救出作戦 ~窮地~
【空間転移】の門が完成する少し前まで戻る‥‥
「【断炎斬】!!」
「【静雷流陣】」
燃え盛る炎を纏った大剣が零に襲い掛かるが雷属性を纏った刀が大剣と激突する瞬間、零は持っていた刀を数秒で持ち替えた。先ほどまで剣先を上に上げていたが、下に下がるように刀を持っている手を持ち替えることで攻撃の構えから相手の剣を受け止める体勢へと変わった。だが、それだけでは強力な剣術を受け止めることなど出来ない。まして零の持つ刀は竜族剣士が扱う大剣より小さく【耐久性上昇】を付与していてもまともに受ければすぐに粉砕してしまうだろう。だから、零は刀に雷を纏わせた。その雷は通常の雷属性の様なバチバチとした音ではなく穏やかな川を流れるような水のようにとても静かだった。そして大剣がその刀に激突した瞬間、音もなく大剣が静かに地面の方に向かって下りていくのだった。【静雷流陣】雷属性防御の型の剣術である。防御の型の状態で自身の体全身に雷を流し、相手の剣を受け止めるのではなくそのまま流す剣術の1つである。失敗すれば数秒間動けなくなるが、成功すれば‥‥
「【雷円】」
このカウンター攻撃に繋げることが可能である。そして見事に竜族に直撃し大きな一撃を与えることが出来た。だが、相手は最強の竜族。たかが今の様なカウンター攻撃で倒れるようならば零もここまで苦戦などしない。何せ今までもスピードに特化した様々な剣術を繰り出し攻撃を少しずつ命中させ体力を削っていたのだがここまでに竜族は息1つも上がっていないのだった。
「見事だ人間よ。まさかここまで我と互角に戦えるとは思っていなかったぞ」
竜族は人間がここまで戦えるとは思っていなかったのか、零に賞賛の言葉を贈るのだった。
「こっちも久々に良い相手を見つけたと思ったよ。竜族と戦えることなんて滅多にないからつい熱くなったよ」
零も竜族に賞賛の言葉を贈るのだった。
「さて、そろそろ聞かせてもらおうかな。どうして竜族が魔族軍にいるのかを…」
「‥‥まぁ、良いだろう。だが何、簡単なことだ。我は資金集めとして傭兵をしている。理由としてはこの剣でどこまで高みに行けるか様々な方法で試している最中なのだよ」
「じゃあ、魔族に雇われた理由は‥‥」
「それは‥‥おっと、これに関しては言うなとミザリー殿から言われておる。もし不用意に言えば我は契約違反でかけられた呪いで殺されてしまうからな。だが1つ言えることは我は今以上に強くなりたいのだよ」
そう述べるのだった。この時、【空間転移】の門が完成し捕らわれた生徒たちは飛び込むように一斉にその門をくぐるのだった。
「だが、もう少ししたらミザリー殿がこの場に来てしまう。そうなってしまえばこの熱い戦いは仕舞にしなければいけない。だがその前に我が貴殿にこの場で止めを刺そう。誇るがいい、これは我が認めた強者にしか使わぬ竜族だけが使える奥義である!」
そして言い終わると同時に、
「【竜眼解放】!!」
そう唱えて僅か1秒で、竜族の大剣が零の心臓めがけて向かっていくのだった。だが零はその大剣を躱すことが出来なかった。そして成す術もなく零はされるがままに心臓を貫かれたのだった‥‥
そしてその光景を見た
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「う、嘘、嘘でしょ‥‥」
「そんな‥‥星乃君が…‥」
「れ、れー君‥‥ねぇ‥‥返事してよ‥‥」
それぞれ目の前の事が未だに信じれないのか叫んだり、泣いたり、唖然としたり、応答を求めたりしていたのだった。彼らは星乃零を規格外の学生術者と言っていた。だからきっと竜族にも余裕で勝てると信じ込んでいた。だが結果はどうだ。竜族が何かしたと思った瞬間には一瞬で零を殺していたのだった。一体何が起きたのか誰1人理解出来なかった。無理もない、何故なら先ほどまでいた生徒達も含め全員初めから2人の戦いを目で追いつくことが出来なかったのだ。それは目視出来ない気体を術無しで探せと同じようなものである。
そして竜族は大剣を引き抜くのだった。すると零から大量の血がダムのように噴き出し、流れるのだった。その様は崩れ落ちた人形のようだった‥‥そして竜族はまだ残っている9人の下へ行くのだった。彼らは早く逃げないとと本能でそう思っているのだが何故か体が動かなかった。それは何故か、こちらに向かって来る竜族に対して恐怖心を抱いてしまい、その場から1歩も動くことが出来ないでいた。このままでは零と同じように殺されてしまう‥‥
「次はどなたがお相手するのか? 悪いが…誰が来ようと一瞬で勝負をつけさせてもらうぞ」
その威圧するような言葉に1-Gと水河瑠璃は何も言えず、体すらも動かせないでいた。もし動けば一瞬で胴体が2つに分かれてしまう‥‥そんな気がしたのだった。それに戦えたとしても1秒も持たないだろう…そんなことを思っていると朝比奈莉羅を抱えたままのローズとクランが竜族の前に立ちはだかったのだった。
「…何の真似か‥‥そうか、その者を渡す気になったのか」
「いいえ違います。その前に1つ聞きたいことがあります。よろしいでしょうか?」
「良いだろう。答えられる範囲でだが‥‥」
「貴方方魔族はこちらの朝比奈様を使って何を行おうとするつもりですか…」
「その質問は‥‥」
答えようとした竜族だったが、
「その質問に答える義理はないね!」
と竜族の後ろから声がした。その声の正体は蛇族のミザリーだった。しかも彼女1人だけではなく何百者の兵士を連れていた。
「折角急いで来たというのにこの人間は見事に死んでるね。あはは、やはり人間は所詮人間アタイ達魔族に勝てるわけないのさ」
絶命している星乃零を見ながら蔑むように笑うのだった。
「はは‥‥さて、捕らえた人間どもはすでにこの場から逃げたようだね。だが所詮あいつらはただのおまけに過ぎない。アタイ達の目的は初めからそこにいる人間の女だけなのだからね!」
朝比奈莉羅を指で指すミザリーだった。動けないでいた6人はその事にどうして彼女が狙われるのか分からなかった。瑠璃に関しては莉羅が狙われる理由が全く見当がつかないでいた。彼女の住んでいる家が
十二大族のトップとも言われている朝比奈家の三女として生まれたこと以外は普通の女の子である。だというのに魔族から狙われるのか分からないでいた。
「それでは改めて聞きますが、どうして彼女を狙うのですか?」
「はぁ? どうして関係のない奴がわざわざ首を突っ込んでくる。それともそこまでして何か得することでもあるのかい」
「いいえ。ですが今後こちら側に大きく関係する可能性が高いと推測するためお聞きしているだけです」
「そうかい。こちら側って言うのは人間側ってことかい? 残念だがお前たちが人間と関わっている時点で話すことなどないよ。それにどうしてお前たちはそっち側にいてそこの人間達に味方をする‥‥お前たちは吸血鬼族だろ。あぁ、そうか、そこにいる人間達に弱みでも握られたのか、だったら今からそいつらを殺してやるよ。そうすればお前たちは自由になる。そしてともに人間たちを皆殺しにして人間のいない世界を創ろうじゃないか」
ミザリーの合図で後ろにいた1人の兵士が動き出した。たった1人で動けない6人を殺すのに丁度いいと判断したのだろう‥‥そして1歩1歩と歩みを進めていく。6人は逃げようとするもやはり体が動かなかった。まるで体が石になったかのようだった‥‥そしてその兵士がローズとクランを通り過ぎたところで
「さぁ、そこで見ていな! 何も出来ない人間をたっぷり痛めつけた後、苦しみながら死んでいく無様な様を!」
そして大斧を持った兵士オーク族が星宮香蓮の前に着くと振り上げ始めるのだった。香蓮は「や、やめて…やめて下さい、お願いします…」と泣きながら謝っていた。その顔にオーク兵はニヤニヤ笑うのだった。彼はこの状況を楽しんでいた。相手は弱い人間でしかも女だった。そしてここには人間の女が5人もいるためすぐに殺してしまっては勿体ない。だから振り上げた大斧を下ろして着ていた上の服を強引に破いたのだった。すると、「いやぁ!! いやぁ!!!」と先ほどよりも盛大に泣き始めたのだった。その体は傷がないほど綺麗だった。そして今からこの綺麗な体を傷つけられると考えただけで興奮が抑えきれなかった。その事に気付いた香蓮は「いやぁぁぁぁぁ!!!! やめてぇぇぇ!!!!」と恐怖に溺れもっと泣き始めたのだった。だがその叫ぶような泣き声すらも心地良いと思っていた。
そして、そんな心地の良い泣き叫びを聞きながら手を出そうとした時
「それ以上そちらの方に触れれば貴方は死にますよ」
と香蓮を犯そうとしているオーク兵にローズから警告が飛び出してきたのだった。だがそんな警告を無視し、彼は香蓮の胸部に触れようとした。そして、
「警告を無視しましたね‥‥」
ローズの溜め息交じりの言葉と同時にオークの心臓が貫かれたのだった‥‥‥
そして後ろに倒れこんだオークの近くの空間が歪み始めたのだった。その空間はやがてガラスのように突如割れながら広がり始めた。しばらくすると音が止み、人1人が出入りするのに丁度いい広さとなるのだった。そしてその中から現れたのは先ほど竜族剣士に殺されたはずの星乃零であった‥‥‥




