強化合宿 ~正体明かし~
そして、時間は戦場へと戻る。その戦場には、ゴブリンやオーク、オーガで埋め尽くされていた。誰がどう見ても覆すことが出来ない。なのに、その戦場では楽しそうで、まるでおもちゃで遊んでいる子供の声がしていたのだった。
「あははは、もっと、もっと遊ぼうよ!」
「これじゃあ、お腹いっぱいにならないよ」
「えッと‥‥えいっ!」
1人は元気よく遊ぶ子供が、1人はまだまだ食べたりない子供が、1人はおどおどしながら遊ぶ子供が自分より大きく、自分より数が多い者たちと遊んでいた。ここは戦場ではあるのだが、本当に実際に遊んでいたのだった。殴ったり、蹴ったり、叩いたり、術を放ったり‥‥人間の子供が遊ぶような動作で握った手だけで肉体に穴を開けたり、蹴った足が体の部位を蹴り飛ばしたり、叩くだけで地中に埋めたり、術を放つだけで黒焦げにしたり、氷漬けにしたりなどして圧倒していた。だが、殺しても殺しても何度も何度も再生をし、3人に襲い掛かる。だが、
「まだまだ遊びたりないよ。もっともっと遊ぼう!」
「まだまだお腹いっぱいには届かないよ!」
「わ、私でよければ遊びましょう…」
まだまだ3人は満足には程遠く、元気が有り余っていた。
「な、何故あんなに強いんだ‥‥相手はたった3人の子どもだろ、なのに何故疲れていないんだ‥‥」
そのオーナーはその戦いを見てそんな感想を述べたのだった。
「知りたいか」
「っ!」
その声で意識を目の前に戻した。目の前には星乃零がいた。2人は今戦いの真っ最中だった。オーナーは黒い杖を持ち、自慢の魔術を何十発もすでに放っていた。だが、何十発も放った術は全て零によって斬り伏せられていた。常人にはあり得ない業だった。
「く、くそっ! これならどうだ! 【アイシクル・ランス】!」
杖から繰り出されたのは巨大な氷の槍だった。その大きさからして零の持つ剣では斬れるわけがない。だが、
「【術ノ破壊】」
持っていた剣で一振り。たったそれだけで、A級とも言われている氷魔術を難なく文字通り破壊したのだった。
「う、嘘だ。A級じゃぞ! 何故容易く破壊することが出来る!」
「簡単だよ。その術はすでに理解しているからだ」
そして一瞬で間合いを詰め斬りかかる
「くっ、【アイシクル・シールド】!」
前方に強固な氷の壁を生成する。だが、
「無駄だよ」
言葉通りに紙切れのように氷の壁は斬り割かれそのまま、命を絶とうと迫るのだったが、何かを感じたのか一度距離を開けたのだった。だが距離を話した瞬間先ほどいた所から岩の針が出てきたのだった
「くそっ、もう少しで殺せると思ったのに、随分と勘が良いな」
「その術は、魔術【アース・ニードル】か」
【アース・ニードル】設置型の魔術で発動者の周辺に展開する。範囲は狭いが、その威力はそれなりの威力を持つ。だが、零は再び攻撃を仕掛けた。そして再び距離を詰めると【アース・ニードル】が再び発動しそのまま零を刺す‥‥のだが、
「その術は地上戦には有効だが、では、相手が飛行型ではどう対応する?」
刺される瞬間、零は大きく飛び上がった。それにより攻撃が届くことがなかった。
「なっ! 飛んだだと!」
「【クワトロ・スラッシュ」」
4連続の魔力の刃が【アース・ニードル】に直撃し、粉々になったのだった。設置型の魔術は術が壊されることがない限り、何度でも復元し何度でも使用できる。だが、
「【術ノ破壊】」
発動源の術が壊されれば再び再生することなく発動することは無くなる。よって、がら空きとなりそのまま剣で一閃するのだった。
「ごふぅ‥‥」
普通の人間ならこれで絶命するはずである。だがこの者はなんとか倒れないよう踏ん張っていたのだった。
「そうそう聞きたいことがあった。あんた魔族だろ」
「‥‥証拠はあるというのですか、私がその魔族だという証拠が」
「まず、この森の奥深くに1個のとある施設があった。そこでは人体実験にされた数十人の人たちがいた。そしてそこには魔族と、捕らわれていた精霊族がいた」
「だから何と言うのです。仮に私が魔族の仲間だというのならば証拠を見せなさい」
「そう慌てるな。まずあんたは初日に生徒たちにとある場所にはいかないように事前に教師たちに伝えていただろう。そこはとても危険で恐ろしい怪奇現象が起こったり真っ暗で救助も困難になるため‥‥と適当な嘘を言って、そして配られた森の地図に丁寧にその場所に赤く×と書いて近づけさせないようにした。
それから仲間の魔族が実験をしやすいようにこの森の土地を買い取り、そんな人が来ないところに施設を作り、そして万が一誰かが来ないようにいくつものの人払いの結界を張ることで中でどんな非道なことをしても絶対安全な施設の出来上がりとなる」
「だから、証拠を出せと言っているだろうが!」
「証拠はこれだ」
零が証拠として出したのは先ほど死者の魂に呪いで殺された魔族の首だった。そして、対象者の脳内の記憶を再生させる【メモリアル・リリース】を使用し死んだ魔族の目から映像が展開されたのだった。その映像は対象者が直接見た記憶を対象者目線で見ることが出来る。そしてこの魔族の目の前にはここにいるはずのオーナーがいたのだった。
『ほれ、人間の女だ。こいつはなかなかの魔力持ちだ。この者は家族がいないから捜索願いを出されることはないだろう』
『ほう、これはなかなか良さそうだな。これなら我らが願うのに1歩近づくかもしれない』
『いや、まだ足りないだろう。いっそここは精霊族を捕らえればさらに近づくのだが』
『あぁ、そういえばここに多くの人間が来たみたいだな。どうだ誰か餌になりそうなものはいなかった?』
『あぁ、それなら中々良さそうな奴が沢山いたから私が作った【座標転移】であの場に送ろうかと思っている』
『ほうなるほど、あれがようやく完成したのか』
『あぁ、だから決行は明後日の日が沈むころが丁度いいだろうな。すでに仲間たちに受け取るよう指示を出している。今頃準備に取り掛かっているだろうよ』
『そうか、早くあのお方が目を覚まさす日が待ち遠しいよ』
そして映像が終わるのだった‥‥
「この人物貴方だよね、つまりお前は魔族という事になる。人間である貴方がが魔族側についたとも考えたけど、今の魔族は人間を敵対視しているから見つけ次第殺されるはずだからその考えは捨てたよ。そして俺の配下から連絡があった日に偶然にも1匹の精霊族がこの魔族に捕まり、すぐに何かしらの実験、まぁ、精霊族の魔力を強制的に吸い上げるあのカプセルに放り込んだんだろうな。もし、来るのがあと半日遅ければその精霊族は消滅していただろうね」
「こ、こんなのは出鱈目だ! 私はこんな魔族と関わりなど一切持っていない! 私は誰がどう見ても人間だ!!」
証拠の映像を見せてもまだ魔族ではないと力技で通そうとしていた。だから、
「じゃあ、化けの皮を剥いであげる【憤怒の魔眼】」
零も力づくで自分が魔族と認めさせようとしていた。その力を発動させるとオーナーの体に異変が起きた。まず肉体を覆っている見えざる魔力の膜を破壊、次に指に嵌めていたいくつものの指輪を破壊。すると憑依の元となった本来の肉体と元凶であるその者を強制的に分離させる。そうすることで体内にずっと潜んでいたであろうとある種族の魔族が代わりの肉体を瞬時に召喚し精神を肉体へと憑依したのだった。その姿はまるで肉体を得た悪霊だった
「‥‥貴様のせいで全てが台無しだ。楽に死ぬるなと思うなよ」
そう言うとその悪霊はある術を唱えると森の中で停止させていたはずの学校側が用意していたエネミ―もどきを自身の体内の取り込み始めた。そしてみるみる大きくなり、やがてその大きさは山1個分に近い大きさとなったのだった。だが、
「それはこっちの台詞だ。お前はここで始末する」
そんな窮地でも彼は強者の笑みを浮かべるのだった。
「‥‥れーくん」
星宮香蓮はそう呟いた。今まで星乃零の戦いを見ていたのだがその実力は誰よりも圧倒する実力を持っていると肌で感じた。だからこのまま勝てる。そう確信したのだが、突然オーナーが別の何かに変化しさらに学校側が用意したエネミーをどきを体内に取り込むと巨大化したのだった。こうなってしまっては誰にも止められないのだと思っていたのだった。なのに、不思議と怖くはなかった。
「星宮さん」
その声に反応した。何故ならその声は大和里見と柏木理沙であった。先ほどまで2人は麻痺毒にやられて動けない状態、そして両足を切断されていた。そのはずなのに、2人は体の状態異常や両足が先ほどまで何もなかったように問題なく動かせる状態となっていた。
「大和さん、柏木さん、だ、大丈夫、なの?」
「あぁ、見ての通り問題なく動かせるよ。あの子たちのおかげだよ」
そう言って視線の方へ向くと3人の子供がいたのだった。確かゴブリンたちと戦っていたはずなのに、今では周りにそのゴブリンたちが1匹もいなかった。
「あぁ~、少しは歯ごたえのある奴と思ったのに全然大したことなかったなぁ」
「仕方がないよ。主様が終わりにしろって言うんだから、発生源の召喚ポイントを見つけて破壊したらもう出て来なくなったんだから‥‥まぁ、正直言えばもう少し遊びたかったのは俺もだけど」
一体何の話をしているのだろうと思ったら、1人の女の子が3人の所に向かっていき、
「えっと、あの、こ、これ、あそこで倒れている人たちにもかけてあげてください。そうすれば、自然と体力と魔力が回復しますから」
そう言いペコリと頭を下げるのだった。「おい、夜月行くぞ」と言う声が聞こえたため、その夜月と呼ばれた女の子は急いで2人の元へ向かうのだった。
その後、もらった透明の液体が入った瓶を倒れている小笠原陽彩と柳寧音にかけるとすぐさま効果が出たのだった。
「あ、あれ、俺は確か魔力が尽きて倒れていたはずじゃあ‥‥」
「むにゃ、何か体が少し軽くなったような‥‥」
意識を取り戻し目を覚ましたのだった。だがあることに気付いた。2人が倒れたのは魔力欠乏症によるものだ。本来ならば回復するには時間経過が当たり前だが、この液体をかけた瞬間瞬く間に魔力が完全に回復したのだった。この液体について調べたかったのだが、もう1滴もないため調べようがなかった。このような常識外れな物を作ったのは誰なのか…‥と、ふと頭の中にとある人物が浮かび上がったのだが首を横に振るのだった。こんなものが作れるようならばもう人の領域を脱しているはずだ。その人物は私たちと同じ年の人間だ。だから絶対にありえないのだ…‥と強く思う柏木理沙であった。




