武神と少女と、
武神の振るう黄金の剣が仮面の少女の首に触れる寸前で剣は瞬時に短剣へ変わり虹色ノ剣が武神の剣を防ぐ。その速度はほんの数秒、1~2秒の間だった。
「…ほう。この我の初撃を防ぐとは…。矮小かつ穢れた魂を持つ人間にしてはそれなりの実力はあるようだな」
少女は滑り込むように短剣の剣先で防いでおり、防ぐ場所が数センチでもずれていれば間違いなく少女の首は斬り落とされていただろう……。
「…だが、そんな小さい短剣ごときで我の剣は止められんぞ」
武神が剣に力を込めれば少女の持つ短剣が押し負け始め、そして少女の首に黄金の剣の刃が触れたことにより血が出始めた。
「さぁ、これで貴様は終わr
「【座標位置変換】」
少女がそう唱えると武神の少女の位置が一瞬にして変わる。武神のいた場所に少女が、少女のいた場所に武神が……と入れ替わるのだった。そして現在、先ほどまで力を込めて剣を振るっていた武神が少女のいた位置に変わったことでブォン! と大きな音を立てて空を切る。そして武神のいた場所に少女が入れ替わることで少女の振るう短剣が剣へと変わり武神の首を斬り落とす……。
「それで我に勝ったとでも思ったのか」
少女の剣が武神にあと僅かで届くというところで何もないはずの上空から多種多様の武器が雨のように降って来た。それに気付いて少女はすぐさま躱すことで先ほどまでいた場所に無数の武器がおりてきて串刺しにされるところだった……
「貴様が先程使用したのは空間操作の類…。何故人間である貴様が使える? それは神より許されざる者しか使用できないはずだ」
動きを止めた武神の間合いに瞬時に入る少女。そして水平斬りで武神の首を斬り落とす。
だが、その武神が一瞬でその場から消え、振るった剣は空を切る。
「我のように神々の頂点に君臨するあのお方からの祝福を受けなければな」
その僅か1秒で少女の背後に現れ背中ががら空きとなっところに剣を振り下ろす。
だがそれを、
「…………ほう。これすらも受け止めるか」
武神の振り下ろした剣に対して少女は剣身に攻撃が当たるように背中に回すことでかろうじて防ぐのだった。
「だが、そんな状態でいつまで耐えられるか」
武神は受け止められた剣に力を込め少女の胴体を真っ二つにしようとする。
「だったらその前に」
少女は再び消える。今度は【座標位置変換】を使わずに。
「無駄だ。貴様の攻撃パターンはすでに見破っている、故に貴様が神である我に勝つことは不可n
余裕の武神に対して少女は片手1本、手刀で武神の首を斬り落とす。
「私が貴様を魂すらも残さずに消滅させてやる」
首と胴体が分かれた武神は前のめりで倒れていく…。
「…はぁ~、なんて面倒な相手」
ナタリータは目の前にいる魔王にそう呟く。対して魔王はすでに武神として目覚め、両手には黄金の剣を持っている。
「この武神である我に面倒とは…。魔族如きが神である我に口答えをするのか?」
「口答え? 私はただ正直に言っただけよ。数年間労働ばかりで休みなんて年に数回しかないこんな城にもう1秒もいたくないからさっさと帰りたいのに、もう一仕事あるなんて面倒しかないでしょ?」
そう言いながら手にしているカードを武神である魔王めがけて投擲する。だが、それを何事もなく真っ二つに斬る…。先ほどからこの繰り返しである。
「貴様の手にしているそのカードは対象に当てる、もしくは対象の近くに配置することで発動するようになっているな。だが、その前に我が斬り落とすことでその効果を発動させることが出来なくなる。つまり、貴様は何度やってもこの我に勝つことなど不可能だ」
それは勝利宣言だった。
「さっさとあきらめてこの我に貴様の首を差し出せ」
一瞬にしてナタリータの間合いに入り、そのまま2本の剣を振り下ろす。
「はぁ? 神如きがこの私に偉そうに言わないでくれる? めっちゃムカつくんだけど」
振り下ろされる2本の剣をナタリータは難なくよける。そして躱すと同時に1枚のカードを投擲する。だがそれも武神である魔王が片方の剣で真っ二つにする。それでひらひらと落ちるはずだが、斬った瞬間、そのカードから煙が発生した。
「ちっ、小賢しい真似を」
そう言いながら剣を一振りすることで煙を晴らそうとするが、突如として背後に気配がしたことで後ろを振り返ると同時に剣を振り下ろすと、
「……はぁ、やっぱりグレンみたいに私は近接戦闘には向いてないわね」
魔王の背後にいつの間にか回っており、そのまま回し蹴りを当てようとしていたが、振り下ろされた件によって防がれたのだった…。
「ふん、そんな攻撃でこの我に一撃を与えられるとでも思ったか? 所詮魔族は神である我から見れば何の脅威にもならない存在にしかならないな」
煙が晴れて再び2人は対峙する。
「………そうね。確かに相手にならないね」
「ようやく理解できたか。ならばさっさと首を差し出せ。そうすれば貴様を天界へと導いてやろう」
剣先をナタリータに突き出す。だがナタリータは
「……何言ってんのあんた? 私が言った相手にならないって意味は私がアンタに敵わないじゃなくて、アンタが私に敵わないっていう意味よ。…もしかして今の今まで勘違いしていたの? うわー、残念な奴じゃん」
その一言に、
「………貴様、もしやこの我が魔族如きである貴様に勝つことなど不可能だといいたいのか?」
「だからそう言っているでしょ? たかが神如きがこの私を倒せるだなんて冗談を言うんだからもっとマシなものにしてくれないかしら?」
「……口の利き方が悪い魔族だ。ならば貴様は今ここで死ぬがいい」
そして再びナタリータの間合いに瞬時に入り、そのまま2本の剣を振り下ろす。
仮面の少女の手刀により武神の首が斬り落とされた。
「…………無駄だ。我は神である。故に首を斬り落とそうが死ぬことは断じてない」
斬り落とされた首の方からそう声が発せられ、そのまま見えない糸に操られるように胴体へと再び戻っていく。
「穢れた醜い魂を持つ人間よ。武神の裁きを受けるがいい」
武神は手にしている黄金の剣から黄金の細剣へ切り替え
「【剣刺乱撃舞】」
細剣による乱れ突きを繰り出す。その攻撃速度は目視で捉えられないほどで少女から見れば細剣が1本しかないというのにまるで無数の細剣が一斉に襲い掛かってくるようだった。対して少女は迫りくる細剣を躱したり、剣身で防いだりしているがそれでも全ての攻撃を躱すことが出来ず体の至る所に無数の傷が出来て防戦一方の状態となっていた。
「どうした人間よ。さっきまでの威勢はどうした」
さらに攻撃速が上がり、迫りくる細剣の数も倍に増え最早目視することがほぼ困難と言ってもおかしくはない。そして細剣の突きが少女の持つ虹色ノ剣を持つ片腕を捉えそのまま貫通するほどの一撃で突き刺し、
「【消し飛べ】」
そう武神が唱えると少女の片腕が爆発音とともに文字通り消し飛ぶのだった……。
「ちっ、神如きがやってくれたわね…」
片腕が消し飛んだことにより少女は一度下がり態勢を整える。だが、
「これで貴様の魂は天界へと召される」
武神は上空へ上がりながら細剣を頭上に掲げる。すると頭上に周囲一帯を飲み込むほどの光の球体を顕現させる。もしこの一撃が放たれれば少女は勿論、未だに倒れている術者、魔族たち、後方支援でいる学生といった者たちも無事では済まないほどで……。
「受けるがいい。神たる我が放つ最大の一撃を」
今の武神に映るのは仮面の少女だけ。彼女さえ滅びればあとはどうなっても構わない…。そんな様子だった。
「【終滅光ノ
「ディア~~~~~!!!!!」
武神が巨大な光の球体を放つ寸前、何者かによって勢いよく地面に叩きつけられるように落とされ、そして先ほどまでいた武神の場所には1人の人物がいるのだった……。




