強化合宿 ~策略~
そして現在へと戻り‥‥
「ど、どういうことだ‥‥」
松島茂は初日のポイント数を見て愕然としていた。初日だけでエネミーを倒せても1000ポイントも加算されない‥‥しかもそれをやり遂げたのは無能と見下した1-Gだ。一体どんなやり方をすればこのような事を起こせたのか‥‥だが、このままではまずい。何故ならこの訓練は今後の成績に影響する。つまり、1学年で最も活躍したクラスが無能が集まった1-Gになってしまっては第3術科学校の品格が右肩下がりになってしまう。それだけは何としても阻止しなければ‥‥そう思っていると松島は良いことを思いついたのかニヤリと笑みを浮かべ‥‥
訓練2日目、零が放った【六花永呪】の効果は相変わらず効いており、エネミーが立ち上がり起動した瞬間にすぐさまかけた呪いが発動し、そのままバタンと再び倒れる機械作業が見られるのだった。その光景は他の者たちから見れば無残な光景のようなので、中の様子が見えないように魔術【ブラインド・カーテン】で覆い隠していたのだった。
「さて、今日は何しようかな~たまには1人の時間が欲しいけど‥‥」
時刻は早朝5時、零以外の他の5人はまだテント内で寝ているのだった。そう呑気に今日1日の予定を考えていると、
「主様」
突然、零の後ろに1人の少女が現われた。その少女は黄色いショートカットの髪にフードが付いた半袖の服にミニスカートと動きやすい恰好をしていた。
「ティナか‥‥で、どうだった」
「はい。主様のおっしゃった通り教師どもはこの訓練内容の変更を行うようです。その変更内容は『ポイント奪い合い争奪戦』のようでエネミーもどきの機能を今日1日停止させ、ポイントが最も高いグループを倒せば持っていたポイント全てがそのグループの物になるようです」
つまり現在のトップはおそらく1-Gと確定と言ってもいいだろう。だが、ティアの報告は終わらない
「なお、他のグループと共に協力し、現在1位を倒せば山分けとするとの事です。そして7時になると学校が用意した通信機に一斉受信される他、現在地の居場所までも送られるそうです」
つまり、逃げても隠れても他のグループには丸裸という事である。そして、今持っている通信機を壊せば器物損害、訓練妨害とされて即失格となるだろう‥‥ちなみにスタートポイント近くに隠してあった複数の防犯カメラは電波妨害をしているだけで壊してないため、先程の失格項目には入らない。
「いかがなされますか? ここは私が出向きましょうか?」
ティナはそう提案するが、
「まぁ慌てるな、ティナは貴重な戦力だ。こんなどうでも良い事に使うのはどうかと思う」
「ありがとうございます。私目に優しいお言葉をかけて頂き恐縮です。それと主様、もう1つご報告したいことが‥‥」
そして間もなく7時になろうとしていた。
「はぁ! 何で私たち全グループに狙われることになっているの!」
7時になると同時に通信機に一斉送信されたメールを柏木理沙が見て叫ぶのだった。
「あぁ、それは俺達が現ポイント数で1位だからだよ」
「えっ、それだけの理由で…」
零の言葉に小笠原陽彩はそう返すのだった。
「ん? 星乃君、何でそんなこと知っているの?」
「あぁ、それは‥‥」
どこから取り出したパソコンを起動しカタカタ‥‥と操作したらそこに現れたのは
3位,1-B 合計17ポイント
2位,1-A 合計30ポイント
1位,1-G 合計1002ポイント
「「「「「・・・・・・・・・・・はぁ?」」」」」
第一声がそれだった。
「は? えっ? は? 1002ポイント? どうしてあり得ないポイント数になっているの?」
「? だってエネミーをちゃんと倒したからだよ」
未だに【氷の監獄】に捕らわれているであろうエネミーの方に指を指すのであった。エネミーは一度倒されても数十本後には再び動き出すようになっており、倒せば1点致命傷のダメージを受ければマイナス1点のカウントをし、ポイント表に増減するよう設定されている。その設定を零は利用し【六花永呪】で何度起動しようが終了時間まで同じように何度も呪いで倒していたのだった。そのため気付けばこんな異常なポイント数となっていたというわけである。
「うん、それは分かったけど、対策とかどうするの? まさかと思うけど全グループと戦えとか言わないよね」
「はぁ? 言うわけないだろ。俺を何だと思っているんだよ」
「「「規格外の学生術者」」」
3人同時にツッコミを入れたのだった。そんなことをしている内に
「‥‥そろそろかな」
「そろそろって、まさか」
「あぁ、そのまさか」
「ど、どど、どうするの!」
「えっ、そりゃあ、勿論‥‥」
逃げても隠れても相手はすでに場所を把握している。通信機を壊せば場所の特定が出来なくなるが器物損害、訓練妨害で強制失格となる。では残った選択肢は…
「追い返せば良いだけの話だ」
「よしあの無能どもはこの先にいるぞ!」
「何であんな1000ポイントもあるか知らないけどあいつらを倒せばみんなで山分けだ!」
「これで、私たちしばらくは成績の心配をする必要がなくなるわね」
そんな欲を言いながら1-Gとの距離をどんどん詰めていくのだった。ここにいるのは当たり前だが、全グループであった。1クラス30人前後で5~6のグループがあり、それがA~F6つのクラスのすべてのグループが集結したため全部で約30人のグループで計180人前後いるのだった。それから走り続けて3分後、
「間もなく着くぞ!」
「よっしゃあ、俺が1番乗りだぜ!」
「津守に続け!」
そして広場に出るとそこにはこの森を半分以上埋め尽くすような巨大な水の波があったのだった。
「ようこそ、そして、お引き取り下さい」
誰かの声が聞こえた次の瞬間、巨大な波が180人に襲い掛かるのだった。
「に、にげr‥‥」
「逃げろ」と言い終える前にその波に1人残らず飲み込まれるのだった。
「ぷはっ」
波に飲み込まれながらも何人かの生徒は自力で浮上したのだった。そしてその波はしばらくするとある場所まで到着すると波そのものが消滅したのだった。その時間はおよそ3分間であった。
「み、皆無事か」
「あ、あぁ、何とかな」
「あぁ! もう最悪! ジャージがびしょびしょになってんじゃん!」
「あれは一体何だったんだ‥‥」
各々そう思っていると、誰かがこう言った。
「嘘だろ…俺達、あいつらから一番離れた西側に流れ着いたのかよ」
そう嘆くのだった。
朝7時丁度になると彼らは通信機から一斉送信されたメールを見て驚きを隠せなかった。何故なら1位がBでもAでもなくあのGだったのだ。そこで、陸翔たちのグループは持っていた通信機でG以外のグループに一斉メールを送った。その内容は「あんな無能クラスに俺達との実力の差を思い知らせてやらないか」と。そして、次々に陸翔の元に賛成や同意の内容のメールが送られてきたのだった。それからの動きは早かった。まず目印となる入り口付近にあった大きな木の付近で集合するようにメールを送ると数分後にはその木の付近に180人の生徒が集まったのだった。そして、陸翔を始め、佐藤光一、津守敦、南里和希等の優秀な生徒がほかの生徒に激励を送り、目的地へと向かうのだった‥‥だが、結果はこの様だった。
「皆まだ始まったばかりだ! 今度こそは上手くいく! だから俺についてこい!」
「よし、みんな陸翔に続け!」
「「「「「「おう!」」」」」
と団結力をさらに高めて足を前に踏み出すのだった‥・・・だが数分後あることに気付く…
「あ、あれ、なんか力が‥‥」
「おかしい、足が急に重く‥‥」
「頭が、回らない‥‥」
先ほどの勢いから一転、生徒たちが1人また1人と倒れ始めたのだった。
「ど、どうしたんだ皆!」
陸翔が倒れた1人の生徒に近づき声を掛けたのだった。
「り、陸翔‥‥」
「俺も、もう…駄目だ…」
その後ろで佐藤光一、南里和希がついに倒れたのだった。
「そ、そんなどうして…」
あまりの光景に顔を青ざめたのだった。そんな時
「これはもしかしたら、幻陽術の一種、かもしれない‥‥」
田中美織がそう言うのだったがその表情から見てもうすでに限界が近かった。
「幻陽術? こんな大掛かりの術が幻陽術で収まる者なのか、いや、こんなことをしたのは一体…」
「誰なのか」と言い終える前についに陸翔にも他の生徒と同じ症状が出始めたのだった。そして気付けば陸翔以外の生徒は顔を地に伏せていたのだった。
「こ、こんなこと…‥あり得るのか‥‥」
それが最後となり陸翔もついに意識を失うのだった‥‥
「…こんなもんか」
倒れ伏せている生徒たちの様子を確認するため放った式神を通して確認した零だった。巨大な波こと【激流毒牙水】は水魔術と幻陽術が合わさっており、その効果は殺傷性はあまりないが、波に飲み込まれた対象は術の耐性にもよるが、様々な悪症状を起こす。例えば、目眩、吐き気、立ち眩み、痙攣、体の痺れ‥‥等々生き物に悪影響を及ぼす病を強制的に発動させる。だが、彼は手加減をして【激流毒牙水】を放ったため症状は軽度で収まっているが彼らは半日ほどは立ち上がることはない。
「「「「…‥‥‥‥‥」」」」
そんな彼の様子を4人は唖然としていた。まぁ、無理もないだろう。先ほどまで180人ほどの生徒たちがこちらに向かって襲い掛かろうとしたのに、それを一蹴するかのように先ほどの複合術で遠くの場所まで追い返し、尚且つ半日ほど動けなくしたのだから‥‥
「なぁ、星乃」
「ん? 何だ?」
「星乃って、いくつ術が使えるの?」
小笠原がそう聞くのだった。
「‥‥これ以上こちらの手の内を明かすのはちょっと‥‥」
『『『『いや、手の内を明かしてもこちらは勝てる気がしない((のだが!!))…』』』』
そう心の中でツッコむのだった。
ちなみに柳寧音はこんな時でも「スゥ、スゥ…」と寝息を立てて寝ていたのだった…
「そ、そんな馬鹿な‥‥」
その夜、教師陣は映像を見て愕然としていた。
2日目は1-Gを徹底的に痛い目に遭わせるつもりで訓練内容を変更したのに、結果は1-G以外のクラス全グループは手も足も出ずに敗北したのだった。それから目を覚ます様子が見られなかったのだが半日経った途端に1人また1人と目を覚まし始めたのだった。それから生徒たちは、集まって夕食を摂り、その後は何もなく就寝したのだった‥‥
『どうしてこんなことになった? どこで見誤ったんだこの私が!』
映像を切って松島茂は頭を抱えていた。彼はこれまでの人生で失敗したことがないと自負する人間だった。こちらが意見を述べれば他の者はその意見に賛成してくれた、こちらが術の使い方を教えれば先ほどよりも威力が強い術を出すことが出来ていた。そんな完璧な人生だった。だが、彼は初めて失敗した。それは1-Gという無能のクラスの担任をしたことだった。彼らの学歴や能力を何度も確認したのだが、間違いなく平均以下、下の下といった落ちこぼれだった。だから彼はこの失敗をなかったことにするため早々に退学を促すような行動や発言をしたのだった。なのに、この結果は何だ? どうして全てのグループは何も出来なかった、そして何より誰一人退学しようとしない、一体何が彼らを動かすのか…何度も何度も完璧な頭脳で考えるが全く分からなかった。そんな彼に
「松島先生」
「あ、あぁ、オーナーさん」
テントの中にログハウスの所有者である人物が入って来た。
「お疲れ様です。いやぁ、教師という仕事は大変ですね」
「はい、全くなかなか骨が折れますよ」
そう言いながらカップを取り紅茶を飲むのだった。
「そう言えば、他の先生方はどうされましたか? 後でここに小田先生がこちらに来るはずなのですが‥‥」
「あぁ、彼は今‥‥」
続きを聴こうとするのだが、突如彼の身に異変が起きた
「っ!」
いきなりの衝撃に思わず持っていたカップを落としたのだった。
「こ、これは…」
「あぁ、言い忘れていましたがその紅茶には強い催眠効果が含まれておりましてねぇ、貴方たち教師には数日ほど眠ってもらいますよ」
「な、何故‥‥」
そう問いだすもそこで意識は落ちたのだった‥‥
「何故って? それは我々の悲願のためですよ」
そのオーナーはニヤリと笑いながらそう言うのだった。
先ほどまでログハウスには数十名の教師陣がいたのだが、現在は1人も残らず深い眠りに落ちていたのだった‥‥




