尽き果てる命
一端、状況の整理をしよう。
まず本社である株式会社薬品コンポレーションが獣人族である猫族、兎族の少女たちを監禁・収容しているであろう場所に各グループに分かれて救出作戦を行った。そしてその道中に襲い掛かって来た裏社会の人間を拘束または始末し、その後のやるべきことが終えれば、各グループは座標転移を行い本社である場所へと向かう手はずとなっていた。そしてその場所は会社とは思えないような場所であった。日の光はこのフロアに届いておらず、辺りには倒れている人や、置物などが手あたり次第に散らばっていた。そこが地下なのだとしばらくして気付くのだった。そして気付いた瞬間、何かに吹き飛ばされたのか床をゴロゴロと転がり続けていた。煙が晴れその人物を見てみると、何と猫族であった。だが苦しみながら悶えており、目がまるで猫とは思えないほどの目つき、そして猫とは思えないほどの鋭い爪、鋭い牙、強靭な肉体、とまるでファンタジー世界に出てくるような魔獣の姿をしていた。そして彼らはその猫族を吹き飛ばしたであろう正体を目で追った。そこにいたのは下着姿の成宮千尋、今にでも死に絶えそうな黄菜子、そして手に何かを持っていた星乃零であった。そして彼はこう言った。
「【大聖女の加護、完全開放】」
すると彼が突如淡い光に包まれ始めた。そして中から出てきたのは1人の少女であった。その少女はこの場に似合わないような可愛らしい服を着ていた。背丈は柳寧音より少し高いぐらいで、そして何より目立つのは黄金の髪であった。まるで神々しい何かを放っているかのようであった。
そして猫族であろうその怪物はその少女めがけて突っ込んでいった。だが少女は動じず前に手を突き出した。
「【聖光の盾】」
すると前方に光の障壁が現われた。怪物は爪でその障壁を破壊しようと力ずくでこじ開けようとしていた。だがその障壁はピクリとも、ひびすらも全く入らなかった。その事に理解できたのか今度はすぐさま少女の側面に入り込み攻撃を仕掛けた。さきほどの障壁は前方のみにしか展開しておらず、側面、後方にその障壁は展開していなかった。これでは無防備状態で致命的なダメージを受けてしまう。少女の体はとても華奢に見えた。ちょっとした攻撃でも必ず致命的な攻撃を受けてしまう。そう、思っていたのに、その結果は裏返ることとなった。
「【慈愛の領域】」
少女が攻撃を受ける瞬間、その怪物は突如光の檻に捕らわれてしまったのであった。
その光の檻はどこから現れたのか誰にも分らなかった。怪物も突然の事で僅かだが動きが止まってしまった。だがすぐさまこの檻を壊そうと牙で、爪で攻撃をしたが傷1つすら付けられなかった。
「【慈愛の浄化】」
檻の下から大量の光が放出された。その光によってその怪物は一層苦しみ始めた。だがその光を受け続けるたびにその怪物の体に変化が起こり始めた。強靭な肉体は本来の姿に徐々に戻り始め、爪も牙も同じく本来の長さに戻り始めたのだった。これなら‥‥と思った次の瞬間、その怪物を捕らえた檻が突如消えたのだった。その怪物はまだ完全に元の姿に戻ったわけではなく未だに眼が血のように真っ赤のままであった。そのまま少女に向けて完全に戻っていない爪を向け始めた。これに少女も対抗するのかと思っていたが、全く別の行動をとるのであった。
まるで、子供に向けるような優しい眼差しをその怪物に向けながら両腕を大きく広げていたのであった。
そして怪物の爪が少女の胸部に向かってそのまま吸い込まれていき‥‥
苦しい、痛い、早く楽になりたい、助けて‥‥
真っ暗な闇の中少女ははっきりとしない意識の中でそう思っていた。少女は何か月も前からの記憶がほとんどない。最後に覚えているのは家族、特に妹に出かけてくる。と言ったきりである。そして気付けばこんな苦しい思いをしていた。
あぁ、こんな苦しい思いをするならいっその事このまま深い闇に溺れて死にたい‥‥
そう思っていた。
‥‥でもそうしたら2度とあの子の声、温もりを感じることが出来ないのか…それは‥‥嫌だなぁ…
はっきりとしない意識の中その少女は確かに泣いていた。
‥‥誰か、誰か‥‥‥助けてよぉ‥‥
すると前方に僅かだが光が見えた。その少女はその光に向かって手を懸命に伸ばした。その先がきっと幸せな結末だと信じて‥‥
「【この者に幸あれ】」
手を伸ばした光から優しい女の子の声が聞こえたのであった‥‥
少女と怪物と化した猫族の戦いが終わった。少女に強く抱きしめられたその猫族はというと「すぅ、すぅ…」とぐっすり寝ていた。しかも完全に本来の体に戻っており、体は少女らしい肉付き、爪は完全に引っ込み人とそれほど変わらないような手のサイズに戻り、牙も同じく完全に引っ込んでいた。そして目つきも魔獣のような悍ましい目ではなく可愛らしい目つきに戻っていた。そこにドタドタと音を鳴らしながら少女に駆け付ける足音が聞こえてきたのであった。
「零! 貴方…胸を…」
有紗が恐る恐る聞いてきたのだった。だが返ってきた返答は‥‥
「ちょいちょい、この人が起きるでしょ、もっとゆっくり駆け寄ること出来ないの?」
「あっ、ごめん‥‥じゃなくて、貴方さっき、胸を貫かれたんでしょ! どうして平然としていられるの!」
「胸? 貫抜かれた? 一体何のこと?」
抱きしめていた少女をゆっくり寝かせ、駆けつけてきた者たちに体ごと振り返った。その体は先ほど貫かれて大量の出血をして‥‥
「えっ! 嘘でしょ‥‥」
有紗だけでなく他の者たちも言葉が出なかった。何故なら貫かれた痕が一切なく、血すらも一滴も出ていなかったのだから‥‥
「何かの見間違いじゃないの?」
「えっ、でも、確かに‥‥胸から血が出ていない‥‥一体どうして‥‥」
ペタペタと少女姿の零の胸を触るのであった。
「星乃君!!」
切羽詰まった状態で千尋が零達の元に駆け付けてきたのだった。黄菜子を抱えた状態でこう言った。
「黄菜子ちゃん、さっきから全く息をしてないの! どんなに声を掛けても返事しなくて…それになんだか…体が少しずつだけど冷たく‥‥」
そう涙ながら伝えるのだった。
黄菜子の今の状態は手足に力が全く入っておらず、首をだらんと下がっており、目の焦点が合っていなかった。
「私の、私のせいなのかな‥‥‥私が名前を付けて、一緒に遊んだり、一緒に楽しい思い出なんかを作ったりしたから、こんなことになったのかな‥‥」
自身が行ってきたことを悔やんでいた。彼女はただこの子に楽しい思い出を作って欲しかったり、沢山笑って欲しかっただけだった。そこに下心など一切ない。だからこそ、
「それは違うよ。貴方は何も悪くないし、貴方は黄菜子ちゃんに幸せになった欲しかった。これまでもこれからもその思いは変わらない。そうでしょ」
「……うん、これからも一緒に思い出を作ったり、沢山笑顔になって欲しい。これだけは何があっても変わらない‥‥」
その答えに、少女は笑い千尋の肩に手を置いて
「だったら、私に任せて欲しい。この力を使って千尋さんや、黄菜子ちゃん、そしてここにいる皆を絶対に笑顔にして見せるよ」
そうしてその者たち指示を出した。
「アサヒ、マヒル、ヨゲツ、ローズさん、そして‥‥アリス、始めるよ」
「「「仰せのままに!」」」
「了解しました」
「はーい!」
3人の子供、吸血鬼族のメイド、そして1人の猫族はとある作業に取り掛かった。そして僅か1分以内にその準備が完了し、そして少女はこう言った。
「始めましょう。今からここに奇跡を起こします」




