休校最終日 Ⅰ
第3術科学校に魔族が襲撃し、しばらくの間学校は休校となっていた。そしてようやく今日まで休校期間は終わり、明日から再び学校に登校出来るようになるのだった。各々早くみんなと会って再会を喜びたい、今回の事件を通してもっと強くなりたい、術者としての自信を無くした…等々思っているに違いない。そんな中、この少年だけはこれらのどれにも当てはまらなかった。
「あぁ~、今日で休校期間は終わりか~」
自室でそう嫌そうに言う星乃零であった。彼は学校内では『無能』と呼ばれており、そのせいで自身のクラスメイト以外の生徒全員から嫌われており、早く会いたいともこれっぽっちも思っていない。彼はどういうわけか学校内のどの生徒や教師より術の扱い方や戦闘能力等が尋常ではない。その生でクラスメイトからは『規格外の術者』と彼にとってあまりうれしくない二つ名が与えられてしまった。自信に関しては言わずもがなである。
時刻は朝の6時過ぎ。休校が終わることを考えるとあまり眠れなかったのだ。というわけでまた眠くなるまでこうしてベッドの上でゴロゴロしようか考えていた所‥‥
「おはよ! 零!」
いきなりドアをバンッと開けて1人の女性が入って来た。そして、
「さぁ! 走りに行こうか!」
そう言い四季夏希は零を強制的に外へ連れて行くのだった…
四季夏希は毎朝日課として喫茶店から少し離れた河川敷で走り込みをしていた。その河川敷はウォーキングコースとジョギングコースがある。夏希は当然ジョギングコースを選び走るのだった。何キロまで走るのか、何分間走るのか等事前に決めていればまだいい。だが彼女はそんなことは一切考えておらず、気が済むまで走り続けるため他の姉妹は絶対に一緒に走らないようにしていた。だがそんな時、とある理由で星乃零が喫茶四季に居候し始めしばらくして夏希は試しに河川敷で走り込みの誘いをしたところ、了承を得たのだった。だが初めの頃は体力があまりなかったのか、走り込みをしてしばらくしたらもう疲れた様子が見られたのだった。やはり迷惑かけたと反省し誘わないようにしたが、どういうわけか一緒に走りたいと言い出したのだった。これまでそんなことを言う友人や姉妹がいなかったため嬉しく思い、その後毎日とはいかないが週に何日かはこうして一緒に走り込んでいるのだった。
「ふぅー、いい汗かいた」
四季夏希はタオルで汗を拭きながら気持ちよさそうに言うのだった。
「それにしても零、何か悩んでいたみたいだけどどうしたの?」
「あぁ、まぁ、そうですね。明日からまた学校が始まると思うと、ちょっと…」
「まぁ、私は零のように術者じゃないから悩みに対して何も答えられないから、こうして一緒に走って少しでも気を紛らわせることぐらいしかできないけど‥‥」
「いえ、夏希さんの思いやりにはいつも助けてもらっていますので嬉しい限りですよ」
「じゃあ、零がそう言うならこれからも一緒に走ってもらおうかな」
「ははは、お手柔らかにお願いしますよ」
夏希のそんな思いやりに零は苦笑いするしかなかった。と、
「おっ、夏希ちゃん! 今日も元気そうだね」
「えぇ、そうね。夏希ちゃんを見るとこっちも元気になるわぁ」
と声の方を向くと、2人の人物が声を掛けてきたのだった。彼らは喫茶四季に野菜などの食材を譲って頂いている八百屋の老夫婦である。2人は夏希と同じようにこの河川敷で走っており、そのおかげなのか足腰は丈夫で未だに衰えていなかった。
「あっ、おじさんたち! 今日も喫茶店に来るの?」
「えぇ、喫茶店で出されるコーヒーを飲まないと1日が始まらないからね」
「おう、あそこで好物のハンバーグを食べないと元気が出ないからな!」
「じゃあ、今から帰って春ねぇに前もってコーヒーとハンバーグの準備を頼んでもらうよ」
「あら、それは嬉しいわ。じゃあ、朝の体操が終わったら伺おうかしら」
そう話し合いお互い笑顔で笑いあっていた。そんな様子を見ていた零におばあさんは
「星乃君もありがとうね」
「? 何のことですか?」
「夏希ちゃんと時々一緒に走っているのでしょ。大変じゃない?」
「あぁ、いいえ、そんなことありませんよ。夏希さんのような方と一緒にいることは嬉しいですから」
「まぁ、お上手」
その後も軽い世間話をし、2組は「また後で」と言いその場から解散となったのだった。
「夏希さんってすぐ他人と仲良くなりますよね」
「えぇ? そうかなぁ」
「はい、あの老夫婦だけでなく、この前はペットを連れた女性、更に前は年下の中学生とか‥‥」
「ん~、自覚はないんだけど、なんか誰かとお話したいなぁ~ってそう思う時があって気付いた時は体が勝手に動いちゃって。それに、お店の宣伝とかできるしね」
「計算高いですね」
「おかしいかな?」
「いいえ、そんなことありませんよ。良い事だと思いますよ」
「ありがと」
そして喫茶四季の看板が見えてきてそのまま入り口の方へ向かうと、扉の前に誰かが蹲っていた。その人物は、
「あれ、秋実?」
「あっ、夏姉さん、それに星乃君」
そこにいたのは四季秋実。四季姉妹の三女である。彼女は今扉の出入り口の傍に蹲っていたのだった。どうしたのかと思い夏希はすぐさま声を掛けたのだった。そして秋実が見ていたのは段ボール箱だった。いや、正確にはその中に入っている中身だった。と、
「にゃ~」
と声が聞こえた気がしたため2人は秋実の後ろからその中を見ると、中には黒くてふさふさした毛、4足歩行の尻尾が生えて、頭にはピンとした耳が備わっていた。そして時折、「にゃ~、にゃ~」と何度も鳴いていた。その正体は、
「これって猫?」
「えぇ、今日の朝起きたら入り口から鳴き声が聞こえて、そしたらこの猫がいたのよ」
事の経緯を説明するのだった。その猫は推測で1歳から2歳それに首輪をしていないため、きっと捨てられたのだろう。そのためか鳴き声が弱々しかった。
「ねぇ、この子家で預からない?」
夏希がそう言うのだった。
「もしかしたらこの子を飼い主さんが連れ戻しに来るかもしれないし、その間は家で面倒見ない?」
「夏姉さん。うちは飲食店だからそう簡単に許可は出ないと思うけど」
「まだ春ねえと冬美、じっちゃんはこの事は知らないでしょ」
「それはそうだけど、もし駄目って言ったらどうするの」
「うっ、そ、その時は友達に聞いて回るしか…」
「もう、無計画なんだから…」
2人がそう言い合っている中、零はというと‥‥
『な、何でこいつがここにいるんだ…』
表情は隠しているが、その内はとてもどぎまぎしていたのだった‥‥




