最悪の春休み初日Ⅰ
四季有紗はとある大学に通うどこにでもいる大学生である。が、学業と同時にある仕事を行っている。それは探偵稼業である。数年前から活動をしているがその知名度は底辺に近く、喫茶店の常連で来られるお客以外の人はほとんど知られていない。そのため、探偵としての収入は低く、毎日金欠の生活を送っている。幸い一緒に住んでいる四季家の4姉妹と博のおかげで衣食住には困ってはいない。が、仕事については内容よりもいつも報酬金が高いものしか選んでいないため、後にその依頼内容がとてつもなく難しいと後から分かったときには、泣きながら四季姉妹だけでなく近所に住んでいる人たちや、知人に頼って何とか依頼を達成していた。
昔、有紗は自身の金欠問題を解決するために、1度だけ副業しようか考えたことがあるが、あろうことか夜の仕事(卑猥な仕事)に手を出そうとしたため、そんな危ないことはさせられないと家族一同何とか説得して夜の仕事を行うことを阻止したのであった経験があるらしい。結局彼女には探偵稼業一筋でやってもらう事にしてもらっている。
そして星乃零は数年前から探偵の助手をしている。とある事情で四季家に住ませて頂く条件として、有紗の探偵の手伝いをして欲しいと頼まれたため、今でもその手伝いをしている。しかし零は学生のため、休み以外は付きっきりで手伝えないので、学校が休みの日などに探偵の手伝いをしている。その内容として、ドラマに出てくるような殺人事件の容疑者を特定、婚約者からの浮気調査を頼まれたり等ではなく、落とし物探しや、ペットの捜索が主である。有紗は、「こんなの探偵はやらない!」と駄々をこねることがほとんどだが、仕方がない。これもコツコツ積み上げるために必要なこと。と何とか説得をしているも、いつ不満が爆発するか正直不安でたまらなかった。
そんな時に今から3日前にとある人探しの依頼書が来た。というわけである。
「…さて、所長。説明してもらってもいいですか?」
零が向き合いそう問いただしているのは、この依頼を受けた本人——四季有紗である。ちなみに、探偵稼業をしているときは有紗のことは所長と呼んでいる、というか呼ばされている。上下関係をはっきりさせるためである。
「あぁ~えぇ~とぉ、その、なんと言いますか‥‥‥」
説明をしたくないためか、口を濁しながら何とかこの窮地を脱しようか考えていた。まぁ、どうせ金欠問題を解消する方法を探していたら偶然にも高額報酬金が書かれていた依頼書を見つけ、何の相談もなしに勝手に引き受けた…といういつもの事であろう。彼女は一度やったことに関して反省するもしばらくしたら、今度はちゃんと上手くいくと自信満々に再び同じようなことをして、また失敗して泣きつきながら他の人を巻き込む…という循環作業を繰り返し行っている。そのため全く懲りないため、これではこの先が思いやられる。
「所長、依頼を受けるなとは言いませんけど、ちゃんと俺に相談してくださいっていつも言っていますよね? そのせいで以前、所長はもう少しで逮捕されるところでしたよ」
「はい……あの時はすみませんでした」
これではどちらが上なのか分からない。
だけど、ただの迷子探しに、前払いとして普通百万円という異常な高額金を出すものか、しかも依頼をプロの探偵ではなく知名度が低い探偵事務所に普通は出すだろうか…。ただの迷子探しならば探偵や他に警備隊にでも届けを出したら引き受けてくれるはずなのに…
「はぁ…まぁ、いつものことだからいいですけど…あっ、そういえば前払いで届いた百万円はどうしましたか?」
「………(ビクッ!)」
報酬金のことを聞き出したら、背筋をビクッとさせた。
「……まさか、使っていませんよね?」
「つ、つつ、使ってないよ!」
「……所長。ちゃんとこっちを見てください」
額に汗を浮かばせて目をキョロキョロしていたのだった。
そして察した。…あぁ、使ったな。と。
「…はぁ、そっかそっか。頂いたお金を使ったなら仕方がないですね。じゃあ俺は今から用事があるので所長1人で頑張ってく
「待って! 行かないで! 一緒に手伝ってくださいぃぃぃぃぃぃぃ!」
そう涙ながら、零の服にしがみ付き懇願してきた。
「いやいや、これは所長が引き受けたのでしょ! だったら所長1人で頑張ってくださいよ。この件に関して俺は無関係でしょ!」
「そうだけどぉ~~そうなんだけどぉ~!! もう依頼の期限が今日までになっているから今日中に達成しないと、この依頼人からキャンセル料として倍の200万円の請求が来るし、この事務所の知名度がもっと落ちてもう誰もこの事務所に依頼を出してくれないよぉ~」
「いや、この事務所の知名度なんてここの常連客ぐらいしか知られてないし、依頼を出す人なんて最高で月に1回見かけるくらいですから、今に始まったことじゃないですよ! というか、服の裾が伸びるから手を放してください!」
「うぇぇぇぇぇん! もう借金作りたくないよぉぉぉ~~」
それから、零と有紗のグダグダな会話が数十分間続いたのだった。
そして結局——
「はぁ~~分かりましたよ。手伝いますから服の裾から手を離してください。いいですかこれは貸しですからね」
いつまで経っても服の裾を離してくれずこのままだと伸びてしまうため、もう何度目の貸しか分からないが嫌々受けることにしたのであった。
「わぁぁぁん!! ありがとおぉぉぉ~零様、仏様~」
と泣きながらお礼を言うのであった。
「でも条件として、先にこっちの用事から済ませますからその後で一緒に手伝いますからね」
こうして、相変わらず押しに弱い零は、今日1日有紗の手伝いをすることになったのだった。
だが、この後起こる事件に巻き込まれてしまうことに有紗も零も気付かなかった。
それから駅から約30分電車に揺られて目的地へと着いた。そこは辺り一面海が広がっており近くには漁業に適した港、そこで獲れた魚類を運送するため多くのトラックスペースがある。そしてこの大型商業エリアには多くの人たちで賑わう。そこは日本一ともいわれるほど有名なデパート店【DREAM・HAPPINESS】愛称は【DRHAP】と呼ばれている。
このデパートは、テレビCMでもよく流れており『最高な商品、最高の食事、最高の時間と安らぎで夢と幸せを…‥』というテーマをもとに作られた施設である。そのため店内には最新式の防犯カメラ、プロの術者が私服で巡回警備を行っている。そのため、設立されて以降大きな事故はほとんど起きていない。
全部で五階ありそれぞれ階層ごとに置いてある商品や提供サービスが違う。
一階はお土産コーナーがメインになっており、地元で採れたものを中心に並べて、観光で来られた人の大半はそこに立ち寄る。
二階は、家族、友人、恋人などの多種多様な人たちが洋服や書店などのショッピングエリア、ハンバーガ等のファストフードコーナーを訪れている。
三階は主に子供連れの家族が多く訪れる階層となっており、そこはゲームセンターや、アスレチック広場があり、そこでは幼い子供が自身の親と一緒に楽しく遊べる場所が多い。
四階と五階は、値段が少し高めのレストランやバー、マッサージルームが多く設置されている。ここでは夜に訪れるお客が多く、レストランにて一流のシェフたちが作るフルコースを召し上がったり、食事後には近くのバーでゆったりと、美味しいお酒を飲みながら真夜中まで過ごし、有名なマッサージ師による癒しのマッサージを受けたり…等のお洒落な施設が多く見られる階層、言うなれば大人だけが通える場所である。
現在時刻は朝の9時で、そんな有名なデパートの入り口の前に零と有紗がいるのであった。何故中に入らないのかというと今日はある人物たちと待ち合わせをこの入り口の前でしているからである。それまで待っているわけであるが、それまでは二人を通る人たちから「あのかわいい子誰?」「やべぇ、凄いタイプだわ」「あぁ、俺もあんな可愛い子とデートがしてぇ~」等という言葉が聞こえていた。まぁ、それは無理もないだろう。なんせ今の有紗は、いつものような部屋着スタイルではなく、ちょっぴりセクシーな腕出しのトップスを使ったコーデで、パステルの黄色、ピンク、水色といったミックスカラーを使用し、楽しげな雰囲気を出している。そして、清楚な白のミニスカートと合わせる事で可愛さがより際立っている。そんな多くの人(特に男性)からの視線や、「可愛い」「綺麗」等との言葉を聞いた有紗は隣にいた零に
「ね、ねぇ、今の私ってそんなに可愛い?」
と恥ずかしながらも零に質問をしたのであった。
「…まぁ、可愛いんじゃないんですか? いつものだらしないような恰好とは違って」
「えぇ~そうかなぁ……って! いつものだらしない恰好ってどういう意味よ!」
一瞬にやけたが、余計な一言に気付き怒り始めたのであった。そこへ、
「ごめーん。もしかして遅れちゃった?」
と声のした方を向くと、零たちの所へ3人の人物がやって来た。一人は相変わらずいつも通りなTシャツに、ジーパンと大きなリュックを背寄っている。そしてもう一人は、襟の広いブラウスに幅の広いワイドパンツを合わせたゆったりコーデで、有紗のような大人っぽさを演出している。比較的シンプルだが、襟のレースや腰についているサッシュリボンなど目立たない程度の可愛さが盛り込まれている。そして、もう一人は、花柄模様のミニスカートに花柄のレースを袖口に付けたいかにも女の子らしいトップスで、歩いたら袖口やスカートが揺れて、より可愛らしくなるようなコーデであった。そして頭には花柄のキャスケットを被っていた。そんな洋服を着ているのは、立花豪志、成宮千尋、そして、黄菜子であった。
店に入る前に少し話したかったが、周りから「あの2人の女性可愛くない!?」「あの女の子も負けずに可愛い!」「あの2人の男ども爆発しろ」等のプチ騒動が起こり始めたのだった。だけど最後の言葉には男2人は「「理不尽!!」」と一言文句を言ってやりたかった。
店内はお客や店員で賑わっており様々な会話が弾んでいた。本来ならば、ここで遊んだりするのだが、しかし今日は店内を巡って買い物や、ゲームをしに来たわけではない。
「では、今日はここで黄菜子ちゃんに関する情報を探そうと思います」
と、千尋のその一言で始まったのであった。何故ここで探すのかというと、昨日メールで、『明日はドリハピで黄菜子ちゃんの親か、何かしらの情報を探しましょう』と送られてきて、ここのデパートは日本最大の施設と言われており、ここでなら黄菜子の親もしくは何か有力な情報が手に入ると考えたからである。
「しかし千尋殿。どうやって親や情報を探すのですか? いくらここが日本最大施設と言われておられるが闇雲に探しても見つからないのでは…」
と豪志が千尋に聞くも返ってきたのは、
「それは勿論、この施設を全部回って探すしかないでしょ」
「「……えっ!」」
「うん。それしかないね」
「「…………えぇ!?」」
女性2人は特に何も考えていなかったらしい。
こうして、黄菜子に関する情報収集が始まったのであった。
ちなみに、一条裕也は学校からの呼び出し、三条絵里奈は家の手伝いのためお昼過ぎに合流すると朝方メールで送られて来たのだった。




