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創られた世界に破壊を込めて  作者: マサト
魔族の国へ

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救出作戦 ~脱出~

 朝比奈莉羅はその家では欠陥品と呼ばれていた。

 彼女は日ノ本十二大族と呼ばれる日本では総理大臣並みの発言力を持っているその一族のトップとも言われている家計の生まれだった。どの先祖も素晴らしい功績を持っていたり、並外れた術を使い数多のエネミーを退けていた。莉羅には双子の兄がいた。彼は第1術科学園という術科機関で最もレベルが高いとも言われている学園に通っており、更には生徒会長を務めており、文武両道は勿論のことだが朝比奈家の次期当主と言われるほどの実力を備えていた。だが莉羅は第3術科学校の生徒会長になって以降大した功績をあげていなかった。その事から周りからは「同じ双子でもどうしてあんなに違うのかしら」「やはり女は駄目だな」「朝比奈家の恥さらし」などと女として生まれたことを誰もが疎ましく思っており、やがては両親からも「お前は欠陥品だ」と大勢の人の前でそう言われたのだった。悔しかった。だから彼女なりに努力を続けた。術を今よりも強く出力を上げるために無茶ともいえる体力づくりを手の豆が潰れても体がボロボロになっても意識を失うまで体を動かし続けたり、試験で好成績を残すために何日も夜通しで勉学に励むのだった。

 だが、とうとう限界が訪れた。それはいつも通りに無茶な訓練をした後であった。自分の部屋に戻る時に両親の話し声が聞こえたのだった。

 「莉羅はどうしますか?」

 「あぁ、あいつかここの所顔を見ないようにしなかったから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「まぁ、お上手な事。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「全くあんな欠陥品がいつまでもここにいては困るから早くこの家から出て欲しいものだな、いっその事適当にそこら辺の燃えないごみにでも捨てたいものだな」

 「では、そのようにしますか?」

 「そうだな、なるべく早い方がいいだろう。適当な理由で睡眠薬が入った飲み物の飲ませ、その間に捨てにでも行くか」

 「これであの顔を見ずにすむのですね。あー、せいぜいするわ」

 「…………………」

 もう聞くに堪えなかった。そこまでして殺したいというのだろうか実の娘を‥‥だが今聞いたことは全て現実だ。この家で生まれたことを、欠陥品として生まれたことを、そして何より女として生まれたことをここまで言えることが出来るのだろうか‥‥莉羅は悔しいや悲しいを通り越してもう何も感じ取れなくなっていた。そしてこう思った。

 『()()()()()()‥‥‥』

 そして向かった先は廃墟となったビルだった。そこは取り壊される前のビルであちこちにヒビが入っていたのだった。恐らくあと数日もすれば勝手に崩壊するだろうがそうすれば近くに住んでいる人たちに迷惑がかかるため明日取り壊しが決まっていた。そんなビルの屋上に莉羅はいた。7階建てとなっているためこのまま落ちれば即死は確定だろう。だが何も怖くはなかった。失うものが何もないからだろう飛び降りる所まで来ても平然としていた。そこであることに気付いた。今日は随分と星がきれいだなと。あの様な綺麗な星をもっと見るためにはどうしたらいいのだろう…そうだ。早く死ねばいい。そうすればきっともっと近くで見ることが出来るかもしれない。そう思えば早く死のうともう1歩踏み出した。1歩、また1歩と足の歩みを止めなかった。そしてとうとう次足を歩めば確実に地面に落ちるというところまで来た。そして、

 「星さん、今そっちに行きますね」

 そう誰にも聞こえないような声量で呟きその1歩を踏み出す。そして‥‥‥


 「…‥‥んっ、今のは、夢?」

 魔王城にある幽閉室で朝比奈莉羅は目を覚ました。彼女は先ほどまで数年前の夢を見ていた。その夢は両親から殺されそうになった内容で殺されるのならば先に死のうと思い、廃墟となったビルに向かいそしてそのまま7階から落ちる夢だった。それから‥‥

 その時下の階からドォオオオン…という物音が聞こえた。その音は最上階であるこの場所に届くほどで、それからも様々な物音が聞こえたが恐らくこれは戦闘音だろうか。では一体誰が…そして数分後にはその音たちが止んだのだった‥‥そして遠くの方から誰かが来る足音がした。きっとミザリーという蛇族の魔族だろうと思い、その人物が来るであろう方向に顔を向けると、その人物はミザリー‥‥ではなかった。莉羅より少し背丈が低く、髪は黒色の短めの髪、そして黒色で統一されてる洋服を着ているその人物は‥‥

 「あっ、いたいた。朝比奈さん」

 と彼女の名前を呼ぶ声がした。そして彼女もその声を聞いて思わず泣きそうになった。何故ならそれはかつて自殺しようとした莉羅を助けた少年だったからだ。

 「!っ、星乃君!」

 その人物の姿を確認すると莉羅はそう叫んだが、ここで問題が発生した。それは今の莉羅は魔族により着ていた服をすべて脱がされており今の姿は生まれたての赤子のように何も着ていなかったのだった。その事に気付いた時には顔を真っ赤にして「い、いやぁぁぁぁぁ!!! 来ないでぇぇぇぇぇ!!!!」と絶叫したのだった。

 その後‥‥

 「う、うぅ…もうお嫁にいけないよぉ…」

 「そんな大げさな…」

 「じゃあ、星乃君が私をもらってくれる?」

 「えぇ~…」

 幽閉室に捕らわれていた莉羅を救出した星乃零はどこから出した女性ものの洋服を出して何も着ていない莉羅に渡したのだった。ちなみに女性用の下着も一緒に渡した時には「‥‥星乃君」と若干引いていたのだった。

 「それにしても星乃君1人でここに来たの? ここには多くの魔族たちがいた気がしたと思うけど…」

 「あぁ、それなら全員倒してきましたよ。まぁ、大したことないんですけど」

 呑気にそう言う零に莉羅はいきなり抱き着くのだった。いきなりの事で驚いたが「今は2人しかいないから少しだけこうさせて…」と言うものだから零もそれ以上何も言わないで好きにさせていた。今まで1人だけで瑠璃などの親しい友人もいないで寂しい思いをしていたことだろう。それに年上の女性からこうして甘やかされるのも悪くないと思う零であった。

 

 5分後…満足したのか莉羅は零から離れるのだった。

 「星乃君、ここからどうやって脱出するの?」

 「あぁ、それは…」

 脱出方法を言おうとした瞬間、零に向かって数十個の魔術弾が飛んできた。だが、零は冷静にどこからともなく剣を出して飛んでくる全ての魔術弾をすべて斬り落とすのだった。そして現れたのは‥‥

 「アンタがこの塔に侵入した人間だね。正直驚いたよ。あたしたち魔族よりはるかに弱い人間がまさかたった1人でやって来てはなんともないような顔でここにいるのだからね」

 「そうか? ここの魔族が俺よりもはるかに弱いと思っていたけど」

 その魔族ミザリーに零にとっては当たり前の様な事を言い返すのだった。

 「あんたの様な人間は生まれて初めてだよ。だが、ここにいる魔族はここにいた兵士よりもはるかに強い奴らばかりだ。もし怖気づくようならばその人間を置いて早く逃げるんだな」

 と宣告するが

 「逃げる? 誰が、どこに? そっちこそ逃げるというならこちらから手を出すつもりはないけど…」

 「調子に乗るな! 1人では何もできない人間風情が!!!」

 ミザリーが号令をかけると後ろにいた数十のミザリーの部下が一斉に動き出した。数は先ほどより少ないが1人1人に膨大な魔力量が備わっていた。並みの術者では一瞬で殺されるだろう。だが、この星乃零は並みの術者よりもはるかに強いのだった。

 「術式展開・全属性用意(セット)・対象前方の敵全て・【一斉掃討(フル・バースト)】」

 零がそう言うといくつものの魔法陣が空中に瞬時に現れ、その中から大砲や銃器の形をした物が隊列を整えたように出てきたのだった。そしてあらゆる属性が備わった砲撃が放たれるのだった。その威力は凄まじくA級術の攻撃並みの威力だった。それが何十、何百発続くものだから襲い掛かる敵は次々と吹き飛ばされてくのだった…

 「な、何だ! アンタのその力はぁぁぁぁぁ!!!!!?」

 ミザリーも同様で砲撃により部下と同じく吹き飛ばされていくのだった。だが、同時にゴゴゴゴッ‥‥と塔の崩壊が始まるのだった。この塔は元々強固に作られていたが零の放ったA級並の攻撃が永遠ともいえるほどに続くのでとうとう耐え切れなくなり、次々にあちこちから崩れ始めたのだった。だが、

 「おっ、ちょうどいい出口があった」

 と出口を見つけて喜んでいたのだった。

 「ほ、星乃君、このままだと私たちも一緒に巻き込まれるのだけど!」

 この状況に対して零とは違いヤバいと焦る莉羅だった。

 「心配しなくても‥‥」

 「きゃ!? ほ、星乃君!?」

 零が莉羅を抱き抱えた。それもお姫様抱っこで…

 「じゃあ、このまま出るぞ」

 「ち、ちょっと待って! 心の準備がぁぁぁ~~!」

 待つことはなく塔が崩壊の際に出来た人が通れるほどの出口(と言えるか分からない)に向かって助走し始め、展開していた術式を解除と同時に飛び降りたのだった‥‥

 そして飛び降りてすぐに先ほどまでいたその塔は完全に崩壊したのだった‥‥

 

 数年前、朝比奈理沙が7階建ての廃墟ビルから飛び降りた。飛び降りたことに関しては後悔など微塵もない。そしてこのまま死ぬであろうと当然理解していた。だが目を開けて死ぬのはやはり怖いと思うのでギュッと目を閉じたのだった。そして次目を開けた時にはきっと星の近くにいることを信じて。

 …‥‥‥‥‥‥だが、いつまで経っても落下したであろう痛みが全くなかった。それに体が空中で停止している気がした。そして、誰かの体温を感じ、その誰かに抱えられているような感覚がした。莉羅は恐る恐る目を開けると、

 「えっと、今日は星が綺麗です、ね?」

 それが朝比奈莉羅と星乃零が出会った初めての日であった。


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 大体1分ぐらいで見終われるように書いております。  内容次第では少し長くなります。
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