白昼の襲撃
それは術強化合宿後、1-Gが魔族の襲撃に合う数分前‥‥
生徒会室には朝比奈莉羅と水河瑠璃が2人で昼食を食べていた。2人は幼馴染で家同士が親戚だったためよく遊ぶことが多かった。そして今でも時間が合えば2人で外出しショッピングをする仲であった。
「やっと星乃君が帰ってくるよ~」
「あぁ、そういえば今日が術強化合宿の最終日だったわね」
昼食後に二人で提出された書類の整理をしている最中莉羅がそう言うのだった。その表情は楽しみを今日まで我慢していた子供のようだった。一方、瑠璃はその言葉でようやく1学年が合宿に言っていたことを思い出したかのようだった。
「もう瑠璃ちゃん、星乃君が帰ってくるんだよ! もっと喜ばないと!」
「無茶言わないでよ。私彼とあまり顔を合わせたことないんだから‥‥」
「じゃあ、これから顔合わせられるように毎日校内放送掛けようかな」
「それじゃあ、彼が迷惑するでしょう‥‥」
そう言いながら溜め息をついたのだった。水河瑠璃にとって星乃零はよく分からない人物として認知している。彼はどういう経緯か生徒会長である莉羅の推薦で途中編入してきた。だが、彼はこれまで術を使っている所を1度も見たことがないし、噂もしない。それが原因で全校生徒から『無能』と呼ばれていた。それなのに彼は特に気にした様子もないし、莉羅も一目置いているためか週に何回か生徒会室に呼んでは他愛もない会話をしている(莉羅が一方的に話しているだけだが‥‥)が、彼は特に嫌な顔をせずに生徒会室に来ては会話や生徒会の手伝いもしてもらっている。
「ねぇ、莉羅。どうしてそんなに彼をそこまで気にするの? こんな言い方は悪いと思っているけど彼は他の生徒たちからは『無能』と言われているのに‥‥」
どうしても気になるため聞いてみることにした。そして返ってきた答えは、
「ん~~聞いた話なんだけど、星乃君は目立つのがあまり好きじゃないし、それに信用している人に対してだけにしか会話をしないって聞いたかな。後、術の事については私も詳しいことは分からないけど星乃君は無能じゃないよ」
「どういう意味?」
「言葉の意味だよ。星乃君、術は使えるよ。私何度か術を使っている所を見たことあるし」
初耳だった。それが本当なら、一体どうして術を使えることを隠しているのか、その事について聞こうとした途端————
パリィィィィィィンンンンン…‥‥
何かが割れるような音がした。この音の正体は、
「ッ!? これって学校の敷地内に張られていた結界が破れた音!? どうして! この結界は今まで破られたことなんて1度もなかったのに…‥」
「瑠璃ちゃんは状況確認を急いで! 私は結界が破れた原因を調べる!」
こういう状況でも冷静な対応を取れるのは流石の生徒会長であった。
そして第3術科学校が創立されて初めて結界が破れた大事件が起きたのだった。だが、これは単なる始まりに過ぎなかった‥‥
朝比奈莉羅が校舎を出ると数十メートル先に1人の女性がいた。その姿は艶めかしく魅力的だったが着ている服の生地面積が少なく、初対面の男たちはどう対応すればいいのか分からなかった。
「この学校に張っている結界を破壊したのは貴方ですか? どうしてこんなことをしたのですか?」
男教師の代わりに朝比奈莉羅がその女性に問いかけるのだった。そして、
「あぁそうだよ。それにしてもここが人間どもが通う学び舎ねぇ、思っていたものと随分違うじゃないか」
その女性は辺りを見渡しながらそう言うのだった。しばらくするとその女性の元へ多くの生徒たちが集まってきたのだった。生徒たちは何かの演出なのかな? と思っていたのだった。そして多くの生徒が集まってきたところで、
「ここにいる者は魔族という種族は知っているかい?」
そう唱えてきたのだった。そして生徒たちは「魔族?」「あの都市伝説の?」「いるわけないだろそんな人種」などと冗談めいたことを言うのだった。だが1人だけは違った。
「魔族って、あの数十年前を機に姿を消したって言われているあの魔族のこと?」
朝比奈莉羅はそう言うのだった。
「へぇ、あんたのようなガキが知っているとは少し驚いたよ。周りの奴らとは違ってどこで知ったんだい? ぜひ、聴かせてもらいたいねぇ」
魔族の事を知っている者がいたことに少し機嫌が良かった女性だった。
「ある人から聞いたの。魔族は大昔にこの世界の半分以上を支配していた。だけど、数百年前に魔族を統率するリーダーが倒されたのを機にどこかの領地で静かに暮らしているって」
その回答にパンパンパン‥‥と手を叩く女性であった。
「なるほど、大体はその答えで間違ってないよ。では、その魔族がこうして目の前に現れた理由は分かるかい?」
その言葉に生徒と教師の思考が飛んだ。その証言は今目の前にいる女性こそが魔族であるというわけで…‥
「つ、つまり、貴方は、その魔族、というわけですか」
「ご名答!!」
女性こと魔族が手を大きく横に広げると、地面に術の陣が発動された。その陣は召喚術だった。そしてそこから出てきたのはゴブリン、オーク、オーガ等といった魔族たちだった。いきなり現れたため生徒たちはパニックとなり一目散にその場から逃げ出したのだった。そして教師陣はパニック状態となり生徒動様にその場から逃げ出す者がいれば、何とか落ち着かせて戦闘態勢を取る者と別れるのだった。
「あたいは蛇族ミザリー。あのお方の復活のためここにいる人間どもを1人も残らず捕らえるために来た者だ!」
そして経験のない魔族との戦闘が始まるのだった‥‥
「【炎よ、我に集い、その熱で敵を吹き飛ばせ! バーン・バレット!】」
「【雷よ、敵を突きさす、槍となれ! ライトニング・ランス!】」
「【風よ、我が刃に集え、敵を切り裂く、一筋の太刀となれ! ウインド・スラッシュ!】」
校舎の外で炎と雷、風等が放たれていたのだった。その術で魔族を1匹、また1匹と退けていくが何故か相手の数が一向に減る気配がなかった。何とか持ちこたえようと踏ん張り続けるも相手は今まで戦ってきたエネミーとは全く違い知性がある。その知性を生かして相手の隙をついて攻撃をしたり、盾を持っている者は術をその盾で難なく防いでいた。そして数が多すぎる。1人の教師が対応できる数はせいぜい3体が限界である。そのため、魔族たちに校舎内への侵入を許してしまうのだった。
そしてその事で校舎内に逃げていた生徒たちは先ほど以上に大パニックとなった。我先に逃げようとするため自分より年が離れた小等部の生徒を高等部の生徒が制服の襟元を掴むと、あろうことか後ろから迫り来る魔族の元に放り投げるのだった。そしてその小等部の生徒は魔族に捕まってしまうのだった。
他の場所ではどこかの教室で隠れてやり過ごす生徒達が多くいたのだがそれも無駄に終わってしまうのだった。何故なら、嗅覚に特化した獣人族も何十人もいるためどんな場所に隠れていようが人間の匂いを覚えた彼らにとってはどうという事はない。そして魔族に捕らえられるのだった。
何とか魔族から逃れた生徒たちもおり、非常出口から校舎内を出るとそこには魔族が1人もいなかった。その場にいた生徒たちは安堵した。ここなら見つからずに学校から出られると。だがそれも無駄に終わるのだった。何故なら、第3術科学校の全敷地内を巨大な結界で覆われていたからだ。そして彼らも魔族たちに捕らわれるのだった‥‥
魔族たちに泣きながら許しを請う者もいたが魔族にとって人間がそのような行動をしても何も感じなければ、心も痛まない。だから、捕らえる作業がとても楽だった。
各場所で次々と生徒たちが魔族に捕えらていくのだったが、1人の生徒だけは魔族に屈しなかった。その人物がいるのは蛇族ミザリーがいる場所だった。周りには今まで戦っていた教師は1人残らずその場で地に伏せていた。対するのは数十体の魔族たち。彼らは雄たけびを上げながら襲い掛かるもその人物の放つ剣術で斬り伏せられるのだった。未だに諦めを見せない姿にミザリーは
「あんたやるねぇ、でも、そんな姿じゃあ、後いつまで持つかねぇ」
対する人物は頭や体から出血をしており、魔力も尽きようとしていた。それでも何とか呼吸は整えていたのだった。
「ま、まだ、私は戦える‥‥」
その人物——朝比奈莉羅はそう言うのだった。だが未だに諦めようとしない彼女に嫌気がさしたのか
「ちっ、さっさと、倒れちまえ!」
持っていたウイップで攻撃を仕掛けた。だが莉羅はすでに満身創痍で体を動かすことが難しく
「ぐっ、」
そのまま体に直撃し後ろに吹き飛ばされたのだった。だが、彼女は再び起き上がったのだった。
「まだ倒れないのかい、諦めの悪い女は嫌われるよ」
ウイップで何度も何度も体や顔を叩かれるもなんとか倒れないように踏ん張り続けるのだった。
「あぁ、くそが! どうして倒れない、どうして諦めない!」
いよいよ苛立ってきたのか言葉遣いが荒くなっていた。
「くそが! くそが! くそが! くそがぁぁぁぁぁぁ!!!」
縦に横に斜めにウイップを莉羅に叩き続けそして渾身の一撃でようやく莉羅が倒れたのだった。そして莉羅の元へミザリーは向かい、再び起きないように莉羅の頭に足を乗せるのだった。
「さぁ、もう、観念、するんだねえ、あんた以外の人間は全員捕らえた。後はもうあんただけだよ」
ぜぇ、ぜぇ…と息を整えながら見下すように言うのだった。
「わ、私はまだ…」
立ち上がることは出来ないが莉羅の顔はまだ諦めていない表情をしていた。
「ふん、まぁいいわ。良い事を教えてあげる。この襲撃はもう1か所行われているの。確か術強化合宿? そこにいる180人前後の人間をここでのように捕らえる計画を立てているの」
「っ! そ、そんな‥‥」
「おや、どうしたのかしら? さっきまでの勢いはどうしたのかしら…‥あぁ、あの場にはあんたの惚れ人がいるのかしら」
その事を聞いた瞬間莉羅の心が砕かれようとしていた。何故ならその合宿には襲撃前に話に出ていた星乃零が参加しており、もしここと同じ襲撃に遭っているなら彼はもう‥‥
「あは、あはは、あははは!!‥‥いいわねぇ、あたいはそんな希望が絶望に変わる顔が何よりも大好物なのよ。あぁ、今日はなんて素敵な日なのかしら」
その表情は誰から見ても幸せそうな顔であった。
「星乃君、星乃君‥‥‥」
その表情は誰から見ても絶望している顔であった。
そして第3術科学校小等部から高等部にいるすべての生徒は全員魔族たちにより捕らわれたのだった。
ただし、水河瑠璃だけを残して‥‥‥




