊する理由を聞いてそのリーダーと仲間たちはただ傾聴するしかなかった。
こうして今でも老若男女でとあるデパートが賑わう中、設立以降最大の事件が発生する時間が近づくのであった。その決行時間は‥‥
午後2時40分、用事を済ませた裕也と絵里奈は「折角だからその子の情報探し手伝ってやるよ。貸しな」との事でまだ探していない所へ向かうのだった。そして黄菜子の親と情報を探す豪志と千尋そして黄菜子、依頼人から頼まれた女の子を探す有紗と零の二手に別れてしばらく経ったが、どちらも進展がない状況だった。このデパートは平日だろうが人はいつも多いのだが、今はどの学園でも春休み期間のためか学生らしき人達が多い。その中を探すので一筋縄ではいかない。それに今日は子供連れの家族が多い気がする。そういえば今日は1階の広場で何かのヒーローショーをやると豪志が言っていた気がしたことを思い出した。そうして探している時にポケットに入っている携帯の着信音が入った。定期連絡の時間である。事前に連絡する時間を決めており、決められた時間になったら2人のうちのどちらかが、電話をかけることになっている。
『あっ、同志。そちらの状況は?』
電話をかけてきたのは、ちょうど思い出していた1人である豪志からである。
「あぁ~相変わらず何も進展なし。そちらは?」
『拙者らも同じく何も情報は掴めていないですぞ』
向こうも何も進展がないようだ。
「はい。分かりました。何か分かれば連絡をください」
そして、電話を切る。
「…どうだった?」
「あぁ~駄目みたい。向こうも何も進展がないって」
有紗が電話の内容を聞いてきたが、何も進展がないと言うと「…うぅ~」と唸るだけであった。それは裕也たちも同じで「何もなし」との報告が先程送られてきたのだった。
「そういえばさ、さっき何かメールが届いてなかった?」
「あっ、うん。今まで音沙汰無しだったのに…どうしていきなり」
「…まぁ、それは後で考えよう。それにしてもまさかその場所がこのデパートなんて…なんか、怪しいなぁ」
それは昼食の途中のことだった。有紗がスマホをいじっていると着信音が鳴りそのメールを開いたら今まで音信不通だった依頼者からの突然の連絡が届いたのだった。その内容は
『連絡出来ず申し訳ありません。こちらでも目ぼしいところを探したのですが、どこにも見当たりませんでした。私は今からデパート店DREAM・HAPPINESSの方を探したいのですが、1人では流石に回れないのでご一緒に探してもらってもいいでしょうか?』
との事である。こちらも『分かりました。丁度私たちもいますので良ければ一度会ってから一緒に探すのはどうでしょうか?』とメールを送り返したのだった。だがそのメールの返信は未だに返ってきていないのが気になる。有紗も気にしていたが「まぁ、仕方がないかな。自分の子供を探すのに手いっぱいじゃないかな。うん、そう違いない」と自分に言い訳をしていた。
——そして次の捜索場所に辿り着いたのだった。
「……え、ここも探すの?」
「勿論! 女の子は皆こういった場所によく行くのだから。さぁ、行きましょう!」
と言いそのコーナーへと入ったのであった。その生き生きとした有紗の表情を零は見逃さなかった。あんなキラキラした目をしながらこちらを見たという事はただ自分が見たいだけなのだな…。と心の中でそう思いながら結局入店したのだった。
結論から言うとそのコーナーは宝石店である。その店内は高価そうなネックレスや指輪などがありどの商品も多種類の宝石を加工し長い時間をかけて造られたといった品物が数百以上も並べてあった。それに今ここの店には若い男女や、結婚指輪を探している男性、遠くから来訪してきたと思われるマダムたちがいるのだった。そこへ、恋人でもないただの男女が入るのであった。そして一瞬で悟った。場違いだな…と。こんなところさっさと出ようと有紗に声を掛けようとしたらいつの間にか有紗はガラスケースに入っている高価そうなネックレスや指輪を隅々まで見ていた。
「はぁ~ やっぱりどれも高いなぁ。私もこんな高そうなネックレスや指輪を付けてみたいなぁ(チラッ)」
そう物欲しそうに見ながらこちらを見てきた。
「いや、買えないよ。こんな高価な物」
「ちぇ、けち~」
今どきの中高校生がこんな数十万もするような高価な物は買えるわけがない。…だが有紗はめげず
「じゃ、じゃあ、この3万の指輪買ってよ。これなら零の所持金でも買えるでしょ」
「いや買わないよ。それに今日は宝石を買いに来たわけじゃないでしょ」
「えぇ~じゃあ…」
「聞いてないし…」
そこまでして年下に宝石を買わせたいのか。と思っていると
「いらっしゃいませお客様。何かお探し物でしょうか?」
と、ここのショップ店員が声を掛けてきたのであった。
「あっ、いや、自分たちは商品を見ていただけで何かを買いに来たのでは…」
「はい、は~い。私達でも買えそうな物を探していまして、何かお勧めとかありませんか?」
丁重に断ろうとしたら急に有紗が店員さんにお勧めがないかと教えてもらっていた。そしてしばらくして…
「それでしたら、こちらの指輪なんてどうでしょうか? この指輪は中古のため値段もそこまでは高くありませんよ」
ショップの中では比較的安い指輪を持って来て頂いた。その指輪はシンプルな造りで、特にこれといった装飾もしていない。そのため値段は1万円前後の値段であった。
「見た感じお二人は若いカップルとお見受けしますので、まずはこのようなスタンダートの指輪がいいとお勧めしますが、買っていかれますか?」
……んっ? カップル?
今、この店員は自分たちをカップルと言ったか。まぁ無理もないか。若い男女がこんな店に来るのならばそう受け取れるのも無理もない。そうならば、早く誤解を解かなければ…。
「あっ、いえ、俺たちは……
「……私と零が、カ、カップル………ッッッ!」
と、有紗が店員さんから『カップル』と言われたことを理解すると顔をトマトのように真っ赤にして物凄い速度で‥‥
「あっ、お客様!」
店員さんが有紗を呼び止める。がすでに店から出た後だった。
「………どうするの? この状況……」
その場で置いてきぼりにされた零がただ突っ立ってそう呟いた。
警備室にはいくつものの防犯カメラの映像が映っており、そこで怪しい人物が映っていないか営業時間の間そこで勤める警備員は交代制で見ていた。
いつも何も異常が起こらない平和な映像確認が続いていたのであろう。が今日は違った。何故なら今その警備員全員ロープで拘束されていたのであった。今防犯カメラの映像を見ているのは突如警備室に現れた謎の集団グループである。このようになるまでの作業は一瞬であった。突如ドアを開けると、その集団はいきなり幻陽術で室内にいた警備員全員を通常のロープより強力なロープで縛りあげたのであった。警備員の中には術者が数名いたが、それより早く術が発動され、為すすべもなく他の警備員同様に拘束されたわけである。
「くっ、お前たちは何者だ! 何が目的でこんなことをした!」
とここの警備長の一人が謎の集団に向けてそう言ったのであった。しかし、誰も返答をしなかった。
「答えろ! お前たちは何が目的で
と同時にパンっという乾いた音がした。その音の方向に他の者が目を向けるとそこには、拘束されていた男性の肩から
「ぐっ、あぁぁぁぁぁ!」
その肩から大量の血が出血していたのであった。先ほど集団の一人が持っていた拳銃を発砲したのだった。それから男性は何も語らなかったが、他の警備員に拳銃を向けて「次しゃべったら、命はないぞ」という脅迫をしたのだった。
時刻は午後2時45分、こうして警備システムが完全に支配されたのであった。そしてまもなく、平和な幸せな時間が壊されようとしたのだった……