強化合宿 ~異常~
森に入って数分後、とあるグループはエネミーに遭遇していた。1クラスに30人前後のクラスがいるため5~6人で分けられたグループで構成されている。グループを決める際は公平になるようにくじ引きで決めている。そのため、偏ったグループになっている所がある。例えば…
「左側にエネミーが3体確認! 手が空いている者は対応して!」
「悪い! こっちの手が離せねぇ!」
「前方からも複数!」
「くそっ、間に合うか! 青き水よ・大いなる壁を作り・厄災から身を守れ! 【ウォーター・ヴェール】!」
一人が水の魔術を発動し、前方から迫ってくるエネミーの足止めをしたのだった。だが、エネミーも負けじと力ずくで水の障壁を壊そうとしていた。そのグループは5人で、魔術1人、占星術2人、拳闘術1人、奏音術1人の構成となっている。攻撃が2人、支援が3人と攻め手に欠けていたのだった…
「ちょっと、誰か支援して!」
「わ、分かった‥‥」
だが、それよりも早く障壁にヒビが入り、そして前方のエネミーの攻撃が5人のグループに命中したのだった。
別のグループでは‥‥
「おい! 支援術を付与してくれ!」
「無茶言わないで! 私の魔力じゃあ、連続で術を掛けられないよ!」
「くそっ、ヤバいな…」
そのグループは拳闘術5人、占星術1人と分けられている所もある。このグループは攻撃特化だが逆に支援や回復と言った支援術である占星術が1人しかいないため、同じ魔法を連続で発動しても1人だけでは効率よく回すことが出来ない。そのため、
「ぐぁああああ!」
1人また1人と次々に倒されるのだった‥‥
さらに別の所では剣術が1人奏音術が4人のグループがある。先ほどの攻撃特化のグループとは真逆で支援特化のグループとなっている。1人が攻撃に転じてもあとの4人は支援を掛ける対象が1人しかいないため手持無沙汰となってしまう。だが、忘れてならないのはこの森はすでに訓練場となっている。そしてエネミーはどこから出てくるかも分からない。そう、例えば背中ががら空きになっている奏音術者から迫ってきたりとか‥‥
一方こちらのグループは‥‥
「炎よ来たれ・我に従い・敵を撃ち倒せ! ファイア・ショット!」
「風の刃よ・風を纏い・敵を斬り刻め! ソニック・スラッシュ!」
「我が肉体よ・何も通さない・強靭な力となれ! ビルド・アップ!」
そんな詠唱術が響き渡り最後のエネミーが動きを停止させたのだった。
「ふっ、さすがは陸翔だな。また腕を上げたな」
「和希こそやるな」
土谷陸翔、南里和希、小田勇樹がお互いに声を掛けたのだった。彼らのグループは魔術1人、剣術1人、拳闘術1人、召喚術1人、占星術2人と理想的なグループとなっていた。
「はいはい3人ともここから離れるよ。いつまた動き出すか分からないんだから…」
そう杉山彩香がまとめるのだった。
そして彼らがその場を離れた数十分後には倒れていたエネミーが再び動き出し、術者の生徒を探し出すのだった‥‥
それからこの演習は日が沈む前まで続き、6時になると活動していたエネミーは一時停止をしたのだった。
「はぁ~~、1日目終了~~」
「つ、疲れた~」
その場に座り込んだ陸斗たちのグループだった。そんな彼らの前に2つのグループが現われたのだった。
「あっ、おーい」
そう声を掛けてやってきたのは津守敦だった。彼は1-Cの拳闘術者でとにかく明るいクラスの盛り上げ役である。そんな彼だが、もうすでに満身創痍であった。
「あ~ぁ、やっぱりいざエネミーもどきと戦ってみたけど、改めてプロはすげぇーって思ったよ。今日1日で3回もやられたよ」
「まぁ、あれだ、もしもの時は協力し合うことも考えた方がいいかもしれないな」
「それもそうだな。ルール上妨害は禁止だが、協力は禁止されてないし…じゃあ、もしもの時は俺達のグループを入れてくれ」
津守敦のグループといたもう1つのグループリーダーの関翔太も伝えるのだった。こうして各グループごとで用意されていた食事を摂り就寝するのだった。
「お疲れ様です」
「あぁ、松島先生、お疲れです」
森の入り口に用意されていたテントの中に2人の教師がいたのだった。1人は1-Cクラス担当の小田哲司、2人目は松島久・‥‥零のクラス教師である。
「それで、生徒達の様子はどうですか?」
「あぁ、ちょっと待ってくださいね」
そう言うと小田はパソコンを操作し、そしてある映像がいくつも出てきた。そこには、森の中にいる生徒たちであった。何故、生徒たちの様子が映っているのかそれは単に教師として生徒の命を守る責任があるため、生徒たちには内緒でそれぞれ目視出来ないような場所に防犯カメラを何十個も配置していたのだった。
「えッと、生徒たちの様子は‥‥はい、皆就寝されているみたいですね」
「まぁ、当然か、初日から結構ハードでしたからね」
「えぇ、他のグループと協力して何とか残りの2日を終えて欲しいものですね」
あらかじめ、学年主任からルール上でグループに分かれて行動するのだが、グループ同士協力してはいけないと1度も言っていない。この訓練ではエネミーもどきを学校側で用意したのだが思った以上に数が多くその上、少しの知性があるため1つのグループではポイントを稼ぐことは難しく、反対にポイント減点は容易となっている。だから他のグループとの協力が絶対必須である。ただ、
『まぁ、あいつらに協力するグループなど誰1人いるわけないのだがな』
そう心の中で笑っていると「ん?」と小田がそう言ったのだった。
「どうかしましたか? 小田先生」
「あぁ、いや、なんかこのエリアだけの防犯カメラが全く機能してないんだよね」
そう言いながら何度もマウスを操作するも映像はピクリとも動かなかった。
「‥‥そう言えば、このカメラの近くにスタートポイントがありましたよね。どこのグループか分かりますか?」
「えッと、確か‥‥あっ、あった、1-Gですね」
山の見取り図を出してテーブルに広げるとそこには事前に用意されていたスタートポイントがすでに書かれていた。そこには各クラスのグループがそれぞれ一定の距離離れるように調整をしていた。だがその中で1-Gだけは他のグループからかなり離れていた所に1-Gとクラス名を書かれていた。その辺りには木々が多く、視界も悪ければ崖のポイントも多い、そしてそこの場所に待機させているエネミー数百体だけ松島が独断で勝手に遠隔操作できるようにしていたのだった。だから明日、松島はエネミーを操作して1-Gのポイントをマイナス数百点以上まで落とそうと考えていたのだがこの映像が見れなくては操作が出来るがどこに誰がいるのか全く分からなくなってしまった。だが、今日1日でかなり疲れが出ているはずだ。消耗した魔力は使用量によっては1日2日で回復することは出来ない。だからせめて…
「そう言えば初日のポイントはどうですか?」
と全グループのポイント増減数を聞いたのだった。きっとマイナス数十くらいだろう‥‥とそう思っていた。だが、
「えッと‥‥今の1位は‥‥‥えっ!?」
小田の驚きに松島は釣られる様に見たのだった。画面に現れた順位は
3位,1-B 合計17ポイント
2位,1-A 合計30ポイント
1位,1-G 合計1002ポイント
それはスタートポイントに着いたばかりの時であった‥‥
「えっ、それって本当なの」
「あぁ、俺たちは間違いなく嵌められた。松なんちゃら先生に」
星乃零がそう言うのだった。話によるとこの場所は他と比べて木々が多く、視界も悪い、そして崖ポイントもたくさんある。この後の事は予想と彼は言った。ここには多くのエネミーもどきが待機させられている。と‥‥このままでは全滅どころか所持ポイントがマイナス数百以上まで落ちてしまうだろう。そこまであの教師は1-Gを退学にさせたいのだろうか。そんなことを考えていると訓練開始の合図が上空に響くのだった。恐らく数分後には大量のエネミーと遭遇してしまう。だが、星乃零は特に慌てることなく
「俺に考えがある」
そして作戦を告げるのだった‥‥
それから数分後…
「「いやぁぁぁぁ!!!」」
そう叫びながら、大和里見と柏木理沙は全力で逃げていた。なにに逃げているかって? それは50体以上のエネミーもどきからである。エネミーは本物並みに移動速度が俊敏である。プロでも追い抜かれることがあるかもしれない。だが、2人はエネミーとの距離を大きく離していた。一体何故か? それは今履いている靴は零が作ったらしい特注の靴を履いているからである。その靴からは魔力を込めれば強力な風魔術が発動し、その効果は移動速度を数倍に上げることが出来る。そして現在指定されたところまでエネミーを数十体誘導するように告げられたのだった。そして同じく小笠原陽彩も同じようなことをしており、当然2人と同じ靴を履いて今頃全力で指定ポイントまで逃げている頃だろう‥‥
「あとどれくらい!」
「今100メートル切った!」
ここは木々が多く視界も悪いそして先ほど述べたように崖が多い。そんなところを迷わず指定ポイントまで走ることが出来るのは柏木理沙がつけている特殊眼鏡のおかげである。その眼鏡には指定ポイントまで表した座標が表示されており、これも零が作った物である。そして、
「「「着いた!!」」」
2人と同時に2つの分かれ道から陽彩が現われたのだった。その指定場所は以前無詠唱術の特訓で使った広場よりも更に広い場所だった。そして奥の方に、柳寧音、星宮香蓮、そして作戦を立てた星乃零がいたのだった。そして3人が広場に入って来て半分の距離を切ったところで後ろからドドドドド…と凄まじい音がしたのだった。その音は当然エネミー、しかもその数はすでに100を超えていた。その光景に香蓮は「ひ、ひぃぃぃ」と後ろに下がり、寧音は「う~ん、う~ん…」と悪夢を見ているかのようにうなされていた。蓮は「うわぁ…」と驚いていた。一方の3人は
「も、もう無理、走れない…」
「しっかりしろ! ここで倒れたらいろんな意味で死ぬぞ!」
「や、やばい、吐きそうかも」
最早限界といった状態だった。だが、それも想定していたのか
「星宮さん、頼んだ」
「う、うん!」
後ろに下がっていた足を1歩前に踏み出し、両手を3人に向かって伸ばしたのだった。すると、香蓮の手から白い光が3人を包み込むと不思議なことが起きたのだった。
「あ、あれなんだか急に元気になったような」
「私も少しだけ楽になったかも、これが占星術…」
「! これなら…」
占星術【リ・ファイン】で気力を回復させることで、先ほどまでまでの様子から一転し3人に走る気力が戻ったのだった。そして奥の所までたどり着くと
「星乃君! 頼んだよ!」
「あぁ、任せろ、【エアリアル・ウォール】」
そう言うと、零はエネミーと数十メートルの距離になると術を発動した。まず、見えない風の巨壁で動きを完全に止め、そして後ろから出てくる全てのエネミーが現われなくなったのを確認すると
「【氷の監獄】」
その入り口に今度は氷の巨壁を設置。そして風の巨壁から瞬時に先ほどの氷の巨壁に入れ替る。これで脱出不可能の監獄が出来る。だが、これで終わりではない。
「【六花永呪】」
今度はその氷の監獄に様々な属性の剣を持った剣を上空に召喚。そして零が腕を振り下ろしたらその剣は一斉に氷の監獄に降り注ぐのだった。だが、エネミーにとどめを刺せなかったのか未だに動いているのがほとんどだった。だが彼はそれも予想…もとより初めからとどめを刺すつもりなどなかった。ではどうするのか? そう思っていると次の瞬間、刺さっている剣がいきなり溶け出しそのままエネミーの体内に入り込んだのだった。それからエネミーたちは何事もないようにゆっくり立ち上がるのだった。ここまでは良かった。この後再びこの氷の監獄を壊すため何度も体当たりをするだろう。だがそれは叶わなかった。何故なら‥‥
エネミーが突然痙攣を起こしたと思ったらそのままバタンと次々倒れ始めたのだった。そして数百以上のエネミーは1人の学生術者によって為すすべもなく停止させられたのだった。
「わぁぁぁぁん‥‥怖かったよぉ~~」
「よしよし…偉い偉い…」
泣きじゃくる大和里見を星宮香蓮が宥めていたのだった。
「星乃君。さっきのは一体‥‥」
「ん? 【氷の監獄】と【六花永呪】の事か?」
「あ、あぁ…」
「んー、まぁ、簡単に言うと複合術式だね。【氷の監獄】は氷魔術と召喚術を合わせていて、名前の通り氷でできた監獄を指定した座標に発動させそのまま閉じ込める。【六花永呪】についてだけど、まぁ、見てもらえば分かるかな。口で説明するの面倒だし‥‥」
それから数十分後、再びエネミーが動き出した。また襲い掛かってくるのだはないかと思っていたが、それは杞憂に終わる。何故なら起き上がった瞬間、先程と同じように再び痙攣しそのままバタンと数百のエネミーが倒れたのだった。それはまるで先ほどの光景を繰り返し見せられているようだった。
「で、【六花永呪】だけどこれは魔術と幻陽術を用いた超高精度術式で刺した対象に指定した呪いを永久に与えることが出来る。さっきかけた呪いは『起き上がった瞬間再び死に至る』とかけているからもう襲ってこないよ。解除方法は‥‥おっとこれは秘密で」
「「「「「…‥‥‥‥‥」」」」」
もう黙るしかなかった…
そして5人は理解した。星乃零は普通の学生術者では収まり切れないほどのとんでもない人物だと・・・・




