春休み前日
「……ふむ」
そこはとある警備隊が所属している警視庁にある会議室である。今の警視庁では様々な事件の取り扱いだけでなく術者による犯罪者の取り締まりや術に関した調査を行っている。その中の一人であるその男性、井手真一は会議室にてとあることを考えていた。それは朝出現したエネミーについてである。エネミーについては苦戦したが何とか倒すことは出来た。だが、その後である。そのエネミーは種類や個体差によってはどれかの術に強く、反対にどれかの術に対して弱い。そして今回のB級エネミーは魔術に対する耐性があり、繰り出される攻撃はどれも強力で魔術での攻撃では大したダメージを与えられない。だが、そのエネミーを【魔力結合】の一撃でようやく倒したが、こちらが隙を見せた瞬間にそれを待っていたと瞬時に懐に入り自分と隣にいた副隊長の扇を道連れとして殺しに来たのだった。一瞬何が起こったのか分からなかったが、もしかしたら自分と扇は今頃この世にはおらずエネミーに体を切断されてもっと被害が広がっただろう。だが、彼がここにいられるのは‥‥‥
「一体、あの時何が起こったのだ…」
あの時、エネミーに刺し殺される寸前、突如エネミーの胴体がいきなり二つに分かれたのだった。しかもこちらが苦戦したB級エネミーをいとも容易く…まるで近くで誰かがこちらを見ていた。…そう今は考えるしかなかった。そこに、
「隊長! 大変です!」
「っ! どうした! エネミーが現われたか!」
思考していた井手の元に一人の若い男性が扉を勢い良く開けたのだった。その男性は隊長と呼ばれている井手が指揮している部下の1人である。
「あっ、はい、エネミーが突如現れました! 場所は昼間にエネミーが現われた大広場です」
「分かった。すぐ行く」
昼間の事はまた後で考えることにして席を立とうとしたとき
「あっ、いえ‥‥‥もう終わっています」
「…何? それは…」
「どういうことだ」という前に部下がこう述べたのだった。
「はい、先程エネミー、昼間と同様B級エネミーが現われたのですが、現場向かう途中にてそのエネミーの消滅が確認されました…」
「‥‥‥は?」
開いた口が塞がらなかった。
それは僅か一瞬の出来事だった。
人通りの多く、エネミーが現われるその時までもその場所は人々で賑わっていた。だが、十数メートルもある巨大なエネミーがどこからともなく現われた瞬間人々は一瞬で一目散にその場から逃げ出したのだった。そして逃げ遅れた数人の人々をまとめて殺そうと巨大な大鎌を振り上げてそのまま降ろそうとした瞬間、ある出来事が起きた。それは、残り数メートルで人を殺せるというところでそのエネミーはピタリと動きを止めたのだった。殺されそうになった人はゆっくり目を開けて「…えっ」と思った。そしてあることに気付いた。それはエネミーの胴体が横に真っ二つされてゆっくり地面に落ちていく光景だった。そしてエネミーのいた後ろには誰かが走っていく姿が見えたのだがその姿は暗くて見えなくなっていたのだった。
それからしばらくしてその現場に術者警備隊の者たちが到着し状況確認を行うのだった。その際もう少しで殺されそうになったその人物や近くにいた数名に話を聞いたところこう揃えて言うのだった。
片手に何かしらの袋を持った少年らしき人物がおぼろげだが見えた。と。
午後八時過ぎ…
「ただいま戻りましたー」
とそんな声が店内に響いた。その声が厨房に届き、一人の女性が帰って来た少年の下に駆け寄ってきた。
「あっ、零君お帰りなさい。ごめんね。有紗が迷惑かけて…。あとできつく言っておくからね」
女性の名前は四季春奈。彼女は先ほどから厨房で明日の料理の仕込みをしていた。ミディアムヘアに胸元に大きなフリルをあしらった甘めの白いブラウスに、チェック柄のミニスカートとその上からのエプロン姿が彼女の可愛らしさをより引き出していた。
「いえ、気にしないでください。それより、頼まれた食材はこれで良かったですか?」
持っていた袋の中を見せたのだった。
「えぇ~と…うん。これで明日は大丈夫かな。それよりまさか遠くまで行ってきたの?」
「あっ、はい。頼まれた食材の中にいつも行っているマーケットで売っているはずの食材が売り切れていたものがいくつかあったので、少し遠くまで行ってきました。そこで何とか買うことはできました」
「そう。全く、有紗が午前中に買い物に行ってくれれば零君がこの時間に帰ってくることなんてなかったのに…」
そう呟いていると、ぐるるるぅぅぅ~という音が鳴ってしまった。それを聞いた春奈は微笑みながら
「ふふっ、そんなにお腹が空いていたみたいね。それじゃあ、今日は丹精込めて作るから少し待っていてね」
「あっ、は、はい…ありがとうございます」
そうして、御飯が出来るまでしばらく一階の店内で待つことにした。そこへ、
「うぅ~~お腹ぁ、空いたよぉ~。お腹と背中がくっついちゃうよぉ~」
と上の階から零に代わりの買い出しを頼ませた張本人——四季有紗が降りてきた。今の格好はお風呂上りなのか膝上まであるロングパーカーを着ており、そのパーカーにはクマのキャラクターが印刷されていた。
「あっ、有紗。こんなに晩御飯が遅くなったのは午前中に買出しに行かなかったからでしょ。そのせいで零君がわざわざ遠くのマーケットまで行ってきたのだからちゃんとお礼を言っておきなさい」
「ふぁ~い。ありがとうねぇ」
と風呂上がりで眠たそうなのか、目をこすりながらそうお礼を伝えたのだった。彼女は、お風呂から上がるとすぐ眠たくなりそのままベッドに横になってしまう。しかし、今日は眠気より空腹が勝ったのか今日は眠らずに何とか一階の食事処まで来ることが出来た。
ここの家では食事の決まりがある。それは一つだけ。それは家族皆で御飯を食べることである。それは零がこの家に来る前からの習慣らしく、もう何十年も続いている大切な決まりである。もし、有紗が風呂上がりでそのままベッドで寝てしまったら起こさないといけないためとても大変である。なにせ一度寝てしまったらなかなか起きないからである。
その後、店内の奥からここの店長である博や他の姉妹たちも食堂に集まったタイミングで春奈が作った料理が運ばれた。どうやら今日はハンバーグを中心とした晩御飯のようだ。零はどの料理も絶品と知っているため内心では早く食べたくてしょうがない。そしてそれぞれの場所に皆が座ると、春奈が
「では、いただきます」
と、手をパンと叩き、それに合わせて他の人も、
「「「「「いただきます」」」」」
こうして、家族揃っての温かな晩御飯の時間が始まった。
食後、零は使用した食器を持っていき、そのまま洗い終えたら、そのまま2階へと上がったのだった。ちなみに、有紗は食べた後はすぐさま2階へと上がり、そのままベッドへダイブ後そのまま寝てしまったのだった。
そして時刻は午後11時過ぎ
「さて、そろそろ寝るとするか」
と共同エリアで見ていたテレビの電源を消して自分の自室に戻ろうとソファーから立とうとしたら、ふと机に一枚の紙が置いてあったことに気付いた。何だろうと思いその紙を見ると、そこにはある依頼書が書かれてあった。それは、どうやら人探しのようだ。内容は、簡単な説明が書かれてあり、上の文章からゆっくり見続けると、
『6~7歳前後の女の子を探して欲しい。髪は薄黄色で、目は水色の目をしている』
と、その紙に書かれており、さらにその下の文章も読み続ける。と、
『なお、この依頼を受理される場合、前払いとして100万円を贈らせていただきます』
「……………うん?」
あれ? 見間違えたかな? と思い、もう一度依頼内容を今度は1文字ずつ確認していく。が、どう読み返そうと一文字も変わらなかった。そして何度見ても同じと気付いた時には、
「…………………えっ?」
思わず意識が飛びそうになった…。