武神タケノミカヅチ
「…どうやら、主様の読み通りになりましたね」
5つの後方支援場、その1か所にてティアが倒したはずのアステロッドは再び体を起き上がらせるのだった。だがその起き上がり方はまるで死体が何かに操られたかのような動きで起き上がったため手足や首がだらんとしている。そして顔をゆっくり上げると、
「我は神なり。我の脅威になりえる者は全て抹殺するのみ」
そうして武神の背後に無数の剣が展開、そしてティアめがけて放たれる。
「あぁ、もう! こんな奴どうやって相手すればいいのよ!」
迫りくる無数の武器に対してセレスシアは回避を続ける。セレスシアも先ほど魔王であるアステロッドの精神干渉で完全に動けなくしたのだが、何かが解放されたかのように突如として再び起き上がり、今度は別の意思が働いてセレスシアに攻撃を仕掛けてきたのだった…。
「そもそも私は、他の皆みたいに戦闘向けの攻撃なんて使えないんだけど!」
そうぼやきながらも無数の攻撃を躱し続ける。
『セレス。しゃべっていると死にますよ』
「ティア⁉ こちらの了承を得ずに勝手に思念共有使わないでよ。私結構敏感なんだから!」
『貴方が敏感なのは昔からでしょ』
「それでも気を抜くと集中が乱れるの! あぁっ!! ちょっと掠ったじゃない!」
『掠った程度じゃ死ぬことはありません』
「掠ったら傷跡が残るでしょ! 女子は肌が大事なんだから!」
『? その程度なら自身でも治せるのでは?』
「全く、これだから女子力ゼロは!」
無数の武器の攻撃が当たらないようにセレスシアは回避行動を続ける。
「この武神を前に会話とは……舐められたものだ」
更に武器の数を増やすため背後に展開をするのだった。
「ちょっと! 女子同士の話に割り込まないでくれる!?」
そう言うが展開された武器の放出は止まることはなかった……。
「キャハハハハ!!」
武神から放たれる無数の武器を鞭1本で次々と撃ち落としていくラヴ。
「キャハハハハ!! 軽い軽ーい!」
鞭の速度は並の人間では捉えることのできない速度。それを軽々と操り数秒後には放たれた武器は全て落とされている。
「……成程。どうやら貴様はただの狂人ではないようだな」
「キャハハ! ……え~? なーに? もしかして諦めて私に殺されるの?」
ラヴが見上げると同時に
ボトン。
「故にこの我が地におり狂人である貴様を始末してやろう」
鞭を手にしているラヴの片腕を一瞬で武神の手にしている白い剣で斬り落とした。
「………キャハ」
「死ぬがいい。狂人なる化け物め」
そのままラヴめがけて剣を振るう……。
「子供がこの戦場にいるとは……。この地上界は残酷だな」
「そう言うならさっさと死んでくれよ!」
ゼルの振り下ろした足は武神に一撃を与える。…が、寸前で2本の剣を交差するような形でその一撃を受け止める。
「ならばこそ、天界へと召さなければいけないな。それが我が務めである」
左右からそれぞれ2本の槍がゼルに放たれる。が、寸前で槍はジルの遠距離攻撃で砕かれる。
「ゼル、敵ばかり気を取られていると命取りになるぞ」
「わーってるよ」
そう言いながら武神と一度距離をとる。
「貴様たちを楽に殺そうと思っていたが一筋縄ではいかなそうだな」
武神は手に槍を手にし構える。
「ならば我が神槍ゲイボルグで3人まとめて天界へ送ってやろう」
武神の周囲に強大な力が集まる気配を感じ、
「ゼル、来るぞ」
「知ってるっての」
「遅い」
構えるゼルよりも早く武神の持つゲイボルグが力を開放し、一気にゼルの間合いまで突進するのだった…。
「……全く!! 私の相手だけ他の者と違って多いのは何故だ!!」
グレンが相手にしているのはティアが相手をしたサタルド、そしてハーピー族のオリーナ、ウルフ族のウルバ、そしてミノタウロス族のタイロスだった。だが、サタルド以外は先ほどの戦いによってすでに命を落としており本来立っているわけがなかった。だが、その3人は顔がなかろうが、肉体が食いちぎられていようが、体内の臓器すべて破壊されていようが何かに操られるかのように動きそのままグレンに襲い掛かっていた。
「ア、アア、アアアアアア…………」
「コ、コロ、コロスススコロスススコロ……」
ウルバとタイロスは屍そのもの…、だというのに前が見えているかのような動きをする且つ時折見せる変則的な動き、それはまるで操り人形のような動きでグレンの放つ攻撃を躱していた。そして顔がないオリーナだがこの者もまるで操り人形のような動きで顔がないにも関わらずグレンの動きを見切っており攻撃を躱しては隙を見て翼から放たれる無数の鋭い羽根攻撃でグレンの動きを制限していた。そして最後にサタルドの振るう刀の威力はすさまじくグレンのいた場所に刀が振り下ろされるとその箇所を中心に大きなクレーターが出来るのだから、一度でも当たればさすがのグレンでも無事では済まないレベルとなっている。
「やはり! 他の誰か1人でも残ってもらえば良かっただろうか!」
それはこの戦いが始まる前だった…。ティナから聞かされた次の指示は以下の内容である。
〈私、セレス、ジル3兄妹、ラヴは奴らが現れるであろう場所へ向かいます。場所に着いては思考共有で対応。そしてグレンはここで待機しもし敵が現れれば対処を行ってください。では散開〉
そうしてしばらくすると、ここに4人の元七魔眷属が現れグレンがこの4人に対応していたのである。
「……だが、まぁ! これくらいでないと熱さを感じられないからいいんだけどな!!」
そうして4人相手に対してグレンは笑みを浮かべるのだった…。
3人のサタルドは一斉に動き6人に攻撃を仕掛ける。だが、
ガキィィィィンンンンンン!!!!
マシロの展開した障壁により防がれるのだった。
「ッ!? な、何、今!?」
いち早く気付いた小夜が音のした方向を向く。そこには先ほどまで動けなくなっていたはずの七魔眷属のサタルドが動いており、手にはそれぞれ剣、槍、刀を持っていた。
「嘘…。何であの魔族が動けているの? さっきまで全く動いていなかったはずなのに…」
「…いや、待て。なんか様子がおかしくないか?」
疑問を浮かべる絵里奈、対して和也はサタルドの姿を見て違和感を覚えていた。
「確か、さっきまでは魔術のような攻撃をしていたのに、今はどうして武器を持っているの?」
「………もしかして、さっきの魔族には別の何かがいるんですか…?」
優美と実憂はそれぞれ思ったことを口にする。
「ふぁ~~~。あの魔王の体内には~、妖魔族の他に2つの魂があるんだよ~。1つはご主人様が言っていたクロエ・リーズの魂、そしてもう1つは武神タケノミカヅチっていうありとあらゆる武器を扱う数多いる神々のうちの1人がいるんだよ~~」
クロエは何事もないように言うが……
「か、神………?」
「な、何で魔王の中に神様がいるのよ……?」
「そんなこと言われても~~、僕はご主人様から言いつけられてここにいるから詳しくは知らな~い。……あっ、でもぉ~~、これだけは分かるでしょ~~? 君たちぃ~~、僕より1歩でも前に出たら~~、間違いなく死ぬよぉ~~?」
今もなお武神として動き出したサタルドの動きは先ほどと比べ物にならないほど素早い。繰り出す攻撃速度、そして威力の全てが規格外といっても過言ではなかった。もしただの人間である安藤小夜、魔族である一条和也でさえも1歩前に出れば間違いなく目視すらできない攻撃によって四肢全てが斬り落とされるという光景が目に浮かぶのだった。
だがふと気になることがあった。それはマシロの障壁がここまで無数の攻撃を受けているのだというのに未だにヒビすら入っていないように見えるのはどうしてだろうか……?
「……数千年ぶりの地上だな」
魔王アステロッドの肉体は完全に再生し、発せられた声は先ほどのサタルドとは違いその雰囲気は神々しかった。
「我が目覚め最初に映るのが何ともか弱い人間、………いや、何とも醜いゴミ虫
アステロッドの眉間に銃弾が吸い込まれそのまま貫通する。
「口を閉じろクソ神。そしてさっさと消えろ」
仮面の少女は拳銃から銃弾を発砲してからそう言うのだった…。
「…………やはり人間は何とも愚かで、何とも野蛮な生物なのか……。この武神である我に対してそのような蛮行……。我の知る人間は常に祈りを捧げ、日々の生活を我ら神々に感謝するというのに、貴様からはその行為は何も感じ取れない」
眉間を撃ち抜かれたというのに何もなかったかのように佇んでいる。
「生憎私は神に対して信仰心なんてとっくにそこら辺のドブに捨てている」
「……ならばこの我タケノミカヅチが貴様のありとあらゆる愚行の全てを暴き、汚れ切った魂を天界へと召さしてやろう」
黄金に輝く1本に剣を手にすると、一瞬にして姿を消す。そして1秒も満たずに少女の目の前に現れ、すでに剣を少女の首に触れる寸前まで振るっていたのだった……。




