中間試験 ~2日目~ Ⅲ
「星乃君、いつの間に会長に無詠唱術を教えていたの?」
「あぁ…テスト期間の時だよ。俺は週に何回か夏希さんと朝のジョギングを行うから終わって20分ぐらい付き添いで教えていたんだよ。まぁ正直、人に教えるのは得意じゃないから何とか形に出来たのはつい最近だけど…」
「いやその時間の間で習得できた会長の方が凄いけど…」
「まぁ、防御結界だけだけど…」と零が付け足して入口へと着いたのであった。そこにはすでに他の生徒が準備を終えており今か今かと身構えているのであった。まぁ彼らにとって初めての実技試験がまさかプロとは予想していなかったのだろう、緊張がこちらにもひしひしと感じるのであった。その証拠に土谷陸翔や佐藤光一などこちらを見つけ次第絡んでくるのだが今回はその様子が見られないのだった。
「あー、なんか緊張してきた」
「ど、どうしよう、上手くできるかな」
「もし失敗して不合格になったらどうしよう‥‥」
等と5人も緊張しているのかそんなことを言い出すのであった。だが、
「そうか? このくらいなんともないけどなぁ…」
星乃零であった。
「星乃君はどうしてそこまで平然としていられるの?」
「? 何、もう忘れたの? 合宿の時と魔族の国でこんな試験よりもっとヤバい事あったじゃん。その事を考えれば生温いもんじゃん」
「あぁ…まぁ、それはそうなんだけど…」
確かにこんな試験よりもこの1か月の間で死んでもおかしくない経験をしてきた。それは突如現れた魔族の襲来、そして魔族の国に他の生徒たちを助けに行ったことこのどれもがこの試験では絶対に得られないような経験である。
「それに今のお前達ならプロとそれなりに戦えるはずだからもっと肩の力を落としてもいいと思うよ」
そう零は5人に告げるのであった。
「えっ、それってどういう‥‥」
「事?」という前に試験開始の合図が鳴るのであった‥‥
「来たれ炎、その力で、敵を撃て【ファイア・ボール】」
「集え魔力、その盾で、我らを守れ【プロテクション】」
「纏え青、その拳で、敵を倒せ【アクア・ブロー】」
「放つは雷、その紫電で、敵を撃ち抜け【サンダー・ショット】」
プロと1年生との戦闘が始まっていたのだった。1年は術を放ちプロと戦っていたがやはりまだ緊張が解けていないのか上手く実力を発揮出来ずに苦戦していたのであった。
「くっ、やっぱりプロは強い…」
「だけど、このままじゃ終われない。なんとしてもくらいついて宝の所まで辿り着かないと‥‥」
「うん…それはそうだけど、このままじゃあ、押されちゃうよ」
それからも何とかしようと考えるのだった…
「くそっ、こっちは6人なのにこうも押されているなんて…」
プロ4人の攻撃に対して身を隠す佐藤光一たちであった。彼はいつも一緒にいることが多い銀次郎、伊吹、久二、幸太郎に加えて南里和希と共に行動しているのだった。彼らはスタートしてから周りを常に警戒をしておりいつどこから来てもすぐに対応できるようにしていた。だがまさか目視できる範囲外から術を放ってくるとは予想していなかったのかすぐに対応が出来なかったのだった。
そうして攻撃が止むのを待つしかなかったのであった‥‥
「もうやだ! こんな試験!」
そう田中美織は叫ぶのだった。いつメンの美恵、真奈美、彩香、貴織は一緒に行動していたのだった。この仮想空間の森は本物に近い。そして当然本物に近い虫もいるのだった。美織は無視が大の苦手である。そのためスタートしてからビクビクしながら森の中を歩いていたのだが途中大きな蜘蛛を見てしまい、「いやぁぁぁ!」と叫びながらその場から逃げるのだった。他の4人も美織を追いかけそして気付いたら洞窟の中にいるのであった‥‥
そして未だに泣き顔になっている美織を4人が慰め再び宝を探しに向かうのであった。その後3人のプロの術者に鉢合わせし、準備が整っていない5人は防戦一方になるのは分かり切っているのであった…
「…了解」
プロ術者の1人が仲間とやり取りを終えたのであった。彼の名は井手修斗。とある術科警備隊では副隊長を務めている。今回は第3術科学校の生徒たちの実技試験のエネミー役として今回参加しているのであった。
「井手さん、珍しいですね貴方のような人がこの審査役として参加しているなんて」
「これも仕事のうちだ。それに将来プロの術者になるであろう学生たちを1度見ておきたいと思ったたから参加しているだけだ」
「まぁ、俺も渋々参加していますけど、まさか今の学生が無詠唱術を使っているなんて聞いた時は驚きましたよ」
「それに関して同感だ。何故あんな詠唱よりも効率が悪い術を使うのか…」
「ですが使えるのは2人だけみたいですよ。まぁ、あの日ノ本十二族の関係者が使っていたようですからね。どこかで無詠唱術の事を知ったんでしょうか」
「さあな、特別気にすることではないな」
そしてこちらに学生が来ないか警戒態勢に入る彼らに1本の連絡が入ったのだった。
それはつい先ほど離脱したプロ術者たちからであった‥‥
「「「「「‥‥‥‥‥‥」」」」」
5人はその場所で立ち尽くしていたのだった。それは何故か? 零がまたとんでもないことをしたのか。否、途中まで戦闘があったのだが零はというとほとんど何もしていない。ではなぜこの状況になったのか‥‥
それは数十分前に戻る。6人はスタートから共に行動をしていた。先頭は零で5人はただ零の後をついていた。零の話によればしばらく進んだところに宝がある…と一体どうしてそんなことを言うのか未だに分からなかった。だが、5人は他に当てがないため結局零の後を追いかけるのであった。それから数分後、5人の術者と遭遇したのだった。数はこちらが有利だが経験値では圧倒的に向こうが上であった。だがこちらには零がいる。そう思い期待して待っているとあろうことか「じゃ、頑張って」と言い一瞬で後ろに下がってしまったのだった。そうして、零を除いた5人とプロの5人と戦闘を行うのであった。
そしてその結果は‥‥
「来たれ炎、その力で、敵を…」
「【ファイア・ボール】」
「来たれ魔力、その盾で‥‥」
「【ソニック・スラッシュ】」
「来たれ雷、その紫電で、敵を撃ち抜け【サンダー・ショット】」
「プ、【プロテクション】」
プロが術を放つ前に陽彩が初級魔術【ファイア・ボール】を放ち、こちらの攻撃を防ぐため防御結界を張る寸前に里見の初級剣術【ソニック・スラッシュ】を放つのだった。相手の初級魔術【サンダー・ショット」は香蓮の防御結界【プロテクション】を瞬時に張ることで攻撃を受けることなく身を守る事が出来たのだった。ちなみに零は他の者が躱せない時にだけ前に出てきて放たれた様々な術を片手で受け止めそのまま握りつぶしたりしてのであった。そして5人に付けてあったバッチを破壊して戦闘は終了したのだった。相手は5人であったが、実際に戦ったのは小笠原陽彩と大和里見、そして星宮香蓮の3人だけであった‥‥
そして再び宝がある方角へと進み零がもうすぐというところで再びプロ術者と遭遇したのであった。相手は3人のため今度は先ほど戦闘を行わなかった柳寧音、柏木理沙の2人で行う事に。そして結果はこちらも2人の圧勝であった。プロの攻撃に対して寧音は召喚術で呼んだ契約精霊が放った攻撃でそれらの攻撃を相殺し、その隙に理沙の拳闘術【ビルド・アップ」で肉体を強化しその拳でバッチめがけて攻撃しそのまま破壊したのであった。が、彼女に同じ拳闘術で強化された拳が迫っていた。今の状態では躱すことは困難である。だが、躱す必要はなかった。何故なら理沙の迫る拳を零が難なく受け止めていたのだから。そして動きが止まった隙に寧音の召喚精霊の放つ攻撃が胸元にあるバッチに命中し破壊するのであった。
そして戦闘終了後、数歩歩いた先に目的であるバッチがあるのであった。
そして現在へと至るのであった‥‥
「いや、いやいやいや! どうしてプロ相手にあそこまで戦えたの!」
「確かに‥‥苦戦すると思っていたのに」
「でも、実際戦ってみるとあんまり緊張しないで戦えた。どうしてだろう?」
陽彩、里見、理沙はそう言うのであった。その問いに零は
「簡単だよ、貴方たちが精神的に少し強くなっただけだよ」
「えっ、それってどういう事?」
「術の強さは肉体は全てって言うけど、実際は違う。だってそうでしょ? いくら肉体が強くても本番で十二分に発揮されないと何の意味をなさない。だから肉体面もそうだけど精神面も鍛えないと最高のパフォーマンスが発揮できないわけ。ではその精神面はどこで鍛えられたか。それも簡単。魔族という人の命を奪う者たちと実際に戦い、生死を分けた状況に遭ったからこの程度ではよほどのことがない限りは動じることなんかないからだよ」
強化合宿の際、魔族やゴブリンやオーク、オーガといった魔物と戦い、魔族の国では実際には戦っていないが生徒たちを救出するために大きな城に乗り込むという危険な行いをしたことが自然と精神面が強くなっていることに5人はこれまで気付いていなかったのであった。そしてそれは水河瑠璃にも当てはまるのであった。何故なら彼女も大事な親友を助けるために城に乗り込んだ1人であるのだから精神面も5人よりも成長は低いがそれなりに強くなっているのであった。
「つまり、その精神面が鍛えられたおかげで実力を今まで以上に発揮できたという事でいいの…かな?」
「まぁ、そうなるね」
そして6つの宝を回収し、その内の5個をそれぞれに渡すのであった‥‥
それから1時間が経過し試験が終了したのだった。結果に関しては1-G以外の生徒で宝まで辿り着いたのは50人にも満たなかったのだった‥‥




