魔王襲撃
部隊を仕切る術者はパニック状態となった学生たちが逃亡したことにより急いで捜索の部隊を後方で待機しているプロ術者たちで編成し捜索を行っていた。学生たちにはそのまま待機を伝えており、万が一の時には【多重転移術式】のある場所へ向かうように指示を出している。捜索の数はおよそ10個ほど。数的には多いが魔族の国がある場所、このままでは何が起きた後ではなにもかも手遅れとなってしまう。そうして捜索を続けていると、
「や、やめろ! く、来るな!!」 「だ、誰か、誰か助k…!」 「な、何だよ、何なんだよぉぉぉ!!!!」
奥の森の方から逃亡したらしき生徒の悲鳴声が聞こえた。その叫び声を聞いて「全員、戦闘態勢!!」と全部隊に戦闘態勢の指示を行うことで何が起きても対応できるようにした。それからしばらくするとその叫び声は止むと同時に奥の森から何かが飛んでくる影が見えた。そしてそれは地面をドスン!! と部隊を仕切る術者の前に何かが落ちてきたのだった。その正体は人間、そして先ほどここから逃亡した学生服を着ていた複数の学生だった……。術者たちは彼らの傍に駆け寄り状態を確認すると、
「た、隊長!! 彼らの意識はありません! それに、体内の魔力反応が著しく低下しており、このままでは魔力枯渇症状になる可能性があります!」
魔力枯渇症状。体内の魔力を限界まで使うと起きる症状で、主に過度な術の使用により起こるとされている。
だが、彼らは飛ばされてきた方向で術を使用したような音は確認されていない。では、なぜ彼らの魔力が術を使用してもないのに関わらず魔力枯渇症状になるところまで減少していたのか、そう思っているとその場所から誰かがこちらに向かってくるような音がした。
「全員、戦闘態勢!! 姿を目視した瞬間一斉に攻撃を行う!」
そうして1部隊数十人の術者たちは一斉に詠唱を開始する。そして、こちらに向かってくる人物の姿を確認した瞬間に、
「放てぇええええええええ!!!!」
ありとあらゆる術攻撃が放たれ、そのままその人物に直撃するのだった。そして「撃ち方やめぇ!!」と攻撃を停止する号令を伝え、煙が晴れるのを待ちそして確認するとそこには
「ば、馬鹿な⁉ いない、だと!?」
その場所に居たはずの人物がいなかった。少量の血痕がなければその事物の足跡すらもなかった。では、一体どこへ向かったのか?
「うわぁあああああ!!!!」
「い、いきなり人が……あぁああああ!!!」
その叫び声は後方で待機している学生の方から聞こえてきた。そのため急いでその場所へと向かうのだった………。
「くっ、は、放せっ! この、化け物め!」
1人の学生は首を掴まれその人物に持ち上げられていた。
「なかなか威勢のいい人間だ。そんなお前は一体どれほどの魔力を持っているのだろうか?」
その人物は掴んでいる学生の体内から目視出来ないはずのソレを吸い上げ自身の体内に取り込んでいく。
「や、やめろぉ……それは、俺のものだ、今すぐ、返せ……」
「……やはり、所詮は人間。得られる魔力量も1割にも満たんな」
そうして体内にあったはずの魔力を奪われた学生はその人物によってゴミを捨てるかのように放り投げられるのだった。
「だがまぁ、この場にいる者全員の魔力を奪えればせいぜい2割ほどに満たされるかもしれんな」
そう言いながら他の学生へと目を向ける。対する学生たちはその人物に見られ「く、来るなぁ!!」「し、死にたくない!!」と喚き叫びながら後ずさりをする。
「なに、この我の寛大さゆえに貴様ら人間の命までは奪わないと約束しよう。だが、貴様らの体内にある魔力はもらっていくぞ。命乞いをする貴様らにとってはとても優しい提案だとは思わないか?」
そう語り掛けるも誰1人として信じていなかった。
「……ふむ誰も信じないようだな……。ならばいっそのこと、この場にいる人間ども全員根絶やしにしてから魔力を奪ってもいいかもしれんな。魔力を奪う程度なら死体だろうと問題はない」
そうしてその人物は手のひらに魔力を込めていく……。
「やめろ!!」
すると、1人の生徒がその人物の前に出てくる。
「これ以上お前の好きにさせるわけにはいかない! この【スピード・スター】と呼ばれている俺が相手だ!」
【スピード・スター】。そう呼ばれている土谷陸翔が対峙するのだった。
「…ふむ。なるほど。その勇ましさだけは誉めてやろう。だが、たった1人で何ができるという?」
そう言いながらゆっくり距離を詰めていく。
「1人じゃないぜ!」
その人物の左右から2つの魔武器を振り下ろされる。だが、
「くそっ! なんて硬さだ!」
「まるで巨大な壁でも殴った感じだぜ!」
すぐさま攻撃を与えられないと判断し後退する。
「お、お前たち、なんで…?」
「陸翔だけ美味しいところ持って行くなんて許さねぇからな」
「それに俺たちは同じ学び舎で切磋琢磨する仲間だからな、こうして助けて手を取り合うことなんて当たり前だろ? それに、俺たちだけじゃないぜ!」
クラスメイトの1人である津守敦が周りを見ればこの場には陸翔のクラスメイトである1-A組が全員いるのだった。彼らはこうしている時でも体が僅かばかり震えている。だがそれでも、ここから逃げようとはしなかった。もしかすればこの1年でクラスメイト同士でどんな術者にも負けない絆が育まれたかもしれない……。
「……はぁ~、折角俺1人で倒せば誰にも負けない自慢が出来ると思ってたのになぁ~~」
「残念だったな。だったらあきらめて一緒にあの化け物を倒そうぜ、陸翔!」
そうして約30人の1-A組はその化け物に一斉に攻撃を仕掛けるのだった……。
術者たちは大急ぎで後方で待機している学生たちへと向かう。そして辿り着いた時には
「……な、なんて、強さだ、俺たちの攻撃が、全く効かないなんて……」
その化け物は陸翔の首を掴んでいた。
「なかなかの余興だったぞ。だが、我を満足させるには足らなかったがな」
その化け物の周りには1-A組のクラスメイト全員が倒れており、すでに魔力を奪われているためか魔力枯渇症状を起こしていた。
「貴様以外の魔力を吸収してもやはり1割にも届かん。だが、もしかすれば貴様の魔力を吸収すればようやく1割に達するかもしれんな」
そうして他と同じように陸翔からも魔力を吸収し始める。
「やめろぉぉぉ!! この化け物め!!」
横から部隊長である術者が放つ拳闘術が直撃する。だが、
「……なんだ? 貴様もこの我の糧となりに来たのか?」
ダメージは全く入っていなかった。
「ば、馬k
その部隊長が突如黒い槍のような靄に腹部を貫かれる。
「ゴフッ!?」
「貴様の魔力は後で我の糧としてやろう。だからそこで待っているがいい」
靄はフッと消えると部隊長はその場に倒れるのだった……。
「………よ、よくも、よくも部隊長をぉおおおお!!!」
他の術者たちも一斉に化け物に攻撃を仕掛ける。だが、
「我の食事を邪魔するとは、とんだ無礼者だな」
片手を迫りくる術者に手のひらを向ける。
「【滅せよ】」
そう唱えると術者めがけて一直線に広範囲の黒い光が放たれる。そして
「……これを防げないとは、人間とは脆弱なのだな」
陸翔は見たのだった…。黒い光によって化け物に攻撃を仕掛けて術者十数名は1人の例外もなく上半身だけが吹き飛ばされそのまま力なく倒れるのだった…。
「……このまま我1人でも他の人間の魔力を奪ってもいいのだが、それでは面白くないな。……そうだ、こうしようではないか」
パチン。と指を鳴らすとその化け物の後ろに自身と同じ姿をしたものを顕現させる。その数は5体。
「1割の状態で【幻影顕現】を発動してしまったからな。こやつらは今の我の4分の1ほどの戦闘力しかない。…だが、人間ごときにはこれくらいが丁度いいな。行け我よ。他の人間から魔力を奪ってくるのだ。生死は問わん」
そう言うと自身と同じ姿をした5体の化け物は一斉に散らばるのだった…。
「…さて、そろそろ貴様の魔力を頂くとしようか。……おや? その表情はどうした? 先ほどまでの威勢はどこにいったのだ?」
化け物は陸翔の顔を伺うと、
「じゅ、術者、が、人が、し、死んで……」
あまりの恐怖に初めて体を震わせ、この世の終わりを目の当たりにしたかのような表情をしていた……。だが、化け物は「何を言っているのだ?」というおかしな表情をし、
「戦場で人や魔族が死ぬのは当たり前のことだ、……もしや、貴様はその目で人間が死ぬところを見たことがないのか? ならば貴様は何と恵まれているのだろうな。これが本来の戦争だ。互いに命を懸け最後には勝者が生き残り、敗者は惨めに死んでいくということをその魂に刻み覚えていくといい」
「ふ、ふざける、な……。誰がそんな馬鹿げたことに耳を貸すと……
「ならば、この魔王であるアステロッドの言う言葉なら耳を貸すか?」
その瞬間、陸翔の時間が止まった。
「………………な、何を、言っているんだ? 魔王は魔王城にいるはずじゃ、ないのか……」
「貴様こそ何を言っている? 魔王は常に魔王城にいるだなんて誰が決めた?」
それは冗談でも何でもない。本心でそう言うのだった。
「……………う、嘘、だ、お前は、魔王なんかじゃ……」
「……どうやら信じてもらえないようだな。まぁいい。長話は終わりにして貴様の魔力を吸収し他の人間の所へ向かおうとしよう」
そうして魔王アステロッドは陸翔の魔力を吸収し始める。
ザシュ!
が、その寸前で陸翔の首を掴んでいる腕がボトンと落ちる。
そして、魔王の近くに腕を斬り落としたであろう虹色の剣を持つ仮面の少女がいるのだった……。




