魔王の目覚め
そして現在へと戻り……
「一応確認するけど、本当に行くんだな?」
「えぇ。私は和也の元へ行きたい。それは今も変わらないわ」
星乃零の問いに対して三条絵里奈はすでに決意は固いのか迷いなく言うのだった。
「まぁ、私は巻き込まれただけだけどね」
「まぁまぁ、さーちゃん。ここまで来たんだから一緒に行こうよ」
「…私、役に立てるかな…」
安藤小夜は不機嫌そうに、影山優美はなだめて、山影実憂は不安そうに言うのだった。
「それじゃあ、時間も時間だ。さっさと行くぞ」
「行くってどうやって…」という小夜の言葉は聞かずに零は虹色の杖を取り出して
「【瞬間座標転移】」
そう告げると5人の周りに光の粒子が現れ、そのまま囲むのだった。
そして、4人が次に目を開けたときには、先ほどまでいた木々に囲まれていた森ではなく、どこかの建物の中にいたのだった。そこは、
「はい、着いたぞ」
「……着いたって、ここは…?」
「ここはって、魔王城の中だぞ?」
「「「「………………え?」」」」
4人同時にそう唖然するのだった……。
前線の術者は1部隊5000、5部隊合わせて25000人。対して魔族たちは術者と同じく5部隊に分かれているが各部隊の数は1500、合わせて7500人と術者よりも半分以下の数で構成されている。数の差では圧倒的に魔族側が不利である。だが、彼らには
「間もなく人間どもが我らの前に現れる。数は25000! だが恐れるな!! 我らには魔王様の加護を身に宿している! この力がある限り我らが敗北することは断じてない!! この力を持って我らには向かう人間どもを皆殺しにするぞ!!!」
「「「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」
1人の魔族がそう告げると他の魔族たちも雄たけびのような声を上げて叫ぶのだった。
「さぁ来い愚かな人間ども、このタイロス様が直々にお前たちの相手をしてやろう」
ミノタウロス族のタイロスが1部隊の先頭に立ちこれから来るであろう術者を待つのだった。
「さっさと人間どもを始末して魔王様に私の功績を讃えてもらわないとね」
ハーピー族のオリーナは他のハーピー族を従えて術者が来るのを待つ。
「さぁ前ら! 魔王様の力を宿した俺たちウルフ族の力を見せつけるぞ!!」
「「「「「「おぉぉぉおおおおおおおお!!!!」」」」」」
ウルバ率いるウルフ族はオオカミのような遠吠えを上げて開戦に備えて
「ホッホッホ。若い者とは違って我らは臨機応変に対応しようかのぉ」
妖魔族であるサタルドは他の妖魔族を従えていた。
「あぁ~、めんどくさー。でも命令なら仕方がないかぁ~」
めんどくさそうに黄色い髪をなびかせながらその人物は会敵の時を待つのだった……。
「魔王様。間もなく人間どもが我ら魔族と会敵します」
魔王の間には蛇族のミザリーがおり、現在の戦場の様子は手にしている水晶玉に映っているのだった。
「………そうか」
魔王をそれだけ呟き窓から戦場を見ていた。
「……それとミザリー。この城内に5匹のゴミが入ってきたようだ」
「はい。直ちに対処いたします」
そうして後ろにいる配下の蛇族にそれらを始末するよう伝えたのだった。
「…さぁ、人間ども。貴様たちの魂、どれほどのものか見せてもらおうか」
魔王。
それは魔族を統べる王であり、圧倒的な力で相手をねじ伏せる絶対的な力を持つ存在である。そんな魔王はかつて人間に強力な封印が施されその中で永遠ともいえるような檻に閉じ込められていた。そんな封印が『天使の魔力』という心臓によってついに破られたのだった。そもそも『天使の魔力』というのはその名の通り天使の持つ強力な魔力であり、その魔力は心臓部に最も多く備わっているのである。それを魔族は何処で知ったのかは不明だが、これまで魔族たちはその心臓を狙って人間のいる世界に赴いていた。だが何故魔族たちは何の根拠もないのに人間の世界へ向かったのか、それは今から1年前、ある者がこう言った。
『魔王様が復活するためには天使の魔力という心臓が必要です。それを持っているのは人間へと転生した天使であります』
その者はフードで全身を覆っておりどんな人物なのかは分からなかった。当然ながら七魔眷属たちは信用していなかった。中にはそのフードの者を殺そうとする者もいた。だが、
『信用出来ないのも無理はありません。ですが、私は未来を予知できます。もし私の話を信じていただければ数年、いや、1年後には天使の魔力が貴方方の手元にあり、そして魔王様は長き封印から解き放たれ全ての魔族にこう命ずることでしょう。人間どもを皆殺しにせよ。と』
その言葉に1人の七魔眷属であるタイロスはそのフードの者めがけて襲い掛かるのだった。だがフードの者はまるでその行動を予想していたのか難なく躱す。それからもタイロスの攻撃はすべて読まれているのか全く当たらず、今度はウルバがそのフードの者めがけて攻撃を仕掛けた。ウルバの攻撃フードの者の完全に死角になっており躱せるはずがなかった。だがフードの者はそれも難なく躱すのだった。
それから2人による怒涛の攻撃が何十分も続いたのだが1度も当たることなく2人はその場で倒れ込むのだった。体力が切れたためである。対してフードの者は息切れを全くしておらず、
『如何でしょうか、私の話を聞いていただけないでしょうか?』
そうしてそのフードの者を七魔眷属の参謀として迎え入れるのだった。
その後、そのフードの者のおかげもありその言葉通り1年後には魔族の手元には『天使の魔力』があり目の前には長きにわたり封印されていた魔王が解き放たれ七魔眷属の目の前にいるのだった……。
「魔王様。長きにわたる目覚められたこと我ら七魔眷属一同、心よりお待ちしておりました」
前にいるミザリーが膝をつき述べるのだった。
「………そうか。ご苦労だった」
「もったいなきお言葉です。魔王様、お体の方はいかがでしょうか? もしあれば何なりと仰せください」
「よい。ようやく解放されたばかりか少し優れないが、まぁすぐに元に戻るだろう。……貴様、名は何だ?」
「ミザリーと申します。七魔眷属の代表をしております」
「そうか。ならばミザリーよ、この国にいる魔族兵を全て城の近くにある広場に集めよ」
「畏まりました」
そうしてミザリーは、七魔眷属たちはこの国にいる魔族兵を全て集めるのだった。魔王が目覚めたこともあるのかすべての兵が広場に集まるまでそこまで時間はかからなかった。
「魔族兵の皆よ。我は長き封印から長らく目覚めた魔王である!!」
そう言うと魔族兵は「うぉおおおおおお!!!」と歓喜の声を盛大に挙げるのだった。中には魔王を見たことのない魔族もいるだろう。だがそれでも彼らには分かるのだった。あの魔王から溢れる力は紛れもなく魔王のものだと。あの者から出てくる覇気は間違いなく待ち望んでいた魔王様だと。
「我は長き封印の間、ずっと考えていた。我ら魔族が人間たちに虐げられる理由を、我ら魔族が人間たちに何の理由もなく虐殺される理由を、我ら魔族と人間は何故姿が違うのか。そして我の出した答えは、
全て人間たちのせいだと、全て人間が我ら魔族を勝手に悪だと決めつけたことだと、全て人間たちの利益のために我ら魔族を利用したのだと。
故に我ら魔族は人間に対して敵対宣告をここに宣言する!
それに人間どもはこことは別の世界で呑気に暮らしているのではないか。そんなこと、この我が断じて許すはずがない! この宣告をもって我ら魔族の恐怖を人間たちの命に、魂に刻み込み、そして、我らが受けた怒り、憎しみをもって惨殺せよ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
その叫びは、魔王が言う人間に対する怒り、恨みという悪意で満ちていた。
「我の力を貴様たちに授ける。これをもって人間どもに我らの力を思い知らせよ」
そうして魔王が片手を魔族兵にかざすと手のひらから黒い瘴気のようなものが出てきて瞬く間にその瘴気が魔族兵を包み込むのだった。
「さぁ、魔族兵よ。開戦の時だ!!」
そうして魔族たちは雄たけびをあげるのだった……。
そして術者である人間25000人と魔王の力を授かった魔族たち7500人は間もなく会敵するのだった………。




