休校期間が明けて Ⅱ
そして放課後となった。
帰りのHRが終わり、各自下校の支度をしていた。その日は結局松島茂が1-Gに現れることはなかった。どうやら午後は急に体調が悪くなったと連絡が届いたが、まぁどうせ嘘の仮病だろうと6人とも看破するのだった。彼らにはすでに今日配布された亜人族と魔族に関する教科書の内容のほとんどは出鱈目と伝えている。だが彼らはそう伝える前に内容を確認しこの教科書は出鱈目と分かっていたようだ。まぁ、亜人族と魔族にすでに会って少しばかりだが交流したと聞いている。そのことから教科書の内容と大きく異なっていたためどちらを信じるかといえば実際に目で見て話しての経験をしてきた自分自身を信じるとの結論を出したのだった。正直その結論を出してくれたことはこちらは嬉しいと思った。この世界の人間は亜人族と魔族に対して危険視しており、その姿をした物が現われれば子供だろうと容赦なく殺したり、奴隷として扱ったり等々を行う者が未だに8割近く入るととある人物から聞いているのだから‥‥
「あっ、1-Gの皆はまだいる?」
と入口の方で声がしたので振り返るとそこには朝比奈莉羅と水河瑠璃の2人がいるのだった。彼女たちはこの学校の生徒会長と副会長である。だから否応でも周りのクラスメイトはその人物を見ると、「どうして生徒会長と副会長が…」「あいつら何かやらかしたのか?」「いよいよ生徒会からお怒りを受けるのか」等とザワザワとし始めたのだった。だが、彼女——生徒会長から言われたことはそんなお怒りを与えるようなことではなかった。
「そういえばこれを渡すのをすっかり忘れていたよ」
と教室の中に入り、たまたま近くにいた零に6枚の用紙を渡すのだった。その紙はスタンプカードのようなもので全部で7つあり、その内の1つにすでに赤い朱印のようなものが押されていたのだった。
「あの会長これは?」
「あぁ、それは生徒会長もしくは副会長が認めた人にしか渡すことが出来ない特製のスタンプ用紙だよ。そしてすでにその内の1つに私の血を使って朱肉代わりに押したんだよ」
そう説明するのだった。すでに零の周りには他の5人も集まっていた。
「その用紙は各1枚ずつあって1-Gの皆にあげるね。そして7つある内4つ溜まったらいいことがあるよ。あっでも途中で紛失したら再び発注出来ないから注意してね。それから‥‥」
次々しゃべっていく中、瑠璃が「ストップ」と止めるのだった。
「莉羅彼らは何も状況を理解していないわよ。コホン、じゃあ、代わりに私が言うわね。そのスタンプカードは私たち生徒会まぁ、生徒会長と副会長の事なんだけど、後の6つは他の術科学院、学校、学園つまり1~7の生徒会から認められないとそのスタンプ欄は埋めることが出来ないの。それで、このカードを渡した理由だけど貴方たちは莉羅と他の生徒たちを魔族領から救出してくれた功績を認めて贈呈しようと思ったの」
「もう瑠璃ちゃんは素直じゃないなぁ。皆このカードは私と瑠璃ちゃんからのお礼として受け取って欲しいの。もし零君たちが助けに来てくれなかったら私や他の生徒たちはこうして無事に学校に登校することすら叶わなかったかもしれない。だから‥‥」
「‥‥朝比奈会長」
今まで黙っていた零が口を開いた。
「俺は正直捕らわれた生徒の事なんてどうでも良いんです。あいつらが魔族にどうされようと知ったこっちゃないんですよ。今まで俺たちのクラスを見下したり、無能クラスと今まで言ってきたんですから‥‥」
それを聞いた莉羅と瑠璃は「零君…」と呟くのだった。
「星乃くーん」
と嫌味を含んだ声を発してきたのは‥‥
「‥‥何、なんか用」
土谷陸翔だった。
「さっきから黙って聞いていれば君たちが会長と他の生徒たちを助けた? はぁ? あり得ない。だって君たちは無能なんだよ。そんな君たちが魔族領に行った? 冗談じゃない! そんなこと断じてあり得ない! そうだろ皆!」
「そうだそうだ!!」
「こいつらにそんな力があるわけがない!!」
「会長たちはこいつらに騙されているんだ!!」
と何十人の生徒たちが零達に向けて罵詈雑言を浴びさせるのだった。生徒たちは陸翔と同様にあり得ない、ふざけるな、認めないという怒りの感情をそのままぶつけているのだった。最早その場は生徒会長でも収集がつけられないほど荒れていたのだった。そしてそんな罵詈雑言を受けて1-Gの生徒は委縮しているのだった。どうしてそんなことを言うの! 私たちは同じ人間でしょ! 私たちがみんなに迷惑するようなことでもしたの! 心の中からそう言いたかった。そんな思いは莉羅と瑠璃も同様だった。2人は零から聞いていた。彼らが置かれている状況や理不尽とも思える日々を繰り返していた。なのに担当の教師は傍観者のように見ているだけだったり、わざと生徒とは一切かかわろうともしないロクでもない人間だと。生徒会のメンバーはあくまで生徒から選ばれた生徒たちをまとめ、導く存在である。だが教師である大人にはどうしても敵わない。何故なら、未成年でまだ子供だからだ。
朝比奈莉羅は生徒会長をしているのだが実際の所彼女は他の選ばれた生徒とは違い大して力はない。日本十二大族のトップである朝比奈家の1人ではあるが、彼女はその家では欠陥品と言われていることはすでに一部の生徒には知れ渡っていたのだった。そんな彼女がこの場を収めようにもそれを実行できる自信がなかった‥‥
「……黙れ」
その言葉で罵詈雑言を浴びさせていた生徒たちが嘘のように一瞬でしん…とするのだった。何故ならその一言には言葉で言い表せないような『何か』が含まれていると感じたからだ。その言葉発したのは…
「さっきから黙って聞いていればさぁ、上から目線で好きかって言いたいこと言いやがって。お前たちは会長が攫われている間何をしていた、ただ黙って待っているだけだったのか、何も出来ない自分自身に対して悔しいとか感じなかったわけか、早く帰りたいとか早くお風呂でも入りたいとそんなしょおもない事を言うばかりの数日を送っていたのか、お前たちは将来術者、もしくはそれらに関した職業に就くんじゃないのか、そんな奴らがプロの術者に保護されても何とかしようと動こうとはしなかったのか、なぁ、答えろよ、土谷陸翔」
1歩前に出てきた星乃零だった。その様子からして彼は何かに対して怒っているのだった。
「お前たちは合宿最終日何をしていた、まんまと人間の姿をした魔族に騙されて数日間意識を失っていた。そして学校に戻ってからはダラダラ過ごして時間が過ぎるのを待っていたんだろ、誰かがやってくれるだろう。だから何もしなくていいとそう思っていたんだろ、違うか」
「だ、黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
陸翔はこれまでの学校生活史上初めてそんな大声を出したのだった。
「黙れ! それ以上しゃべるな! 無能風情が偉そうな態度でこの俺を説教か! いいだろう。この俺が直々に教えてやるよ。どちらが有能でどちらが無能かを!」




